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スウェーデンのメタルバンドThe Hauntedのアルバム全作を聴き直す


通勤時間が大体40分強で定着してきたので行きと帰りで全てのアルバムを聴き直した。今回はスウェーデンのスラッシュ・メタル・バンドThe Haunted。

各アルバムを一言レビュー

1998年『The Haunted』

既にキャリアを積んでいるビョーラー兄弟だが、乱闘騒ぎのような荒削り感や若々しいノリが全体に流れている。名刺代わりの「Hate Song」、At the Gates直系な「In Vein」、炎のようなリフを持つ「Choke Hold」など、とにかくシャープなリフの応酬で押して押しまくるスラッシュ・メタル・アルバム。今では2ndと並んでこのバンドのお気に入り。

1999年『The Haunted Made Me Do It』

ヴォーカルはアロに交代し、一気に優等生オーラの貫禄が出た洗練志向の2nd。「Dark Intentions」〜「Bury Your Dead」の流れで掴みはバッチリ。「Trespass」はアンダース・ビョーラーの持ち味だし、「Revelation」や「Victim Iced」のようなゴリ押しナンバーも良い位置に入っている。「Hollow Ground」のような男臭いリフが特に好み。

2001年『Live Rounds in Tokyo』(2000年11月16日のライヴ)

赤坂ブリッツでの来日公演。演奏能力も勢いも申し分なし、Earacheの公式映像で堪能すると暗めではあるが既に場馴れした様子も伝わる。メンバーも観客も終始テンションが高い。特にドラムのパトリック・ヤンセンの実演スキルは際立っている。プロダクションは取り立てて良いとは思わないが、同日収録のIn Flames『The Tokyo Showdown』に比べたら断然良い。ラスト手前で、At the Gatesの代表曲「Blinded by Fear」をカバーというのも心憎い。

2003年『One Kill Wonder』

破壊力とヘヴィネスが一気に増した3rdアルバム。「Godpuppet」はメロディよりもブルータリティ重視なアルバムの方向性を象徴している。「Everlasting」「One Kill Wonder」も然り。「Shadow World」のリフはこのバンド真骨頂。また、「D.O.A.」のグルーヴはその後の進化の鍵を握っているように思う。ゲストのマイケル・アモットは渋いソロ。

2004年『rEVOLVEr』

オリジナルヴォーカリストのピーター・ドルヴィングの復帰を経て制作された、バラエティ豊かな4thアルバム。このバンドの中でもっとも売れ線だと思う。「No Compromise」「Sweet Relief」「Liquid Burns」のような疾走曲もそれぞれカラーが異なるし、「99」「All Against All」のようなグルーヴも心地良い。「My Shadow」はその後の進化の兆候のような曲。

2006年『The Dead Eye』

メタルコアのようなテイストも加えてオルタナティヴ・メタルへ舵を切ったバンドの一大転換点。「The Flood」を皮切りに「The Medication」「The Drowning」とリフワークはバンドのオリジナリティを感じさせるが、スピードの勢いの大幅な減退はどこか夢中になれない。ただ、ドルヴィングの表現力とのバランスに関しては本作がピークではないかと思う。

2008年『Versus』『Collateral Damage』

グルーヴメタルへ着地した6thアルバム。鋭利なリフワークは戻っても、基本的にはミドルテンポで進行する。「Moronic Colossus」はその展開だろう。もはやヨーテボリの香りは殆どなくなってきたが、「Little Cage」なんかは残滓を感じさせる。「Crusher」「Seize the Day」のようなかつてメインだった疾走曲はサブ要素になってしまった。

2010年『Road Kill』(2009年2月13日のライヴ)

前年2月のアムステルダム公演に、『Versus』セッションの新曲を追加。ドルヴィングのパフォーマンスや演奏の安定感やグルーヴは問題ないが、サウンドプロダクションは臨場感や解像度に欠けるのが惜しい。「Trespass」「Bury Your Dead」「Hate Song」などの初期の曲を赤坂ブリッツのと聴き比べても、良くも悪くも大人しくなってしまった感がある。

2011年『Unseen』

グルーヴメタル路線を更に推し進めた7thアルバム。すべてがドルヴィングの歌唱を活かすためだけに作られているようなソロ作品的な印象さえ受けるほどで、耳に残るようなフックのあるリフは殆ど見当たらない。一曲選ぶとすれば「No Ghost」、歌唱が出色。バンドの作品では最も不人気なものになりそうだ。

2014年『Exit Wounds』

再びアロにヴォーカルが交代し、エイドリアン・アーランドソンも参加してスラッシュメタルへ回帰した8thアルバム。「Cutting Teeth」で歓喜したリスナーも多いのではないかと思う。しかし、グルーヴメタルのメロウな要素もかなり踏襲しており、純粋な原点回帰とは全く異なる作品。ドルヴィングはもはや貢献要素がなさそうだったが、アンダース・ビョーラーまで去ったのは痛手かも。

2017年『Strength in Numbers』

再びグルーヴメタルを推進した9thアルバム。「Brute Force」「Tighten the Noose」といった疾走曲は往年の安定感で、アコースティックなパートやオルタナティヴなサウンドを往還する「Spark」のような実験色の濃い曲までアロは果敢に挑んでいるようだ。決め手にかける作品ではあるが、ドルヴィン期終盤よりもバンドのカラーは出せていると思う。

The Hauntedの音楽性の変遷を概観

ヘッドバンガー御用達のスラッシュ・メタル、メロディック・デス・メタルは最初の4枚になるだろうが、バンドはAt the Gatesの後継としてのポジションから脱却を図り、オルタナティヴ・メタル、グルーヴ・メタルへと舵を切って実験性を打ち出していった。

それはピーター・ドルヴィングの歌唱力があってこそ成立していたが、決定的な成果を出すことなく彼とアンダース・ビョーラーが抜けた感が拭えない。

そして、マルコ・アロが再び復帰した後は、スラッシュ・メタルへ純粋な原点回帰をするわけでもなく、グルーヴ・メタルを折衷的にブレンドしたところでリリースが止まっている。

今やAt the Gatesに絞っている活動状況を見るに、かつてのAt the Gatesの世界的成功がこのバンドの音楽的進化のコンプレックスになっていたのは明白だろう。再始動をするならこのマンネリを打破できるだけのインスピレーションを期待したい。

マイエピソード

高校3年生くらいの時、3rdアルバム『One Kill Wonder』を中古屋で見かけ、"マイケル・アモットゲスト参加"に惹かれつつ、安易に買えない価格帯なのでTSUTAYAで視聴機を試して、次に中古屋にいった際は売れてしまっていた。

このエピソードを大学に入った際に軽音部の先輩に話したところ、2ndと3rdを貸してもらえた。これがこのバンドとの出会いだ。当時先輩は2nd派で、私は3rd派で、と色々議論したのも良い思い出だ。因みに私は今では1st派。

At the Gatesを知った時も、同じメンバーが在籍していたことを殆ど意識しなかった気がするが、上記の経緯からデス/スラッシュ・メタルの入り口として思い入れのある存在になっている。

5th以降の減速で情熱が冷めてしまった私であるが、今やAt the Gatesも復活し、こうして通勤の最中に彼らのキャリアを概観してみると、ベテランの意地をひしひしと感じたりした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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