新型コロナウイルス感染症患者の入院調整について(5月11日こびナビTwitter Spacesまとめ)

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2021年5月11日(火)
こびナビの医師が解説する最新医療ニュース
本日のモデレーター:吉村健佑


吉村健佑
皆さんおはようございます、こびナビの吉村が解説する世界の最新医療ニュースですね。5月11日、始めたいと思いますが…
木下先生、最近はこの Twitter Spaces はどういう話題が出ているのでしょうか?

木下喬弘
そうですね、昨日は僕がファイザーの特許放棄の話をして、金曜日は岡田先生が最新のコロナワクチンの話していましたよ。

吉村健佑
コロナワクチンの開発の話?

木下喬弘
いや、もう本当に人それぞれですね。
あんまりロジの話とかは得意な人がいないので、まぁコロナワクチンの臨床研究データの話とか、そういう感じですね。

吉村健佑
なるほど、臨床研究データですか。
今日は更にちょっとコロナウイルスワクチンの話から離れちゃうんですけど…

では、始めさせていただきます。
こびナビの吉村が解説する世界の最新医療ニュース。
世界と言いつつ、私の回は国内の医療ニュースの話をさせてもらってます。
今日は、患者さんが発生したときの入院調整の方法について話をします。
ニュースから紹介しますと、先日衆議院厚生労働委員会で、東京都港区港保健所の松本所長がこんな話をしています。
新型コロナウイルス患者さんに関する入院調整の業務に関連して、見えない患者さんの処遇を決めることは負担が大きいという発言をされています。

つまり、保健所が入院調整をしているが、保健所の負担が大きいので、保健所を介さずに入院調整が行える態勢が望ましいという見解を答弁されています。保健所が調整に入ることで患者さんの入院が遅れていくということを懸念されたり、発生届を元にご本人と連絡を取って処遇を決めているというやり方に対して、正確に情報が得られなかったり、負担が大きいという話をしています。

例えば「念のために入院」というケースが出てくると、限られた病床の逼迫にも繋がるという指摘があり、という話題が出ていました。
吉村は2020年4月から千葉県新型コロナウイルス感染症対策本部のメンバーになっていて、一番労力を割いている業務の一つが入院調整です。保健所で対応しきれない場合、県に相談があり患者さんが発生したときの行き先、つまり病院かホテルか、または自宅で療養するのかということを決めていきます。うまく整理をしていけば良いのですが、第3波の時など患者さんの数が増えてくると、病院の病床がたくさんになる、やむなくホテルや自宅で療養してもらうという経験しました。

ここで、基本的な患者さんの入院して頂く調整のルールから話していきたいなと思います。まず、コロナ患者さんが発生したときは感染症法に基づいて、入院調整を行います。発熱者・接触者外来などで患者さんが確認されると、感染症法に基づいて医療機関は保健所に連絡します。

すると保健所の方でその患者さんについては感染症法に基づいて療養して頂くということになるのですが、行き先の決定ないし、療養のあり方は、基本的に感染症法に基づいて原則入院になるんですね。

ただ行き先の病院、病床には限りがあり、感染症法が想定していた以上の患者さんが発生しているので、感染症法に基づいて原則入院というのが適用できない状態です。法律そのものがパンデミックを想定していないので、それを適用してしまうとすぐに病床が逼迫してしまうんですね。

なので、全員を病院で療養することは難しいということで、病院が空くまで自宅で療養してください、ないしは病院を空けられないのでホテルを療養施設としてそちらで療養してください、という処遇を保健所が決めるのが法律の構造なんです。

保健所は連絡を受けて患者さんの病状や情報を聴取します。情報を聴取するときには、発生届に基づいて患者さんの状況を知って、理解してそれで重症度をそこで評価して病床の調整をしてくわけです。

ここで、患者さんが本当に入院が必要な状況なのか、ないしは重症度の評価を直接診療していない保健所が本当に理解して評価ができるのかという問題が出てきてしまいます。
アメリカでは患者さんが発生した時にどういう風に療養先を決めたりしているんでしょうか。どうでしょうか、アメリカの様子など。

安川康介
吉村先生ありがとうございます、
この話ものすごく興味があって、重要な日本の問題だとも思っています。
日本で最近、25人が老人保健施設で亡くなったというニュースがありました。そのうち23人が入院できずに亡くなってしまったということがあって、こういう事態はアメリカだと考えられないんです。

アメリカでは新型コロナウイルスの患者さんを保健所が管理していなくて、直接救急外来に来ることになったり、もしくはかかりつけ医の方が見て、病院に入院した方が良いということで、救急外来にいらっしゃいます。
また、救急車を呼べば病院に連れてこなければいけないんです。
基本的に病院はベッドがなくても断ってはいけないんですね。なので、とりあえず病院に連れてくるという形になります。

本当にまれに救急外来自体が手が回らない状態でしたら、ダイバージョンというのですが、救急外来を他のところに回すということはしますが、日本のようにベッドを調整してから救急車が連れてくるということがまずシステムとして違うので、たとえば老人施設でたくさん新型コロナウイルスの感染症が起きて、重症で酸素が必要だけれども、入院できないというような状態は僕の知る限りありません。

去年当初、一時期ニューヨークで人工呼吸器が足りないという事態が起きて、人工呼吸器を病院に運んだといったことはありました。自宅で待機せざるをえず入院できずに自宅で亡くなる、低酸素状態を把握していたのに亡くなるというのは基本的にはなくて、これは日本のシステムの問題だなと思っています。

吉村健佑
なるほど、ありがとうございます。
アメリカだと基本的なところですけど、コロナ患者さんが発生したときに、全員入院しているわけではないですよね。

安川康介
もちろんです。
たとえば救急外来できた場合は、多くの施設ではおそらく酸素が94%以下にならなければ入院しなくてもいいということになるケースが多いと思います。ただそれは状況によって異なって、高齢の方ですごく元気がないとか食欲がないとか、そういう場合には入院にもなります。
歩行させて酸素飽和度SpO2が92%まで下がるとか、酸素を付けていないと93%とか、それくらいですと基本的には入院になります。

吉村健佑
なるほど。その際は病床が足りないっていうことは基本的にないんですか?

安川康介
病床が足りなくても救急外来で入院ベッドを待っていたり、病院の中にいるという形になります。
人工呼吸器が必要な方も、救急外来で挿管して、人工呼吸器につなげて ICU をどうにかするということが通常だと思います。

吉村健佑
なるほど、ありがとうございます。

木下喬弘
アメリカはEMTALA(Emergency Medical Treatment & Labor Act)という法律があって、基本的に救急車を断ってはいけないというルールがあります。実は救急車を受けるかどうかを病院が判断する国はアジア救急医学会に所属している国の中では日本とタイだけなんです。世界的には普通、病院は救急車を断れないんですね。

日本は中小病院がすごく多いので、一つの医療機関に全部集めるみたいなシステムになっていません。そのときに患者さんを受け入れる余裕のある病院に救急搬送依頼の電話が回って、マッチしたところに搬送するというシステムになっていて、その点は結構特殊です。

とはいえ、アメリカでも際限なく患者数が増加したら物理的にベッドが足りなくなりますよね?実際に病院の駐車場にベッドを作ったというニュースがあったと思います。
そのような状況で、平常時の呼吸不全に対する治療が施せるとは思えないのですが、それはどうやっているのですか。

安川康介
もちろん一時期のニューヨークとかでは適切な治療が行えない状況があったと思います。
ただ、アメリカは資源が集中していて、大きな施設だとキャパシティが日本より遙かに大きいです。
たとえば僕の病院ですと、一時期新型コロナウイルスの患者さんが増え始めたときに、最大どれくらい受け入れられるかということだったのですが、100人以上の ICU患者さんを受け入れられるキャパシティがありました。
日本ですと、集中治療専門医がアメリカに比べて圧倒的に少なく、感染症医が少ないとかいろいろな条件の違いがあり、病院で新型コロナウイルスの患者さんをどれくらい診られるか大きな差があります。
一時期僕の病院で200人くらいの新型コロナウイルスの患者さんが常に入院していたのですが、それでもキャパシティ的にはまだ余裕がありました。

吉村健佑
200人ですか!それはすごいですね…

木下喬弘
そもそも先生の病院って何床なんですか?

安川康介
最大912床くらいです。

木下喬弘
912床で200床コロナ!?

吉村健佑
それはすごいな!

安川康介
まぁ他のアメリカの大きな病院の話を聞くと、400人新型コロナウイルスの患者さんが入院していたとか、100人以上の ICU の患者さんが挿管されていたっていう施設はざらにあったと思います。

なので、日本の大学病院が新型コロナウイルスの患者さんに対応した ICU が10人とかというのは、こちらの感覚からすると少なすぎるように思います。
キャパシティが違うというのはかなり大きいのかなと思うのですが、アメリカでもICU が全体でフルになっていたら、さすがに他院からの搬送はストップさせます。

ただ、救急外来を完全にストップさせるというのはないですね。ダイバージョンにするというのはほとんどなくて、来てしまったら受け入れるという形が多いのかなと思います。
そもそも自宅や介護施設で低酸素状態になっているよりも、救急外来で治療を開始した方がおそらく生存率は高いので、入院せずに介護施設で亡くなるとか、把握していたけれども自宅で亡くなる日本の問題は、悔しい思いがします。

池田早希
おっしゃるとおり日本だと小さな病院が多くて、コロナ患者さんを受け入れてない病院もあると思うのですが、アメリカだと集約化されて大きな病院が多いので、どこの病院でもコロナ患者さんを診ているということが大きいと思います。

また、私のいるヒューストンの病院群であるメディカルセンターでは、大人の病院が満床になり、ICU患者を受け入れられなくなったときに、子ども病院でコロナ患者さんも含めた30歳以下の大人の患者も受け入れていました。周囲の病院と協力しながら夏のピークはやり繰りしたという感じです。
あとは普通の病床も、普通の ICU病床も次々とコロナ用に変えていきました。私の子ども病院では最初は15人くらいのコロナ専用の集中治療室を作っていたのですが、必要に応じて普通の ICU 病室をコロナ用に変えて増やし、ピークでは30人くらいの ICU患者を受け入れることもできた。また、普通の一般病棟もコロナ用の階を2フロア分くらい作っていました。

峰宗太郎
ちょっと私からも質問してよろしいですか👶
その時ってつまり、900床くらいしかない、日本でいったら超大病院ではないですよね。まぁ大きい病院で、200床とかをコロナ用に割り当ててしまうと、それ以外の病気の方って結局どうしていたんでしょうね。というのは、日本でも今回のコロナの1年間で、肺がんの診断数がすごく減っているというのがニュースになっていましたよね。つまり、受診控えがあったり、入院できなかったりして検査ができなかったから肺がんと診断される人が減っているということになります。潜在的にはそういう人たちが、危険にさらされている、他の病気の人が蔑ろにされているという可能性もあるわけですよね。そういうことってアメリカでは起こっていたんですかね。むしろ、これそういう影響が出てきて、1年後2年後アメリカのガン患者さんとかの死亡率が上がるとかそういう可能性はないのかなってすごく心配になりますよね。

吉村健佑
おっしゃるとおりで、コロナがある中でも一般の病気の診断、治療が同時にあるわけですよね。それはどうしているのか、どなたか教えてもらえます?

安川康介
はい、やはり一時期すごく多いときは予定手術ですとか外来機能とかが結構ストップしていたこともあります。なので、そういう意味では他の疾患を持つ患者さんに影響はかなりあったと思います。統計をみても、超過死亡というのがかなりあります。新型コロナウイルスだったけれども診断されずに亡くなった方だけでなく、その他の病気があったけれども新型コロナウイルスの流行があったために影響をうけて亡くなってしまった方というのが、少なくともアメリカではかなりの数がいるということが報告されています。

一時期は患者さん自身が新型コロナウイルスに罹りたくないから病院に来たくないということで、たとえば右半身が麻痺しても3日4日待ったという方とかも診たことがあります。
僕の病院では、新型コロナウイルスの患者さんが一番多いときは新型コロナウイルス以外の患者さんは減りました。
他の方はどこに行ったんだろうというほど減っていた時期があります。

池田早希
小児はまた違う状況ですが、私の病院だと、2回目のピークだった冬の時期は、例年であればインフルエンザに罹った患者さんが重症化し、二次感染の合併(例えば肺炎球菌の重度の膿胸合併で ECMO 管理)をおこした患者さんや他のウイルス感染の患者さんがたくさんいました。ですので、小児病院においては他の感染症が減ることによって、その分の余裕はできていたのかなと思います。

吉村健佑
なるほど、ありがとうございます。
入院調整から始まり、かなり面白い展開ですね。
アメリカの状況でいくつか驚いた点があります。まずは200人規模の患者を一つの医療機関で請け負うこと。
アメリカでは基本的に重症患者さんは入院するということを前提に調整されたり、病床が空くのを救急外来で待っているといった状況を作っているとのことです。
一般の治療については受診控えがあって発生そのものが減っているとはいえ、治療そのものがどういった形で提供されているかは分からないところもありますが、一般診療の医療提供は減っているのではないか、というコメントでしたね。

日本のニュースからスタートして、日本の病床調整の話を少ししてまとめていきたいのですが、話を戻すと、感染症法では患者さんが発生すると、各保健所が入院調整にあたることになっています。
日本には全国に500を超える保健所があり、各保健所が判断をして自らの保健管区の中の医療機関に入院先を決めることが多いです。
各保健所が入院先を決められないと、その上にある都道府県に対して、こういった方がいらっしゃると、かつ管区の中で入院先が見つからないと、県の方で調整に当たって欲しいと、こういうのを広域調整といって、保健所の範囲を超えて都道府県が調整していくことになります。
千葉県もそうですが県庁の中に入院調整本部というものをおいて、保健所から来た案件について、入院先の調整を全県的に行っています。

入院調整本部にも医師を置いて病状を把握した上で各医療機関に入院をお願いしていくという風な方針をとっています。しかし、このやり方には問題がいくつかあります。
一つは保健所が入院させるかさせないかという判断を500の主体がそれぞれやっているので各保健所管区で入院の基準がまちまちになってしまったり、入院できなくて自宅にいらっしゃるという方が、保健所管区Aであれば入院できるけれども、保健所管区Bであると在宅というような形で判断が変わってしまうと。各地域の医療資源によって変わってしまうというのが小さな地域の中で起こるんですね。
それを都道府県にあげて都道府県が調整していくということになるのですが、基本的には日本のほぼ全ての都道府県で保健所メインの医療調整というやり方をとっています。

冒頭の東京港区の保健所長さんが言うとおり、保健所がやっていくのは無理があると、都道府県が一括して管理を行うべきだというコメントが出たり、実際に神奈川県などでは県が一括して県内で発生した患者さんの病状を把握して県内で医療資源を効率的に割り振るという調整を行っています。
ただ、この県がやるという方法にもいくつか難点があります。

1点目は、県そのものが県内で発生した患者さんの全ての情報を収集するということになると非常に膨大な業務が発生してしまうということと、情報を収集した上で誰かが優先順位を付けて判断をしなければいけないということですね。

2点目は、当然スコアリングをするとか、いろいろな方法でそこを調整しようとはしているのですが、とはいえ優先順位を決めていくということを県が担うことはできるのかということです。

3点目は、県が一括調整をして入院先をこちらにしてくださいと決定したときに、各医療機関が県の指示に従ってくれるかということが問題になるわけです。

各医療機関はそれぞれ経営の主体性を持っていまして、独自に判断する権利がありますので県の要請とはいえ、それを受けるか受けないか、ないしはどういった形で自分の医療機関の病床を使うかは各医療機関が主体的に判断します。そうすると、県の要請にどれだけ従ってくれるかということが問題になるので、県が各医療機関に対して日頃から信頼関係を築いていくとか、後はそういった要請に応じてくれるようなルートを作っているかどうかというところが結構大きな問題になるということになります。

神奈川県はそういった一括管理というのをかなり前の段階でやっていて、県知事のリーダーシップの元、調整に当たる医師がいらっしゃいます。
阿南先生という方が中心になってやっていらっしゃるのですが、そのモデルを他の都道府県で導入していこうか、という検討が一時期各地で出ていました。
第4波に備えて、こういった入院調整のありかたも変えていった方が良いのではないかという議論が各自治体の中でされているという状況です。
入院調整について紹介しましたが、いかがでしょうか。コメントございますか。

木下喬弘
私は保健所の職員が入院適応を決めるって問題があると思うんですよね。  保健所の方がいらっしゃったら申し訳ないのですが、やはり医学的に入院の是非を決めるって医師の診療が大前提じゃないですか。なので出発点からこけていると思っていて、これは日本救急医学会も問題意識を持っています。
たとえ保健所で SpO2 を測れたとしても、それだけで全てが分かるわけではありません。酸素飽和度が高くても重症で入院しないといけない人もいます。低くて耐えられるって人はまあちょっといないかもしれないですけれども、様々な患者さんがいるなかで入院基準を作るときに、医師の診察を大前提にして、血液検査等も行いながら判断すべきだと思います。

吉村先生にご指摘頂いた2番目の問題というのはやはり結構大きくて、保健所から都道府県に権限を委譲したところで、都道府県の入院調整をしている人はやはり医療の専門家ではないので、そこで入院適応の判断ができるのかという問題はかなりあると思います。
なので、感染症法上の難しい法的な枠組みの問題があるということは理解しているのですが、入院適応の判断は医療現場に戻さないといけないのではないのかと思います。

3番目の問題は実際にあって、これもご指摘頂いたとおりで、なぜ診られないのかというのは端的に集約化が大きな問題であることは間違いないと思います。ただ本当に集約化してもそんなに900床の病床で100床コロナの集中治療室にするというのは、私の感覚からは考えられないですね。私も800床くらいの病院で働いていましたが、ICU の数がそもそも計30床くらいなので、100床集中治療室というのはちょっと考えられないなという感じです。
この辺りのシステムの違いとかもあるとは思うのですが、3番目はさることながら2番目の問題は結構大きくて、議論の方向性がまだずれているなという気がしますし、改善していかなければいけないんじゃないかなと思いました。

吉村健佑
木下先生ありがとうございます。
感染症法の枠組みの中でやろうとしている、ただその感染症法がこのパンデミックを想定していないということで、その齟齬が第4波を迎える現在にもあるように思います。

ご指摘の通りで入院の適否というのは医療の専門家が判断するべきですが、感染症法の建付でも、保健所長は基本的に全員医師なので、保健所が判断可能ではあるとは思います。しかし現実に患者さんの診療に当たっている人が判断するのが望ましいのは間違いないですね。
一方でパンデミックで医療資源が足りない中で、現場の判断だけで決めるということも無理があるというか、たとえば入院の適応になったとしても実際のは病床がなく、患者さんが病院の前で列をなしてしまう、そんな形になるのもまずいと思います。

木下喬弘
おっしゃるとおりです。それは確かに保健所の責任だけにするのは問題があって、医師の側のリソースが割けていないという面も実際にあります。
こうやって話をしていくと、集約化して一元的に呼吸不全を診ることができ、救急医が常駐しそこでトリアージができるところが地域に1か所必要なんだろうと思うのですが、この1年間そこまでできなかったという問題があるんですね。

安川康介
日本のテレビで、年齢や基礎疾患などでスコアリングして入院適応を決めるという場面を見ました。これは実際に保健所の誰かが患者さんを診て、酸素飽和度を測ったり呼吸数を見たりして入院適応を決めるということはないという風に考えてよろしいのでしょうか。

吉村健佑
スコアリングを導入しているか、という質問でよろしいですかね。

安川康介
入院の優先順位を決める場合に年齢とか基礎疾患の数だけではなく、その時のその方の臨床症状、呼吸数、そして重要な酸素飽和度などの情報は、どれくらい取り入れられているのですかね。

吉村健佑
ありがとうございます。当然保健所に発生届けを出して入院適否について決めるときに、そういった情報も保健所に届けられて、それで保健所が病院に入院先を指示することになります。

都道府県に入院調整の依頼が来たときも、安川先生がおっしゃったような酸素飽和度とか病状についての情報が来て、都道府県にいる医師(たとえば千葉県だと医療整備課の課長は医師ですけれど)と相談しながら実際に入院の行き先を決める、ないしは空いている病床を検索するということをやっています。
スコアリングについては確定したものが全国統一であるわけではないのですが、各都道府県が優先順位を付けるためのスコアリングを提案していて、それらを一部修正したり組み合わせながら現場で工夫してやっているというのが現状だと思います。

木下喬弘
厚生労働省が診療の手引きを作っていて、重度、中等度、軽度と分けているじゃないですか。あれは主に酸素飽和度で分かれていて、ほとんどの保健所はそのまま使っていないにしてもそれを元に優先順位を決めているというのが私の理解です。

吉村健佑
まさにその通りで、基本は厚生労働省の診療の手引きがベースになっていると思います。
安川先生、答えになっていますでしょうか。

安川康介
ありがとうございます。
新型コロナウイルスの患者さんをある程度診ていれば分かることなのですが、本当に自宅でこの病気を診るというのはかなり危険だと僕は思います。
特に酸素が下がってきた方ですとか、急に進行することもありますし、ハッピーハイポキシアと呼ばれている低酸素があるにも関わらず呼吸苦があまりないこともあります。 SpO2 が80%台前半なのに、何度聞いても苦しくないという方は何人も診てきていますので、ある時点で大丈夫でも数時間後にまだ安定しているとは限りませんし、少なくとも酸素化が下がっている方は絶対に入院した方が医学的には良いと思います。

吉村健佑
そうですね、おっしゃる通りだと思います。
そろそろ9時も過ぎてきたのでまとめていきたいと思います。安川先生がおっしゃった通り、私も検疫所などで患者さんを診ていると、重症度が変化しますよね。若い方でも突然 SpO2 がぐっと下がったり、予想がつかない事があって、患者さんの病状の変化が早いという特徴があると思って診ています。

今日のお話を少しまとめると、日本における患者さんの発生から入院先の検索ないしは検討はどういうルートでやっているのか。
今も保健所が主体になっていますが、それではなかなか全体的に資源を有効活用できないのではないかという議論も起きています。都道府県で調整をしていく、都道府県単位でも病床の空きを検索できないないしは調整できないという場合は、別の都道府県に搬送して、治療していくという取組みも実際に行われています。

現に大阪府は非常に厳しい状況(5/11当時)にあって、そこの入院患者さんを他の都道府県で引き受ける、たとえば遠いですけれども神奈川県で受けますという声があがったというようなことも実際に出ています。県をまたいだ調整というのもようやく先が見えてきたという状況だと思います。

自治体の枠を超えて患者さんのやりとりをする経験がなくて、災害医療などではいくつか事例はあるのですが、県の中で医療をしていくという考え方が強いと思います。
こういった枠組みの中で各都道府県が試行錯誤しながらやっているよということで。
私も定例的に各都道府県の担当者ですとか、県の中で活躍されている方との意見交換をして、各都道府県の工夫のやり方を聞いています。ただ発生する患者数と、それを受ける各自治体が準備した体勢とのバランスが都道府県によって全部違うので、それが厳しいところなのかなと思います。
発生に対して病床の準備が整っていないととか、地理的に集約がされていないとなると、あふれてしまう状況もあり得るということで各自治体が病床の準備をしたり、意思決定のルートを整理したりというのを第3波から4波の間に一生懸命やっているという状況だと思います。

今日は病床調整というキーワードで進めたらアメリカの状況も含めて教えて頂けました。ありがとうございました。
今日はこびナビの吉村が解説する世界の最新医療ニュースということで、思いっきり世界というかドメスティックな話になってしまいましたが、以上としたいと思います。
来週また火曜日かな、私の順番が来ます。ロジスティックやこういった政策意思決定のところ、また医療政策のところとかも少し紹介していければと思います。

また明日から spaces でお会いしましょう。
日本の皆さん今日も良い1日をお過ごしください。


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