名作杯Vol.1 観戦記事 決勝戦 MasaH vs MATSUBAGANI ~光網の庇護下で~

text by いちごピザ

のちに主催者である添削はこう語っている。「ミドルスクールの優勝は補充か青緑のクロックパーミッションのいずれかではないかよ思っていた」と。

その予想は違わず。名作杯の決勝戦まで勝ち進んだのは補充と青緑スレッショルド。奇しくも双方ともに墓地を活用するデッキであった。

一つはMasaHが使用するパララクス補充。複数枚のエンチャントを吊り上げる《補充/Replenish》をキーカードとし、《オパール色の輝き/Opalescence》が生命の息吹を吹き込む。コンボパーツである《パララクス/Parallax》は一時的なコントロール要素でありながら、その性質ゆえに《補充/Replenish》と抜群の相性を誇る。

もう一つはMATSUBAGANIの青緑スレッショルド。《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》《熊人間/Werebear》といったハイスタッツクリーチャーを軸に構成され、《留意/Mental Note》や《入念な研究/Careful Study》で墓地を肥やしてスレッショルド達成を目指す。大量のカウンターとサイドボードに置かれた《翻弄する魔道士/Meddling Mage》により、このデッキは対コンボの最先頭をひた走る。

墓地を利用しながらも戦略の違うデッキ同士。名作杯の決勝戦に相応しい一戦を見ていこう。

Game1

先手MATSUBAGANIは《真鍮の都/City of Brass》から《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》、対するMasaHは《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》から《巧みな軍略/Strategic Planning》と順調な滑り出し。

《野生の雑種犬/Wild Mongrel》が追加されれば《パララクスの潮流/Parallax Tide》でマナを締め上げるなど双方譲らず。MasaHは《古えの墳墓/Ancient Tomb》まで使いアンタップ状態の土地を1枚残して丁寧に呪文を重ねていく。「《目くらまし/Daze》は絶対にもらわない」と強い意志を感じるプレイである

《調律/Attunement》で墓地をたっぷりと肥やし、マナ差は歴然としているが、問題はMATSUBAGANIが《意志の力/Force of Will》を持っているか否かにかかっている。MasaHは祈りつつ《補充/Replenish》を手にするが、予想通りにピッチでプレイされる。

ならばクロックを下げるしかあるまい。続くターンに《パララクスの波/Parallax Wave》の着地を見届けると、すぐさま《野生の雑種犬/Wild Mongrel》を対象のとる。

ここでMATSUBAGANIは極々自然に、慣れた手つきで《冬の宝珠/Winter Orb》を墓地へと置く。墓地の枚数はスレッショルドには遠く、共鳴者がいない状況下で達成できるかも定かではない。

しかし、MATSUBAGANIは1日を始める1杯のコーヒーのごとく、さも当然のこととして手札を切ったのだ。

返すターンに《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》を追加すると攻撃によりMasaHの残ライフは5。《補充/Replenish》を求めて《綿密な分析/Deep Analysis》をプレイするもまだ届かない。

2体のマングースによりライフは3まで落ち込むが、ギリギリのタイミングで《オパール色の輝き/Opalescence》を引き込めた。未だスレッショルドには1枚足らず、後続を引き込めれば逆転もありえる。

MATSUBAGANIは慣れた手付きでマングースをレッドゾーンへと送り込むと、《宝石鉱山/Gemstone Mine》をタップする。
最後の1粒の財宝を掘りつくした鉱山は割れ、マングースへと力を与える。

被覆の前に《パララクスの波/Parallax Wave》ではどうしようもなく、ブロックしようにも1体分足りず。MATSUBAGANIはピッタリとライフを削りきった。

最後の最後に帳尻を合わせるように達成されたスレッショルド。まさか瞬時に捨てた《冬の宝珠/Winter Orb》が勝負を分けるとは、MATSUBAGANI以外誰にも気が付いていなかった

MasaH 0-1 MATSUBAGANI

Game2

再び《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》から始まるも、今度はMasaHが主導権を握る。カウンター封じの《防御の光網/Defense Grid》が無事着地したのだ。

《防御の光網/Defense Grid》の庇護下でMasaHは積極手にデッキを掘り進めていく。《調律/Attunement》《巧みな軍略/Strategic Planning》《綿密な分析/Deep Analysis》と手札と墓地を循環させる。

こうなっては構えていても仕方なく、MATSUBAGANIは墓地を肥やしながら積極的に動いていく。クリーチャーを追加し、ドローを進め、遂には《防御の光網/Defense Grid》を割る《帰化/Naturalize》へと辿りつく。無事にターンが帰ってくればカウンターが機能しそうではあるが、果たして。

MATSUBAGANIは《調律/Attunement》をグルっと回し、《目くらまし/Daze》を避けながら《パララクスの潮流/Parallax Tide》がプレイされる。
解決後、自分の土地2枚を追放し、その上で相手の土地3枚を対象にしつつ《浄化の印章/Seal of Cleansing》で潮流自身を割り、土地を追放領域へと追いやってしまう。

再び動きを封じられてしまったMATSUBAGANIはできることを攻撃を続けるが、先ほどと違いライフはいまだ二桁とゴールがやや遠い

そして《オパール色の輝き/Opalescence》が着地すると攻守が入れ替わる。消散カウンターにより警戒の如く立ち回る《パララクスの波/Parallax Wave》は一方的にクロックを突きつけ、《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》には待ったをかける。

後続こそカウンターし続けるも、MATSUBAGANIには手札もクリーチャーも墓地も足りない。

そして何より、抗うだけの時間すらも残されてはいなかった。

MasaH 1-1 MATSUBAGANI

Game3

MATSUBAGANIは《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》の代わりに《トーモッドの墓所/Tormod's Crypt》とスタート。クロックこそないものの、墓地を使うMasaHとしてはかなり厳しい一手といえる。

続くターンに《熊人間/Werebear》がプレイされると、MasaHは腹をくくらざるを得なくなってしまった。相手の戦場に《島/Island》があるのを承知で《防御の光網/Defense Grid》!MATSUBAGANIから応じ手はなし…《目くらまし/Daze》はなかったのだ!

ここからは青緑はクリーチャーを展開し、《パララクス/Parallax》着地前にビートダウンを狙い、補充はコントロールすべくデッキを掘り進めていく。墓地が使えないため《トーモッドの墓所/Tormod's Crypt》が重くのしかかる。

MasaHにとって幸いだったのは《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》が不在だったことだろう。一時的にダメージを受けてしまったものの、《パララクスの波/Parallax Wave》へと辿り着けば、ダメージソースを完全にシャットダウン。後続が続かないMATSUBAGANIはターンを返すのみ。

墓地を経由できないためゆっくりと、それでいて着実に。《オパール色の輝き/Opalescence》によりエンチャントはクリーチャーへと顕現し、ダメージを刻み出す。2枚目の《オパール色の輝き/Opalescence》が通ってクロックは倍の8点。

ポロリと、MATSUBAGANIの手からカウンターが零れる。対抗策はあったが、《防御の光網/Defense Grid》が割れなかった。

《帰化/Naturalize》なしでは、たとえ《目くらまし/Daze》や《意志の力/Force of Will》であっても、《防御の光網/Defense Grid》を乗り越えることは敵わなかったのだ。

MasaH 2-1 MATSUBAGANI

限築杯二連覇に続き、名作杯のタイトルまで獲得したMasaH。静寂の中で語られたのは勝利の喜びでも、戦略の正当性でもなかった。我々スタッフ陣が感じていたデッキに対する疑問、オーバーキル感漂う《静寂の命令/Decree of Silence》の必要性に対する答えだった。

MasaH「墓地が肥えていない段階であってもこれ1枚で《補充/Replenish》をプレイする価値がある」

どうしても起こってしまう不運な下ブレのケア。不平や不満ではなく、解答を用意していた。

MasaH「《古えの墳墓/Ancient Tomb》や《裏切り者の都/City of Traitors》を複数枚引き込むと、《補充/Replenish》をプレイしながら「サイクリング」を構えられるので」

デッキ内のカードは採用枚数が少なかったとしても、いつか引いてしまう。
低確率な状況に見切りを付けず、青いデッキとのマッチアップ想定してカードが機能するようにサポートされていた。

これらはMasaHの勝因のほんの一部であり、もしかすると今日に限ってはほとんど影響なかったかもしれない。
それでもデッキの細部まで神経を張り巡らして、いついかなる時も最善手が打てるように構築されていた。

思えばドメインにおける《合同勝利/Coalition Victory》も、二度目の対《反論/Gainsay》を想定したクリーチャー選択も。MasaHはカードの1枚1枚に意味を持たせ、75枚のデッキを構築してきた

変わらないカードプールに、MasaHの思考が浸透し、新しい75枚のカード束は命を吹き込まれる。次回もきっと、また新しいデッキであるに違いない。

デッキ構築とはさもありなん。語るまでもなく、勝利こそその証明である。

優勝はMasaH!名作杯初代王者、おめでとう!!