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狂乱した世界

 食券購入後の後悔。ここへ来るべきでなかった。十二しか座席のないラーメン店内で、男が女に喚いている。気分が悪い。誰か止めないかな。俺か?
 思う間に、男の首が飛んだ。女のネイルに刎ねられたのだ。ネイルは指より長く、見る間にも伸びていく。
「うるッせんだよォー!」
 店長が麺の束を投げ、女を絡め取ろうとするが、ネイルで断ち切られる。五人いた他の客も立ち上がり、思い思いに殴り合う。何だこれは。いくら治安が悪くとも、こんな無差別暴力。
『速報です。現在複数の地域において乱闘が同時多発――』
 店内テレビ。異常なニュース映像。そのテレビとともに俺はガラス張りの壁を壊して外へ投げ出された。
 店は暴徒に包囲。多くは服装からして漁師。一人の目が飛び出して複眼化し、体は甲羅に覆われ両手は鋏となった。別の漁師がカニ漁師へ網を投げる。遠くから地響きが聞こえる。
 状況と、内より湧き出る力、衝動が噛み合い、事態を把握。人々は戦う力を得た。それぞれの人生を反映した異能と、凶暴性を。では、俺は。中退した大学、高校のかるた部、コンビニバイト。どれも俺の力の源泉にふさわしくない。空っぽの人生を覗き込む。その中の、かすかな熱を探す。
 漁師の一人が錨を投げる。俺はそれを受け止め、網を切り裂くカニ漁師の複眼へ突き刺す。ネイル女の手を掴み、走り込んできた轢殺バイカーの腕を切り落とす。奪ったバイクで包囲を抜けた。
 『カオスブリンガー』。大学中退後の日々、三百時間遊んだゲーム。開始時は徒手空拳の主人公が敵の武器を奪い、自身のものとし、戦場を生き抜く。俺の力。
 向かうは地響きの方角、動物園。ゴリラ、ダチョウ、キリン。狂暴な動物たちが、車を踏みつぶし人を食らう。そして。
「バオオオー!」
 五階建てビルより巨大なゾウが建造物破壊。背には筋骨隆々の巨漢。剥き出しの上半身は灰色で呪術的タトゥー。記憶より遥かに逞しい動物園長。ヤツを討てば、混沌の新時代で優位!
【続く】

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