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コロナワクチンアメリカの接種の順番は?トランプ前大統領は既にワクチンを打っていた?(3月2日こびナビClubhouseまとめ)

2021年3月2日

木下喬弘
日本のみなさん、おはようございます。
本日も「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」始めていきたいと思います。

今日はちょっと面白いニュースがあったので、そこから始めさせてください。
アメリカではコロナワクチンの接種が進んでいますが、まだ全員に行き渡る状況ではなく、州によって接種の状況はさまざまです。
そんな中、フロリダ州で30代と40代の女性がおばあさんの格好をして、ワクチン接種を受けようとしたとのこと。フロリダでは65歳以上の高齢者は優先的に接種できることになっています。
で、これがしっかりバレてしまって怒られたというニュースだったんです。
私がこのニュースで面白いと思ったのは2箇所あって、まずこの時の動画が残っているのですが、「今から刑務所につれていかれるかもしれないけど覚悟するように」って言われるぐらい相当怒られてるんですよね。
最終的には許してもらってるんですが、かなりこっぴどくやられていて、不謹慎ですが笑ってしまいました。
あともう1つなんですけど、この方々はなんとCDC(アメリカ疾病対策センター)発行の接種証明書を持っていたそうで、実は1回目の接種は無事に受けられていたんですよね。
1回はくぐり抜けることができたってのが、また面白いなと思いました。

ちなみに僕の住んでいるマサチューセッツ州では高齢者の家族も接種できるということで、同僚と話していたら「道端でおじいさんかおばあさんを拾って連れていけばTakaも打てるよ」と言われました(笑)

さて、そのような中で最初にご紹介するのは、アメリカの中でついに誰でもワクチンを打てるようになった地域があるというニュースです。

“Can’t Get a Covid Vaccine? In This County, Everybody is Eligible”
「コロナワクチンが受けられない?この郡では、誰でも受けることができます」
(https://www.nytimes.com/2021/03/01/us/coronavirus-vaccines-gila-arizona.html?smid=tw-share)

アリゾナ州フェニックスの郊外では医療従事者や高齢者だけでなく、一般の人もワクチンを受けられるようになったと伝えています。

アメリカ国内の現状として、ワクチンを誰が受けられるかについては州や郡ごとに違っています。たとえばケンタッキー州やインディアナ州では、ようやく60歳以上の方が接種を受けられるようになりましたが、他の州のほとんどはまだ65歳または70歳以上が対象となっています。

一方で、約18の州では食料品店の従業員も受けられ、32の州で学校の先生も受けられる状態になっているとのことです。では癌や心臓病のある人はどうかというと、「住んでいるところによります」と。
このような導入から始まり、地域によるワクチン接種の対象について書いています。

アリゾナ州フェニックスの校外にあるギラ郡というところでは、18歳以上の住民であれば、誰でも予約なしでワクチンを打てるようになっているそうです。
予想されることとして、長蛇の列になったり予約がとれなかったりするのかと思いきや、「行列もなくスムーズに打って帰れました」という人の話が掲載されています。
まだ情報が行き届いていないのでしょうか。また全員が打ちたいと思っているわけではないということもあると思いますが、アメリカで一番最初に誰でもワクチンを受けられるようになった地域としては、今のところ大きな混乱なく接種をスタートしているとのことです。

記事内ではその後も、ギラ郡でどういう状況かというのを詳しく書いています。
コロナのパンデミックが始まってからも、バーやレストランはあまり閉まっていなかったと。いくつか制限はあったもののそこまで厳しくはなく、今回のパンデミックで実生活が強く脅かされた、変わったという状況じゃない人もいて、ワクチンについては様子見をしている人もいるようです。一方で、プロスポーツ並に人気がある高校・大学スポーツの大会がいくつかキャンセルになったり延期になったりしていて、それを残念に思い早く元の生活に戻りたい、早く打ちたいと思っているような人もいるとのことです。

僕の住んでるボストンでは考えられないんですけど、スーパーマーケットに来る人の25%はマスクをしていないとか、銃を持ったままお店に入ってくる人でマスクをしていない人もいるそうです。そんなの怖くて声かけられないですよね。そんな中でまた患者数が少し増えてきているので、早く打っていかないといけないのでは、といった話も取り上げられています。

ということで、安川先生や峰先生が住んでいるところの状況はいかがですか?

安川康介
はい。まず、ワクチンがアメリカでどういう順番で供給されているかについて、一度ご説明します。

実際の細かいことは州ごとに決めているのですが、ワクチンが普及する前に、CDCの予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)がガイドラインを出しています。このガイドラインには大きな軸が2つあって、1つは「社会の機能を維持する」、もう1つが「重症者・死亡者を減らす」です。
最初の「フェーズ1A」では、「社会の機能を維持する」の観点から医療従事者、そして「重症者・死亡者を減らす」の観点から高齢者施設の入所者が対象となっています。
次の「フェーズ1B」ではエッセンシャル・ワーカー、つまり警察官や消防士の方などと、75歳以上の方。その次の「フェーズ1C」では基礎疾患のある16~64歳の方などが対象となっていきます。

今、ワシントンD.C.あたりでは「フェーズ1C」に来ています。
各州で「フェーズ1A」から始めて、対象となる方が全員打つわけではないのである程度行き渡ったら、どんどん次の1B、1Cへと広げていっている状況だと思います。

木下先生が最初に話した、おばあさんの格好をしてワクチンを打とうとした人の話ですが、アメリカの全国各地でまだ希望者に対してワクチンの量が足りない状態が続いています。
いろいろな地域において、ワクチンを盗もうとした人がいたとか、実際に盗んだ人がいたとか、本当はまだ接種を受けられないのに受けられるように調整しようとしたといったケースが発生しているようです。
たとえば、僕の働いているジョージタウン大学医学部付属病院では、3年生から臨床実習が始まり病棟で働くので、3年生以上の人がワクチンを受けられる状況になっています。1年生・2年生はまだ受けられないのですが(この点は州によっても違う)、2年生以下の学生が、「臨床実習をする」と恐らく嘘をついてワクチンを打った事件があったようです。

木下喬弘
…それもやっぱりめっちゃ怒られるんですか?

安川康介
はい、処罰の対象になっていて、こういうことが医学部内で問題になっていたりします。

木下喬弘
へえぇ…なるほど。
まとめると、アメリカでは優先接種のフェーズ1A、1B、1Cというのがあって、1Aは医療従事者と施設入所者が対象になっていると。その次のフェーズ1Bは、エッセンシャル・ワーカーと言われる警察官や消防士、スーパーの店員さんなどと、75歳以上の高齢者。今はさらにその次のフェーズ1Cで、基礎疾患のある16~74歳の方まで下りてきていると。これがアメリカの平均的な接種状況かなと思います。
アメリカの医学部は日本でいうところの大学院にあたり、4年制の大学を卒業した人がその後4年間行くところなのですが、その医学部3年生・4年生は病院での臨床実習があるということですね。これは日本でいえば、初期研修医と医学部5~6年生の中間くらいに当たる感じで「それなりの処置はするけれど学生である」という立場だと思います。その3年生・4年生は、安川先生の働く大学ではワクチン接種の対象となっているということなんですね。

どういう順番でワクチンを接種していくかについては、世界中で医療従事者が最初で、その次が高齢者となっていると思います。
この理由についてみなさんご存知でしょうか。

実は昨年12月頃、Scienceという基礎研究系の学術雑誌に、ハーバード公衆衛生大学院の感染症疫学の教授が論文を出しています。
(Science. 2021:371;916-921.)
この論文の1つの結論としては、「トータルの感染者数を減らすためには若者から打った方がいいが、トータルの死亡者数を減らすためには高齢者から打った方がいい」ということです。
若い方で感染対策を気をつけている方もたくさんいるわけですが、やはり50代くらいまでの人は社会的な活動性が高いということもあり、人から人に感染させてしまう主体となっています。ただし、うつったときに重症化して亡くなりやすいのは高齢者です。
では「どちらから打ち始めるといいのか?」というのがシミュレーションされていて、若い人から打ち始めた方がトータルの感染者数は減って感染の流行は早く抑えられるけれど、トータルの死亡者数は高齢者から打ち始める方が少ないという研究結果となっています。
こういった研究を元に、だいたいどこの国でも高齢者から打ち始めていると思います。

アメリカでもワクチン接種が始まり、安川先生に教えていただいた通り各地でワクチン争奪戦になっているケースもあると。医学部の1・2年生が3年生以上のふりをしてワクチンを打ったら処罰されるなど、厳しくルールが適応されている状況のようですね。

安川先生、こんな感じでよろしいでしょうか。

安川康介
はい、そんな感じです。
自治体によってワクチン普及のスピードが違うのですが、木下先生が最初に紹介したギラ郡はかなりうまくいっていると思うので、もしかしたら州が優先的にワクチンを回しているということもあるのかもしれないです。

日本で実際に接種が始まると、はじめは混乱するかもしれませんが、うまくいく自治体もあると思います。そういう自治体から学んで、効率的な接種をしていけるといいなと思います。

たとえばアメリカでは、なぜかウェストバージニア州というところがすごくうまくいっているのが話題です。

木下喬弘
たぶん、ほとんどの人が頭に地図浮かばないでしょうね!

安川康介
そうなんです(笑)
そのウェストバージニアでうまくいっているのは、地元の小さな薬局等にいる薬剤師を活用しているのが理由です。アメリカでは薬剤師がワクチン接種できることになっていて、そこは日本のシステムと大きく違うのですが、薬剤師たちが高齢者施設にどんどん入っていって接種を行いました。その結果、アメリカで一番最初に高齢者施設の入所者への接種を終えたのがウェストバージニア州でした。

木下喬弘
ありがとうございます。おもしろいですね。
確かイギリスあたりで、医療従事者以外の人に対してワクチンを接種する側の訓練をしているというニュースがありましたね。

安川康介
そうですね。医学的なバックグラウンドほとんどのない方に、ワクチンを打てるようトレーニングしているということだったかと思います。

木下喬弘
あれはどうなんでしょうかね。僕は、ワクチン接種自体はそんなに難しくないので、いいのではないかなと思うのですが…シリンジ引くところは看護師さんがやった方がいいかもしれないですけどね。日本では難しいでしょうか。

安川康介
そうですね。日本では医者か看護師のみで、看護師は医者の指導下でしか打てないというようにかなり制限されています。
こういうパンデミックを契機に、たとえば薬剤師の方も打てるようになるといったことが検討されてもいいのかなと思います。
実際筋肉注射はそんなに難しくなくて、これを聞いている方でも練習したらできるようになるんじゃないでしょうか。

僕の病院でも、薬剤師の方がシリンジに薬剤を用意して、ワクチンを打つ人は本当にただ打つだけになっています。そのように役割分担すると、効率的に打てると思います。

木下喬弘
ありがとうございます。このあたり久米さんからもコメントいただけたらと思いますが、いかがでしょうか。

久米隼人氏
厚労省の久米といいます。
この議論については、今回のワクチン接種でできるかということは置いておいて、今後の医療体制を考えていく上では避けて通れない議論だと思っています。
ただし今すぐに、たとえば薬剤師の方に訓練をして打っていくといった話をするには、政治的なコストを含めてかなり議論があるところなので、今の段階では政府がそこに力を割くよりも、現在あるリソースでしっかり接種を進めていくことも大事かなと思います。
この議論自体はものすごく大事な議論だと思うので、今後しっかりやっていけたらいいのではないでしょうか。

木下喬弘
ありがとうございます。一般的な傾向として、医師資格がないとできないことを周囲の医療スタッフに広げていくことに対し、反対される方もいらっしゃると思います。そういう意味で難しそうでしょうか。

久米隼人氏
まず、アメリカやイギリスと日本で何が違うかというと、アメリカの場合は薬剤師になるための教育課程に、ワクチン接種の方法や、それによって何が起きるか、緊急時の対応などが組み込まれていて、日常的に予防接種を打っているわけですよね。
そういった体制が整っているところと比較して、日本のようにこれから取り組みを始めるところが今やるのかという議論はあると思いますし、保守的なお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

木下喬弘
ありがとうございます。
この件はこのあたりにして、もう1つご用意していたニュースを話してから終わりたいと思います。

CNBCというところから出ているニュースで、僕は結構びっくりしたのですが、
“Trump, Melania were vaccinated for Covid at the White House in January”
「トランプ前大統領とメラニア前大統領夫人が、1月中にコロナワクチンを打っていた」
ということです。
(https://www.cnbc.com/2021/03/01/trump-melania-were-vaccinated-for-covid-at-the-white-house-in-january.html?__source=sharebar|twitter&par=sharebar)

そもそも、トランプ前大統領には昨年中に一度コロナにかかったというバックグランドがあります。
CDCは、既感染の人に対してもワクチンを接種すべきとしています。ただし、その回数は1回なのか2回なのかといった議論が出ていて、これについては今後エビデンスも含めてお話ししていけたらと思っています。ともかく、私はトランプ前大統領は既感染だからワクチンを打っていないのだと思っていました。
それが、実はホワイトハウスにいた1月20日までの間に打っていたことが関係者の話でわかったということで、アメリカの多くの主要メディアが取り上げています。
共和党支持層の白人の中には、かなり強固なワクチン反対派の方々がいて、そういった方がおられると集団免疫を達成するのが難しくなります。世界中で言われていることとして、ワクチンを打ちたくないと考えている方々に一番説得力があるのは、その人たちのリーダーが「ワクチンを打とう」と表明することであると。
トランプ前大統領は先週日曜日のスピーチの中で「みんなワクチンを打て」と話していて、ワクチンに対してポジティブなメッセージを出しているようです。
ワクチン接種の事実をこのタイミングで公開する気になったのか、バレてしまったのかはよくわからないのですが、とにかく実は接種していたというのがニュースとして報じられています。

このあたり、アメリカの現状などいろんな視点があると思うのですが、コメントのある方いらっしゃいますでしょうか。

………
………
………

安川康介
あっ…

木下喬弘
ありがとうございます!!

安川康介
なんか話さなければいけないのかなっていうプレッシャーを感じました(笑)
トランプ前大統領ですが、もしかしたらまた出馬するかもしれないということも話していて、支持者の方の中にはワクチン反対派の方も多いので、それでワクチンのことを公表しなかったのかなという気もします。
トランプ前大統領がコロナにかかったのは昨年10月で、結構重症化してしまい、抗体療法を受けたと言われています。抗体療法を受けた人は90日待ってから接種ということになっているのですが、すでに90日以上経っていますので医学的には受けていいと思います。
彼には肥満というリスクファクター(危険因子)があって、もし再感染したらまた重症化してしまう可能性もあるので、受けておいた方がいいのではないでしょうか。

木下喬弘
いちドクターとしての意見ですね!

安川康介
彼の場合、冠動脈の石灰化と、肥満があると思いますので…

木下喬弘
健康情報バレすぎですね(苦笑)

安川康介
大統領になる方って、出馬する前に主治医が詳細な健康診断を公開するんですね。
なのでバイデン氏の健康情報も詳細に公開されていて、結構いろんな病気とかされています。
…全然関係ない話になってしまいました。

木下喬弘
いやいや、勉強になります。
そういう健康情報を調べてから大統領になるというプロセスがあるんですね。

安川康介
公開しなければいけないわけではないのですが、バイデン氏の場合は最高齢で大統領に就任しているので、そういった健康情報が注目されていると思います。

木下喬弘
峰先生はいかがでしょうか。既感染のワクチン接種に関して、何か少しコメントいただけたりしますか?

峰宗太郎
はい。既感染の方の方が、1回でしっかり抗体がつくんじゃないかとか、副反応が強めに出るんじゃないかといったことが科学的にわかってきているんですけども、今後実際に既感染者が多い国でもっと情報が出てくると思いますので、その点に関してはそれを待つのがいいですかね。

それと、全っ然違う話をします。
反ワクチンの方々の集団は世界中にあるのですが、そういう集団のリーダーって、大抵自分や自分の家族にはワクチン打っているんですよね。
日本でもそうです。反ワクチンの集団のリーダーは多くの場合医師なんですけど、ワクチンを打っていないと臨床実習にも出られないし、免許を使えません。
なので、彼らが何を目的にそういった活動をしているのか、そのあたり冷静に見ていただくといいかもしれないですね。

木下喬弘
ありがとうございます。
実は、オックスフォード大学のやっていたワクチン忌避のイベントなどを時々見ていたんですけれども、多くのイベントで「ワクチンを打たない代わりに◯◯」と巧みに誘導していて、そこでサプリや健康食品を売っています。これに対し公衆衛生界隈からは批判の声が上がったりしています。
陰謀論的に人の行動の裏を読むということ自体、あまり科学的じゃないところがあると思うのですが、それが良いか悪いかはさておき、峰先生のご指摘のとおりワクチンを打たないことを勧める日本の医師は、確実にワクチンを打っているはずだということは事実として言えるかと思います。


ということで、今日も570名もの方に聞いていただきました。ありがとうございます。

毎朝8:30~9:00に「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」ということでやっています。
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新しい企画もどんどん発表していく予定ですので、各種SNSで情報をキャッチしていただけたら嬉しいです。

それでは本日はここまでといたします。
日本のみなさん、良い一日をお過ごしください!


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