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新型コロナウイルスワクチンと血栓症の関連について考えました(4月14日こびナビClubhouseまとめ)

4月14日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター: 安川康介


安川康介
皆さん、おはようございます。
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュースの時間です。今日のモデレーターは、私「手を洗う内科医」こと安川康介が担当いたします。

日本は朝の8時、皆さんはどういう風にお過ごしでしょうか?

このルームでは、モデレーターの雑談や小ネタから始まることが恒例となっています。昨日は、こびナビ代表の吉村先生がクアランティン、検疫の語源とか歴史から開始したので、僕は日本の歴史に関係のあるお話をしたいと思います。

……ということで、皆さん「古事記」って読んだことありますか?

木下喬弘
いや、ないです(笑)


【オープニング】イザナミの死因は産褥熱!? 古事記も伝える「手を洗う」ことの大切さ

安川康介
ないですか(笑)
僕は、アメリカに来てから日本人であることを強く意識するようになりまして、日本について勉強し直した時期がありました。日本史を縄文時代から勉強し直して奈良時代まで来た時に、やっぱり日本人としては、712年に編纂された日本で現存する最古の歴史書である古事記を一度は読んでみないといけない、と思って。読み始めたらものすごくハマった時期がありました。

今日は、新型コロナウイルスの話にする前に、イザナミという神様が子どもを産んだ後に亡くなってしまう神話は、医学的には産褥熱(さんじょくねつ)という感染症に一致する、という話をしたいと思います。

古事記では、イザナギという男の神様(伊邪那岐命)とイザナミという女の神様(伊耶那美命)が性交渉して、イザナミが数々の国や日本の神様を生んだという日本の神話があります。たくさんの子どもを産んだ後で、イザナミは亡くなってしまいます。
※注 イザナミは「国産み・神産み」により、日本の国土、神々を産んだとされる

このイザナミが亡くなってしまった時の描写が、医学的にとても興味深いのです。
イザナミは、いろいろな神様を産んだ後に、火の神様(カグツチ・迦具土神)を産みます。この時にホト(女陰)、昔の日本語で女性のアソコのことを指しますが、そこが焼けて病気になってしまったと書いてあります。その後に、吐いて、うんちをして、亡くなってしまう描写があるんですね。

僕、最初にこれを読んだ時に震えました。
「ホトが焼けてしまった」ということは、そこに炎症が起きたんだと容易に読み取れると思います。その後に消化器の症状、吐いて、下痢をする、というのは、実際の産褥熱とか、重症の感染症ではあることなんですね。

産褥熱というのは、お産の後に熱が出てしまう病気ですが、昔は出産に伴う感染症によって多くの女性が亡くなっていました。これは紀元前から報告されていて、ヒポクラテスの記述にも出てきます。

皆さん、新型コロナウイルスが流行してから、よく手を洗うようになったと思うんですけれど、「手を洗うことで感染を防げるのではないか?」という発想のきっかけになったのは、まさにこの産褥熱なんですね。
ゼンメルワイスというハンガリー出身の医者が、1840年代、まだ「産褥熱はばい菌が原因である」とすら分かっていなかったんですが、「手を洗うことで病気を抑えられる」ということを突き止めました。手を洗うことが大切というのは、今では当たり前のことですが、つい数百年前まではよく知られていませんでした。

ただ、日本には古くから禊(みそぎ)といって、汚れを水で洗い流すという概念がありました。これについても古事記に出てくるんですけれど、僕は元々は感染症予防に関連した行動だったのではないかと思っています。

産褥熱に話を戻すと、特に重要なばい菌として A群β溶連菌というばい菌があります。この感染症の重症時には、吐いたり下痢したりという消化器系の症状が出ることがよくあります。なので、僕は「イザナミの産褥熱は A群β溶連菌によるもの」と想像しています。

なぜ、産褥熱で神様が亡くなってしまった描写を日本の神話が書いていたのか? 亡くなってしまう原因は、別に他の病気でもよかったわけですよね。
これはやはり、昔から妊産婦さんが亡くなってしまうことが、社会に大きな精神的なダメージを与えたからなんじゃないかと思います。
調べてみると、縄文時代も周産期に亡くなってしまった女性は、犬の骨、犬と一緒に埋められたり、特別な埋葬方法があったようです。

……全く関係ない話をしてしまいましたが、本題に入りたいと思います。
ここまでで何かコメントはありますか ?

木下喬弘
ふふふ……ちょっと、あの〜個性が強過ぎてですね(笑)
いま370人いて、今日初めてこのルームに入った人、大丈夫ですか?

安川康介
新型コロナウイルスの話題を中心としたルームですが、「手を洗うことは昔から大事だよ」という話をしたいと思いました(笑)

木下喬弘
いや〜入りと終わりが強引過ぎて(笑)


【ニュース1-1】ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチン接種による血栓症発生の報道

安川康介
すみません!(笑)
今日ピックアップしたのは、CNNのすごくタイムリーなものです。

CDC and FDA recommend US pause use of Johnson & Johnson's Covid-19 vaccine over blood clot concerns
https://edition.cnn.com/2021/04/13/health/johnson-vaccine-pause-cdc-fda/index.html
出典:CNN 2021/4/13

血栓に対する懸念から、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)社製の新型コロナワクチン使用の一時中断を CDC(アメリカ疾病予防管理センター)と FDA(アメリカ食品医薬品局)は推奨した、という報道です。

これに関しては、CDC と FDA が共同声明を出していたり、先ほどジョイントメディアコールといって、CDC と FDA の方々が簡単な説明とメディアからの質疑応答を受け付けた YouTube ライブが37分間あり、2倍速で聞かせていただきました。

何が起きているかというと、4月12日の時点でジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは680万回使用されていて、6例で特殊な、稀な血栓症が起こりました。以前アストラゼネカ(AstraZeneca)社製のワクチンによる血栓症の話をした時に説明したことがありますが、脳の静脈の血栓、脳静脈洞血栓症が起きてしまったと報告されています。
680万回中の6例なので、だいたい113万回に1人、頻度としてはかなり稀だということは先にお伝えしておきます。

この数字をどういう風にコミュニケートすればいいのかと話した時に、木下先生はパーセント提示にしたほうがいいんじゃないか? ということだったんですけど、僕は、もう1回東京ドームを持ち出して……東京ドームの収容人数が55,000人なので、満員の東京ドーム20個分、その内の1人ということになります。

この6例、全員が女性だったんですね。
年齢が18歳から48歳とかなり若い方が多かったようです。ワクチンを接種してから6日から13日後に症状が起きた、YouTube では中央値9日間と報告されていました。この6人の中で、残念ながら1人は亡くなってしまい、もう1人はかなり重症だといわれています。

これに関して、CDC の委員会の1つ、予防接種の実施に関する諮問委員会 ACIP という委員会がありますが、アメリカの水曜日(4/21)にまた会議を行って検証するとしています。
こういう検証の作業が終わるまでは、CDC と FDA は一旦「ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種を一時中止しよう」と書いてあります。これは血栓が起こると決め付けているわけではなくて、out of an abundance of caution 日本語に訳すと念には念を入れて、ちょっと中断しておこうということです。

なぜこういう発表をしたか? もう1つ、医療従事者に注意喚起する目的があったと思います。後でアストラゼネカワクチンで起きている血栓症の話をしますが、この血栓症は普通の血栓症とは治療方法が違う可能性がある、エコノミークラス症候群で知られる太ももに起こる血栓症ではなく、脳の静脈洞血栓症やおなかの中の血栓症など、少し特殊な場所に起こる稀な血栓症だと、医療従事者に注意喚起する目的もあるのだと思います。

「最近ジョンソン・エンド・ジョンソンワクチンを受けた」という方がもしいましたら、ひどい頭痛、お腹の痛み、足の痛み、後は呼吸の苦しさといった症状に気を付けてください。これらがワクチンを受けた後3週間以内に起きた場合はすぐ医者に相談するように、と書いてあります。

なぜ足の痛みなのかというと、血栓というのは太ももの静脈に出来やすいからですね。呼吸苦、息苦しさというのは、その血栓が肺に飛んだ時に肺の動脈を塞いでしまう肺動脈血栓症で起こります。頭痛というのは、脳静脈洞血栓症の症状です。腹痛は、おなかの中に血栓ができた時に、おなかの不快感が出たりすることがあるので、こういう表記になっています。

YouTube のジョイントメディアコールでの説明によると、静脈洞血栓症自体の自然発生率が大体100万人に2人から14人となっています。
先ほども言ったように680万回で6例、113万回に1人と、脳静脈洞血栓症の頻度としてはそれほど上がっていません。では何が特殊かというと、血小板減少、出血を止める血球である血小板、これがかなり下がるという特殊なパターンを示しているようで、今回の一時中止になりました。

今回のこの判断は、おそらくアストラゼネカでの経験がなかったら、まだ一時中止にはなっていなかったと思います。報告された静脈洞血栓症や血小板減少を伴う血栓症は、最近、アストラゼネカワクチンに関して EMA(ヨーロッパ医薬品庁)が「関連があるんじゃないか」と認めたと、このクラブハウスでもお話させていただいています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン製のワクチンはヒトのアデノウイルスを使ったベクターワクチン、アストラゼネカのワクチンもチンパンジーのアデノウイルスを使ったベクターワクチンで、メカニズムとしてとても似ているので、同じことが起こっても不思議ではないと。
そういう背景から、今回は早めに一時中止という判断になったと思います。

ちなみに、日本で承認されているファイザー(Pfizer)社製、またモデルナ(Moderna)社製のメッセンジャー RNA ワクチンでは、そうした関連ははっきりとは認められていません。モデルナは「今まで6,450万回使用されて、脳静脈洞血栓症との関連は認められない」というプレスリリースを出しています。

ちょっと関連した話なので……4月9日に、アストラゼネカのワクチンによって起きる血栓症の詳細な報告が、The New England Journal of Medicine という医学雑誌の中ではかなり有名な雑誌に掲載されましたので、これに触れておきたいと思います。

この雑誌は「少年漫画といえば少年ジャンプ!」みたいな。それぐらい有名な雑誌でですね。僕の小学校の時は皆さん少年ジャンプを読んでいたわけですけども……。

木下喬弘
例えがひどい(笑)

安川康介
じゃあ、りぼんでいきます。「少女漫画のりぼん」みたいな(笑) すごく有名な雑誌です。


【ニュース1-2】アストラゼネカワクチン接種による血栓症発症への推察

安川康介
2つ報告があって、1つがドイツとオーストラリアで、アストラゼネカのワクチンを受けた後、11人に血栓症が認められたという報告です。

この11人ですが9人が女性で、年齢が22歳から49歳と若いんですね。ワクチンを受けて5日から16日後に何かしら血栓症が起きていて、この内の9名が先ほど言った脳静脈洞血栓症、脳の静脈の血栓という、かなり稀な病気です。また、3人はおなかの中の静脈に血栓が出来ました。そして、11人の内6人が亡くなってしまったという報告です。

実は、この病気にそっくりな病気があって、以前も少し触れましたが、ヘパリンというお薬を使った時に起こる「ヘパリン起因性血小板減少症」という病気です。HIT と書いてヒットと読むんですけれど、それにそっくりということで、いろいろと調べたところ、やはりメカニズムとしても似ているんじゃないかということが報告されています。

簡単にお話させていただくと、ヘパリン起因性血小板減少症というのは、ヘパリンというお薬が体内の血小板第4因子というたんぱく質とくっついて複合体を作るのですが、この複合体に対する抗体が体の中で出来てしまうんですね。さらに、血小板と抗体のお尻の部分がくっつくことで血小板が活性化されて、どんどん血栓ができてしまうという病気があります。

今回のアストラゼネカの血栓症でも、血小板第4因子とヘパリンの複合体に対する抗体が出来ていたということなんです。
この血栓症が出来た方たちは、これまでヘパリンは使ったことがなかった方なので、おそらくワクチンによって出来たのではないか? ということが書かれています。

もう1つの報告は、ノルウェーの5人の報告です。
これもよく似た症例ですが、ワクチンを受けた後の1週間から10日の間に血栓症が出来てしまった。32歳から54歳と若い方で、この血小板第4因子と複合体に対する抗体を調べたところ、やはり抗体が認められたということです。この5人の内、亡くなってしまった方が3人いらっしゃいます。

なぜ、アストラゼネカのワクチンによって、こういうことが起きるのか? まだはっきりとは分かっていませんが、The New England Journal of Medicine に書かれているのは、PF4、血小板第4因子は、ヘパリンだけではなく他のものとも複合体を作ることが出来るんですね。PF4は陽イオン+(プラス)なので、マイナスの何か、ヘパリンもマイナスですが、プラスとマイナスがくっついて複合体が出来るようです。

以前の研究室内での研究では、DNA とくっついて複合体を形成してそのヘパリン起因性血小板減少症と同じような血栓症が出来ることが分かっています。なので、もしかしたら、ワクチンを打ったことで出てくる裸の DNA みたいなものが、この血小板第4因子とくっついて、免疫による血小板の減少を伴う血栓症が起きているのではないか、今のところはそういわれています。
アストラゼネカのワクチンは、日本でも今 PMDA(医薬品医療機器総合機構)に承認申請をしているので、今後どういう風になっていくのかなーと、かなり関心を持っているんですけども。

ここまでで何か、登壇されている方はコメントありますか?

前田陽平先生(Twitterネーム「ひまみみ先生」)
僕、一番最初から入れてなくて、聞き逃していたら申し訳ないんですけど……

安川康介
いや、最初は古事記の話しかしてないんで大丈夫です(笑)

前田陽平先生
古事記の話の途中から入ったので、じゃあ大丈夫ですね(笑)

ヘパリンによって起こる血小板減少症と同じような現象が起こっているのではないか? というお話だと思うんですけど、今回報告されたのは、アデノウイルスベクターワクチンというタイプで発生していると。ですが、アデノウイルスベクターワクチンだから起こった、と推論されている状況ではない、という理解でよいのですよね?

安川康介
そうですね、ただ、ファイザーとモデルナのものでは関連がまだ認められていなくて、今回ジョンソン・エンド・ジョンソン製のワクチンで、アストラゼネカと同じような血栓症が起きている。おそらく、メカニズムとしては似ているんじゃないか、とは考えられていて、それが一時中断の判断になったんじゃないかなと思っています。

前田陽平先生
なるほど。アストラゼネカの話があったから、今回ジョンソン・エンド・ジョンソンの件でもちょっと早めに、これはもしかしたら関連しているかもしれないな、という話になったということですよね。

安川康介
そうだと思います。
これは僕の予想ですけれど、アストラゼネカの血栓症の話がなかったら、まだこの時点では中断してなかったんじゃないかなとは思うんですけれども。

前田陽平先生
それに関連して、アデノウイルスベクターワクチンに関して、もっと基礎的な知見、血栓症が起きる、そういう蓋然性を示唆するような知見が何かあるのかな? ということがお聞きしたくて。

安川康介
はい、峰先生お願いします。

峰宗太郎
えっと、日本書紀の話をすればいいんでしたっけ?(真面目)

(登壇者一同笑い)

峰宗太郎
実はですね、アデノウイルスベクターワクチンというのは、エボラウイルスでは使われたことがあって、HIV でも少し治験をしていますけれども、これだけ多くの人に打たれたのは、初めての経験なんですね。
そういう状況で、起こった非常に稀な血栓症ということです。
このぐらいの非常に低い頻度で起きる現象ですと、動物実験でも detect できない、検出できないことが多い、と思っていただいた方がいいと思うんですね。
その証拠として、アデノベクターワクチンですとか、アデノベクターを使った動物実験へのいろいろな遺伝子送達は行われていますが、今日ちょっと調べてたのですが、マウスなどにおいて血栓症が増えるといった文献は、特にはないんですよね。

先ほど安川先生がおっしゃっていた、フリーDNA や核酸が混じっていることで複合体が形成される、その複合体に対して抗体が形成される、結局それが PF4 に対する交差性が出てしまう……というのも仮説の1つですが、もう少し、もっと単純な仮説として、アデノウイルスベクターそのものに対する抗体が出来て、その一部が交差性を示しているのではないか? という可能性も、もちろん考えられるわけです。

これは何の実証もされていないんですけれども、今回のアデノウイルスベクター、これを用いた場合にどういった抗体が出来ているか? という研究は、まだ充分には進んでいません。
ですから、仮説としては、アデノウイルスベクターそのものに対する抗体が出来て、その一部が PF4 に交差性を持って、つまり、PF4 という分子と間違って反応してしまうということが考えられます。
ただ、そういう事象が「起こっているかもしれない」というのは、あくまでも仮説形成の段階ですので、そういったことがあるのかな? とは考えながら、今後検討を進めていく必要はあると思います。

前田陽平先生
ありがとうございます、峰先生。
現段階では、非常に稀ということは間違いなくいえると思うんですけれど、日本では今後、アストラゼネカワクチンも使わないと日本人全体をフォローしきれないんじゃないかなという認識だと思います。
ロジスティクスの問題もあると思うんですが……その点に関しては、今後どう考えていけばいいんでしょうか?
安川先生、個人的な考えでもいいので、教えていただけると嬉しいです


【ニュース1-3】血栓症に関する報告は日本でのアストラゼネカワクチン承認に影響するか?

安川康介
いやーこれは、僕が黑川先生とかに聞きたかったことでもあるんですね。
日本の政府が、これをどう判断するか? というのは、とても難しいと思います。
あ、久米さん!

久米隼人氏
すみません、なんかもう喋らなきゃいけない気がして(笑)

安川康介・前田陽平先生
すみません!(笑)

安川康介
実は、さっきから久米さんのアイコンをチラチラと見ていました(笑)

久米隼人氏
ここでいつも話をされている基本の考え方に戻ると思うんですけど……
まず、今回アメリカで発見された6例というのは、今すでに680万回接種されている中の6例であって、非常にレアなケースだというのが1つ。
また、どんなワクチンにも副反応というものがあって、そのリスクとベネフィットを考えた上で、そのワクチンの接種を皆で考えていく、こういうプロセスがあるわけです。

今回は、このリスク、この副反応を大きいものと捉えるのか、それでもやっぱり打ったほうがいいと捉えるのか、当然これからの研究なども見ていく必要はありますが、今は「非常に低いリスクのものだと分かっている」ということではないかと思います。これは、個人的な意見ですけれど。

安川康介
アストラゼネカのものでもジョンソン・エンド・ジョンソンのものでも、この報告は出てきたばかりで、実際にどれくらいの頻度で起こるかは、まだはっきりとは分かりません。ただ「非常に稀だ」ということはいえると思います。

前田陽平先生
非常に稀で、そのリスクよりはベネフィットの方が上回るという、その考え方は多分変わらないんだけれど、今後ちょっと注意して見ていく必要がある、というのが現段階としては妥当ということですね。

久米隼人氏
その通りだと思います。
また、どういう方に出るかだとか、そういうことも含めて、例えばアストラゼネカは若年者の接種を制限してるわけですけれど、このジョンソン・エンド・ジョンソンでもそういうことになるのかどうかとか。リスクがより低い方に接種していくとか、そういうことはあり得るのかなとも思います。

前田陽平先生
結局、新型コロナウイルスに感染する方が、血栓症のリスクよりはるかに高いわけで。
でも、そちら(副反応)の方のこともよく考えてやる必要があるということに。

安川康介
最初に「静脈洞血栓症が女性で起きている」と聞いた時に、避妊薬などを飲んでいると血栓が出来やすいことは分かっていて、例えば若い方で避妊薬を飲んでいて、すごい頭痛で来た時は、静脈洞血栓症は、鑑別疾患といって医者は可能性として考えるんですね。
今出ている報告の数が少な過ぎて、まだ何も言えないんですが、少なくともノルウェーの報告では5人のうち1人がコントラセプティブピル(避妊薬)を飲んでいて、1人がホルモンリプレイスメントセラピーというのをやっていたことが書いてあります。
ドイツとオーストリアのものでははっきりとは書いていなくて、今回の YouTube のジョイントメディアコールでも、メディアから同じような質問がされていたんですが、関連性ははっきりとは分からないとなっています。

ただ、女性の方が多いということは、女性で多いというシグナルはもう出てるのかなという気がします。もちろん、男性でも同じように今回報告されているので、男性では起きないということではないと思います。

池田早希
ちょっといいですか?

安川康介
はいどうぞ。

池田早希
みなさんがおっしゃっていたようにどのような人で起きてるかというのは、すごく重要だと思います。

ちなみに今日、先生が最初に古事記の話をしていた時に、もしイザナミが経口避妊薬を飲んでいたら、こんなにたくさん子どもを産まずに、産褥熱にもならなかったのかもしれないと思いながら聞いていたのですが…。

この経口避妊薬自体は血栓症のリスクとなり、その頻度は100万人に5,000回とか1,200回です。
アストラゼネカのワクチンでは報告された頻度は100万回に約4回ですので、頻度は非常に稀です。服薬を含め、人生のどんな選択にも100% 安全というものはないので、他の方がおっしゃったように、そのリスクとベネフィットを比較して接種を検討しましょう。メッセンジャー RNA ワクチンは超低温の冷凍庫が必要ですので、そういう冷凍庫がない地域では、アストラゼネカのワクチンを打って新型コロナウイルス感染症から守られることのベネフィットの方が、圧倒的にリスクを上回ります。

今回のアストラゼネカのワクチンも、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンも、世界的に、特に低所得国ではすごく重要なワクチンとなりますので、原因をしっかりと解明し、どういう人で起こりやすいのか? 例えば、欧米人では起こっているけれど、他の人たちでは起こりにくいだとか、そういういった属性も調べていただきたいですね。

それらに関連して、ご存知だったら教えて欲しいんですけど……エボラワクチンでベクターワクチンが使われていて、多分、西アフリカの方々にかなり打たれたと思うんですが、脳静脈洞だとか同じような病態の報告はどのくらいあったのか、ご存知だったら教えてください。

安川康介
PubMed という論文を検索するサイトがあるんですけど、そこで vaccine と Cerebral venus sinus thrombosis(脳静脈洞血栓症)で検索した時は、出てこなかったですね……峰先生、何かご存知ですか?

峰宗太郎
これはですね、報告はないとされています。
エボラの場合は、打たれてる数自体がとっても少ないんですね。限られた地域の方にだけ打っているので、頻度的にも、報告がなくても仕方ないのかなとは考えてます。

池田早希・安川康介
ありがとうございます。

安川康介
黑川先生、今お話できますか?
ジョンソン・エンド・ジョンソンの一時使用中止の話と、アストラゼネカのヘパリン起因性血栓症に似た、類似の疾患が起きているということで、こういう報告がある中で、日本の承認のプロセスはどうなるのでしょうか?

黑川友哉
アストラゼネカのワクチンに関しては、現在も日本で審査プロセスが走っているところかと思います。
リスクよりもベネフィットが上回るということは、臨床試験の結果からも明らかになっていますし、EU の EMA(欧州医薬品庁)、アメリカ FDA も同じようにベネフィットが上回りますよ、ということをいっています。これはもう科学的に証明されてることかな、と思います。
これに関しては PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)でも同じような評価をすることは当然かと思います。

国内でこうした薬品を使うにあたって、一番重要なのは、そのリスクを最小化させることなんですね。

今朝 Twitter でも呟かせてもらいましたが、医薬品の製造業者は RMP「医薬品リスク管理計画」という仕組みを開発過程から計画的に立て、リスクを管理しながら、製造販売、社会実装を行っていく計画をしています。
今回 FDA や CDC が勧告を出した血栓症という有害事象、副反応の疑いは、そのリスクマネジメント計画に入っていなかったので、まずは1回ブレーキをしっかり踏んで落ち着こうと。成因だったり因果関係を評価した上で、どういう対策を打つのがベストかを企業と行政とで一緒に考えて、その上でもう1回アクセルを踏もう、しっかり使っていただこうと。そういうフェーズだと思いますので、日本においても同じようにリスクの管理計画、どういう安全対策をした上で、この薬を使うのが適切か? ということが決まり次第、また審査も動くのかなと。それも含めて審査が動いてる状態だと思いますけど。

少なくとも、今回の FDA や CDC の勧告、使うのを一旦止めておきましょうというお話は、日本の審査にもかなり影響を及ぼすかなと考えております。
ただ、これで承認できませんという話とは、レベルが違うという理解でよいかなと思います。

安川康介
分かりました、ありがとうございました。
まだはっきりとは分かっていないので、今後またジョンソン・エンド・ジョンソンに関して何か報告があれば、このクラブハウスのルームでもお話させていただきたいと思います。
峰先生、どうぞ。

峰宗太郎
今、黑川先生のおっしゃった通りですし、池田先生がおっしゃったように非常に必要とされているワクチンであるということ、安川先生が何回も繰り返しておられる「リスクとベネフィットのバランス」はすごく重要なことです。

ただ、考えておかなきゃいけないことはいくつもありまして、1つは、やはり副反応だとか有害事象です。副反応が出た時にそれに対策ができるか? 治療法があるか? ということと、アウトカムが著しく悪いものであったら、例えばそれがごく極く僅かなものであっても、やはり問題であると現実になってくるわけですね。

これはどういう場合に問題として提起されるかというと、リスクとベネフィットのバランスが状況によって変わるようなワクチンの場合、今回の COVID-19 の場合はイギリスやアメリカの流行状況に比べると、日本の流行状況はちょっと桁が違うぐらいなんですよね。
そういう状況で、同じようにリスク選考しろという外国の情報を持ってきていいのか? という倫理的な問題。
それから、今、メッセンジャー RNA ワクチンが実際にあるわけで、こういう情報が与えられたとして国民は選択できない状態で市場に投入されて、これを打った時に「それは倫理的にどうなんだ?」という話が当然出てきます。どこまで知らしめて、どこまで選択させられることになるのか、ということになるということです。

だから、実際は、行政規制だとかリスク、ベネフィットとけっこう気軽に言っていて、リスクよりもベネフィットが絶対に上回るということを、我々も言ってしまいがちなんですけど、実はけっこう複雑な問題になりかねないなと思っています。
ぶっちゃけた話をしてるわけですが、私は慎重に見ているところで、流れによってはかなりまずいことになるなと、一応意識しておいた方がいいのかなと。
最後に冷水を差すようですけど、言っておいた方がいいのかなと思いました。

安川康介
同感です。
正直な話、メッセンジャーRNA ワクチンとアストラゼネカのワクチンを前に置かれて、どちらか選んでくださいと言われた時に、今の時点では「メッセンジャーRNA ワクチンを選びたい」と思う方が多いのではないかなと思います。
いくら稀であったとしても、やはり、そう思ってしまうのが自然な状況だと思いますので、今後日本でアストラゼネカのワクチンが承認されたら、その接種をどう運用していくのか? 選択出来るようになるのか? だとか、どういった方を対象に行うのか? ということは、ものすごく重要な問題になってくると思います。

峰先生がおっしゃったように、今回起きている血栓症は、通常の血栓症と比べて亡くなる方が多いタイプの血栓症だというのが、今の報告なんですね。
では、その治療法ですが、ヘパリンによって起こる血栓症に関しては、あることはあるんですね。ヘパリン以外の血液をサラサラにするお薬を使うとか、今回の報告でいわれているのが抗体療法ですね。特別な抗体が血小板にくっついてしまうのを防ぐような抗体療法をした方がいいんじゃないかとか。
今後、ジョンソン・エンド・ジョンソンやアストラゼネカのワクチンで血栓症が起きた時には、どういう治療をするのがベストなのかということも調べられていくと思います。

黑川友哉
峰先生のおっしゃる通りで、そこも含めて、どんな安全対策を打っていけば、このお薬、ワクチンが、日本国内でも安全性も担保した上で使えるのか? そういう結論を出した状態じゃないと、PMDA もさすがにアクセルを踏めないと思っていますので、そこが曖昧な状態なままで承認されることは、さすがにないと思っています。
それは私も同感です。

安川康介
池田先生どうぞ。


【ニュース2】世界規模で取り組むべき「COVID-19ワクチンへのアクセス」不平等の解消

池田早希
最後に……例えば、今後アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンのベクターワクチンが、もしもの話ですけれど使えなくなって、世界でメッセンジャーRNA ワクチンが推奨されるとします。その場合、世界的に考えると低中所得国では、超低温のコールドチェーンがないと運べないので、中々難しくなります。欧米の会社が利益だけを考えるんじゃなくて世界規模で考えて、特許を免除して他の場所でも作られるようにし、超低温冷凍庫も配布していく方向にならないと、世の中不公平だなぁって思いますね。

そして、低中所得国でワクチンが普及せず流行が続いてしまった場合、変異ウイルスがどんどん出てきて、結局は先進国に返ってきます。例えば、ワクチンの普及がイギリスなどと比べたらとても少ない状況であった南アフリカで、 B.1.351の変異ウイルス が出現しましたね。なので、COVAX の取り組みなどもありますが、本当にグローバルに考えていかないといけないし、先進国はそういう責務があるかなと思います。
※注 COVAXファシリティー:WHO、GAVI ワクチンアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)、ユニセフ(国連児童基金)が、COVID-19ワクチンへの公平なアクセスのために立ち上げた仕組み

安川康介
池田先生がおっしゃったことは、本当に、すごく重要なことですね。
世界的に今、ワクチンに関する不平等が起きているということは、しっかり知っておく必要があると思います。
ファイザーとモデルナのワクチンは、マイナス20℃以下で保存しなければいけないんですが、低中所得の国では超低温の保存がかなり障壁になり、冷蔵庫で保存できるベクターワクチンですとか、その他の不活化ワクチンが使われるような状況になると、先進国ではメッセンジャーRNA ワクチンで、他の低中所得国では他のワクチンということに……そういうことになりかねないこともありますので、これは本当に、かなり難しい問題だと思っています。

さて、42分とかなり過ぎてしまいましたので、今回はここで終わりにさせていただきたいと思います。登壇していただいた皆さん、本当にありがとうございました。
それでは皆さん、よい1日をお過ごしください。


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