モデルナ・アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン正式承認、ワクチン接種後の心筋炎について(5月24日こびナビTwitter spacesまとめ)
※こちらの文字おこし内容は、2021/5/24当時の情報です※
2021年5月24日(月)
こびナビの医師が解説する世界の医療ニュース
本日のモデレーター:木下喬弘
木下喬弘
おはようございます。
みなさん、週末はどうでしたか? もう538人に入っていただいています。
平日毎朝やっているこびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース、はじめていきたいと思います。
【モデルナ・アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン正式承認】
今日はまず最初に取り上げるニュースは、皆さん、もうすでにご存じだと思うのですが、厚生労働省が米モデルナと英アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した、というNHKのニュースです。
モデルナとアストラゼネカのワクチン 正式承認 厚労省
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210521/k10013043721000.html
出典:NHK 2021/5/21
モデルナのワクチンは大規模接種センターでの使用が予定されていますが、アストラゼネカのワクチンは当面、公的な接種には使わない方針のようですね。
黑川先生、これはどういう意味になりますか?
黑川友哉
そもそも、お薬の“認可”だとか“承認”といわれるのは、「日本国内で製造・販売していいですよ」という意味合いなんです。
アストラゼネカの新型コロナワクチンも、日本国内での製造・販売が認められて、実際に日本国内で製造を開始しようとしている、すでにしているかもしれないですし、販売もできるようになったということです。
ただ、ワクチン行政というのは、日本政府がすべて買い取って使い方を決めているというかたちです。アストラゼネカが製造・販売したものは、政府がすべて買い取り、使い方は政府・行政が考えるという仕組みの中で、しばらくは今まで通りにワクチン接種会場で接種されるわけではない、という理解でよいかと思います。
木下喬弘
つまり、日本で製造・販売できるけれども、使い方を決めているのは政府で、政府は今のところ「使わない」と言っている。今のところ、皆さんの接種に使われるワクチンがアストラゼネカになる可能性はない、ということでよろしいですか?
黑川友哉
そういうことだと思います。
木下喬弘
ありがとうございます。
これが今のところ先週末のニュースかな、と思います。
このこびナビのスペースを聴いていただいている方は結構もうご理解いただいているかと思いますが、アストラゼネカのワクチンは「ウイルスベクターワクチン」といって、ファイザーやモデルナのワクチンとは作り方が違います。
また、血栓症というのが、最初は25万人に1人くらい、カナダなどの報告では「10万人に1人くらい起こるのではないか」とも言われています。稀は稀ですが、「ワクチンのせいで起こる」というようなことが指摘されていますので、そのようなものであるということをご理解いただくのが大切かなと思います。
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカのワクチンが承認されましたので、それぞれどのようなものなのか、もう一度簡単に整理したいと思います。
週末に、峰先生とコロワくんの山田悠史先生(https://twitter.com/YujiY0402)と新妻免疫塾のヅマくん・新妻耕太先生(https://twitter.com/ikra_newife)と4人で「文化人放送局メディカルスペシャル」というのをやっていまして、そこでも解説した内容になりますが、峰先生にもお伺いしながら進めていきたいと思います。
参考:文化人放送局 医療 SPECIAL 動画
https://www.google.com/url?q=https://youtu.be/XtAo7ztOzNo&sa=D&source=editors&ust=1622017735286000&usg=AOvVaw2fZ8mkKWL9UHKD_toojQwc
2021/5/21(土)
峰宗太郎
よろしくお願いします。
木下喬弘
ファイザーとモデルナというのは基本的に同じタイプのワクチンと思っていいですか?
峰宗太郎
はい、ファイザーとモデルナは同じ種類のワクチンです。
木下喬弘
これ、コカ・コーラとペプシでしたっけ?
峰宗太郎
はい、コカ・コーラとペプシくらいの違いしかないと思っていただいていいと思います。
木下喬弘
僕とメディカルノートで出した記事を連ツイでぶら下げておきました。別に何も新しいことは書いてないんですが…
参考:間もなく国内でも使用開始か モデルナ製新型コロナワクチンの詳細を知る
https://news.yahoo.co.jp/articles/82eb4c66483aa4d6eec68b976945a2ff22e8a86f
出典:Medical Note 2021/5/18
基本的にはコカ・コーラとペプシくらいの違いしかない、これを言い出したのは山田先生なので、皆さん、説明で使うときには山田先生に「ありがとう」と心の中で思ってから使ってください。
ということで、基本的にはファイザーとモデルナは同じものだと思ってもらって大丈夫。
アストラゼネカはなんでしたっけ? 7up でしたっけ?
峰宗太郎
麻婆豆腐です。
木下喬弘
(笑)
これ、聴いてないと意味が分からないと思うのですが、コカ・コーラとペプシだということで、アストラゼネカは7up だとか Dr.ペッパーかスプライトかとか、僕とヅマくんが話していたら、峰先生が「いや、麻婆豆腐くらいは違う」ということ言い出しまして…
要するに峰先生がおっしゃりたいことはファイザー、モデルナのワクチンとアストラゼネカのワクチンは相当違うということですね。
コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝情報として注射しているということ自体は一緒、まあ「口に入るもの」としては一緒くらいですが、のせているものや遺伝情報を運んでくれるものも全然違うし、中に入っている遺伝情報もメッセンジャーRNA(以下 mRNA)と DNA という違いがあるんですね?
峰宗太郎
その通りです。
ベクターワクチンは DNA の形で運んでいるということですよね。
木下喬弘
ということで、原理的にも相当違うというまとめを、もう一度チェックしていただければと思います。
つまり、ファイザーとモデルナのものは、基本的にコカ・コーラとペプシくらいの違いしかない、mRNAワクチンであるということは同じ。
細かい違いは、メディカルノートの記事に書いてあります。
たとえば、局所の副反応は、モデルナの方が5〜6%ほど多いと報告されています。接種が進んだアメリカで V-safe というシステムで集めたデータを見ると、皆さんがおそらく経験するであろう、いわゆる副反応は、モデルナの方が若干多いということが分かっています。
また、アナフィラキシーの頻度は、100万回あたりでファイザーは4.7回、モデルナは2.5回ということで、少ないといっていいかどうかはさておき、それくらい微妙な「頻度の違い」があることはわかっていて、それも大きな差ではないだろう、と。
あとは冷凍保存はモデルナはマイナス20℃から解凍してもそこそこもちますので、分配の面でみると、モデルナの方が若干有利であるとか。それくらいの違いがあるのですが、打たれる側の人間としてはそんなに大きな違いはないよ、という話です。
アストラゼネカのワクチンについては「ウイルスベクターワクチンとはそもそもなんなの?」という話も、このこびナビのスペース(Clubhouse)でもやっていて、過去の note にすでにあがっていますので、ウイルスベクターワクチンの仕組みなどを知りたい方はそちらもチェックしていただければと思います。
参考:ウイルスベクターワクチンってなんですか?
https://note.com/cov_navi/n/nfe7cde3ab04a
出典:こびナビ note 2021/2/25
【アジア域内でのコロナワクチン生産について】
それでは3つ目のニュースにいきたいと思います。
米モデルナ:日本含めたアジアでのコロナワクチンの生産を検討
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-21/QTFX6LT0G1KY01
出典:Bloomberg 2021/5/21
21日に正式に承認された直後に、モデルナの広報担当が「アジア域内での生産を検討している」と明らかにしたことがニュースになっています。
モデルナのワクチンは、6月までに4000万回分、さらに9月までに追加供給を受けることが決まっていて、つまり5000万回分日本にくるということは確定で、2500万人分打てる。
ちなみにファイザーのものは1億5000万回分確保できているんですね?
黑川友哉
そうですね。
木下喬弘
モデルナのものと合わせて2億回分なので、トータル1億人分。
黑川友哉
対象となる国民全員分はカバーできているということですね。
木下喬弘
日本の人口構造で、1億2000万人のうち15歳以下が何人いるのか正確には把握していないのですが、基本的には全員 mRNAワクチンが打てるという状況になっているということで、このモデルナの5000万回分は相当ありがたいなという話です。
このニュースで、モデルナのワクチンの国内供給を担うのは武田薬品工業で、クリストフ・ウェバー社長兼 CEO が「追加で5000万回分を供給するため協議をしている」と明らかにしたようです。
モデルナの国内生産は日経電子版でも報じられていて、Nikkei Asia にステファン・バンセル CEO のインタビューが英語でそのまま載っていますが、 「アジアでのワクチン生産を検討、協議をしている。日本国内の生産についても、初期段階だけれど、日本の複数の専門家と協議をしている」と。
また、Bloomberg では、この報道を受けて武田薬品工業の株価が前日比1.9%高の3832円まで上昇した。
まだ決まったわけではないですが、武田薬品工業がひょっとするとモデルナのワクチンの国内生産をすることになるかもしれない、ということです。
実はこのニュース、もうひとつ書いてありまして、武田はモデルナに加えてアメリカのノババックスとも、年2億5000万回分のワクチンを日本で製造し供給するライセンス契約を結んでいるようです。
また新しいワクチンの話が出てきたんですが、この2種類のワクチン、もしかすると日本でも作れるかもしれない、すなわちモデルナのワクチンとノババックスのワクチンを武田が日本で作ってくれる可能性があるということですね。
ちなみに mRNAワクチンを日本でも作っている第一三共も生産に関する知見を持っているということを海外メディアは報じていまして、そのあたりが候補になってくるのではないか、というようなことが記事になっています。
このニュースは結構明るい、日本国内で mRNAワクチンが作れるかもしれない、ということですが、ご登壇いただいている先生方、いかがでしょうか?
何かコメントがあればお願いします。
峰宗太郎
株、買っておけば良かった…
木下喬弘
(笑)せやな!
安川先生、どうでしょう? mRNAワクチンを日本で作れるかもしれないということらしいですよ!
安川康介
株、買っておけば良かった…
冗談です。
岡田玲緒奈
COI(conflict of interest、利益相反)や、COI!!!
木下喬弘
このニュースで株価が上がるってびっくりですよね、予想されていたことじゃないんか、って気もしますけど。
ということで、モデルナはひょっとして作れるかもしれないということなんですが、せっかくなのでノババックスの話をしましょうか。
ノババックスも実はこびナビスペース(Clubhouse)で一度紹介していて note にもなっています。「Matrix-M」というカッコいいアジュバントを使うワクチンですが、このノババックスのワクチンってどのようなものか、安川先生、解説していただくことはできますか?
安川康介
これ、峰先生が前に Clubhouse でかなり詳しく話していたので、興味のある方はそちらを読んでいただきたいのですが… mRNAワクチンでもベクターワクチンでもない、組み換えタンパクを使って、それに Matrix-M という免疫反応を強く起こすようなもの(アジュバント)を付けた、従来型のワクチンに近いかたちのワクチンです。
mRNAワクチンが怖いとか、ベクターワクチンが嫌だとか、そういう方には、もしかしたら組み換えタンパクワクチンの方が少し接種しやすいのかなと思います。
ただ、効果に関しては mRNAワクチンよりも変異ウイルスに対しては少し落ちるというデータも一応出てきている、という印象はあります。
木下喬弘
変異ウイルスと一括りにいっても、いろいろなものが出てきて、結構混乱する感じなのですが、安川先生が仰った「変異ウイルスに対する効果が落ちる」というのはいわゆる南アフリカの…?
安川康介
そうですね、B.1.351 といわれるいわゆる南アフリカ由来と呼ばれていたものですね。
木下喬弘
すでに、B.1.1.7 というイギリスの変異ウイルスに関しては、免疫逃避といわれる、ワクチンの効果とか一度感染して得た効果とか、そのようなことが落ちることはあまりないのでは? といわれています。
一方で、確実にワクチンの効果が落ちることがわかっている B.1.351 というタイプの変異ウイルスについては、ノババックスはしっかり調べていましたよね。
効果は50%ぐらいなんですよね?
安川康介
そうなんですよ、半分くらいなんですよね。
先ほどのアストラゼネカのワクチンは、 NEJM(The New England Journal of Medicine)、少年漫画でいえば「少年ジャンプ」みたいな雑誌に、「(B.1.351 に対して)ほとんど効果はない」というようなことが出ていますので、それに比べたらかなり有望かなとは思います。
木下喬弘
ノババックスも南アフリカの変異ウイルスに対して50%弱になるということが少年ジャンプに載っていると。
一方で最近、抗体価が mRNAワクチンと変わらないくらい上がるという噂もありますよね?
クラスター対策班の古瀬先生がツイートされていましたが、ワクチンの効果と抗体価の上昇のようなものをわかりやすく一覧にしていただいておりまして、それを見ると(ノババックスのワクチンは)mRNAワクチンとほぼ同じくらいのところまで上がっている。
アストラゼネカのワクチンは、ちょっと抗体価の上がりが他のワクチンに比べて低めということを図で示していただいているツイートがありました。
参考:古瀬先生のツイート
https://twitter.com/ykfrs1217/status/1394305661224120334?s=20
Yuki FURUSE(https://twitter.com/ykfrs1217?s=20)
ノババックスのワクチンも、実は、日本では武田薬品工業が製造して供給するライセンス契約というのを結んでおりまして、それがうまくいくと2億5000万回分作れるかもしれない。
こうすると完全にワクチン輸入国だったのが、一転して輸出国になれるということです。もちろん、ノババックス社が儲かる仕組みにはなるのだと思うのですが、国内での安定供給についてもある程度の目途が立ちます。
さらに、日本は COVAX、世界的にワクチンを供給させるシステムに対して全く貢献していないという若干の批判もある中で、製造して、提供していく体制が組まれていけば非常に喜ばしいことかな、と思います。
参考:アジュバントのいるワクチン、いらないワクチン
https://note.com/cov_navi/n/nf05893df2d5e
出典:こびナビ note 2021/3/15
ということで、ここまでモデルナ・アストラゼネカ・ノババックスの話をだらだらとしてきましたが、何か追加コメントがある先生はいますでしょうか?
安川康介
モデルナ社のワクチンは、やはり現場で希釈しなくていい、というメリットがあると思います。
ファイザー社のワクチンはバイアルに0.45cc 入っているのですが、まず溶かしてから、1.8cc の生理食塩水を追加して、それを0.3cc ずつ取っていく…という作業が必要になってくるんです。
なので、「生理食塩水だけ打っていた」というようなニュースもありましたが、ファイザー社のワクチンの場合はそのような手間がかかるのに対して、モデルナ社のものは0.5cc ずつそのまま取って10回分、死腔の少ないシリンジを使えば11回分とか、もう少し取れるみたいです。
保存に関しては、モデルナ社が冷蔵保存2℃から8℃で30日間もつ、ファイザーが5日間ということだったのですが、最近ファイザーも1か月もつということがわかったので、そこに関してはあまり大きな違いがなくなってきたかなと思います。
モデルナ社のほうが少し扱いやすかったということはあります。
木下喬弘
この「生理食塩水だけ打ってしまった」というアクシデントですが、日本国内でもいくつか報告されていますね。
ファイザーのものでは、薬の入った瓶に生理食塩水を入れて薄めて、それをもう一度注射器に吸ってから人の体に注射するということをやっています。
そうすると1瓶分使いきったらもちろん空になるわけですけれども、空の瓶に生理食塩水を入れて、生理食塩水だけを(注射器に)吸い上げて打ってしまった、ということがちょこちょこ出ているということです。
使い切った瓶はすぐに破棄するようにするなどの注意が必要なんですが、実は「誰にどれを打った」のかがちゃんとわかるように、バイアルはすぐに破棄してはいけないということになっているらしくて。
こうした「実際に接種するフローの中でミスが起きやすい」というのは重要です。ワクチンを打ったつもりになっていたのに、実は生理食塩水を打っていたなどは、かなり重大な問題で、現場レベルでは重要なことです。
ミスなく打てるような仕組みというか、もともと瓶の中に入っているものを吸い出すだけで打てるモデルナの方がメリットがある、という面はあるかと思います。
黑川友哉
別に怖い話ではないんですが、モデルナの扱いについては注意が必要です。
ファイザー社のコミナティ筋注では、ディープフリージング、マイナス80℃などの超低温での保管がずっと言われてきて、これは「大変だな」というのはあったと思います。
一方で、モデルナの場合は、添付文書にも書かれているのですが、マイナス40℃以下で保管しないこと、つまり「下げすぎるな」ということが書かれています。「下げておけば安心だろう」というノリで、ファイザー同様にマイナス80℃のフリーザーとかに入れてしまったりすると、保管の仕方を間違えてしまうことになるので、これはちょっと注意した方がいいかな、とは思っています。
木下喬弘
ディープフリーザーって、日本全国の80カ所でしたっけ? 病院に送り込まれていて、そこに管理されるようになっているんですよね?
そこに間違えてモデルナを入れてしまうと…
黑川友哉
そうです、基幹病院といわれるところだと思いますけれど、そういうところで間違えて(モデルナ社のワクチンを)マイナス80℃のディープフリーザーに入れちゃうようなことは避けなくてはと思います。
木下喬弘
ありがとうございます。
現場レベルでの保管の方法でどれだけ混乱を生みそうなのか? というのはわからないんですけど、マイナス20℃で保管というのをマイナス80℃に入れてしまってはまずそうなので、そういった注意点が必要という話かと思います。
【ワクチン接種後の心筋炎の懸念について】
最後に、残り3分しかなくて、めっちゃ短い記事なのですが、バタバタと解説するほど軽い感じの記事ではないので、一応ちゃんと見ていきたいと思います。
ニューヨーク・タイムズに今回の mRNAワクチンの安全性についての懸念が報告されています。
C.D.C. is investigating a heart problem in a few young vaccine recipients
https://www.nytimes.com/live/2021/05/23/world/covid-vaccine-coronavirus-mask#cdc-is-investigating-a-heart-problem-in-a-few-young-vaccine-recipientses.com
出典:The New York Times 2021/5/23
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が Heart Problem を調査中である、数は少ないながらもワクチンをうけた若い人たちの中で心臓の問題を懸念して調査しているということです。
具体的には、10代20代の方に、少ない報告数ではあるものの「新型コロナワクチンを打ったあとに心臓の問題が起こった」と報告されていて、CDCが今調査中とのことです。
心筋炎という病気がこのワクチン接種後に起きているということが報告されていて、症例数としては比較的少ない(relatively few)ということです。
CDC としてはこの報告はまだ early stage だということで、これから因果関係や正確に頻度を調べたりということをやっていくということになります。ガイダンスを出していて、臨床医に対して「若い人で少し稀な心臓の症状が出てくる可能性があるので注意してください」とアナウンスをしているようですね。
インタビューに登場されている Dr. Celine Gounder も繰り返し「ワクチン接種とこの心筋炎は偶然の一致かもしれない」と言っていて、ここからしっかりと安全性を検討して、心筋炎とワクチン接種の間に因果関係があるかを調べていくというかたちになると思います。
今のところ10代や若い成人に起きていて、特に2回目接種の4日後くらい、モデルナとファイザーの mRNAワクチンに起きている、どちらかというと男性の方が女性よりも多いということが指摘されているという状況だということです。
これから調べていくというところなので、まだ議論を深めて話をできるような状況ではないのですが、第一報としてニューヨーク・タイムズに出てきていますし、もしかすると日本のメディアも報じるかもしれません。注意して見ていって、また情報提供できればな、と思います。
何かこのニュースに関してコメントのある先生、いらっしゃいますでしょうか?
安川康介
心筋炎と聞くととても怖いと思います。心臓の筋肉の炎症が起きる病気なんですが、結構いろいろなことで起きるんですね。
僕もたまに診ます。
心筋障害がある時にトロポニンという蛋白がこぼれて出てくることがあるのですが、特にアメリカの救急では、かなり多くの人でトロポニンが測られて、それが上がっていたら精査します。
心筋炎自体は新型コロナウイルスや他のウイルスでも起こります。例えば、コクサッキーウイルスというすごく有名な心筋炎を起こすウイルスがあります。それ以外にもライム病ですとか細菌の病気、またお薬とかループスなどの自己免疫疾患、いろいろなことが原因で起きてくる病気なのです。
今のところ、ワクチンを受けていない人と比べても頻度は上がっていないということがはっきり書いてあるので、注視しながらもあまり不安にならずに見るのがいいのかな、と思います。
今後おそらくメディアとかでもいろいろと取り上げられて騒がれたりするかもしれないのですが、今の時点でははっきりと副反応とはわかっていないということはお伝えしておこうと思いました。
木下喬弘
いかにも週刊誌とかに書かれそうな気がしないでもないですけど…日本でも心筋炎とかが出たらありそうな感じもしますけど…
安川先生のおっしゃるとおり心筋炎って、実は僕も救急医時代に結構診ているんですね。
確かに重症になる例もあります。若齢者で突然めちゃくちゃ心臓の動きが弱くなって、ほとんど動いていないような状態になって、体外循環とか回さなくてはいけないことも確かにありますね。今のところは軽症例が多いということなので、めちゃくちゃ心配する必要はないかな、と思いました。
「ワクチンのせいではない」という可能性もありますので、頻度の低い副反応の検証は難しいですけれども、CDC がしっかり調べていってまた報告すると思いますので、こちらこびナビのスペースでもアップデートしていけたらと思います。
黑川友哉
単純比較は難しいんですけれども…こういった頻度の低い副反応の疑いが出てきたときに、自然発生率と比べてどうなのか? ということは、今アメリカで調べていただいているところだと思います。
ちなみに、日本では心疾患というくくり、この中には心筋梗塞や不整脈というものも含まれていて、20代から39歳までの間で1年間で821例の方が心疾患で亡くなっているという報告はされています。
やはり「心疾患が起きました」「こういう重症例がありました」という報道だけであまり不安に感じなくていいのかな、自然に発生することもあるんだ、ということは知っておいていただいていいかと思いました。補足でした。
木下喬弘
ありがとうございます。
そもそも「人はどれくらいの頻度で突然死するのか」というのは結構難しいのですが、そのような統計や疫学のデータを使うとなんとなくイメージもわくような感じもします。
とはいえ、心疾患で亡くなった人の中には、拡張型心筋症という基礎疾患があってずっと闘病されていた方もいらっしゃれば、急性心筋炎みたいなもので本当にいきなり心臓が止まって亡くなる方も当然いらっしゃるわけです。
そういうことがどれくらいの頻度で起きているかを正確に把握するのは、すごく難しいんですけど…黑川先生にご指摘いただいたように、若い人でも実は心臓の問題というのは全然ゼロではないよ、とご理解いただいておくと、ワクチン接種後に心停止で亡くなったという1例に関して「これ、絶対ワクチンのせいだ」というような思い込みは少しは減るのではないかと思います。
ということで、そろそろ時間も来ましたし、この辺りで締めさせていただこうと思いますが、ご登壇いただいている先生方、何かございますか?
池田早希
すみません、一点だけ。
その心筋症なんですけど、私も小児感染症科で、コロナに関係なくお子さんで心筋症が起こって、原因が何なのか? とコンサルトを受けることがあります。
厄介なのが、先ほど安川先生がおっしゃられたウイルスの他にも EBウイルス等別のウイルスや、感染症ではない病気などいろいろな原因がありますが、調べても結局「原因がわからない」ということも多いんですよね。
ですので、そういう意味では「ワクチンのせいだったのか?」ということは患者さん個人の検査で調べるのは、なかなか難しいところがあるのかなと思います。
だからこそ、頻度の比較だとか安全性をモニタリングするシステムがとても重要になるのだなと思いました。
木下喬弘
おっしゃる通りで、心筋炎って診断つかないんですよね。
原因がほとんどわからないと思うんですけど、心筋のバイオプシー、生検をやったりすることもありますが、それでウイルスが出たりということは、僕は実はほとんど経験がないんです。
原因がなかなかわからないと、ワクチン接種と同タイミングで起きたときに、ワクチンのせいだともせいでないともなかなか言い切れないというところが難しいかな、と思います。
安川先生、何かあります?
安川康介
今アメリカに住んでるですけど、コカ・コーラとペプシの例で、周りのアメリカ人からすると全然違うというようなことをいわれたりします…
木下喬弘
(爆笑)
安川康介
私はペプシしか飲まない、とかダイエットペプシしか飲まない、とか私はゼロ・コカ・コーラしか飲まないとか、味が全然違うとか…
池田早希
Dr.ペッパーとか…
安川康介
Dr.ペッパーはさすがに全然味が違うので別のジャンルになってくるのかなーと思うんですが、コカ・コーラとペプシが一緒だと言ったら結構怒られるかな、と(笑)
木下喬弘
わかりました。では伊右衛門と綾鷹くらいにしておきますか!
ということで、今日はこの辺りで終わりにさせていただきたいと思います。
本日も1,000人以上の方に聴いていただいてありがとうございます。
また明日からも毎朝8時半から9時の時間でやっておりますので、よろしければ聴いていただければと思います。
それではこびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース、ここまでにさせていただきます。
日本の皆さま、よい1日をお過ごしください。