見出し画像

英産ポストハードコアFuneral for a Friendの全アルバムをレビュー

10年以上前の話だが、Saosinにハマっていた私にThe UsedやFinchを教えた医学部の女友達がいた。「Lostprophets聴いてるなら、Funeral for a Friendは是非聴くべきだよ」

それから数年後、Elton Johnを聴いている最中にこの響きに遭遇し、上記の会話を思い起こす形で手を出したバンドだった。Funeral for a Friendの米系とは一線を画した冷涼とした音楽は暑さを和らげてくれるので、夏になると聴いている。

では、所持している全アルバムについて語ろう。エアコンとスピーカーをガンガン効かせて、冷えた飲み物を用意して。基本的に時系列であるが、ライブ盤は収録日を優先するので、リリース順ではない。私は大体こんな順番で聴いている。

1. Between Order and Model (2002年8月、EP)

ポスト・ハードコアを基調としつつ、バリバリのハードコア寄りなアプローチと衝動任せなテンションで貫かれたバンドの最初のリリース。

「10:45 Amsterdam Conversations」からリフの切れ味が抜群。大量にスクリームパートが投入された「Juno」は「Juneau」のプロトタイプであり、聴き比べれば本作のベクトル的な違いが鮮やかに浮上する。

「Red is the New Black」「The Art of American Football」はより英国の香りが強い曲で、特に後者はIron Maidenとポストハードコアの見事な融合。

2. Four Ways to Scream Your Name (2003年4月、EP)

年を跨いでの2ndリリースは初期衝動への抑制が効いている。1曲目の「This Year's Most Open Heartbreak」は彼らのキャリアの中でもメタルコアへ最も接近した曲だろう。

「She Drove Me to Daytime Television」はエモ度が高い。「Kiss and Makeup (All Bets Are Off)」は最後にブレイクダウンパートと静かなアウトロが登場する手の込んだ展開。

「Escape Artists Never Die」はライヴでもラストを担うことの多い代表曲。冷涼とした歌唱とリフレイン、パワフルで推進力のあるビートのバランスは絶妙。Funeral for a Friendの持ち味を最も端的に集約している曲である。


3. Casually Dressed & Deep in Conversation (2003年10月、1stアルバム)

文字通りカジュアルなドライブ感と、シャープなリフ、エモーショナルな歌唱が一体となったデビュー作。当時のポストハードコアの激しさと、剝き出しの生々しい感情を高水準でブレンドしている。

多くのバンドに漏れず彼らもまた1stが最高傑作だと思う。「Rookie of the Year」のイントロの爽快感から格別のものあるし、「Jeneau」は何度聴いたことか!エモーショナルに高揚するサビと、フレーズのハーモニーが絶品なブリッジのコントラストが素晴らしい。

他にもEPで既出の「Escape Artists Never Die」「Red is the New Black」はアルバムでも重要な位置を占めているし、ブレイクダウンの転調が板についてきた「Bullet Theory」、英国ならではのメランコリーを感じる「Bend Your Arms to Look Like Wings」もキャッチ―な良曲。

4. Spilling Blood in 8mm (2004年9月、MV集+ライヴ+ドキュメンタリー)

それまでに制作したMV集に2004年2月24日イズリントン・アカデミーでのショウ、5月収録のツアードキュメンタリーをパッケージングしたDVD。MVは基本的に低予算だが、勝負曲の「Jeneau」「Escape Artists Never Die」こそかなりB級臭い。「Trilogy」3曲も奇作の部類だろう。

ライヴ映像は10曲42分だけに燃焼度が高く、アンダーグラウンドの熱気に覆われたステージで、マシュー・デイヴィスやライアン・リチャーズの声の出具合も、観客のノリや一体感も申し分ない。

サウンド・プロダクションは全体に線が細めだが気になるほどではない。バスタブの陰毛や放尿なぞを映すドキュメンタリーは若々しさが溢れている。

5. Hours (2005年6月、2ndアルバム)

前作の路線はそのままに、オルタナティヴ・ロックの表現幅をより柔軟に取り入れた良作。同時にメタリックなリフも増えて、エネルギッシュな仕上がり。

「All the Rage」は少々焼き増し感があるが良い曲だし、「Street Car」はドライブ感が心地よい。題材も相まってムーディな世界観を魅せる「History」や「Sonny」といったバラードの挑戦も聴きどころ。

個人的には「Roses for the Dead」「Recovery」「The End of Nothing」といったメタルコアへ傾倒気味な曲が好み。この冷ややかなパッション性こそがこのバンドの真価だと思う。

6. Final Hours at Hammersmith (2006年6月、ライヴ)

2006年6月4日ハマースミス・パレでの公演。バンドに最も勢いがあった時期のショウで、録音からリリースまで僅か12日。会場の熱気は伝わるのだが、残響が乏しく、臨場感としてはイマイチ。

ヴォーカルに対してギターが前に出過ぎるきらいがあり、「Recovery」なんかはAメロが聴こえづらい。ネット動画にもライヴ音源が数多出てきている昨今、オフィシャルリリースの割には水準は並だと思う。


7. Tales Don't Tell Themselves (2007年5月、3rdアルバム)

ポスト・ハードコアから一気にオルタナティヴ・ロックへ舵を切った3rd。いかにも売れ筋バンドの変化で、曲のバリエーションも一気に拡大し、全体が叙情詩のような仕上がりだ。

「The Great Wide Open」はイントロからクネクネしたリフが特徴的で、今作で最もキャッチーなタイプ。「On a Wire」なんて、かなりオシャレな曲調だ。

「All Hands on Deck Part 1: Raise the Sail」「Out of Reach」はポスト・ハードコアの名残があってドライヴ感が心地よい。「One for the Road」にはエモ・ポップ感を大切にしていることが現れている。

8. The Great Wide Open (2007年10月、EP)

3rdアルバムからの3rdシングルとして計画され、ライヴ音源8曲とMVを追加してEPになったもの。収録されているライヴ音源は同年8月のロンドン公演。とっくに3rdはリリースされた後のツアーであるが、選曲は初期で固められている。

これは次作でのポスト・ハードコア回帰への布石か?アルバムが軟化しても彼らは熱烈なパフォーマンスをしていたことがうかがわれる。プロダクションの粗さは前回のライヴ盤と大差ない。

9. Memory and Humanity (2008年10月、4thアルバム)

ポスト・ハードコア要素をかなり取り戻してきた。「To Die Like Mouchette」は本作の顔とも言うべき曲で、サビのトレモロが特にエモい。お恥ずかしならこの曲で映画『少女ムシェット』を知ったが、こんな爽やかな内容ではなく、こうしたギャップこそロックなのかもしれない。

ドライブ感が心地よい「Constant Illuminations」は王道。「You Can't See the Forest for the Wolves」は2nd期のFinch、続く「Building」はJimmy Eat Worldを想起させる。

彼らも順当にアメリカナイズされて来たようだ。この手のジャンルはアメリカが主力国なのでオルタナティヴ志向に違和感はないが、持ち前の冷涼さは重要なアイデンティティでもあるようだ。

10. Your History Is Mine: 2002-2009 (2009年9月、ベスト盤)

2枚組のベストアルバム。Disc 1は初期のEP群や4枚のスタジオ盤から選曲し、4曲の未発表曲を追加している。「No Honour Among Thieves」「Build to Last」はキャッチ―なポストハードコア路線。ベストというには今一つな選曲。

Disc 2はB面&レアテイク集。「You Want Romance?」「10 Scene Points to the Winner」「Lazarus (In the Wilderness)」なんかは初期衝動の残るメタリックなナンバーだ。

カバーは堅実な仕上がりで、アイルランドのビッグバンドからの影響をしっかりアピールしている。総じて聴きごたえ抜群なボリューム感。

11. Casually Dressed and Deep in Conversation: Live and in Full at Shepherds Bush Empire (2010年7月23日、ライヴ)

2010年7月23日、ロンドンのシェパーズ・ブッシュ・エンパイアでのショウ。『Hours / Live at Islington Academy』と比較すると、サウンド・プロダクションに難がある。『Spilling Blood in 8mm』ほど線の細い音像でもないが、改善の余地のあるラフさ。

ダラン・スミスにとっては脱退前最後のライヴ(復活時に再加入)でもあり、「Moments Forever Faded」の前に彼の名がコールされたり、「History」では会場のみんなで彼を送り出すという粋な演出。メンバーの動きや演奏のキレとか観客のシンガーロングの様子を見ているとポスト・ハードコア特有の熱気が伝わってきて、他のライヴ盤に欠けていた肝心なものが満たされた気分。これだよ!これ!

序盤のうちに人気曲を立て続けに演るので、音質さえよければベストテイクじゃないかと思う。CDもDVDも自主リリースで、あまりメジャーな存在ではないが見応えは十分。彼らのライヴ盤の中では『Spilling Blood in 8mm』と並んでオススメ。

12. The Young and Defenceless (2010年9月、EP)

疾走感あふれるメロディック・ハードコア要素を盛り込んだ点で、バンドの重要な転換点。続く5thアルバムにも収録された「Damned If You Do, Dead If You Don't」「Sixteen」こそがこの転換を象徴している。

前者も良曲だが、一曲目の「Serpents in Solitude」こそは後期の最高傑作で、このためだけにEPを聴く価値がある。ここには2ndのエネルギー、3rdの叙情性、4thの多様性が集約されている。

13. Welcome Home Armageddon! (2011年3月、5thアルバム)

より攻撃的で激しいポスト・ハードコアへ傾倒した。「Old Hymns」は本作の路線をわかりやすく示している。前半のハイライトは「Aftertaste」、グルーヴィなサビに新鮮味がある。

続く「Spinning Over the Island」はスクリームパート中心のハードコアな曲であるが、後半にクリーンでメランコリックなパートへ移行する様は初期を想起させる。

「Broken Foundation」は本作のベストチューン。新旧の要素が濃密にハイブリッドされており、サビのIron Maidenからの影響剥き出しのリフにこれでもかというくらいの英国魂を感じる。

14. See You All in Hell (2011年11月、EP)

「『Welcome Home Armageddon!』のアドオンとして何か特別なものをリリースしたい」というバンドの意向によるリリース。新曲は『High Lastle』のみ。それも次作に収録されている。

残りのトラックはライヴ音源、前アルバム曲のリミックス音源、Strifeのカバーで占められている。今回のライヴ音源は演奏から突如始まるので、臨場感がない。特別感に欠けるリリースというのは、運営側の悲鳴であることがままあるようだ。

15. Conduit (2013年1月、6thアルバム)

より攻撃性とメロディを追求し、無駄を削ぎ落とした作品。楽曲もそれまでと比較してストレートで、一曲一曲が短くなっている。平均2分台。ひと展開あるのがFFAFの魅力だったのに・・・しかし曲の水準は保持している。

「The Distance」「Best Friends and Hospital Beds」は前述の意味で本作のお気に入り。オルタナティヴメタル/メタルコアへの接近が見られるタイトル曲、緊迫感を帯びた歌唱が聴ける「Nails」も聴きどころ。

後半は水準的にやや落ちるが、前作同様に的を絞り込んだ一気に聴かせるアルバム。次作の覇気のなさを鑑みるに、ここいらがポストハードコアとしてのバンドの到達点ではないかと考えている。

16. Hours / Live at Islington Academy (2014年4月、ライヴ)

2014年4月25日にロンドン・イズリントンで行われた『Hours』全曲再現ライヴ。解散が迫っているせいか、4年前の1st完全ライヴと比較して明らかに活力と覇気に欠けるステージ。因みに、サウンド・プロダクションはこちらの方が良い。

マシュー・デイヴィスの歌唱はアルバムが後半に差し掛かってくると、少しずつへばりはじめる。アンサンブルは円熟した安定感があるだけに、ヴォーカルの重要性を痛感するショウになった。この「Juneau」は厳しい。全体的に燃え尽き症候群な印象。

今回もDVD付き。このバンドはどこまで行ってもカリスマ的なロックスターよりは、音楽好きな兄ちゃんな佇まいだ。

17. Chapter and Verse (2015年1月、7thアルバム)

本作は"おそらく最後になる"という声明の元にリリースされた。意欲よりも発散を優先したマンネリズムと散漫さは確かに末期症状かもしれない。大人になることへの葛藤を唄った「Stand by Me for the Millionth Time」からしてそう感じる。本作の歌詞は政治色がやや濃い。

その後は「After All These Years... Like a Light Bulb Going Off in My Head」「Modern Excuse of a Man」など、過去2作のメロディック・ハードコアの流れを汲んだ路線の曲が並んでいる。先行シングル「1%」やアコースティックナンバー「Brother」は少々浮いている。

「Pencil Pusher」のようにギターリフにフックのある曲にしろ、ヴォーカルと、バンドのパッションバランスを取るのにこれまで以上に苦戦しているように感じる。

総括

英国を代表するポスト・ハードコアバンドとしてシーンに躍り出たFFAFであったが、マーケティングで大きな力を発揮することなく、忠実なファンの支えによって長年活動を続けてきた。

ギャレス・デイヴィスの脱退を皮切りに5th以降はアルバムを作る度に編成が変わっている。デビュー以来離脱者が皆無だっただけに、バンドは不安定で、財政的にも厳しい状況の中で、曲の質を維持してきたことになる。

不器用ながらも、常に自らに正直で生々しいエネルギーを保持してきたことは彼らの大きな遺産だろう。バンドが登場した時、既にシーンのバンドはこぞってエモとポスト・ハードコアをはじめとする他ジャンルとの融合を試み、ポップ・パンク並みのイージーリスニングへ堕しつつあった。

そんな中で彼らは同ジャンルに蔓延る自己憐憫じみたセンチメンタリズムに溺れることなく、安易なオルタナ商法に邁進するメジャーの在り方に疑問を持ち、自主レーベルを設立してメロディを重視したハードコア路線で進化を続けた。

その結果、運営も音楽性も凝り固まってしまったようだが、たったの3年で再結成したことには驚いた。現在、復活アルバムを制作をしているバンドは不動だったフロントマンのマシュー・デイヴィス脱退というまたしても未体験の試練を抱えている。

バンドは現在大きな窮地に立たされているが、この逆境からどう切り返すのか、ファンのみならず注目が集まるところだ。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?