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限築杯Vol.4 観戦記事 決勝戦 tachibana vs Gwendlyn ~最後の闘い~

text by ふみ

「ゼンディカー=エルドラージ覚醒・ブロック構築」のプレミアイベントが開催されたのは過去に1度のみ、2010年のプロツアーサンファンである。

同大会で優勝したのは殿堂プレイヤー、Paulo Vitor Damo da Rosaで、その際に使用されたのが青赤緑ターボランド。《水蓮のコブラ》が生み出す爆発的なマナを糧に、《精神を刻む者、ジェイス》《ムル・ダヤの巫女》という二大4マナスペル、フィニッシャーたる《ゼンディカーの報復者》へと繋げるという王者のデッキである。

今回Gwendlynはまさにそのデッキを握ることを決めた。完成されたデッキをもって今再びこの世に覇を唱える。それこそが王者のマジックというものだ。その実力には些かの疑いも無く、決勝戦まで足を進めることとなった。

その姿はまさにボスと言って差し支えなかろう。なぜならあの日、この環境は同デッキこそが最強だという証明が既になされているのだから。


……果たしてそれは本当だろうか。あれから14年もの時が流れた。プレイヤーの知見は増し、あの時には見つからなかった戦術も新しく生まれる。今だからこそ見つかる解決策が見つかるかもしれない。ともすれば懐古主義ともいわれかねない限築杯という大会。それにひたむきに思考をめぐらせ練習を重ねるプレイヤー達がいる。

tachibanaはこれまで開催された限築杯、その全てで決勝戦に進出し、そしてそこで涙をのんだ。手にした銀メダルは3つ。最初は喜びもしたが……もうそんなものはいらない。

そんなtachibanaが今回手にしたのは吸血鬼デッキ。トップメタの一角と目されながら、先のプロツアーサンファンでは誰一人としてトップ8に残ることは無かった。語弊を恐れずに言うのであれば「敗れた側のデッキ」である。

だがあと一歩の栄光を心から渇望する男は、そんなデッキに自身の思いを託すことに決めた。


Game1

 予選ラウンド上位のtachibanaは2ターン目の《吸血鬼の呪詛術士》がファーストアクション。一方のGwendlynは《探検》を唱え、早くもマナに差をつけようとする……も追加の土地が置けない。

続くターンも《探検》するのだが新しい土地を発見することができず苦しい。更にターンを重ね《水蓮のコブラ》を召喚したうえでようやく土地を置いたものの、即座に《食餌の衝動》されてしまい後が続かない。

そんなGwendlynを尻目にしっかりと土地を置き続けるtachibanaは《マラキールの血魔女》をキャスト。これは《炎の斬りつけ》されるが、第二陣をすぐに送りこむ。

Gwendlynも二匹目の《水蓮のコブラ》を出すのだが、肝心要の土地は3枚でぴたりと止まったまま。「ターボランド」の名前もこうなってしまえば形無しだ。

tachibanaは《ぬかるみの代価》を使用。なかなか珍しいカードであるが、これこそが今回の大会に向けて練習を重ねたtachibanaが見つけ出した1枚。

どんな強力なカードもぬかるみに嵌ればなにもできない

土地がないだけに手札は潤沢なGwendlyn。披露された《ゼンディカーの報復者》や《ムル・ダヤの巫女》といった煌めくカードたち。だがtachibanaはそれらには目もくれず、そこにアクセスするための《水蓮のコブラ》を奪い取り、一気に勝負を決めるべく《吸血鬼の呪詛術士》を連打。

一枚でいい、そう気合を入れたGwendlynが引き入れたのは《探検》。これで遂に4枚目の土地に辿り着くと、《水蓮のコブラ》の力を借り《ムル・ダヤの巫女》召喚。巫女はまた未来に土地があることを示してみせた。

だがGwendlynにはその未来への時間が残されていなかった。《マラキールの血魔女》《吸血鬼の呪詛術士》が積み重ねたダメージが重く、ライフは風前の灯。ライフが1まですり減ったところで、手札をたたむことになった。

tachibana 1-0 Gwendlyn


一番の自信をおく土地とマナ基盤。まさかの展開により一敗地にまみれてしまったGwendlyn。ターボランドが王者たる自体は時代はすでに終わってしまったということなのか。

いや、忘れてはいないだろうか。

いつの世もボスは一度は敗れるものなのだ。初戦こそは仮の姿で、真の姿を現してからが本当の闘い。「呆気なかったな」そんな思いを感じた挑戦者は、HPもMPもすり減らし最終的には敗北を喫することになるのだ。

Gwendlynはボスとして、王者の闘いをこのゲームで見せつける。

Game2

《ハリマーの深み》でゲームをスタートしたGwendlynに襲い掛かるtachibanaの《コジレックの審問》。ここで《剥奪》を抜き取りつつ、他の手札が《精神を刻む者、ジェイス》と土地3枚であることを確認する。

だが次にGwendlynが繰り出したのは《水蓮のコブラ》。このままだと次のターンに《精神を刻む者、ジェイス》に辿り着かれてしまうことから一瞬空気が変わるものの、tachibanaは慌てず騒がず《吸血鬼の呪詛術士》で《ジェイス》を受ける構えを取る。

しかしそんな《呪詛術士》に、今度は《炎の斬りつけ》が打ち込まれる。ボスにとって二回攻撃など当たり前、とばかりのGwendlynの二連トップデッキだ。

そして遂に「神」がその力を発揮し始める。

これぞ近代マジックの顔

とにかくこの神に対処しなければいけないtachibanaは《不気味な発見》で《呪詛術士》を回収するのだが、同時にもう1ターン分の《渦巻く知識》を許可することになる

tachibanaは確実に《呪詛術士》を着地させるために、《審問》を使うのだが、ここで公開されたのが《ゼンディカーの報復者》。《ジェイス》を排除することには成功するものの、Gwendlynからの報復があまりに強烈。

《報復者》が生み出したトークンが今の時点では0/1であることを確認したtachibana。彼が打ち込んだスペルは《湿地での被災》……ではなく《精神ヘドロ》。

土地から与えられるふんだんな栄養を受け、植物が成長を始めた。

tachibana 1-1 Gwendlyn


3度あることは4度あるのか。Gwendlynの見せつけた剛腕を前にして、tachibanaの脳裏に浮かぶボスに屈した自分の姿。周囲は「フラグ」などと囃し立てる。これが小説なら話の筋は決まっていて、結果は変えられない。

でも今行っていることはゲームだ。ボスの繰り出す攻撃は強烈でも対抗策は必ずあるし、それを解明し、身につけるために毎日のように練習をしてきたのではないか。

ターボランドがボスなことは、14年前から分かっていたのだから。

14年間の重みは一度の勝利ぐらいでは覆せない。tachibanaはボスを2度倒さねばならない。

Game3

マリガンを喫するtachibana。一方のGwendlynはキープを宣言。「やっぱりそうなのかな」そんな思いを振り切ることができない。だからといって抗うことを放棄するなどということはありえない。

tachibanaが《コジレックの審問》で1ターン目に《水蓮のコブラ》を奪い取ると、そこからtachibanaもGwendlynも静かに土地を置き続けるターンが繰り返される。

首尾よく《水蓮のコブラ》を捨てさせただけに、できることならば1枚でもクロックを置いて、ノーアクションのターンは作りたくないがそこまでうまくは進まない。

次のアクションは4ターン目、Gwendlynの《精神を刻む者、ジェイス》。これが無事着地しGame2の再現を図る。

しかし今度はtachibanaが見せる。返しのターンで《吸血鬼の呪詛術士》を引きいれると、《ジェイス》が暴れまわる前にこれを排除してみせる。更にはすぐに《不気味な発見》で《呪詛術士》を回収することで待望のクロックも用意してみせた。

マリットレイジの僕に非ず

ここまで土地を置き続けているGwendlynだが、実はその内訳は《山》と《島》で肝心要の《森》が1枚も存在しない。緑マナをもとめてGwendlynは《失われた真実のスフィンクス》を召喚した。

フレッシュになったGwendlynの手札の枚数をtachibanaが確認。そして、

ボスに一撃を加えよ

この日のために、磨き続けてきた刃が突き刺さる! Gwendlynの全てのカードを奪い取り、ボスから攻撃の手段を粉砕してみせた。

ターボランドは7マナの《ゼンディカーの報復者》をゲームの着地点として定めている。そのため、その直前となる5・6マナあたりで《精神ヘドロ》を打ち込むことをtachibanaは狙い続けていた。

一方のGwendlynもここが勝負の分かれ目であることを十分に承知していた。しかし《森》が無いゆえに《失われた真実のスフィンクス》を出さざるを得ず、そこに突き刺さった《精神ヘドロ》。一瞬の隙を見せた王者を突いた狙いすました一撃。

事、ここにいたり、後は《スフィンクス》と《吸血鬼の呪詛術士》のダメージレースとなる。それでも、この時点でGwendlynの方にライフの余裕があり、火力もまだデッキに眠ることを考えると、まだまだGwendlynが優勢な状況だ。

《吸血鬼の呪詛術士》を追加するtachibana。1ターン当たりのダメージ量は逆転した。ここでようやく《森》に辿り着いたGwendlynは、火力以外でも引いてよいカードが大幅に広がる。

続くターン1枚のカードを抱えたGwendlyn。

構えた?

これを見てtachibanaは《ぬかるみの代価》を打ち込むと、捨てられたのは《剥奪》。それを見て《マラキールの門番》をこれまでの日々を振り返るかのようにしっかりと着地させるtachibana。これで遂に《スフィンクス》が地に落ちた。

tachibanaと共に歩んだ《ぬかるみの代価》は最後まで彼に応え続ける。

最後でしっかりとカウンターを引き入れたGwendlynも見事なら、tachibanaも決して油断することなくそれを見抜いてみせたのも流石の1ターン。

栄光のエンディングを流れ始める瞬間であった。

tachibana 2-1 Gwendlyn


限築杯Vol.4、優勝は「黒単吸血鬼」を使用したtachibana。おめでとうございます!