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新型コロナウイルス感染症、ワクチンについておさらいしました(5月12日こびナビTwitter Spacesまとめ)

こびナビ広報

☝Twitterspaces参加方法はこちらのツイートを参考にしてください。

2021年5月12日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:安川康介🥦


【こびナビメンバー自己紹介】

木下喬弘
おはようございます。
改めてですが、簡単にこびナビメンバーの自己紹介を致します。私、最初の5分間だけ司会を務める、よくしゃべる救急医Taka こと副代表の木下喬弘です。主にこびナビの中では疫学や臨床研究についてお伝えしています。実際にワクチンを人の体に打ったとき、どれくらいの有効性や安全性があるかデータから解析する研究の解釈を担当しています。よろしくお願いします。

安川先生を最後にして、次は峰先生に自己紹介していただきましょうか。

峰宗太郎
はーい、峰でございます。私もこびナビの副代表で、私自身がウイルス学と免疫学とワクチンの開発が専門なので、基礎科学的なことについてコメントすることが多いです。今後ともよろしくお願い致します。

木下喬弘
峰先生ありがとうございました。じゃあ黑川先生お願いできますか。

黑川友哉
はい。私、こびナビ事務局長の黑川友哉と申します。こびナビの中では主に薬事や医薬品規制等についてお話し致します。私は5年位前から PDMA という日本の医薬品の審査をやる施設にいた経験もありますので、そういった視点からコメントさせていただきます。また、こびナビのウェブサイトにお問い合わせや苦情のメールやお叱りなどもいただくのですが、事務局長として一つひとつ丁寧に対応したいと思っております。よろしくお願いします。

木下喬弘
黑川先生、いつも大変な仕事を本当にありがとうございます。それでは内田先生お願いできますか。

内田舞
はい、おはようございます。内田舞と申します。私は自分自身が妊娠中にワクチンを接種し、その後元気な男の子を産みましたので、こびナビでは妊娠中、妊活中、授乳中のワクチン接種についてのデータを紹介したり考察したりしています。また、小児精神科医としてハーバード大学とマサチューセッツ総合病院に勤務しているので、こどもとママさん全般のワクチン接種に関する情報提供を担当しております。今日はこどものワクチン接種の話題が出るかもしれないと安川先生に伺っているので楽しみです。どうぞよろしくお願いします。

木下喬弘
内田先生ありがとうございます。池田先生今しゃべれますか?

池田早希
はい、しゃべれます。よろしくお願いします。
私はこびナビ副代表の池田早希です。現在、アメリカのヒューストンにある大きな小児病院の小児感染症科で働いています。私の病院では、病棟勤務のときにたくさんのコロナ患者さんを診てきました。こびナビでのメインの仕事は、最近は Instagram の管理です。

こびナビInstagram
https://www.instagram.com/covnavi/

デザイナーの杏奈さんや、学生さんや、たくさんの方々と一緒に運営していますので、Instagram もフォローしていただけたらとても嬉しいです。峰先生とミスバスターズという動画をアップしていますので、またご覧いただけたらと思います。

木下喬弘
では最後に安川先生にモデレーターをお渡ししますので、今日のニュース解説をお願いします。

安川康介
わかりました。皆さんはじめまして。アメリカで内科医として働いている安川康介です。僕は日本の医学部を卒業した後にアメリカで内科専門医と感染症専門医を取得し、今はワシントンD.C. の病院で内科医として働いています。去年の3月くらいからずっと新型コロナウイルス感染症の患者さんを診てきました。新型コロナウイルスのワクチンは、日本人としてはおそらくかなり早い段階の昨年12月16日に打ちました。新型コロナウルス感染症の方を診療してきたこともあり、昨年から個人的に情報発信をしていたのですが、峰先生の誘いで2月にこびナビに加わって活動しています。

こびナビでは主に古事記の、日本の神話を医学的な視点から考えつつ、皆さんがよく抱くコロナワクチンの疑問にお答えするための Q&A をこびナビのウェブサイトで担当しています。

参照:
古事記の神話 : 医学的視点から Mythology in Kojiki : A Medical Perspective 日本医史学雑誌66巻3号 Page267-283(2020.09)


【新型コロナワクチンおさらい:効果・副反応・変異ウイルス】

安川康介
新型コロナウイルスのワクチンに関しては情報が日々更新されています。2週間前に書いた内容が既に古くなってしまう勢いなので、ここで簡単にまとめてみます。昨日出たばかりの最新の BuzzFeed の記事が短くまとまっているので皆さんに紹介しつつ、簡単に駆け足で新型コロナワクチンについておさらいします。僕のツイートにいくつか記事をあげていますが、最初に取り上げる記事は一番上にあります。

参照:
変異ウイルスに効くの?接種後に起こりやすい副反応は?新型コロナワクチン、知っておくべき8つのポイント
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/covid-19-vaccine-point
出典:BuzzFeed News 2021/5/11

実はこびナビの木下先生、黑川先生と僕が監修しています。まず新型コロナワクチンの効果について、そもそもどれくらい効くのか、主に日本で承認されているファイザー社のワクチンに絞って話していきます。

このワクチンは、44,000人の大規模な臨床試験で、症状が出る感染を95%減らす効果があると昨年報告されました。この95%というのがワクチンとしては非常に良い数字だということを、まず皆さんに知っていただきたいです。年度によっても違うのですが、インフルエンザのワクチンは約40%~60%程度の効果があります。今までのワクチンで良いワクチンというと、僕みたいな臨床医には麻疹のワクチンが思い浮かぶのですが、それと同程度の効果です。

高い効果は、イスラエルのさらに大規模な臨床研究でも認められています。実際の社会での効果 effectiveness(注)が、症状のある感染に対しては94%、重症化予防も92%と高いことがわかっています。去年こうした発症予防効果が高いという報告が出た際、一部のメディアに、「無症状の感染自体は抑えられない可能性があるから、ワクチンで流行を抑えることができないのではないか」という論調がありましたが、今では無症状の感染も抑えることがわかってきています。

※編集注
日本語でいう「効果」について、英語では次の3種類があります。

<基礎研究の観点から>
immunogenicity
免疫原性。臨床検査上は中和抗体ができているか、どの程度出来ているかなどで測る生物学的反応の効果。
----------------------- 
<疫学の観点から>
efficacy
臨床試験(ランダム化比較試験)で検討し判明した効果。 
effectiveness
実社会で実際に接種した時の効果。


先程のイスラエルの大規模な臨床研究では、無症状の感染を含めた感染を92%予防できるのではないかと報告されました。さらにアメリカの医療従事者とエッセンシャルワーカーを対象に1週間に1回 PCR を行う臨床研究では、90%の無症状の感染を含めた感染予防効果が認められています。以上から、効果に関しては申し分ないことがわかっています。

この記事では他にもいくつかポイントがあり、全部はお伝えしませんが、次に変異ウイルスへの効果について書かれています。これはこびナビの Clubhouse でもたびたび取り上げてきました。

簡単にまとめると、今ある臨床研究の結果からは、いわゆるイギリス由来の変異ウイルス B.1.1.7 に対しては効果が十分あることがわかっています。最も懸念されているのが、B.1.351 という南アフリカ由来の変異ウイルスです。B.1.351 についてはまだまだ情報が少ないのですが、カタールでのメッセンジャーRNA(以下 mRNA)ワクチンについての臨床研究では有効性が75%あったことがつい数日前に報告されました。実験室の研究結果を考慮しても、ある程度は有効性が保たれていると予想されますが、まだまだ検証段階です。一方で、日本でも承認の方向で動いているアストラゼネカ社のワクチンについては、B.1.351 に対する効果がほとんど無かったという報告があります。つまり、ワクチンの種類や変異ウイルスの種類によっても有効性が変わってくると言えます。

次は副反応についてです。ファイザーのワクチンの場合、

・接種部位の痛みが約7~8割
・倦怠感や頭痛といった全身性の反応が、若い方だと5割程度

に起こります。こうした反応は1回目より2回目の方が出やすく、高齢者よりも若い方に出やすいです。こうした全身性の反応は、大体2~3日ほどで消失するので、あまり心配する必要はありません。

ただ、最近ワクチンを受けた高齢者の方を診ていると、1人暮らしの高齢者の場合、食欲不振や倦怠感が強く出た際に1人では大変だったという方が複数いらっしゃいました。もし1人暮らしの高齢のご家族がいる場合は、いつもよりこまめに連絡を取ることを個人的にはお勧めします。

mRNAワクチンで特に注目されている副反応はアナフィラキシーです。
これはワクチン接種100万回あたり、

・ファイザー製ワクチン・・・4.7回
・モデルナ製ワクチン・・・2.5回

と稀ではありますが、強いアレルギー反応が起きることがわかっています。そこでワクチン接種後15分ほど接種会場での経過観察が必要です。

アストラゼネカのワクチンでは非常に稀に、約25万回に1回程度、血小板減少を伴う特殊な血栓症が、特に若い方で起こると報告されました。これに関しては、何回かにわたりこびナビの Clubhouse でもお伝えしたので、ご興味のある方は文字起こしの note をご覧ください。この特殊な血栓症は mRNAワクチンでは今のところ報告されていません。

こびなびnote
https://note.com/cov_navi

この BuzzFeed の記事の最後の方で「長期的な副反応はありますか」というよくある質問に回答しています。今回のワクチンの長期的な副反応の可能性について、峰先生、コメントしていただいてもよろしいですか。

峰宗太郎
可能性という言葉って難しいですよね。

基本的に、長期的な副反応については、直接計測・実証しているという意味では、長期間経っていないので当然わかりません。それから、可能性があるかと言われたら「ゼロではない」という言い方をせざるを得ません。というのは、こればかりは本当に何が起こるかわからないですからね。ただ大事なことは、蓋然性と、メカニズムから考えられることだといつも私は言っているのですが、皆さんもそういう筋で説明してくださる方が多いと思っています。

1つは、多くのワクチンの副反応は6週間以内に出ることが、今までのワクチンの技術経験からよくわかっています。これは CDC(アメリカ疾病予防管理センター)や FDA(アメリカ食品医薬品局)でもどの程度副反応を集中的に観察するか期間を定めていますし、大体の副反応は接種直後から出始めて短い時間で起こることが多く、あまり長く経ってから起こることは今まで知られていないんですよね。

それからメカニズムに関して申し上げると、もしワクチンが長期間作用するのであれば、

・ワクチンの成分が長期間残って何かを起こすこと
・免疫に作用するものなので、免疫が後から何かを起こすこと

の2つが考えられると思います。

まず今回の mRNAワクチンに関しては成分そのものはすぐに分解されますので、長期間経過後に悪いことをするのはそれほど考えられません。

もう1つは、免疫が反応してしまったこと、もしくは、免疫が反応するようになって長期間経過後に何かを起こすのではないか、ここに関して可能性ゼロと確実に言うことはできませんが、遅延性のアレルギー反応も、出るとしたら6週間以内程度がほとんどなんですよね。つまり、後から何か悪いことが起こるのは、メカニズム上もなかなか考え難いということです。

全体的には、こういう場合は歯切れが悪くて、「絶対ありません」と言いたくても言えないのですが、ほとんど考えなくて良いだろうと評価できる程度です。

安川康介
ありがとうございます。この質問は、こびナビで情報発信をしていると頻出する質問で、こびナビのウェブサイトでもしっかり回答していますので、もし疑問がある方は合わせてご覧ください。

参照:
こびナビ ワクチンQ&A:みなさんへ
https://covnavi.jp/category/faq_public/

峰先生が仰った通り、免疫による副反応というのは大体6週間以内で、今回のワクチンで分かっている副反応はもっと早い段階で起きることがわかってきました。アナフィラキシーはほとんどの場合数十分以内に起こります。アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソン(以下 J&J)のワクチンで報告された血小板減少を伴う特殊な血栓症はヘパリン起因性の血小板減少症に似ていますが、これもほとんどが2~3週間以内に起こると報告されています。

以上、ワクチンに関してさらっとまとめました。

次のトピックで取り上げたいのは、インドで注目されている変異ウイルス B.1.617 が正式に WHO(世界保健機関)によって、今まで Variant of Interest(注目すべき変異ウイルスもしくは変異体;VOI)だったのが、Variants of Concern(懸念される変異ウイルスもしくは変異体;VOC)に位置づけられたことです。VOI と VOC の違いについて、峰先生、簡単にご説明いただけますか。

※編集注
5/12当時の情報であり、デルタと呼ばれる変異ウイルス(B.1.617.2)については言及されていません。


峰宗太郎
WHO には epidemiological(疫学)アップデートという文書が毎日出ているのですが、「暫定的な考え方」という中で示しています。

公衆衛生上非常にさし迫った状態を示す懸念がある、実際に影響を与えている、医療が逼迫する、そういったことに当たってくると VOC ですね。今後の流行などに懸念を及ぼすということで VOC に指定します。

そして、注目しておいて何かあったときに素早く初動対応ができるように「今注目してますよ」と知らしめておくのが VOI です。

実際は WHO も世界各国も同じような定義を使っています。最初に言い出したのはイギリスの保健省でしたが、WHO もそれを採用しました。アメリカの CDC は VOI、VOC の上に Variants of High Consequence(甚大な被害が想定される変異ウイルスもしくは変異体、以下VHC)という定義を作っています。これは臨床上影響が大きく、その場を逼迫させているものを VHC に指定するよと言っています。VHC に指定された変異ウイルスは今のところありません。

日本も国立感染症研究所は右にならえと WHO の考え方を踏襲し、VOC、VOI を採用しています。WHO の場合は世界的なパンデミック状況や各国の流行状況を見ながら指定するので、今インドで激しいことになっていますから VOC に指定したということが確実に言えます。一方、日本の国立感染症研究所が VOC、VOI に指定する場合、わが国においてどの程度影響があるかを加味して決めます。今のところインドからたくさん入って来ている状況にはなっていないので、まだこれは VOC に指定されることはしばらくないんじゃないかなと思っています。

安川康介
ありがとうございました。変異ウイルスの問題は日本のメディアでも連日扱われていると思うのですが、今現在のところ WHOが定めていたVOC は

・イギリス由来の B.1.1.7
・南アフリカ由来の B.1.351
・ブラジル由来の P.1

があり、そこに今回

・インドを中心に広がった B.1.617

が加わった形です。

ずっと Clubhouse をお聴きの方には変異ウイルスについて何回もお伝えしているのでご存知かもしれませんが、峰先生が変異ウイルスについて非常にわかりやすい記事を最近書かれました。もしご興味のある方はこちらもご覧ください。

参照:
仕組みや状況・対策は …… 新型コロナの変異ウイルスとは?いま分かっていること
https://news.yahoo.co.jp/byline/minesotaro/20210502-00235680/
Yahoo!ニュース 2021/5/2


【新型コロナワクチン情報まとめ:こどものワクチン接種】

最後に、アメリカの5月10日、FDA がファイザーのワクチンの12歳~15歳に対する緊急使用を認めたことについて少しお伝えします。

現在アメリカでワクチンが承認されているのは、

・ファイザー・・・16歳以上
・モデルナ・・・18歳以上

となっています。

アメリカではかなりワクチンの接種が進んでいて、

・1回接種・・・国民の46%(うち18歳以上58.2%、65歳以上83.7%)
・2回接種・・・国民の35%

外に出て高齢の方を見たら大体の方が1回接種済みと考えられる状況です。(地域差あり)また、僕の家庭もそうなのですが、両親はワクチン接種済だがこどもが未接種という家庭が増えてきている印象です。

僕のツイートでも関連する記事を2つ載せています。まず FDA のニュースリリースです。

Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine for Emergency Use in Adolescents in Another Important Action in Fight Against Pandemic
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/coronavirus-covid-19-update-fda-authorizes-pfizer-biontech-covid-19-vaccine-emergency-use
出典:FDA 2021/5/10

アメリカで、12歳~15歳2,260人を対象に、1,131人にワクチンを接種し、1,129人に偽薬(プラセボ)の生理食塩水を打つという臨床試験が行われました。まず副反応に関してですが、これは大人の報告とほぼ同じと考えて良さそうです。まず接種部位の痛み、続いて倦怠感、頭痛、悪寒、筋肉痛、発熱、関節痛ということで、いずれも大人で認められている副反応です。

ニューヨーク・タイムズの記事では発熱が20%程度と書かれていました。これは大人、特に65歳以上の方よりも、少し多いかなという印象です。

F.D.A. Authorizes Pfizer-BioNTech Vaccine for Children 12 to 15
https://www.nytimes.com/2021/05/10/health/pfizer-vaccine-children-kids.html
出典:The New York Times 2021/5/10

効果に関しては、プラセボ群で16人の感染がみとめられたのに対し、ワクチン群では0人でした。ここでいう効果 efficacy(注)は、100%だったことがわかっています。これを受け、FDA が緊急使用を許可して、最終的には CDC の ACIP(Advisory Committee on Immunization Practices;ワクチンに関する諮問委員会)が明日投票を行い、その後接種が始まります。今週の木曜日か金曜日には接種を開始するのではないかという話です。

アメリカでは大人でもワクチンに対し忌避感を抱いていて、ワクチンを接種したくない方が2~3割程度いらっしゃいます。特に大人で、「自分は接種したけれども自分のこどもにはまだ打たせたくない」という方が、最近の調査だと4割程いるそうです。こどもはもともと新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくく、亡くなる方は確率的に言うとほとんどいないので、こどものワクチン接種をどの程度すすめるのかは今後議論されていきます。池田先生は音声に問題がありますよね。岡田先生、聞こえてますか?

岡田玲緒奈
はいはい。
(仕事で呼ばれて)
あー!ちょっと待ってください。

安川康介
大丈夫です。では木下先生にふりたいと思います。

木下喬弘
はいはい♪

安川康介
(笑)
「なぜこどもがワクチンを打つべきか」と親御さんから訊かれた際、どういう理由が挙げられるか少しお話しいただけますでしょうか。

木下喬弘
実は私はずっとSpacesが何人の方々に聴いていただいているか見ていました。現在944人です。ヤバいですね安川先生。

お子さんの接種に関して、安川先生にご指摘いただいた問題は確かにあります。しかし、こどもも決して感染しないわけではないですし、特にアメリカほど感染者数が増えてくると、一部では重症化して ECMO の治療を必要とすることもあります。後は合併症ですね。本当に悲しいことですが、例えば下肢切断を経験したこどもさんもいらっしゃいます。以上から、ワクチン接種で感染を防げるなら個人レベルでも非常にメリットが大きいことが挙げられます。

それに加え、こどもを介して大人に感染することもあります。それはもちろんこどもの責任ではなく、そのこどもはきっと大人から感染しているのですが、感染の連鎖を止める意味でもこどもへのワクチン接種は重要です。こどもが感染して家にコロナを持ち帰り、感染した祖父母が重症化するケースもあります。集団レベルでワクチンを接種する人が増えると、人から人に感染する感染症をより抑えられるという効果、この2点が重要だと考えます。

安川先生にお返しします。

安川康介
ありがとうございました。

安川康介
内田先生、これに関して何か付け加えてください。

内田舞
木下先生は

1)こどもの感染も無視できない
こどもが感染した場合でも重症のときは、体中で炎症が起きる Multisystem inflammatory syndrome(多系統炎症性症候群)があり、このために亡くなったお子さんがアメリカ国内で数百人いると報告されています。

2)こどもが感染した場合にさらに誰かにうつしてしまう
こどもが感染した場合に重症化リスクが高い方、例えば祖父母、妊娠中のお母さん、基礎疾患のあるお父さんなどにうつしてしまい、その方々が重症化するリスクがあります。

という2点についてお話しくださいました。

それに加え、私がアメリカの場合重要だと思うのが学校の再開ですね。日本の場合は(一部を除き)学校を開けていますが、行事や習い事などのお子さんの活動を抑制して(感染を)制御しているご家庭がたくさんあると思います。アメリカに関しては、今年まるまる1年間、公立学校のほとんどは対面授業をフルでできない状況で、本当にこどもに数々の悪影響が及んでいます。

私は小児精神科医なのですが、コロナ禍の中、様々なお子さんを診てきました。

・不安障害や社会不安を持つお子さんで、今まで対面ですら質問するタイミングがわからなかったのに、オンライン授業になると更にわからなくなって、声をかけることに困っている。
・自閉症スペクトラムのお子さんではルーティンが非常に重要なのに、在宅スクールになったためにうまくルーティンが作れず、家族内でイライラが募っている。
・学習障害があり、今まで学校からサポートを受けながら授業について行っていたのに、そのサポートを受けられずに学習に苦しみ、その結果不安や鬱の状態を経験されている。

このように、苦労を強いられているお子さんが数多くいらっしゃるのを強く感じていますね。また、2020年のアメリカの調査では、ストレスを受けた結果、希死念慮(註: 死にたいという気持ちを指す精神医学用語)を持った高校生のお子さんが例年の4倍になったそうです。「心理的に相当な悪影響があるコロナの状況だな」という印象ですし、それが実際にデータとしても出ています。

それから、こどもが学校に行けなければ、家に誰か大人がいる必要があります。育児しながら仕事をしなければならない親御さんはストレスを受けます。またこの1年間は両親のどちらかが仕事を辞めないとこどもの面倒を見られないということで、職場を泣く泣く去られた親御さんもいらっしゃいますし、その結果経済的に大変な状況を経験されている方も少なくありません。

こどものワクチン接種については、感染予防だけではなく、感染拡大による社会的影響で生じた種々の要望も考慮されるでしょう。そして日本では状況が少し違うかもしれませんが、お子さんの運動会や合唱コンクールなどの行事とか、習い事その他、友達と遊ぶこともなかなかできない状況が、お子さんやお子さんのお世話をする親御さんたちのストレスになっていないわけは無いので、やはりそれも改善したいです。

そういった面でもパンデミックを終えたいと考慮した上でのワクチン接種になってくると思いますね。ありがとうございます。

安川康介
ありがとうございます内田先生。あ、岡田先生どうぞ。

岡田玲緒奈
私は実際に小児に対する内科臨床をしている立場から少し違う視点で意見を述べてみます。小児のコロナの診断を症状からするのはほぼ無理なんですよね。小児科の外来は風邪の人がほとんどなので、本当に難しいんです。現状は、親御さんの行動歴から疑って検査せざるを得ません。このように診断が難しいものに対して有効なワクチンがあるならまずそれを接種してもらっておいて、我々としてはワクチン接種歴を確認することで「この患者さんはコロナの可能性は低い」と除外できる材料があるのは診療の上でめちゃくちゃ大事です。

実際変異ウイルスでは、もしかすると小児の間でも伝播性が上がっているかもしれないという話が毎回出てきます。、現存する変異ウイルスが結局そうでないとしても、単純に現在の流行状況ゆえに小児の患者さんは増えています。小児科医の界隈では「親の行動歴である程度当たりがつけられないとなったらこれどうやって診断すんの(註: 伝播性上昇により、これまでのように小児の感染は家庭内で起こり、多くのケースでは親が持ち込んでいるという重要な知見が当てはまらなくなりえる)」みたいな感じでみんな少し危機感を感じています。ワクチン接種歴が診断のヒントにできる状況が早く来て欲しいというのが、一般小児の外来をやっている私からの意見です。

安川康介
ありがとうございます。今、木下先生、内田先生、岡田先生に色々なポイントを話していただきました。僕は普段は木下先生みたいにまとめない主義なのですが、今回はまとめをしてみます。

・こどもでも感染し、大人と比べれば数は少ないが重症化することがあり、亡くなるこどももいる。
・こどもを介して家族内、家庭内で感染リスクのより高い方への伝播が起こることがあるのでこどもの感染をワクチンによって抑制することが重要。
・学校の再開や休校に関わるため、こどもの教育にかなりの影響が及ぶ。
・こどもだけではなく親にも生活上の影響がかなりある。
・スポーツや習い事ができない(アメリカでは対面の習い事やスポーツがあまり行われていない段階)状況が続いているが、こどもがワクチンを接種することで様々な活動が再開できる。

以上が挙げられます。こどもの接種に関しては、おそらく日本でも今後かなり議論されるでしょう。アメリカでも今ちょうど非常に活発に議論されています。

例えばハーバード大学のポール・サックスという有名な感染症の医師は、こどもがワクチンを接種すべき理由をツイートしています。今まで挙げたこと以外に、

・12歳~15歳だからといってとりわけ(ワクチン接種が)危険だというわけではない。
・そもそもワクチンに関するリスク自体が低い。

と書かれています。こどもの場合は安全性に関してかなり心配かもしれませんが、アメリカの場合、緊急使用許可が出た後の安全性の監視システムが非常に発達しています。J&J のワクチン接種が始まり、かなり頻度が低い段階で血栓症に関するレビューが行われ、議論されたのが好例です。


【お知らせ】

木下喬弘
では最後に、池田先生から告知を頼まれていまして、せっかくなのでこびナビの施策というか、情報提供についてまとめてお伝え致します。

副代表の池田先生と、デザイン担当の杏奈さんを中心に携わっていただいている Instagram についてお話しします。リスナーの皆さんの中に「インスタしか SNS やってないよ」というお友達がいらっしゃる方も多いと思います。Instagram で、正方形の画像を使って新型コロナワクチンのことを非常にわかりやすく記事にしてアップデートしているので、まずはそちらをご覧ください。

後はインスタライブですね。池田早希先生がインスタライブで新型コロナワクチンの情報を発信しています。今お話しいただいた内田舞先生にもご出演いただき、また最近峰先生と池田先生で「ミスバスターズ」というライブのアーカイブがあります。最近出回っている真偽の確かでない新型コロナワクチンの情報を全部バスターするという企画ですが、これが非常に好評で、大変多くの方がご覧になっています。峰先生の肌がツヤツヤという噂なので、その辺が気になる方も是非 Instagram をご覧ください。

こびナビウェブサイトも医療従事者向けの Q&A を池田先生がまとめてくださっています。また、非医療従事者向けには「皆さんへ」をクリックすると、安川先生が中心になってまとめた Q&A があります。「ここに書いてあることで新型コロナワクチンの疑問に答えられないことは無いかもしれない」と思えるほど充実した Q&A がありますので、こちらもぜひチェックしてください。

また、メディア関係者の方向けには、監修のご依頼を受け付けています。真偽の確かでない情報をメディアの方がご覧になった際、それが本当かどうか確かめたいときはこびナビにご依頼ください。監修の後に医学的な根拠論文等を付けてお返し致します。直近では BuzzFeed に使っていただきました。こびナビウェブサイトから「取材・監修依頼」をクリックしていただくか、こびナビメンバーにダイレクトメッセージでご依頼いただければ対応致しますので、よろしくお願いします。

最後に動画制作会社の MES プロモーションにもご参加いただきまして、「教えてこびナビシリーズ」という動画を出しています。

こびナビ公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCAnrtaZaGUQ8Tnxl6ComqDQ

私と岡田先生が中心になり、新型コロナワクチンについてお話ししています。「文字読むのめんどくさいわ」という方は、YouTube で動画をご覧いただきながら新型コロナワクチンのことを勉強していただけます。ちなみに岡田先生の勤務されている病院では、全くこちらが宣伝していなかった「教えてこびナビシリーズ」を、ワクチン接種会場でかなりの大画面を使って流していたと聞いています。医療関係者の方にそういう使い方をしていただければ、ワクチンを接種される方の不安が軽減されると思います。

早口で色々と喋ってしまいましたが最後安川先生にお返しします。

安川康介
いやもう完全にバトンをお渡ししたつもりでした。明日は峰先生ですよね。

木下喬弘
そうですね。

峰宗太郎
宣伝をもう1個追加させてください。安川先生と私と池田先生ともう1人ワクチンのプロフェッショナルに入っていただき、実はちょっとしたレター(学術的なコメント)を投稿したのですが、これが見事に受理され、Vaccines というワクチン専門の学術雑誌に掲載されることになりました。この宣伝を軽く安川先生にしていただけるとありがたいです。

安川康介
僕ですか(笑)

今回僕たちがまとめたレターは、まさに新型コロナウイルスの mRNAワクチンに関するものです。アナフィラキシーが起こると報告されているのは皆さんご存知だと思いますが、特に女性が非常に多いんですね。性差に関して注目している論文があまり無かったのでレターを書きました。

アメリカの統計や、ヨーロッパの本の情報や、日本でも、アナフィラキシーを起こす方の約8~9割程度が女性ということがわかっています。その考えられる機序も含めて書いたのが今回のレターです。今後新型コロナウイルスのワクチンを何回打つことになるかまだ分かりませんし、効果が持続するかもはっきりしていないのですが、何回も接種する可能性はあります。

現時点でワクチンが受けられない方は非常に少ないのですが、中には今回のワクチンの成分で過去にアナフィラキシーが起きた方で接種した方がいます。ポリエチレングリコール(以下PEG)という脂質ナノ粒子の成分が引き起こしているのではないかと言われていますが、例えばアナフィラキシーを起こした方は PEG に対する抗体を測ってみた方が良いのではないかという提案も含んでいます。おそらくオンラインで読めるようになると思うので、興味のある方は読んでみてください。

Sex differences in the incidence of anaphylaxis to LNP-mRNA COVID-19 vaccines
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X2100548X?via%3Dihub

こんな感じでよろしいですかね。

峰宗太郎
やったー! ありがとうございます。

安川康介
9時18分なので、ここで締めさせていただきます。皆さん長い時間ありがとうございました。今後も皆さんに毎日聴いていただければ嬉しいです。それでは皆さん今日も良い1日をお過ごしください。


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