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「お金にふりまわされず生きようぜ」メイキング その1:お金物語のハッピーエンド?

「小学生向けに『マネー勉強本』を書いてもらえませんか?」
 その依頼を受けたのは、ちょうど2年前のこと。
 長い執筆の日々を経て、やっと完成しました。それが「お金にふりまわされず生きようぜ」岩崎書店(2021/12/17発売)です。

 この本のオファーを受けたとき、「とうとう来たか」と興奮しました。
 しかし、やる気やワクワク感とは裏腹に、制作は経験のない苦労の連続。私自身が本書に込めた思いを忘れぬよう、そして今回の仕事を成し遂げた仲間たちへの感謝を込めて、ここに「汗と涙と睡眠不足のメイキング物語」を記しておくことにします。

内々に寄せられた感想から

 今回の本は「お金」について子どもに教えるべく書きました。
 お金の教育--これは多くの大人にとって鬼門です。ほとんどの親はわが子に対して、お金の話を避けているのではないでしょうか。

 今回、私は意を決して「お金」について小学生に説明しました。
 私だって堂々とお金について説ける自信などありません。でも手をこまねいていては話が進みません。勇気をふりしぼって書いたのが本書であるわけですが、ほぼ完成という段階のゲラを読んでくれた関係者から、意外な感想の声が多数寄せられました。それは、

「思っていた内容とちがった」

というもの。しばし考えたのち、この感想の理由がわかりました。
 みんな「お金の教育といえば、なんとなくこんな内容だろう」という漠としたイメージをもっているのです。それは、子をもつ親であれば「こんなことをわが子に伝えたい」という思いであるかもしれません。

 ここでポイントは「それが人によって全然違う」という事実なのです。今回の執筆に当たり、何組かの親子にインタビューを行いました。そこで改めてわかったのですが、
 ・お金の教育として何を伝えるべきか?
 ・お金について伝える上で大切なことはなにか?
 これは、親によってそれぞれちがっていました。

親の「お金への価値観」を無意識に受け取っている私たち

 しかしながら、私たちは「自分の親がもっているお金への価値観」の影響を受けています。知らず知らずのうちに、しかし、確実に。

 この年になってわかるのですが、私自身も父親の影響を強く受けています。私の父は、それほど金儲けがうまくありませんでした。潔くて、金にはキレイな人間でしたが、残念ながら商売の才覚はそれほどではありませんでした。母親はそれによって、かなり金銭的に苦労したようです。

 晩年、仕事で苦労した父が私に語ったことがあります。すでに私も社会人になっていました。
 「自分は商売がうまくいかなくなって、守りに入ってしまった。それで失敗した。お前は真似をするな。どれだけ苦しくても守りに入るな。苦しいときこそ、一歩も退くな」
 その教えは私の中にしっかり入っています。そして、その親父の教えは今回の本にも入っています。これを抜きにして私はお金の本を書くことができません。
 ただ、どうすればうまく儲けられるかは教わらなかった。だから「効率的に儲けるノウハウ」は今回の本に登場しません。ここであらかじめお詫びしておきます(笑)。

今回の「お金の物語」に込めた思い

 もともと今回の「マネー勉強本」は実用書としてオファーを受けました。しかし私はどうしても事実を羅列して説明するのではなく、小説=ストーリーとして書いてみたかったのです。
 なぜなら・・・その理由は自分でもよく分かりませんが、とにかく「親子の物語」として描きたかった。そこにはもしかして、亡き父への想いがあったからなのかもしれません。

 さて、お金についての小説を書こうと決めてから、ストーリーの構成を考えはじめました。最初に悩んだのが「オチをどうするか?」ということ。物語をつくるとして、エンディングをどうするか。
 実は私、小説などでよくある「ハッピーエンド」ってあまり好きじゃありません。絵に描いたようなハッピーエンドって少々苦手。どちらかといえば、ひねりの効いたエンディングのほうが好みです。

「でも、小学生向けじゃあ、ハッピーエンドしかないよな」これについては早々に覚悟を決めました。小学生相手に自分の好みを言っている場合じゃない。
 すると次は「どんなハッピーエンドにするか」です。ふつうの小説ならいくらでも構成できそうですが、「お金の物語のハッピーエンド」というのが意外に難問でした。
 「うまくお金が儲かってお終い」・・・これではあまりに芸がない。ではどうするか? このあたりから悩みがはじまり、筆が止まります。

 ひとつ閃いたのが、「お金の物語」については「幸せ」より、反対側の「不幸」を演出した方がうまくいくのではないか、ということ。
 誰だってお金は欲しいに決まっています。貧乏になって生活が苦しくなることは避けたい。ただ、よく考えてみると、「貧乏」の不幸はそれそのものではないように思えてきました。
 こわいのは「貧乏」そのものではなく、そこへ墜ちる過程で起こる不安や恐れ、人間関係の喪失。
 もしかしたらそちらのほうが重要かもしれない。ならばそれを書こうと思い立ったのです。
<つづく>

「お金にふりまわされず生きようぜ」田中靖浩/ウサミ著 岩崎書店
http://www.amazon.co.jp/dp/4265802613



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