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へんな癖がついた

title: へんな癖がついた
date: 2020年03月11日 23時52分
tags: 東日本大震災, 3.11
status: 公開 note
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潔癖とまではいかないけれど、不衛生なことには敏感な私。

どんなに眠くても、高熱でも、友だちが遊びに来て飲んで騒いだ夜も、失恋した日も思わず寝ちゃった日も、必ず起きて歯磨きだけは毎日欠かさず絶対にしてきた。歯を磨いて、コップを使ってうがいをして…コップはちゃんと洗ってひっくり返す。

ところが

ふと、朝の歯磨きタイムに違和感を感じるようになった。

歯磨き用のコップ。全日の夜に洗って、干すからひっくり返っているのが本来の風景。でも、なぜかコップには水がなみなみと残ったままの状態なのだ。

以後、これまでにはあり得なかった自分の行動について、なんとなく許容していたのだけど、ついにその習慣の理由がわかった。

"ああこれ多分震災の頃から始まってるわ"


大きな地鳴りと揺れのなかで寄せ集めの器に落ちていく水の筋が途中から急に痩せて細くなり、ついに止まった瞬間の目の前で起きたあの映像と気持ち。いまでも鮮明に覚えてる。

本震の時は、運転していた車が壊れたのかと思った。あまりに大きすぎて、地震だと気づいたのはふと顔を上げた先の山が揺れていたから。地震速報の震源地が現在地と同じで、鳴るたびに画面が真っ赤だったこと、海から陸地へ大きな箒で掃いたようになってしまった海岸沿い、道に行き倒れたピアノ、道路に落とした500円玉を拾うのを躊躇ったこと、揺れより先に来る地鳴りの音、水の出る水道にありついた時に流れる水を目の前にしてなぜか体が動かなくなってなかなか触れられなかったこと、深夜のラジオで身元不明のご遺体の特徴だけが淡々と、ただ延々と音声のみで述べられているのを帰り道の間中押し黙って無心で聞いていたこと 


あげたらもうキリがないや



どうやら流れる水が無い生活にトラウマがあるらしく、本当に小さなことだけど、とにかく歯磨き用のコップはいつも水を満たしてしておきたい。そんな無意識が変な癖に繋がったみたい。

癖が始まってからもう9年。はやいのか、おそいのか。

途切れたり、おわったり、かわったり、かわらなかったり、かわれなかったり。色々な人生があったと思う。あり続けていると思う。時の流れは等しいから、残酷だったり救いになったりするのかもしれない。ただ、私や、たくさんの人たちの人生に、計り知れない大きな力が割り込んできた。そのことは絶対に忘れてはいけない、事実。


2011年の3月11日をきっかけに始まった変な癖。私は生涯、コップの水を満たして寝るんだと思う。

多少の浮き沈みはよしとして、なんでもない日常こそ愛そう、愛するべき。大事な人には伝えたいことを伝えたほうがいい。明日は来るけど、どんな明日になるのかは誰にもわからないことだから。

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