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日本誕生の謎を解く⑤恐怖の戦闘氏族物部氏


吉備王の反乱

倭人がまだ飽きもせず列島中で古墳づくりに汗を流していた西暦460年頃、雄略天皇は、吉備の国の王が新羅と通じて反乱を起こしたと聞いて、兵士30人を送って吉備王の一族を皆殺しにしたと日本書紀にあります。

吉備は倭国連合のなかでも最有力の国で、江戸時代における加賀前田家みたいな存在です。

吉備は岡山県あたりですが、瀬戸内海の大国が外国と手を組んで反乱を起こせば倭国は大混乱です。

普通、こういうときは大軍を繰り出して城攻めするんじゃないかと思うんですが、たった30人で一国の支配者を一族ごと皆殺しって。。。

このとき吉備に派遣された30人が物部氏なのです。

モノってなんだろう

モノの部(べ)」の「モノ」はどんな意味でしょう。

「武士や兵士」を「もののふ」というのは「もののべ」が由来だと思うのです。

物々しい」という形容詞には「堂々としている。重々しい。大げさな。」という意味がありますが、これは重武装している様子が語源だと思われます。

モノおじしない」と言えば、「怖いものにおそれない」という意味ですし、「もののけ」と言えば「おそろしいもの」の「け(気)」という意味です。

このように「もの」は日本語の深層に根付いている言葉ですが、「モノ」はもともと「武具」を意味しているのではないか。

「部(べ)」とは、ある特殊な仕事を担当する集団を意味します。現代でも野球部とか人事部といった使われ方をしますが、「モノの部」だったら「武具を専門的に扱う集団」となるでしょう。

物部氏は要するに、武具を使う人たち、すなわち戦闘のプロ集団として世間で認められた氏族ということです。

30人で吉備王一族を殲滅

倭国は当時すでに半島で高句麗の騎馬軍と万単位の戦力で戦った実績があるのですから、吉備に大軍を派遣することもできたはずです。

しかし、吉備王は「やまと王」と親戚関係でもあり、政治的にも強い結びつきがありました。もし大軍を動員して戦争となれば、犠牲者も多くなるし、恨みも残るでしょう。

戦争をしないで反乱軍の首脳を直撃できれば、いいに越したことはないのですが、それができるとは普通は思いませんよね。

反乱を起こしたのですから、吉備王の住居は武装した兵士によって日夜厳重に警戒されていたはずです。

物部の兵士はそこにわずか30人で押し入って吉備王一族を全滅させる実力があったのです。最新の武器とその使い方を日夜研究し訓練を積んでいたのでしょう。

忍者のようにこっそりと襲撃したのか、それとも「物々しく」堂々と正面から攻撃したのか。

派遣された30人という数にはなにか合理的な意味がありそうです。

僕の想像では、堂々と正面から仕掛けたと思います。
内通者がいて、船一隻で夜間に乗り込んだら、結構いけるかなと。

最強戦闘部隊

初代神武天皇が東征のときに持っていたとされる布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)という剣が、なんと今でも天理市の石上神宮に祀られていますが、この神社は物部氏が管理した大和朝廷の武器庫でした。

倭王直属の特殊戦闘部隊であった物部氏は、九州で起きた磐井の乱や半島出兵に際しても倭軍の統率者として数万の軍勢を指揮することがありました。

現代で言うなら米国におけるCIAか海兵隊みたいな存在でしょうか。
徳川将軍家における井伊家のように見られていたかもしれません。おそらく倭国全体に物部氏の出先機関があって、情報収集と分析も行っていたでしょう。

だからこそ倭王権を支える最重要勢力として「大連(おおむらじ)」の筆頭たる地位を聖徳太子の時代でも保持していたのです。

古い氏族の希望の星

戦闘のプロ集団としての重責を担い、古い伝統と格式を保持して倭王を補佐してきた物部氏が、仏教文化の担い手として台頭する新興の蘇我氏と対立するのは自然な成り行きです。
蘇我氏が歴史に登場するのは蘇我馬子の父である蘇我稲目からで、それ以前のことはいろいろな説がありますがよくわかりません。

いち早く仏教を取り入れ、倭国に普及させる役割を担いましたが、その過程でしばしば古い支配層から反感を買いました。

こういう場合、新興勢力としては一気に頂点に登り詰めて、反対勢力を圧倒しようという気分になるものです。

物部氏は蘇我氏の対抗馬に祭り上げられたのかもしれません。

古い氏族たちにとって、わけのわからん成り上がり者に服従するよりも、長年ともに倭国を支えてきた物部氏に頭を下げる方がまだ納得できるので、どうせなら物部氏を支援したいと思う氏族が多かったと想像します。

そして物部氏が蘇我氏と激突する丁未の乱が起こります。

このとき厩戸皇子は14歳。

戦闘のプロである物部軍に対し蘇我氏が苦戦するこの戦いに、厩戸皇子少年も参加していました。
丁未の乱にいたる背景に迫ります。


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