ノエル「歌もファ◯キンイケるだろ?」〜OasisのMTV(1996)を観て
『Knebworth 1996』も完全版が出た昨今では、『MTV Unplugged』はOasisの最も著名なブート盤になるだろう。
イントロダクション
1996年8月23日、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで行われたOasisのMTV Unpluggedのパフォーマンスは、バンドの歴史において特筆すべき瞬間となった。このパフォーマンスは、Oasisの、ひいてはノエル・ギャラガーの新たな一面を引き出し、ファンにとって忘れられない体験となったのだ。
背景とコンテキスト
当時、Oasisは2ndアルバム『(What’s the Story) Morning Glory?』やネブワース公演の成功で絶頂期にあった。しかし、このパフォーマンスは予期せぬ展開を迎えた。リードボーカルのリアム・ギャラガーが喉の問題(というか二日酔い)で出演できず、兄のノエル・ギャラガーが代わりに全曲を歌うことになったのだ。
ノエル・ギャラガーのパフォーマンス
ノエルの低くて荒々しい声は、高くてロックスター然とした声のリアムとは対称的。結果として生粋のミュージシャンによる真摯なパフォーマンスとして評価された。オリジナル音源にはない楽曲の新しい魅力や深みを引き出している。特に「Some Might Say」の溜め具合は絶妙だし、「Wonderwall」のパフォーマンスは実にエモーショナルだ。
楽器の起用
ブラスやストリングスのセクションがパフォーマンスに新しい要素を加え、曲の流れや見通しをクリアーにした。特に「The Masterplan」のハーモニカは新鮮味がある。一方で、オーケストラがギターパートを演奏することに対して違和感を持つリスナーもいることだろう。今回のアンプラグドパフォーマンスの基本方針は、虚飾を排することで、メロディとソングクラフトのルーツに戻ることと言えるのだ。
評価
ノエルのパフォーマンスはヴォーカル・マスターとまでは言えないものの、高く評価されるべきものだ。「Some Might Say」の溜め具合は絶妙だし、毎度大合唱の「Don't Look Back in Anger」を静かに聴けるし、「Wanderwall」は感動的。「The Masterplan」も渋くてクールな仕上がりだ。彼が自分の曲の歌詞を完璧に知って歌いこなしていることや、当時のリアムの問題児ぶりを鑑みると、ノエルは常時リアム抜きのケースに備えていたように思えてくる。今回の成功は周到なリスクマネージメントの産物ではないか?
リアム・ギャラガーへの批判
リアムの振る舞いを面白がるファンもいることはいるようだが、全体としてプロ意識に欠けた彼への風当たりは強く、パフォーマンススタイルや公の場での行動について厳しい意見が飛び交う。彼がバルコニーから自分のバンドをヤジったり侮辱していたことに、メンバーや製作陣が怒り心頭するのは当然だろう。
総括
『MTV Unplugged』において、バンドはミュージシャンシップの真価を露わにした。とりわけ、ノエル・ギャラガーのボーカルやアコースティックアレンジが、オリジナルとは異なる新たな魅力を添えている。
「歌もファ◯キンイケるだろ?」
彼は後年、自らヴォーカルをとってHigh Flying Birdsを率いているようになるが、1996年のMTVはヴォーカリストとしてのキャリアの大きな一歩だったように思える。歌っている彼は、普段の罵詈雑言が嘘みたいに優しくて純真な表情をしていて、本当に音楽好きな人だなと実感するのだ。