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幼王殲魔伝

 狐を拾った。炭のように黒い毛色だから、すみと名付けた。納屋に隠して餌をやり、妹のつもりで可愛がった。

 一年後、私が六歳の時。
 王家の紋の男たちが訪れ、両親を斬った。妖魔を匿った罪とのことだが、二人に心当たりはなかった。
 私は、すみと契約して生き延びた。
『隼人、あなたは力を得て、王家に仕えます。引き換えに、主を殺してください』
 初めてすみの声を聞いた。
「望むところ。王家は皆仇だ!」
 墨炎を纏う熾炭の斬撃。それは子どもの振るう木刀に、四人の剣士を焼き切らせた。

 すみは物知りで、妹が姉になった。何年も二人で旅をした。
「本当に王家に仕えられるの?」
『鍛錬を欠かさなければ、いずれ必ず』
「適当言ってない?」
 私はずっとこのままでいいと思った。

 六年後、迎えが来た。王族の守役に、剣の腕が立つ女が欲しいそうだ。すみは私の影に沈んで隠れた。
『ほら』
「すみのおかげじゃないよ。私の実力!」

 王家の城は、黒い。永遠に喪に服すためという。そこに私の主がいた。
「面を上げよ。何、子どもではないか」
 私を見下ろすその方は、何とも憎たらしい表情で笑う、六歳の童女。
「これからよろしくの」

「まだ寝とうない!」
 黎姫様は活発であらせられる。
「寝物語じゃ。昨夜の大鯰のような面白いものを頼むぞえ」
 好奇心旺盛であらせられる。
「ばあやはどこじゃ~!」
 私の前任恋しさに度々お泣きになられる。私は幾度もばあやを城外から呼んだ。その機会は徐々に減り、いずれ無くなった。私は守役の務めとして姫の頭を撫でた。
「黎はえらいね」
 黎は、敬語が嫌いだ。

 その晩は宴で、衛兵はいなかった。黎は参加できずむくれていたが、話すうちに寝入った。
 半年待った夜だった。枕元で短刀を抜く。細く柔らかな首を月が照らす。
「近くに魔がおる」
 寝息が止んでいた。
「わらわを狙っておるのじゃ」
「怖い夢? 大丈夫、私が黎を守るよ」
「約束じゃ」
「約束」
 米粒の小指と指切りした。
 影が、牙を鳴らした。
【続く】

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