変異ウイルス用のワクチンを待つべき?ワクチン自撮りはありかなしか(3月1日こびナビClubhouseまとめ)

2021年3月1日

木下喬弘
日本のみなさん、おはようございます。
本日も「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」始めていきたいと思います。

現在、269名の方に聞いていただいております。
noteに文字起こしをしていますが、こちらも非常に多くの方にご覧いただいていて、ありがたい限りです。

今日は2つのニュースをご紹介します。
1つめはWHOのツイート、2つめはワシントンポストからです。

それではWHOのツイートを見ていきたいと思います。
“As new variants emerge people are wondering if they should wait until a more efficacious vaccine is available or if they should go ahead & get vaccinated now?”

このツイートには、コミュニケーション・ディレクター、つまりサイエンスコミュニケーションを担うギャビー・スターン氏が、主任研究員のスーミャ・スワミナサン博士に対し、変異ウイルスやワクチンについて質問をしている5分くらいの動画がついています。
その1つめの質問がこのツイートです。

Q1.「新しい変異ウイルスが出現しており、ワクチンの効果が下がることが報告されています。より効果のあるワクチンが打てるようになるまで待つべきでしょうか?それとも今すぐワクチンを打った方がよいですか?」

返答としては
A1.「まず良いニュースとして、多くのワクチンが開発されています。その中で臨床試験や承認審査を終えたものはまだ少ないですが、その分承認審査まで終わったワクチンは質の高い効果が報告されています。承認を得たワクチンは「重症化」「入院」「死亡」を抑える効果が高いことがわかっています。そしてそれがまさに、わたしたちの求めているものなのです。我々は多くの人が亡くなったり病院で治療を受けねばならないのを防ぎたいのです。
確かにいまあるワクチンが軽症の感染や無症候性感染をどの程度防ぐかは、まだわかっていません。またいくつかのワクチンが、いくつかの国で見つかった変異ウイルスに対して効果が落ちることは確認されています。
しかし、それでもなお、現状のワクチンはどれも重症化や入院や死亡を減らす可能性が非常に高いです。医療者や、現場で働く方、高齢者などには必ず打ってほしいです」
と答えています。

これについて、何かコメントのある方いらっしゃいますか?
………特別なさそうですね。基本これには同意です。

重症化、入院、死亡を防ぐというのが重要で、積極的に接種をしていくという戦略が正しいだろうというのがWHOの見解になっています。

次に2つめの質問です。
Q2.「今行われている研究から、次のワクチンの開発状況にどんな期待が持てますか?」

A2.「次世代のワクチンには進歩が期待されています。1回での接種、室温で保存可能、妊娠した女性にも安全に使用できる、経鼻や経口で投与可能、それでいて長く免疫が持続するといった点です」

なお、ここで言う「妊娠した女性にも安全」というのは、現状のワクチンが妊婦さんにとって危険だということではなく、次世代のワクチンでは(今使っているワクチンでも)妊婦さんへの安全性が論文の形で報告されるのを期待しているということを指しているとご理解いただくと良いと思います。

「また、変異ウイルスに対しては今までの抗体がくっつきにくいことがわかっています。同じテクノロジーを使って、変異ウイルスのスパイクタンパクに結合するワクチンを開発中です」

とのことです。
次世代のワクチンでは変異ウイルスにも有効性なものを作るため、しっかり研究・開発していかなければならない。どのような臨床的・免疫的な効果を提示することができれば使用を始めていいかを検討し、新しいワクチンも市場に出していきたいというニュアンスで話しています。

新規ワクチン開発に関してコメントのある方いらっしゃいますでしょうか。

安川康介
はい。変異ウイルスに対するワクチンの開発はもうすでに始まっています。特に問題となっているものは南アフリカの変異ウイルスです。このウイルスは、表面になるスパイク蛋白の受容体結合ドメイン(人間の細胞の表面にあるACE2にちょうどくっつく場所)に複数の変異、具体的にはE484Kという変異を含む3つの変異箇所があり、一部のワクチンが効きにくくなることが分かっています。

これに対しモデルナ社は新しいワクチンをすでに開発していて、第Ⅰ相臨床試験が始められるということが数日前に発表されました。
(参考: https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-announces-it-has-shipped-variant-specific-vaccine)
近いうちに、どれくら良い中和抗体ができるのかといったデータが出てくると思います。

木下喬弘
ありがとうございます。
さきほどのWHOの動画の中では、「変異ウイルスに有効なワクチン開発がいつ必要か検討します」と言っていますが、すでに開発されているということですよね。
変異したウイルスに対してしっかり抗体がつくれるワクチンをすでに作ってはいますが、WHOとしてはそのワクチンが承認されるプロセスを待つよりも、重症化を予防するために現状のワクチンを打ってほしいということだと理解しています。

Q3.「いくつかの都市で50%くらいの方が抗体陽性というデータが出ています。集団免疫を達成しつつあるということでしょうか?元の生活に戻ってもいいですか?」

A3.「WHOでは抗体に関する研究を500以上追っていて、全ての結果を合わせると、やはり抗体陽性はまだ人口の10%以下です。いくつかの都市部の過密地域では50~60%の方がウイルスに曝露して抗体を持っているという報告もありますが、都市全体や、州全体(日本でいうと県全体といった単位)で、同じ程度の免疫が担保されているわけではありません。50~60%の人が抗体陽性の地域に実際住んでいたとしても、そこから一歩出たら守られません」

これはですね、確かに多くの方が抗体陽性であれば、まだ感染したことのない人もその地域にいる限りは感染しにくいのですが、そこから一歩出ると感染するリスクがまだまだあるということです。

「都市全体、州全体といった大きなスケールで集団免疫を獲得できる唯一の方法がワクチンです。集団免疫を達成するまで、感染予防対策を続けていくことが重要です」

WHOは、発展途上国に対しても作ったワクチンをちゃんと供給していく、全世界であらゆる人にワクチンを提供する姿勢でいます。

これに関してコメントのある方はいらっしゃいますか?
……どなたかにもうちょっとコメントしていただかないと、木下の息が切れます(笑)

池田早希
アメリカの小児感染症科で働いている池田と申します。
地域差があるというのは大きいですよね。
アメリカでは住む場所に加え、人種差もあります。COVID-19の人種による寿命への影響の人種差が違いが話題になっています。て、全体では寿命が約1.13年短くなったと推測されるのですが、これが黒人では2.1年、ヒスパニック系は3年減っているとのことです。

前田陽平先生
ワクチン以外での集団免疫の達成を考えるのは現実的ではないかなと思います。
日本では抗体陽性が50~60%になっている地域はまだないと思いますので、なおさらワクチンで集団免疫をねらっていくのがいいのではないでしょうか。

木下喬弘
ありがとうございます。2つのご指摘をまとめてみます。
地域や人種など属性によって罹患率が違って、高い地域と低い地域で相互に行き来があるので、高い地域で集団免疫に近い状態になっていたとしても低い地域に行けば守られないということ。かつ日本は集団免疫を獲得している地域はない、ということですね。

WHOは、動画の最後に「この情報が有用だと思ったら、あなたのネットワークでシェアしてください」と言っています。それに従ってClubhouseにシェアしたので、きっとWHOからお褒めの言葉をいただけると思います。

…Clubhouseでボケるのは反応がないからキツいですね(笑)

次はワシントンポストからの記事について解説します。
「自撮りするかしないか、それが問題だ」

“To selfie or not to selfie? Why the joy of getting vaccinated is drawing backlash.”
「自撮りを上げるべきか、上げないべきか?ワクチンを受ける喜びが反発を呼ぶ理由」
という内容です。
(元記事 Covid vaccine selfies are drawing backlash - The Washington Post)

この”To selfie or not to selfie”というのは、シェイクスピアのハムレット(To be or not to be: 生きるべきか、それが問題だ)をモジったものですね。英語圏の人はこれを使うの大好きです。
さて、SNSをよくやっている方の間では「自分が打ったら上げるんだろうな」という空気になっていると思いますが、ワシントンポストで真面目な議論になっていて興味深いなと思ったので紹介します。

多くのアメリカ人が「セルフィー」つまり自撮りを上げていますが、これをやった方がいいのかやらない方がいいのか、白黒はついていないということが書かれています。
まずやらない方がいい理由については
・笑顔の写真を上げることが、世界中で250万人の命を奪ったウイルスに関する情報として適切な表現方法なのか?
・多くの人がワクチンを打ちたいと思っているのに、まだ打てていない人に対してネガティブな感情を引き起こすのではないか?取り残されている気持ちにさせてしまったり、不公平を感じさせてしまったりするのではないか
ということが危惧されています。

あるカナダの救急医は、「ワクチン接種は喜ぶべきことだとは思うけれど、プライベートで表現しましょう」と言っています。公の場に表明することで、まだ打てていない人の不安や、早く打ちたいのにずるい、という気持ちを引き起こすべきではないということのようです。

一方で、公の場にどんどん出していった方がいいという意見もあります。
理由のひとつは、ワクチン忌避の方に対するメッセージです。

アメリカでは3分の1くらいの人がワクチンを打ちたくないと考えています。ワクチンを打って何か起きたという個人の体験談が、本当にワクチンに起因するかわからないままSNSでシェアされていくのに対して、ワクチンを打って嬉しいという感情を表現するのは強いカウンターになるのではという意見です。
パンデミックを終わらせるために、ポジティブなメッセージとして説得力があるものを出していきたいということですね。

“I got vaccinated and you should, too!”
「わたしはワクチンを受けたし、あなたもそうすべき!」というわりかし強めのメッセージを出すことを提案する意見もあるようです。

登壇者のみなさんのご意見や、アメリカの現状についてコメントいただける方はいらっしゃいますか?

安川康介
先ほど自己紹介をし忘れました、アメリカのワシントンDCで内科医として働いています。僕はすでにワクチンを二回接種して、12月16日接種した後に、まさに写真だけでなく動画も撮ってYouTubeにアップして、いろんなテレビ局に動画と写真を提供しました。

僕のワクチンを打った写真や動画が、誰かを傷つけてしまうことはあるかもしれません。例えば、早くワクチンを受けたいと思っている方ですとか、ご家族を新型コロナウイルス感染症によって失ってしまった方は、そういうのを見たくないと思うかもしれません。
それでも僕がなぜ出そうと思ったのかと言えば、日本人がまだほとんど打っていない段階だったので、僕みたいな普通の日本人が打っているのを写真や動画で見た人が、少し安心したり、ワクチン打ってみようかなという気持ちになることがあるのではないかと思ったからです。

医療コミュニケーションの観点から見ると、いかに今回のワクチンの発症予防効果が高く、副反応が出る確率が何パーセントですよ、というのを数字で出しても、響かない人もたくさんいると思います。
でも実際に僕のような日本人が打って問題なく過ごしている、隣の安川さんが受けたなら受けてみようかなと、僕のパーソナルストーリーを伝えることで、ワクチンについて考えるきっかけになれば良いなという意図がありました。

木下喬弘
日本からアメリカに行って臨床医として働いている人が「普通の日本人」かどうかは議論が分かれるところですが(笑)、生物学的には普通の日本人ですね!
安川先生が特別に副反応が起きにくい体質ということはないと考えられます。

一方で論点として、そういったものを出すことに対して反対する考えもありますが、そのあたりについてご意見のある方…前田先生、いいコメントをいただいても良いですか?

前田陽平先生
ワクチン忌避の方がいらっしゃる以上、気をつけなければならないとは思うのですが、僕自身はこういった行動で、ワクチンを迷っている人にふんぎりがつくのであればプラスの部分が大きいのかなと思います。
そして傷ついたという方がいらっしゃった場合、そういう方もいるという事実を受け止めてちゃんと忘れないということが大切ではないでしょうか。

池田早希
まだ打てていない人に対して申し訳ないという気持ちは確かにありますが、そこは生産量を増やして、そういった方々が一刻も早く打てるようにするのが大事だと思います。

黑川友哉
こびナビの事務局をやっている黑川です。
SNSで打ったことを報告するのはいいことだと思っていて、ただそれを見て傷つく人はやっぱりいらっしゃると思います。文化祭で盛り上がっている人たちに乗り切れず、疎外感を感じることに似た感覚を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
ただ重要なのは肌感覚を強く持っていただくという点だと思っています。エビデンス、データでは肌感覚を持ちづらいですよね。
SNSが苦手だなという方は、親族の方に送るのも効果的なのではないかと思います。日本人の場合、信頼できる人からの情報が行動変容につながりやすいのではないでしょうか。
携帯会社が「ワクチン接種の写真を送ったらポイント加算!」みたいなキャンペーンをやってくれたら、そういうのも良いかもしれないですね。

木下喬弘
ありがとうございます。
インセンティブの話もありましたが、身近な人が打って安心できるというのが大きいのではないかと思いました。

ばりすた先生
脳神経内科医をやっております。
ワクチン忌避の報道が比較的目立つ日本では、みんな打っていますよという情報を出すことは効果的だと考えています。
そのときにどんなメッセージをどう伝えたいか、ということでしょうか。医療従事者が打ち始めて、その人たちが発信をしていくことが初期は増えていくと思うのですが、ワクチンの効果や「そんなに心配ないよ」ということを真摯に出していくのが良いのではないかと思います。
SNSで自分を出す際に何を前面に出したいのか、発信する側としてはワクチンのことを真摯に伝えていく姿勢が、打っている人を見たときに打てなかった人が悲しい思いをするのを少しでも減らせる工夫なのかなと思います。

木下喬弘
ありがとうございます。
結論として「こうやるべき」というのはないと思いますが、「自分たちが打ったんだからあなたたちも打って」でもないし、「打てた私たちいいでしょ?」という自慢でもなくて、ワクチンを打ったという経験を淡々と伝えるということですね。
痛くなかったとか、痛くて寝込んだけど次の日回復したとか、実際打ってみてどうだったのかを伝える情報が多く出てくるといいなと思います。

重見大介先生
産婦人科医で公衆衛生をやっております重見と申します。
記事の中で、自撮りするときに笑顔を見せることと、針が直接映らないようにしたということが書いてあって、そういう工夫をしているんだなと思いました。
自慢したいという意図ではなく安心させたいという笑顔ですね。
そういう工夫によって見え方が変わるのかなぁと思いました。

木下喬弘
すごく大切なポイントですね。
特に医療従事者のみなさんが打ち始めていると思いますが、医療の専門家・インフルエンサーが自分の体験を共有するということは、医師法に「公衆衛生の向上に寄与する」とも書いてありますし、合理的な行為なのではと思います。
それぞれが少しの配慮をしながら、発信していけるといいですね。

9時から5分過ぎているのでそろそろ終わりにしたいと思いますが、最後にコメントのある方いらっしゃいますでしょうか。

あ、安川先生どうぞ。

安川康介
…沈黙だとかわいそうだなと思って話しました(笑)

木下喬弘
ありがとうございます、そういうの嬉しいです(笑)

黑川友哉
ボケにちゃんと笑っていますので安心してください!
そういえば、Youtubeで話題の「文化人放送局」を見ましたけどあれ面白いですね。
コロナの話をしていてあんなに笑える回になるものはないので、みなさんにも見ていただきたいと思いました。

木下喬弘
ありがとうございます。自己肯定感が上がりました(笑)

本日も「こびナビの医師が解説する最新医療ニュース」をお届けしました。
SNSで「こびナビ」と検索していただくと、Twitter、Facebook、Instagramのアカウントが見つかります。最新の情報を様々な形で発信していますので、ぜひフォローをお願いいたします。
3月4日に新しい発表もありますので、どうぞ楽しみにしていてください。そして我々の情報拡散にご協力いただけると嬉しいです。

本日もありがとうございました。
日本のみなさん、良い一日をお過ごしください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?