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限築杯企画記事 再動 ~Multicolored Memory~

text by ふみ

「多色デッキ」

それはとても心地よくそして魅力あふれる言葉……であった。昨今はスタンダードでも当たり前のように多色化環境となっており、むしろ単色デッキを見つける方が難しいようになっている。

しかし2000年初頭のM:tGはそうではなかった。強力な単色カードを擁するテンペスト・ブロック、コンボデッキが世界を席巻したウルザ・ブロック、そして《リシャーダの港》や《からみつく鉄線》のように寧ろ反多色を志向するマスクス・ブロックと、ストロングホールドの「スリヴァー」を最後にマルチカラーのカード自体が存在しない時代が続いていた。

そのような中、満を持して2000年10月に登場したのがインベイジョン。これまでために溜めた反動をもって生み出された、大量の多色推奨のカードを武器に、その名が示すようにM:tGの世界に侵略をかけたそのエキスパンションは、実に煌びやかな世界で彩られていた。

これまでに無い感動と興奮を前に、大勢のプレイヤーがそれを好意的に受け入れ楽しみ、そして2001年8月18日・19日に「インベイジョン・ブロック構築」で開催されたグランプリ神戸2001は、1350名もの参加者を集めるという形で結実した。この数は当時しばらくの間世界最大の規模を誇るまでとなったのである。当時の熱狂ぶりをうかがい知れよう。

そんなグランプリ神戸から20年の時が経った。いまもう一度あの時の興奮を思い出すのも乙なものではないだろうか。

ここではインベイジョン・ブロックで新たに生み出されたマルチカラーのカードから、各色の組み合わせに着目しつつ、何枚かを取り上げ紹介してみたいと思う。なお選択には筆者の想いが多分に入っていることは否定しない。


白青

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コントロールデッキの最右翼といえば白青。そんな白青を体現し名刺代わりの一枚と言っても過言ではないカードがこの《吸収》。《対抗呪文》のUUと《治癒の軟膏》のWを組み合わせれば、カウンターをしながら3点のライフゲイン。実に明快でわかりやすいデザインとなっている。

実際3マナとこれを構えているときの安心感は他に代えがたく、対戦相手が止めとばかりに、ドヤ顔で繰り出してきた《ウルザの激怒》を《吸収》したときの気持ちよさは使ったものにしかわからない。干支が一周半もした後、ラヴニカの献身で採録され、涙を流したプレイヤーも多いのではなかろうか。


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《翻弄する魔道士》に記された「呪文を唱えられない」という何気ないその一文に、そのままの意味であるにもかかわらず混乱させられる。内容は理解できるのだが、目の前のスペルを使用できないという不条理は受け入れられない。Chris Pikulaがデザインしたインビテーショナルカードは流石に突飛な能力をしており実に印象的だ。

カウンターできない各種スペルを止めるも良し、オフェンシブなデッキが採用して相手の除去カードを宣言していくも良し。ピンポイントなフィニッシュに特化したデッキには特に有力で、いまだにエターナル環境でも使用される実力を誇る。


青黒

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《吸収》を上げたのなら《蝕み》をリストアップするのも必然となろう。こちらは《対抗呪文》のUUにBを合わせると相手に3点のライフルーズを強いる……って「黒マナ一つで3点ライフルーズなどというスペルは存在しない(※1)はず、計算おかしくない?」と当時は話題になったりもした。

※1 後にイニストラードで《夜の衝突》が誕生するが、それは11年後のお話

《吸収》と《蝕み》のいずれがより優秀であるかという議論に決は出ないものの、どちらであろうと打たれる側にとっては堪ったものではない。当時、牽制のつもりで唱えたスペルで支払わさせられる想定外の3点で計算が狂ったというプレイヤーも続出した。


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《はね返り》は青のバウンス+黒の手札破壊というこれぞマルチカラーを表す一枚。ただのバウンスと違い相手にカード消費を強いるためアドバンテージ面の損失が無く、またパーマネントの種別を問わないため使用できない盤面という状況がほぼ存在しない。

当時のバウンスは「土地」も普通に戻すことができていたため、必然的にテンポ差も生じてしまう。次のターンに置きなおしてスペルを使用すれば《蝕み》されと踏んだり蹴ったり。近年土地には触れないカードが増えたのも止む無しといえよう。

一方で「え、捨てるの《十二足獣》ですか……あ、はい。それはちょっとご勘弁いただけないかな……」といったことがしばしば起きるのもご愛敬。


黒赤

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コントロール好きが《吸収》で安堵感を抱く一方で、それをずたずたにしてやろうと目論むのが《虚空》。指定したマナコストのクリーチャー及びアーティファクトを戦場から排除するだけにとどまらず、手札からは「一々判別するのめんどい」とばかりに、インスタントやソーサリーまで含めてあらゆるカードをごっそりと奪い取ってしまう。

《夜景学院の使い魔》などから高速でキャストするのは実に力強く、押されているときでも逆転トップも可能と、超強力な一枚であった。

特に環境が狭まればそれだけ使用されるカードも読みやすくなり、インベイジョン限定構築では常にメタの一角。性能的なことは勿論、名前・イラスト的にもそのカッコよさに多数のファンが存在する。


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「クリーチャー破壊は得意技だ……同好の士やアーティファクトは例外な」
「クリーチャー破壊ならお任せあれ……タフネス4なんて聞いてませんね」
という黒と赤が手を取り生み出された《終止》

マナが重かったり、ソーサリーだったりと何かしらの制限が課される中、一切の重しなくクリーチャーを除去できるということに歓喜したプレイヤーは数知れず。色マナの枷はあれどここまで優秀な単体除去スペルは歴代を見回してもほぼ存在しない。更には《虚空》に負けず劣らず名前がかっこいい。

必然的に《終止》(と《火炎舌のカヴー》)が環境を定義する基準スペルとなることになり、結果《ガリーナの騎士》や《万物の声》、終いには《真紅の見習い僧》といった「プロテクション:赤」を持つクリーチャーがメインボードに使用されるデッキが発生するのはまさにメタゲームの産物であろう。


赤緑

ヤヴィマヤの火

生粋のビートダウン好きに「インベイジョンの代表カードは?」と質問すればこの名前が上がるに違いない。そう《ヤヴィマヤの火》だ。《熱情》にパンプアップ能力を足すことで、2枚目以降も無駄カードにならないように調整した結果、「ファイアーズ」は文字通り速攻で環境を制圧するに至った。

残念ながら最高の相棒たる《ブラストダーム》はインベイジョン限定構築では使用できないものの《カヴーのタイタン》《火炎舌のカヴー》などが突如殴りかかってくるのは心臓に優しくない。

正直なところスタンダード拠りのカードであり、当時の限定構築ではこのカード自体は鳴りを潜めてはいたが、愛好者が多いだけに令和の時代に今再び火を灯しても何もおかしくはない破壊力を秘めている。


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そんな《ヤヴィマヤの火》に代わってビートダウンデッキの中核を担ったのが《怒り狂うカヴー》。相手のターンエンドにしかけられる瞬速で、通れば良し、止められても自信のターンには悠々と続くスペルを使用する。とても器用なクリーチャーで、隙を見せれば3点がガブリと嚙みついてくる。


緑白

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《アルマジロの外套》はクリーチャーの性能を飛躍的に上げ、ダメージレースを一方的なものにするオーラ。単体除去が優秀な環境ではあったが、一度《火炎舌のカヴー》の射程圏を超えると、最早戦闘で逆転することは不可能となってしまう。色は違えど《天使の盾》が使われた実績もあり、タフネス4という壁をいかにして超えるかが非常に重要だったかということの証左と言えよう。構築戦でも十分に強力だが、リミテッドでの制圧力は言うに及ばず、しかも事欠いてコモンである。


エラダムリーの呼び声

最後に上げたいのが《エラダムリーの呼び声》。実際のところインベイジョン環境というよりは、その後により優秀なクリーチャーが実装されるにあたりどんどんと評価を上げて言ったカードとなる。好きなクリーチャーをインスタントタイミングで入手することができるというのは非常に強力で、様々なコンボデッキなどで席を確保することとなった。


解放されし黙示録

かくしてインベイジョン・プレーンシフトと次々と発せられた強力カードに触れる中、まことしやかに一つの噂が流れ始める。

「次のセットは対抗色らしいよ」と

しかして、その噂は事実だということがはっきりとしてくると、次第に「マナベースは正しく供給されるのだろうか」ということに話題は移っていく。

曰く
「タップインデュアルランド(※2)だ。」
「いやいや、《かさぶた地区》(※3)ぐらいがいいとこでしょ」
「《真鍮の都》だけじゃない?」
などなど。

対抗色を生み出すということはそれぐらい難しいことだと考えられていた。

※2 《沿岸の塔》など、インベイジョンに収録されておりかなり有力視
※3 テンペスト所収。タップインペインランド。これでいけ……ないよなぁ


だが実際に蓋を開けてみると、そこに待っていたのは正真正銘の純正対抗色ペインランドの5種、待ち望んでいた土地であった。

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潮目が変わった。確実に新しい世界がやってきた。その事実に震えながら、更に土地以外にも目を向けると「対抗色の時代」を高らかに推進する強力カードの山がアポカリプスには収められていたのである。


青赤

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アポカリプス以前で対抗色デッキと言えば一番は青赤と言えるだろう。青のドロー・カウンターと赤の火力の組み合わせは、正に魔法使いを体現しており人気のアーキタイプであった。基本的に長期戦となるために、まずは《島》次いで《山》と、着実に並べていくことから2色を出す土地を強くは求めなかったということも大きいであろう。

そんな青赤にもたらされたのが分割カードの最新鋭《火+氷》。インベイジョンで初めて生まれたその強烈で革命的なデザインに始めて見えたとき、プレイヤーは皆一様に目を丸くした。

《火》単体でも十分な性能を持っており採用の価値があると当初は評価されていたが、実際に使ってみると《氷》の器用さが心強い。まるで《Time Walk》をしているかのようなその動きに嵌る人は後を絶たず。


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尽きない手札、絶えない火力。これこそが青赤カウンターバーンに求められているものであった。序盤を支えた《火+氷》に対して、中盤以降は両者を兼ね備えた《予言の稲妻》がこの欲求に満点の回答を示してみせる。ターンエンドに連打モードに入ることは珍しくなく、《嘘か真か》と組み合わさると最早リソースが途切れることはなかった。


赤白

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青赤に次ぐ対抗色の組み合わせと言えば、古式ゆかしき赤白。ジャンクと呼称される、両色の低コスト優秀スペルを組み合わせたデッキは常に一定数環境に存在していたが、アポカリプスではやや形を変えコントロール寄りのカードが生み出された。

それが前述したグランプリ神戸2001で見事に優勝を果たした《ゴブリンの塹壕》。所謂トレンチ(※青を足してのトリコロールカラーのコントロールデッキ)と呼ばれたアーキタイプのキーカードで、1枚の土地を2体のクリーチャーへと変換する。カウンターポスト以降続いてきた、コントロール+トークン戦術の最新バージョン。その活躍はついには限定構築を飛び出して、スタンダードやエクステンデッドでも結果を残すことになる。


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そんな《ゴブリンの塹壕》に対して、こちらはビートダウン向けの《ゴブリンの軍団兵》。場に出てしまえば2点がほぼ確約。しかもタップ不要なので攻守に隙が無いと自由に器用なカード。当時はダメージスタックがあったため、所謂「当て逃げ」があったことは有名だが、軍団兵はタフネス4まで相打ちを取ることも可能であり、見た目以上にいやらしいクリーチャーである。


白黒

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《名誉回復》

この言葉の響きにどれだけのプレイヤーが魅了されたか。そのネーミングと「パーマネントを一つ対象とし、それを破壊する」という単純明快かつ強力なカードテキストも相まって人気の一枚。

土地も含むありとあらゆるパーマネントに対処が可能であるため、一家に一枚安心材料。《吸収》で打ち消し、漏らしたものは《名誉回復》、減った手札は《噓か真か》で回復する。所謂ドロマー(白青黒)コントロールには穴が無かった。

そんなコントロールデッキの地上戦を担ったのが1匹のヤマネコである。


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マルチカラーではないカードだが、メタゲームを彩ったということでは。この《幽体オオヤマネコ》は触れざるを得ない。《怒り狂うカヴー》《カヴーのタイタン》などのビートダウン系の主力クリーチャーに立ちふさがり、相手が緑ではなくてもその再生能力で地上戦に睨みを効かせる。この後に登場する地上戦の王に対しても堅陣な壁だ。

《終止》などには無抵抗だが、この後に続くクリーチャーへの避雷針ともいえる。《幽体オオヤマネコ》を避けるために戦場は空中戦へと移行してくという結果も生み出すにいたった。


黒緑

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青赤・赤白と比較すると、黒緑・緑青というのはそれほどメジャーな組み合わせではなかった。しかし現代マジックでは両カラーとも常に環境の中心に居座っているというイメージが強いのだが、その変化が始まったのはこのアポカリプスから、と言っても過言ではないのではと考えている。

《魂売り》

黒緑の代表にして環境の「地上の王」。5マナ6/6という驚異のスタッツ。これでもかと積みあげられた3つの能力。何度読み返しても、どこにもデメリットが書かれておらず、すべてがメリットであるという事実に、自分のテキスト読解力が信じられなくなる1枚。

場に出てしまえば《終止》ぐらいしか直接の対抗手段はなく、ブロッカーを1体ずつ生贄に捧げて、命を伸ばしている間に打開策を模索するしかないのだが、気がつけば《魂売り》のサイズは膨れ上がっている。

しかし改めて今見ても無茶苦茶……


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攻の主力が《魂売り》なら、防の要は《破滅的な行為》。起動マナ「以下」は単純に壊しすぎである。事前設置で睨みを利かせるもよし、マナを溜めてから強襲するもよし。

完璧な攻守を見せつけられ緑黒というカラーリングに傾倒するプレイヤーが一気に増えていく。一方で優しく穏やかなイメージを抱いていたフレイアリーズがこれだけ過激なことをするのか、とストーリーにも興味を持たせてくれる一枚ともなっている。


緑青

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《対抗呪文》のUUに〇〇をプラスして、というのは幾度と書いてきたが、アポカリプスでは遂に《灰色熊》と合体した結果、《神秘の蛇》が生み出された。期待通り呪文を打ち消しながら2/2の熊(蛇だけど)が登場するというスペルは、その後数多くの同タイプクリーチャーが生まれたが、その祖にして最もシンプルな形状となっている。

カウンターしながらクリーチャーを増やせる能力の高さは言うに及ばず、首尾よくコントロールを手中にした場合には、相手を待たずに素直に使えるため、取り回しがとても良い(仕組み上自身を打ち消すといったことは無い)。


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この項最後に取り上げるのは《ガイアの空の民》。森のエルフと海のマーフォークを掛け合わせると何故か空を飛ぶ、というシミックも驚きのクリーチャー。しかしネタ枠に見えて、この過去に類を見なかった「2マナ 2/2飛行・デメリット無し」が環境に与えた影響は大きい。

前述したように地上は《幽体オオヤマネコ》と《魂売り》が睨み合っておりその戦線を突破するのは容易ではない。ならば軸線をずらすべく白羽の矢がたったのがこの《ガイアの空の民》であったのだ。


単色

ここまで各タイプのマルチカラーカードを紹介してきたが、インベイジョンブロックは勿論単色カードも強力。

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各色のカードのアンコモンを取り出してみたが、どれも構築に影響を与えた逸品ものばかり。

他にも《ウルザの激怒》《ファイレクシアの闘技場》といった環境屈指の優良カードに、《荊景学院の使い魔》などの各種使い魔、《追放するものドロマー》を始めとする、6マナ 6/6 ドラゴンサイクルなども記憶に根強いだろう。

またここに上がらなかったカードにも数多くの名作が存在し、プレイヤー個々人ごとにそれだけの思い出があるのではないかと思う。そんな思い出のぶつかり合いを今から楽しみにしつつ、この項を締めようと思う。


最後に

合同勝利

特殊処理カードの祖《合同勝利》もインベイジョン発祥であることを改めてあげておきたい。