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新型コロナワクチンについて身近な人とどう話すか(4月6日こびナビClubhouseまとめ)

2021年4月6日
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター: 安川康介


オープニング

安川康介
始めますかね

木下喬弘
いいですねーこの感じ新鮮ですねー、楽しいですねー(笑)

安川康介
(笑)
皆さんおはようございます。
こびナビの医師が解説する世界の最新ニュースの時間です。
今日のモデレーターは、いつも担当している木下先生に代わって、僕、手を洗う内科医である安川康介が担当致します。
木下先生の関西弁のトークを楽しみにしていた方は少しがっかりして、今こう…静かに退室するボタンを押そうとしているかもしれないんですけれども、そんな方はちょっと待ってください。今回は結構重要な新型コロナウイルスワクチンの話をどう家族や友達とするか、という話を皆さんと一緒に考えたいと思いますので、是非聞いて頂ければと思います。
木下先生ファンからは関西弁で「こいつ誰やねん」って声が聞こえてきそうなのでまず簡単に自己紹介をさせてください。

僕は日本の医学部を卒業してアメリカで内科専門医と感染症専門医を取得して、今はワシントンDCの病院で内科医として働いています。
新型コロナウイルスの患者さんを去年から診てきて、個人的にコロナやワクチンに関する情報を YouTube で発信していたところ、2月からこびナビのメンバーに加わることになりました。

実は今回モデレーターをするということになり、高校時代のことを思い出しました。
僕は高校の時にラグビー部とか生徒会をやったり、漫才とかコントをするお笑いの部活を立ち上げたりしていたのですが、実は高校3年生の時に朝の校内放送を担当していたことをふと思い出しました。
その朝の校内放送で今日1日のジョークとか、ウケを狙いにいって後で国語の先生に呼び出されて怒られたことがあります。
その時一緒に担当していた同級生はなんと、大学を卒業後アナウンサーになってテレビやラジオで活躍することになりました。
以前僕が日本に帰ってきたときに車を運転していたら、ラジオでその同級生が話していてとても感慨深かったということがあります。

木下先生の回はちょっとした料理の話から始まるのですが、僕はアメリカで患者さんを診ている立場からアメリカで経験したちょっとおもしろい話をしたいと思います。
僕は2018年までロードアイランド州というアメリカの一番小さい州にあるブラウン大学の付属病院で働いていました。
ロードアイランド州は日本ではあまり知られていないのですが、アメリカでは1番最初に独立宣言をした場所であったり、結構おもしろい歴史があります。
日本でなじみのある話をすると、ロードアイランド州は、1853年に黒船に乗ってやってきたマシュー・ペリーの出身地なんですね。
ある日僕が内科の病棟で働いていたときにペリーさんというラストネームの方がいました。
僕のラストネームの安川はアメリカ人が発音するのが不可能なくらい難しいので、僕は自分の名前を自己紹介した後にこれはジャパニーズネームだという風に紹介することが多いです。
ペリーさんに、マシュー・ペリーというあなたと同じラストネームの人は日本人なら誰でも知っている有名な方なんですよみたいな話をしたら、なんと、わたしはマシュー・ペリーの末裔ですとおっしゃいました。実は今でもロードアイランド州にペリーの末裔の方が何人も住んでいて、日本人の僕が出会ったという歴史的な体験をしました。
アメリカに住んでいると歴史とか日本人であることとか色々考える機会があるのですが、ちょっとおもしろい話だということで紹介してみました。

木下喬弘
ブラウン大学といったらエマ・ワトソンですね。

安川康介
そうですね有名な女優のエマ・ワトソンはブラウン大学を卒業しています。
まあ僕が行く前に卒業されていたので…

木下喬弘
そこはエンカウントはしなかったんですね。

安川康介
エンカウントはしなかったですね。

木下喬弘
エンカウントしたのはペリーの末裔だけで。

【ニュース1】コロナワクチンについて友人や家族とどう話すか?

安川康介
ペリーの末裔だけで、でもすごくおもしろいなあって思いました。
このまま僕の個人的な話をし続けてしまうこともできるのですが、そろそろ本題に入りたいと思います。
今回取り上げたいのはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のウェブサイトにある3月18日に更新された

How to talk about COVID-19 vaccines with friends and family
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/talk-about-vaccines.html
出典:CDCウェブサイト 2021/4/8

コロナワクチンについて友人や家族とどう話すかという情報です。
なぜ僕がこの話をしたいかというと、大きく3つ理由があります。

まず、今までワクチンに関する最先端のニュースについて Clubhouse で話してきたので、ここで聞いてくださっている方はもうワクチンに関する知識はかなり多い方ではないかと思います。家族とか職場や友人のグループの中では情報提供者側に回っている方も多いのではないでしょうか。
では情報提供を行う際に、周りの人にどう話せば良いのかという話を、今聞いてくださっている方と一緒に考えたいと思ったことが1つ目の理由です。

このトピックを取り上げた2つ目の理由は、英語だとこういった情報が結構あるのですが、重要なテーマにもかかわらず日本語ではあまり見かけないと感じているからです。
医師が患者さんや医療従事者の vaccine confidence つまりワクチンに対する信頼をどういう風に高めれば良いのかとか、今回のコロナワクチンの話を家族とか友人のような近い人とどう話せばいいのかという情報は、厚生労働省からは僕の知る限りあまり情報発信していない領域だと思っています。
個人的にはこびナビなどウェブサイト上で何か情報提供していきたいと考えています。

このトピックを取り上げたい最後の理由は、ワクチンのことで家族関係や友人関係に影響を受けている人がいるのではないかと思ったからです。
こびナビにデザイナーとして参加されているAnnaさんのツイートがきっかけです。
どういう話かというと、Annaさんの友人の方が高齢のご両親のワクチン接種を巡って兄弟喧嘩をしているという話でした。
お兄さんの方はこんなにワクチンは有効で安全だよという文章やニュースのリンクをご両親に送っているのですが、弟さんはワクチンは危ないといった記事を両親に送っていて困っているという話です。
身内であるがゆえに容赦ない口喧嘩になって、家族関係がこじれてしまったというお話を伺いました。

今回のコロナの流行にあって、コロナ感染症をどういう風に受け止めるかとか、流行をどう捉えるのか、感染予防にどれくらい気を付けるのか、ワクチンを接種するのかということで、友人関係や家族関係に影響を受けてしまった人が結構いるのではないかと心配しています。
コロナに対する姿勢がある種のリトマス試験紙のようなものになってしまって、疎遠になってしまった友人がいるという話も僕の周りで聞いたことがあります。
ということもあってワクチンのことで家族関係や友人関係を壊して欲しくないので、こういうトピックを取り上げました。

では本題に入っていきます。
今回は短い記事なので、少しバーッと話したあとに皆さんにご意見を聞きたいなと思います。
コロナワクチンのことを家族や友人とどういう風に話していくかということについて、全部で5つのアドバイスが短く載っています。

まず1つ目は Listen to their questions with empathy ということで、共感を持ってワクチンに対する質問や疑問をまず聞いてあげると書かれています。
やはりコロナウイルスのワクチンは新しい技術を使っていますので、これに対して不安を持ったり、疑問を抱くのは当然のことだと思います。
更にコロナウイルスワクチンに対して、デマなどの誤情報を含めて大量の情報が流れてきていて、みんなが圧倒されているような状態だとも書いてあります。
そのため、心配事の根本にあるものがなんなのかということを自分の判断を加えずにまず聞くということが重要です。
また、 Acknowledge their emotions ということで、不安とか怖いとかいう感情をまず認めてあげるということが重要とも書いてあります。
これは医療従事者においても、まずは「不安ですよね」など、患者さんの気持ちを受け止める言葉をかけてあげることが大切ということでしょう。

2つ目は Ask open-ended questions to explore their concerns ということで、心配とか不安を探るために開かれた質問をすると書かれています。
つまり、イエスかノーだけで答えられるような閉ざされた質問をするのではなく、ご家族や友人がどういうことを心配に思っているのか、変な情報をどういうところで知ったのか、心配事やワクチンに関する質問を解消するために、何をしたのかというのを探ることが重要ということです。
更にこの際、何かしらの心配事を抱いている相手に対して、非難するような態度を取ってはいけないということに注意しなければいけません。
「それはあり得ない心配事だよね」とか、「何でそんなことを心配しているの?」などとは言わず、まずは本当に心配に思っていることをしっかり聞いて、しっかり話をすることが大事だと書いてあります。

3つ目は、 Ask permission to share information ということで、情報共有しても良いか聞くと書かれています。
何か心配事や不安を覚えている方がいたら、ワクチンに対して情報提供していいか、自分が信頼できる情報をどこで手に入れているかを教えてあげることが重要です。

たとえば日本だと厚生労働省のウェブサイトやこびナビのQ&Aなど、いくつかサイトがあるのですが、それを教えてあげるということですね。
多くの方が共通して持っているワクチンの心配事というのは結構決まっているのかなと個人的には思っています。
そういった不安に対しては、 sharing quick, accurate answers to common concerns ということで、正確な答えを言ってあげる、共有してあげる、そのことによってワクチンに対する不安がワクチンに対する信頼に変わっていくのではないかと書かれています。
よく聞かれる不安な点としては、例えば、今回の mRNAワクチンが遺伝子に組み込まれないか、長期的な副反応がないのか、基礎疾患を持っているから受けない方が良いんじゃないか、1年でできたから安全性が確認されていないんじゃないかなどです。
この辺りの質問は本当によく見かける不安、心配事ですので、これに対してこびナビでは全て答えを用意しています。
周りの方とワクチンに関して話す時は、まずこびナビの情報を見たり、厚生労働省の情報を見て、こういった質問に答えられるようにしておくというのも一つの手なのかなと思います。

4つ目は Help them find their own reason to get vaccinated ということで、その方がワクチンを受けたいと思う理由を探すのを手伝ってあげると書かれています。
ワクチンを受けるのは、何かしらの理由があるわけですよね。
それは例えば家族を守りたいとか、子どもを守りたいとか、不安を解消したいとか、両親に会いに行きたいとか、友達と普通に会えるようになりたいとか、一人一人違うと思います。
そういうパーソナルな理由を一緒に考えてあげるというのがすごく重要だと書いてあって、本当にその通りだと思います。
ご兄弟でケンカして弟さんが受けないというような話をしていたら、「お父さんやお母さんに安心して会いに行くために受けようよ」といったように、理由を一緒に考えるのも一つの手なんじゃないかなという風に思います。

5つ目は Help make their vaccination happen ということで、ワクチン接種が実現することを手伝ってあげてくださいと書かれています。
ワクチンを受けると決まったら、一緒にワクチンの予約をしてあげるとか、特に高齢の方はインターネットとか結構大変だったりするので一緒にやってあげるとか、一緒に会場まで行ってあげるとか、交通手段に関して手伝ってあげたりとか、そういった面倒くさいプロセスを一緒にやってあげると言うことが重要なのではないかということです。

CDC からのアドバイスはこの5つです。
今日はもう1つの記事についてもさらっと話して、それから皆さんとディスカッションをしたいと思います。

もう1つの記事も似たような内容になるのですが、こちらの掲載はSTATというボストングローブ系の医療に特化したニュースサイトで、結構良い記事を書いていたりします。
もし興味がある方は見てください。


【ニュース2】ワクチン接種を躊躇する方に対してどのように話すか

A user’s guide: How to talk to those hesitant about the Covid-19 vaccine
https://www.statnews.com/2021/03/26/users-guide-covid-19-vaccine-hesitant/
出典:STAT 2021/3/26

この記事のタイトルは、コロナウイルスのワクチンに躊躇する方に対してどのように話すかのユーザーズガイドすです。
結構いろいろな専門家に話を伺って、それをいくつかのアドバイスにまとめているものです。

木下先生が話されたことがある人類学者でワクチン忌避について色々取り組んでいる方で Heidi Larson という方がいるのですが、そういう方や、色んな方のアドバイスが載っていて結構おもしろいなと思って読んだのでいくつか紹介させてください。
まず例えばおもしろいなと思ったのは Shoot for the middle ということで、日本語で訳すと中間層に狙いを定めるといった感じですかね。
日本で最近慶應大学が行った新型コロナウイルスワクチンの接種意向についてのアンケート結果がメディカルノートに掲載されていました。
そこでは56%の方が接種すると答えていて、11%の方が接種しないと答えています。そして分からないと答えている人が33%いるという結果でした。
11%の接種しないと答えている方は、結構固く決心している方もいると思います。
アメリカではどんな情報を与えられてもワクチンを受けたくないという人が大体2割くらいいるという風に言われていて、宗教上の理由で受けたくない方や、ワクチンは自然じゃないという風に考えるナチュラル志向の方などが含まれます。
結構この辺りの方の意見を変えるというか、ワクチンを受けてもらうというのは難しいと思います。
Heidi Larson も本当に受けたくないと思っている方には話してもあまり効果がないのではないかという風に話しており、いわば Movable middle つまり動くかもしれないミドルを狙っていくと言っています。
つまり日本のアンケートでいうと33%、受けるか分からないと答えている、こういう方々に話すということです。

他のアドバイスとしてはこれは CDC の Recommendation というかアドバイスにも共通するのですが、 Have a conversation ということで、友人や家族に講釈をたれないで、何を心配しているか決めてかからないでちゃんと話を聞くことが重要と書いてあります。
一見陰謀論者なんじゃないかと思ったりする方も、実は結構シンプルな心配事を抱いていることが多いという風に書いていて、これは個人的には納得します。
僕は YouTube をやっていて色んなコメントが書かれます。
結構色々質問が来て、この方もしかして陰謀論者なのかな?と思って答えてみると「ありがとうございました、不安が解消されたので受けたいと思います」と言われて、あ、なんだそれでいいんだ…と思ったりすることもあるので、決めかからないでちゃんと会話をすることが重要です。

次に、これは僕たちこびナビにとっても大事なことだと思うのですが、 Don’t focus on science つまり科学にフォーカスしすぎないということが重要だと書かれています。
例えば mRNA がどうだとか、スパイクタンパクがどうだとか、ウイルスベクターがどうだとか、そういった話をしてしまいがちなのですが、必ずしもそういう話が有効であるとは限らないということです。
そういうものではなくて、おばあちゃんのために受けようとか、利他的なポイントに訴える話をした方が受けたいと思う人が多いのではないかという話もしていて、納得しました。

他に面白いと思ったのは、 Use humor つまりユーモアを使うということですね。
この文章を読んだときに、これに関してうまくいっている、台湾の事例を思い出しました。
台湾では、オードリー・タンという僕と同じくらいの歳の方がデジタル担当をしていて、フェイクニュースに対してユーモアを使って対処しています。
Humor over Rumor といって、噂よりもユーモアをという訳になりますが、例えば新型コロナウイルスの流行が始まったときに、トイレットペーパーがなくなる! みたいな騒動があったようで、そのときにユーモアを交えて、 We only have one pair of buttocks と、つまり「お尻は1つしかない」といった情報を流して、トイレットペーパーがなくなるといった噂に対処した話がありました。結構ユーモアというのは重要な要素なんじゃないかなと思いました。

他にもあるのですが、話しすぎてしまったので、ここで登壇者の方に…特にインフルエンサーとして活躍されてきた峰先生とか、ワクチンに関して情報発信してきた木下先生とか、どういう風に非医療従事者がご家族や友人に話せば良いのか、なにかアドバイスがあれば教えてください。

峰宗太郎
えっわたしですか?

安川康介
はい(笑)

木下喬弘
わたしや言うてるやん(笑)

峰宗太郎
いやーわたしから全体へのアドバイスっていうのは中々ないんですけど、とにかくいつも言っているのは、公的な情報ですね、やっぱり。
確実性の高い情報を含めた複数の情報源を必ず持って頂くということ。そして、そのクロスチェックをしながら、どの辺が妥当かというラインをそれぞれがそれぞれの頭で考えて納得しながら選択していくことかなと思っていますので、今まで安川先生が一生懸命紹介して頂いたようなことはもちろん踏まえた上で、皆さんが考えて行動していくっていうこと。ここは僕はやっぱり強調していきたいかなと常に思っています。

安川康介
ありがとうございます。木下先生何かありますか。

木下喬弘
ありがとうございます安川先生、めちゃくちゃいい話でした。
最近はこの部屋で聴いてくださる方が400人行ったり行かなかったりだったんですけど、今日は安川先生のお陰で430人もの方に聴いて頂いていています。
ずっと私一人でやっていたのですが、もっと早く安川先生や他のメンバーにも入ってもらえば良かったなと思っています。しかも構成もすごくしっかりしていて、練られたトークで大変面白かったです。ありがとうございます。

安川康介
ありがとうございます。あの、100人くらいになってたらどうしようって結構不安だったんですけど(笑)

木下喬弘
いやいや、今聴いてくださっている方が考えておられることにちょうど合っているテーマで、しかもいくつも解決策を出して頂いて、良かったです。
私は個人的な経験として、あまり良い答えを持っていないんですよね。
私が言っていることはほとんど先ほど安川先生に紹介していただいたHeidi Larson の受け売りで、実際問題僕はインターネットを介して結構情報提供をしているので、本当に家族とか友人でワクチン接種を悩んでいる人にそっと後押しみたいなことをしている立場ではないんですよね。
なのでよくこの質問を頂くのですが、本当に僕も Heidi Larson が言っていることをほぼほぼそのまま答えているというような感じなんです。
他に色々調べて色んな意見があるのを見ていて、おもしろいなと思ったものが一つあって、 TED Talk で心の中のゾウと仲良くなると人は動くという

参照:心の中のゾウと仲良くなると、人は動く
https://www.ted.com/talks/masaki_takebayashi?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=tedspread
出典:TED

竹林正樹さんという方が話している TED Talk があって、青森弁丸出しのすごく暖かい TED Talk なのですが、糖尿病性眼症で目がほとんど見えなくなったおばあちゃんを病院に行かせたくて早く行きなさいと言ったら行きたくないと言ってケンカになってそのままおばあちゃんを亡くしてしまったという話をされていました。
どうやったら病院に行った方が良いということを伝えられるかという話を訥々と話されているのでもしそういうものに興味がある方が聴いていらっしゃったらそれも見て頂ければと思います。
安川先生ありがとうございます。

安川康介
いえいえ。池田先生、他になにかありますか。
僕は木下先生と違ってまとめない主義で行きたいと思います(笑)

木下喬弘
どういうこと(笑)

池田早希
じゃあまとめない主義で(笑)
ちょっと違う視点から。わたしは今アメリカで感染症の医師をしているのですけれども、Fellowship でトレーニング中です。2ヵ月後に卒業します。
日本でも小児科の研修を受けて、アメリカでも小児科の研修を受けたのですが、一番大きな違いの一つは、このワクチンに関する医師としての役割のトレーニングがあるかないかでした。
日本ではあまりワクチンについて患者さんと、そしてご家族と、どういう風に話しましょうというトレーニングがなかったのですが、アメリカの研修では頻回にそういうことが行われていました。
そこで一番大事だと教えられたのは、やはり信頼関係を築くということで、事実だけ欄列されても響きませんが、信頼している人からの情報というのはすごく響くんですよね。
今日安川先生が紹介された記事の最初の部分はそういった信頼関係、つまり話を聞いているよというメッセージを届けるといったところがフォーカスされていましたが、それはすごく大事だなと思います。

それでその残りの人たち、何も聞く耳を持たない人…アメリカだったら22%、慶應のスタディだと日本だと11%の方々というのは、おっしゃっていた通り、事実を欄列しても何も頭に入ってこないので、そういう方々とお話をする時は関係を壊さないということをよくトレーニングされていました。
つまり、不安な気持ちとか、絶対に打ちたくないという気持ちはある程度支持しつつ、自分のスタンスも言いつつ、そして最後には、「でももしも心変わりして、もっと情報を知りたくなったら、いつでもわたしはここにいますから聞きに来てくださいね」とお伝えして、信頼関係を維持することが大事だと思います。

安川康介
そうですね。最初のご兄弟の話に戻るんですけども、この兄弟喧嘩しているんですけれども、ご両親を心配して、ご両親にとって一番良い医学的なことをしたいという気持ちは共通しているのかなと思います。
池田先生の話したことで思い出したのですが、今日 Heidi Larson のインタビュービデオをいくつか見ていて、結構良い言葉があったんですね。
これは主に医療従事者に当てはまるのかもしれませんが、People don't care about what you know until they know you care ということで、「人はあなたがどれくらいその人を大事にするかを知るまでは、あなたが何を知っているかをあまり気にしない」といった訳になります。
大事に思っているとか患者さんのことを気にしているということがすごく信頼関係には重要なのかなと思います。
なので主治医の方がその方を心配して、受けてくださいとか、こういうワクチンですよということを説明したらもしかすると思いが伝わって躊躇していた方が受けるようになるのかなという風にも思います。

池田早希
そうですね。そしてそういう開業医の先生とか今聞いてくださっている方々のような信頼できる人たちがちゃんと自信を持ってワクチンについてお話ができるように、こびナビとして情報発信していきたいなと思います。

安川康介
そうですね。こびナビもワクチンを絶対に受けなさいという団体ではなくて、やはり正確な情報を手に入れてその方にとって最良の判断をして頂きたいというのが一番根っこにあるのかなと思います。
ただし、特にこのファイザーのワクチンとかは知れば知るほどあまり躊躇する理由がないのかなというのは思うのですけれども…強制はしないで正確な知識を持って頂きたいと思って活動しています。
ということで、今日はこの辺りで終わりにしたいと思います。
他に何か最後に付け加えたい方がいらっしゃったらよろしくお願いします。

内田舞
ちょっとだけ付け足して良いですか。
ボストンの内田舞です。
誰かの言うことを信頼できると思うには、まずその人が自分のことを本気で考えてくれていると感じることが必要だと安川先生も池田先生もおっしゃったんですけれども、それに付け加えて、「もし何かがあった場合にはこの人が一緒に問題解決をしてくれる」と思うことも、重要だと思います。
すごくあなたのことを考えているよと伝えるのと同時に、
もし何かがあった場合はわたしがケアするよとか、
もしすごく痛かったらわたしがアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)を持って行くよとか、
もし次の日倦怠感で立ち上がれなかったらわたしがご飯を持っていくよとか、
何かがあった場合はわたしが一緒に歩いて行くよといった姿勢も良いんじゃないかなと思います。

安川康介
そうですね。
こびナビみたいな団体だけでなくて、地域で患者さん一人一人を診ている医師の方のコミュニケーションですとか、信頼関係というのが日本でのワクチン接種にとってもすごく重要なんじゃないかなと思います。

木下喬弘
ごめんなさい、ちょっとだけいいですか、せっかくなのでもう一歩だけ論点を広げたいと思います。
先生方にもおっしゃって頂いたように、確かに相手のことを思いやって情報提供するという、科学的な情報よりも人と人との信頼関係で動くということはすごく重要です。
だからこそ非科学的な医療をしている人たちも「先生が自分の話を聞いてくれる」という信頼感を醸成して、そういう方向の医療を受けたいと思ってしまうという面もあると思うんですよね。
今日の議論で、アメリカでは小児科でそういう教育があるというのを聞いてびっくりしました。
もちろんワクチンを強制したり、受けたくないという人を否定してはいけないといったスタンス自体は一緒なのですが、CDC やアメリカの小児科の教育はワクチンを勧めろと言っているところが、日本と全然違いますよね。

安川康介
そうですね。
基本的には推奨ですよね。
推奨してくださいとはっきり明記していますよね。

木下喬弘
ありがとうございます。
そこが日本の公的機関と違うなと思います。
もちろん、強制しろとか打たないやつを馬鹿にしろとか、そういうことではありません。
ただ、日本とアメリカでは、「打つかどうかを自分で決めてください」、「情報は自分で得てください」というスタンスと、「明らかにワクチンを打った方が良いからどうやったらワクチンを打ってもらえるか一緒に考えましょう」というスタンスの違いがあります。
そこは日本の医療界も考えないといけないのではないかと思いましたし、アメリカの教育システムは興味深かったです。

峰宗太郎
ちょっと木下先生にかぶせて良いですか。

木下喬弘
来ると思った(笑)

峰宗太郎
日本のやり方っていうのは、結局決定を国民一人一人に委ねてあなたが判断しろっていうことを強調しすぎている面があるとも思うんですね。
プロとしての推奨を明確にしないで決断を一人一人に委ねているって言うのは甘えなんじゃないかというか、逆に酷なことをしているのではないかと最近思うようになったのですが、その辺りはどうなのでしょうか。

安川康介
それは本当に思います。
厚生労働省や自治体の文章を読んでいくと、ベネフィットとリスクを一人一人考慮して患者さんご自身で判断して頂く、みたいな文言があって、それは最終的にはその通りではあるのですが違和感を抱く文章だなと思っています。
これだけ効果が高く安全性も検証されたワクチンがありますので、リスクとベネフィットを天秤にかけて決めてくださいねというのはちょっと無責任かなという風に思います。
明らかに罹患した際の重症化リスクが高い方などは、接種をしたときのベネフィットが遙かに大きいので、天秤にかけるまでもない状況ですので、そういった辺りのコミュニケーションをどうしていくのかというのがすごく大事でしょう。

池田早希
その点に関してちょっと良いですか。
ワクチンの会話についてアメリカでトレーニングを受けた中の一つに、医師がHPVワクチンやコロナウイルスワクチンを含めた色んなワクチンについて患者さんに話すときに、 presumptive language を使いましょうとありました。
つまり、患者さんがワクチンを受けたいと思っていると推定した上での言葉遣いをしましょうという風に指導されていました。
たとえば、「お子さん11歳ですね、そうしたら HPVワクチンの時期なのでこれを打ちましょうね」といった感じで言うべきであって、「HPVワクチン打ちますか、打ちませんか。この年齢対象年齢ですよ」といった感じにすると、ちょっと不安に思ってしまうわけですよね。
ですので、患者さんやご家族はワクチンを接種したいという前提で会話をしましょうというトレーニングも受けています。

安川康介
なるほど。
すごく色々勉強になります。
最近、木下先生や峰先生の影響を受けてツイッターをやるようになっているのですが、そうするといろいろなコメントが来て面白いなと思うことがあります。
たとえば患者さんで、ある主治医に「わたしがあなただったらワクチンを受けますよ」とか、「わたしがあなただったらこうします」といった言葉を言われてすごく嬉しかったとか、それで決められたという話が書いてあって、そういった言葉は医師として重要なのではないかなと思いました。

内田舞
今日わたしが務めているマサチューセッツジェネラルホスピタルから公開されたビデオがあって、まさにワクチン忌避についてのビデオでした。
アメリカではワクチンに対して不安を持っている人種層というのが黒人に非常に多いという研究結果が分かっているので、その方々をターゲットにわたしの病院などが作ったビデオです。
アメリカンフットボールのボストンのニューイングランド・ペイトリオッツの黒人の選手と、我々の病院のスタッフの黒人のお医者さん何人かで対談をするビデオでした。
自分に似ている人、自分を重ねられる人から受け取る情報というのは頭に入りやすいということを考えてやったことだと思います。
結構おもしろくて、例えばそのペイトリオッツの選手が「ワクチンで不妊になりますか?」と質問したら、黒人のおじちゃんの医師が笑いながら、「よく聞け、ワクチンはコンドームじゃない」とワクチンが不妊を起こすなんてエビデンスはないということをさらっと言ってくれちゃって、結構陽気な感じでポップに進んだワクチン教育ビデオでした。
この中でアメリカン・フットボール選手が
「黒人というのは医療の中で無視され続けた歴史がある。
今回もコロナによってどの人種よりも悪影響を受けた。
その中で我々が力を取り戻すにはワクチンに関する正しい知識で自分を守ることだ。
接種の選択は個人の自由だけれども、自由に与えられた選択権を一番有効に使って自分の家族を守るためには、教育が必要だ。
医療の人種格差の中で力を取り戻すには知識を得てワクチンを打つことだ。」と言っていたことが印象的でした。
ワクチンを打つことが重要だと言い切っていて、最後はアメリカン・フットボールの選手も、医者も全員が get vaccinated と言って終わりました。
メッセージはしっかりしていましたし、それでいて押しつけられた感じはしませんでした。
うまいなと思ったのは、虐げられた我々が自分たちの力を取り戻す為にはこれをするんだと言ったりとか、選択の自由というのは与えられた選択権であって、それを自分が使う権利があるんだ、だからその権利を使ってワクチンを打つんだという言い回しをしていたことです。
黒人層に響くような言葉遣いを選んで作ったのだろうなと感じ、それぞれがこういった努力をしているのは素晴らしい流れだなと思って見ています。

安川康介
ありがとうございました。
やはり黒人の方とかヒスパニックの方は過去に苦い経験をしていたりするので、不信感が強いと言うことでアメリカでもワクチンの接種率が低いということが問題になっています。
さっきまで話していたこととも関連すると思いますが、ワクチンはコンドームじゃないという風にユーモアを使ってメッセージを伝えることや、人種によってメッセージを変えるなど、個人個人でメッセージを変えてワクチンに関する情報を提供していくというのが重要なのではないかなと思いました。
この辺りは個人的にもものすごく興味があるので朝まで生テレビみたいな感じで話せる領域かもしれないのですが、またいずれ話していきたいと思います。
それでは9時13分になりましたので皆さん今日も良い1日をお過ごしください。
明日はまた木下先生ですかね。

木下喬弘
そうなんです。
今日は13分延長したので明日は17分でやります(笑)

安川康介
わかりました(笑)
それではみなさんありがとうございましたー。

木下喬弘
日本の皆さん良い1日をお過ごしください

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