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「お金にふりまわされず生きようぜ」メイキング その2:なぜ私たちは「お金の話」を避けるのか?

発売間近「お金にふりまわされず生きようぜ」(岩崎書店)。
もともとは2年前に受けた「小学生向けの『お金の実用書』を書いてください」というオファーでした。

これまで会計士としてお金周りの仕事をし、いま原稿仕事の多い私にとって、「子供向けお金の解説書」はもちろん大歓迎。「やります!」と即答。

さっそく、その日から「どんな構成にするか」考え始めます。最初は楽しかった。初めての小学生読者を想像しながら、ワクワクしていました。でも、それは最初のうちだけでした。

長い長い苦しみの日々を経て、この本が完成に近づいた先月、私は頭皮の皮膚炎を発症しました。以下、病院にて。

皮膚科のお医者さん「できるだけ触らないでくださいね」
私「それは無理です」
医者「どうしてですか?」
私「頭をかきむしるのが仕事なので」
医者「・・・失礼ですが、どんなご職業で?」
私「売れない物書きです」
医者「(爆笑)」

笑ってくれるな、マジなんだ。

誰かと同じことはしたくない

最初は「小学生にお金のことを教える実用書」依頼からスタートした本書。
これについては類書がたくさん出ています。失礼ながら、内容がどこれもこれもソックリ。それが王道だとは理解しつつ、「同じことをやりたくないなあ」と思います。「誰かと同じこと」は、つまいんないし。
そこで本書を「ストーリー(=小説)」形式にすることを決めました。ここでいきなり上がってしまったハードル。自分で上げただけなんだけど。

「小学5年生」を主人公にして、彼が「お金について学ぶ」ストーリーにする。それを読むうち、読者もお金の勉強ができるようにする。
そんなイメージで考えはじめたのですが、ここでまた「欲」がムラムラと立ち上がってきます。それは世の中がコロナ禍に突入したことと無関係ではありませんでした。

コロナ禍でもっとも苦労したのは飲食店であろうと思います。
「営業停止」を食らうって、金銭的にも精神的にも、すごくつらいことです。私の周りにも人に言えない苦労を抱えて、ひたすら耐えている飲食店経営者がたくさんいました。

「なんとか彼らに応援メッセージを届けたい」

そんな思いから、主人公少年の両親を「レストラン経営者」の設定としました。自分のなかで、それ以外はありえなかった。時代に取り残されて、儲からなくなってきたレストランの経営者。

なぜ子どもたちに「お金」のことを話せないのか

私たち大人は「子どもの見本になるような人間」でありたいと願っています。
イキイキと働き、しっかり稼ぐ・・・でも、そんなふうに働いている大人は少ないはず。ほとんどの人は生活のため、疲れながら働いているのではないでしょうか。

「やりたい仕事をやりながら、しっかり稼ぐ」など夢のまた夢。「子どもたちの見本」として生きるなど、はるかまぼろし。だから、わが子に「お金について」胸を張って教えられる大人が少ないのだと思うのです。

そこにもってきて、今回のコロナショック。
「耐えるだけで精一杯」な大人がたくさんいるはずです。「子供の学費が払えない」なんて、親としてどれだけつらいことでしょう。

そんな人は大人として、親としてダメ人間なのか?
いや、そうじゃない。そんなわけがない。
商売が儲からない厳しさに、あるいは店が開けられない苦しさに、じっと耐えている無口な父親こそ、ヒーローかもしれない。

今回はレストランを経営する主人公のパパを、マジメで不器用、商売があまりうまくない「イケてない」タイプとして設定しつつ、彼を「隠れたヒーロー」として描きたいと思いました。
ただ、目標はイメージできたとして、それを具体的なストーリーに落とし込むのは本当に難しかった。これまでにやってことがない作業でしたし。どこから手を付けていいのか、見当がつかない。作者として、まさに痩せ細る思いでした(実際には太りましたが)。

「働くって、楽しいことなんだ」

フリーランスの私は、よく会社員から「いいよな、お前はやりたい仕事ができて」と言われます。そう見てもらえるのはありがたいですが、決してそんなことはありません。フリーランスだって「金のためにイヤイヤ働く」ことが多いです。それがほとんどという時期さえあります。

楽天の仲山進也がくちょと知り合いになってから、楽天に出店するネットショップの店長さんとたくさん知り合いになりました。彼らのことを正直「自由でいいな」と思っていました。でも、話してみると裏では相当苦労していることがわかります。自由にみえる彼らも、決してやりたいことをやれているわけじゃない。ある程度売れるようになるまで、みんなつらい時期を耐えている。

サラリーマンであれ、フリーランスであれ、自営業であれ、当たり前ですが、みんな苦労しているのです。

今回の本で私は、小学生に向けて「サラリーマン・フリーランス・自営業」の区別をおおまかに示しました。どのスタイルを選ぶかの選択は、「どれが稼げるか・安定収入が得られるか」もさることながら「性格上の向き・不向き」がとても大切。それを小学生にもわかるよう、カテゴリー分けしつつ「サラリーマンとして働くのが絶対」でないことを子どもたちに伝えたかった。でも実のところ、それは今回、あまり大きな問題ではありませんでした。

それよりもっと重要なのは、読んでくれた少年少女たちが、
「働くって、楽しいことなんだな」
「早く大人になって、働きたいな」

と感じてくれること。それこそが「私がこの本を書く意味」であると思うようになりました。

というわけで、
・不器用なレストラン経営者が読んで元気が出る物語
でありながら、かつ、
少年少女が読んでいつか働く日を楽しみにする物語
この2つを両立させようと思い立ったのです。

でも。
なんと言いましょうか、これが簡単ではないわけですよ。
毎日毎日泣きたくなるくらい、たいへんな執筆でした。

<つづく>


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