Palace for life foundation ってなに?
パレスサポーターの皆さんはこのタイトルにある組織、活動について耳にしたことがあるだろうか。本記事はPalace for Life Foundationについての紹介記事である。
「フットボールの内容にしか興味がない、クラブの背景なんてどうでもいい。」乱暴な言い方をするとこういった意見をお持ちの方も当然存在するだろう。そういった方はこのページを閉じていただいて構わない。
フットボールを理解すること
フットボールを語る上で、競技性ももちろん必要で、最も大きな要素ではあるが、政治的、人道的、財務的と様々な角度で理解を深めていくことで、よりフットボール界、そしてクラブについて知ることができる。
例えば、チェルシーはロシアによるウクライナ侵攻の影響で活動に一部制限がかかっている。このことについてどれほどのチェルシーサポーターが理解できているだろうか。「アブラモヴィッチがプーチンと密接な関係にいるから?」「戦争を仕掛けた国の金持ちがオーナーだから?」これらの説明では移籍活動に制限がかかっていたり、チケット販売ができないなどといった事態の理由としては不十分ではないだろうか。
アブラモヴィッチはソ連崩壊後に、政府との癒着のもとで経済を独占した大企業の一つ、いわゆる「オリガルヒ」と呼ばれる中の1人であり、その中でも製鉄など直接軍事に関わることができる企業を所有している。そもそもロシアという国は……と、このようにチェルシーのオーナー問題だけでも政治的、財政的な問題が絡んでくるのだ。
チェルシーについて書くつもりはないのでこれ以上は言及しないが、このようにクラブは良くも悪くも社会と密接に関わっており、ピッチ上のみに目を向けるというのは限界がある。応援するクラブのオーナーはどういった人物か、オフザピッチではどういった活動を標榜しているのかを理解するのもフットボールを知るという行為に該当する。
前置きが長くなったが、今回はクリスタルパレスのオフザピッチの面に目を向けて、クラブと地域社会との関わりについて紹介していきたいと思う。
Palace for Life Foundation
まず、Palace for Life Foundationとは、クリスタルパレスが南ロンドン地域を対象として、25年以上運営する公式慈善事業団体である。フットボールの権力と、パレスのブランド力を用い、治安が悪い地域が多く貧困層が多いという南ロンドンの人々、特に若者の生活を支援しようとする団体である。毎年13,000人以上の人たちと共に、人々の暮らしがより良い方向に向かうようにさまざまな活動を行なっている。
つまり、クリスタルパレスという英国内で信用度の高いプロスポーツクラブという立場を利用し、南ロンドンの人々の生活の安定と発展に寄与するためにクラブによって作り上げられた慈善事業団体、それがPalace for Life Foundationである。
そんな団体は以下のような活動を行なっている。
人材育成支援事業
1年間通しておこなっているもので、活動の軸となるものである。
南ロンドンの家族に対して新たな就労スキルの獲得の場や、雇用の獲得、より良い生き方を模索し、若者に自信を植え付けるという活動である。部門としては以下のようになっている。
犯罪に対しての抑止、介入事業 10-18歳
犯罪の危機に晒されている若者、学校で苦労している若者、既に犯罪に手を染めてしまった若者への1対1のカウンセリング。
雇用支援事業 14-25歳
職業訓練や、求人紹介、資格など実践的な技術の獲得支援、自己啓発などを行う。
大人向けの健康促進事業 18歳以上
ウォーキングや、フットボール、その他レクリエーションを通して身体面での健康を促進する。
プレミアリーグキック 8-18歳
最も手が届きにくいような若者(孤児、貧困など)を巻き込み、他のクラブとフットボールをはじめとした様々な運動を通じて心身共に前向きな変化を促す毎週開催の無料スポーツセッション。
サッカースクール事業
FA認定コーチや、トレーナーなどが展開するスクール。学校前や放課後、休日や長期休暇、さらには授業内でも質の高いセッションを実施している。
様々な層を対象としており、純粋にフットボールを楽しみながら友人を作りたい子や、アカデミー入団を目標に高いレベルの指導を受けたい子、障害を持った子、女子サッカーなど多岐にわたる。また、健康維持のための無料の料理教室なども展開している。
フィットネス事業
セルハーストパーク内で1対1のフィットネスセッションが実施されていたり、走力の差を考慮したウォーキングフットボール、高齢者に向けた卓球やお茶、クイズ大会などの懇親会など。
その他、不定期事業
現役選手による道徳教育(差別に関して)や、貧しい子どもたちへの食糧支援、勉強についていけない子どもへのフォローを目的とした塾、セルハーストパークを走路に入れた5kmと10kmのマラソン大会、ボーンマス、サウサンプトンと協力したチャリティーサイクリング等
また、事業同士の連携も成り立っており、フットボールスクールに通っていたものの、自分のキャリアは選手ではなく、コーチングにあると感じた人に対しては雇用支援事業としてFAのライセンス取得に向けたセッションを開催し、ライセンスが取得できた暁にはスクールのコーチとしてこの団体に戻ってきているといった事例もある。
以上がこの団体の活動の概要である。これらの事業はほとんどが寄付から成り立っており、地域住民によって成り立っている事業である。
フットボールと地域社会
この記事を通じて何を伝えたかったか。それはクラブの社会的意義である。
日頃からメディアで報道されるのは試合結果と移籍情報、クラブのスキャンダルがメインであり、こういった側面が周知される機会はほとんどない。ましてや日本に住んでいる中で、中堅から下のクラブの日本語の情報など1週間に1度の試合結果のみである。
そういった状況だからこそ、先述の「フットボールを知る」という意味でこの活動を紹介した。そもそもフットボールとは労働者階級のスポーツである。今でこそ、世界No.1のスポーツに発展したがそれでもスタジアムを埋めるのは地元のサポーターである。
多くのサポーターが反対したビッグクラブによる欧州スーパーリーグ構想も、反対要因の一つとして地元のサポーターの軽視というものがあった。
オーナー達はスタジアムに足を運ぶ地元サポーターを「legacy fans」(レガシーとは、遺産、時代遅れのものという意味)と呼び、我々のような有料メディアを通して観戦するサポーターを「fans of the future」(次の時代のファン)と呼んでいたという報道がされたからサポーター達はあれほど激怒したのだ。
こういった近年のビッグクラブの地元の軽視という面を見るたびに、中堅クラブそれぞれのサポーターに向けた活動などにより着目すべきではないかと思う。
財政的な事情でも、中堅クラブはマッチデー収入が全体収入の8割をゆうに超える。そのため、中堅クラブにとってはスタジアムに足を運んでもらうことこそがクラブの強化につながる。だからこそ中堅クラブは様々な形で地域密着を目指し、サポーターに愛されるクラブになろうとしているのだ。
パレスは、この活動を通じてクラブのサポーターを増やし、地域コミュニティを作り上げている。しかも、産業革命時代から引き継ぐロンドンにおける地域格差の下の方に位置している南ロンドンで地域に広く貢献してきた。
そういった背景があるからこそ、Pride of South Londonという独自のアイデンティティが生まれたのだと思う。
この記事を通してパレスのアイデンティティの一端を共有できたら嬉しい。
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