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新型コロナウイルスと精神疾患について、因果関係とは何か(4月26日こびナビClubhouseまとめ)

こびナビ広報

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4月26日(月)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:🔥(木下喬弘)


【オープニング】minesoh’s in da house に沸くこびナビ

木下喬弘
危ない。気付いたら8時30分になってましたね。

黑川友哉
もう月曜日ですね。おはようございます。
また1週間が始まってしまいますが、昨日面白い動画が投下されたので、
(岡田玲緒奈作「minesoh’s in da house」音声にご注意の上ご覧ください。https://twitter.com/eireonaok/status/1386289140816220163?s=20
今週も楽しく過ごせそうですよね、玲緒奈先生♪

岡田玲緒奈
ありがとうございます。

木下喬弘
もうあれ正気の沙汰じゃないですよねほんとに(笑)

黑川友哉
目指してるところはどこなんですかね。

安川康介
作るのにどれくらいかかったんですか。

岡田玲緒奈
多分曲が1時間半くらいで、動画が1時間半くらいだったと思います。
(岡田註: よく考えてみると曲も動画もプロトタイプにそのくらいかかり、現在のバージョンになるのにおそらく各々この倍くらいかかっています。総計6時間くらいだと思います。)

安川康介
結構速いですね。すごくクオリティーが高くてびっくりしました。

木下喬弘
なんであれを作ろうと思ったんですか(笑)

岡田玲緒奈
それが思い出せないんですよ(笑)
何か曲をやりたくなったんです。

木下喬弘
(ラップ)峰でございます 峰でございます♪

黑川友哉
Clubhouse の地獄みたいなルームでだいぶやられちゃったからじゃないですか。

岡田玲緒奈
やっぱり正気の沙汰じゃないってことですね(笑)

黑川友哉
正気の沙汰じゃないですねー。

木下喬弘
「キュッキュキュッキュッキュ ミューテーション!」
が相当おもしろかったです。

岡田玲緒奈
皆いろいろ推しポイントがあるみたいで、僕は「野菜になっていく NEW YASUKAWA-1」の掛け合いのところがいいですね。

黑川友哉
あれも最高ですねー! 木下先生の最後の「それでは皆さん…」のくだりもいいという意見も多いですよね。

岡田玲緒奈
あれが入るタイミングを1番頑張りましたね。多分0.1秒単位でかなり集中して調整しました。まぁアホですね。

木下喬弘
いやーほんとに笑かしてもらいました。ボストンは雨ですが、あの曲のおかげで気分が明るくなりました。

岡田玲緒奈
よかったです(笑)


【ニュース:新型コロナ回復者と精神疾患/因果関係を証明するには】

木下喬弘
今日はルームの名前が今までにない形で、「こびナビの🔥が解説する世界の最新医療ニュース」となっています。誰がつけた名前かわかりませんが、どうやら今日は私が解説する回っぽいです。

本日解説するのは、ランセット・サイキアトリーに出た論文です。

6-month neurological and psychiatric outcomes in 236 379 survivors of COVID-19: a retrospective cohort study using electronic health records
https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(21)00084-5/fulltext
出典:THE LANCET Psychiatry 2021/4/6

端的に言うと、「新型コロナウイルス感染症で生存した236,379人の6か月までの神経・精神症状の調査結果」という論文です。

新型コロナウイルスワクチンとはあまり関係ないのになぜこの論文を選んだかというと、私のところに「コロナの罹患と精神疾患を因果関係なく紐付けるような発言がネット上に散見されるので解説をお願いします」という依頼が来たからです。

以下は「コロナから回復した人は精神疾患にかかる率が高い」というこの論文で得られた結果です。

・新型コロナウイルスに感染した人の中で精神疾患ないし神経疾患(脳卒中なども含む)を発症した人が33.62%
・その中で初めて精神・神経疾患の診断名がついた人が12.84%

これを読んで、
「まあ確かに精神疾患を発症してるんじゃないでしょうか。そのネット発言の何が問題なんですか」
と訊いたところ、
「疫学的な事実として精神疾患を発症する人が多いということですが、それはウイルスや薬剤が引き起こすものなのか、それとも別の要因(長期間隔離されて外に出ないことの影響など)があるのか解説をお願いしたいのです」
と返事があり、安易に「わかりました」と応じたのですが、これがなかなか難解でした。その記事を書くのに数日間手間取っているついでにこびナビの Clubhouseネタにして、1粒で2度おいしくしようと計画したわけです。

この Clubhouse をお聞きの方は理解されている人も多いと思うのですが、「因果関係とは何か」という話は結構哲学的です。疫学的に因果関係をどうやって証明するのかをもう1度振り返ってみます。

まず「個人レベルでの因果関係は証明できない」というのがスタート地点です。
例えば、新型コロナウイルスのワクチンを打った後にクモ膜下出血で亡くなった人がいるとします。これを「ワクチンを打ったせいでクモ膜下出血になったはずだ」と主張する人たちがいまだにいます。しかし個人レベルでの因果関係は、タイムマシンがないとわかりません。つまり「クモ膜下出血で亡くなった方がワクチンを打っていなくてもクモ膜下出血になったかどうか」はタイムマシンを使って過去に戻り、ワクチンを打たなかった場合との差を観測しないと証明できないのです。

では因果関係はどうやって証明するのか。
これは、集団の中でワクチン接種者と非接種者のクモ膜下出血の発症頻度を比較する建て付けになっています。これが「個人レベルでの因果関係はわからないが、集団での因果関係は推定できる」という話に繋がります。しかし、集団での比較にもいろいろややこしい問題があります。集団のデータを集めたときに、因果関係を証明するための条件(識別条件といいます)は3つです。

1つ目は交換可能性(exchangeability)と言います。
ワクチン接種者と非接種者の間での潜在アウトカムが交換可能という条件が必要です。単純にいうと、ワクチン接種者と非接種者で、ワクチン接種者の方が重症だったりするとまずいということです。

例えば、ワクチン接種者よりも非接種者の方が、新型コロナウイルス感染症を発症した患者さんが多かったとします。ワクチン接種者よりも非接種者にパーティーをやりまくっている人が多かったら、ワクチンのせいで発症が減ったのか、パーティーに参加する頻度が低いせいで発症が減ったのか区別ができません。つまり、比較する2つの集団は似たような疾患発生頻度でなくてはいけません。

今回の論文でどのようにして1つ目の条件である交換可能性を満たそうとしているかというと、新型コロナウイルスに感染した人と、同時期にインフルエンザに感染した人との間で精神疾患の発生頻度を比較しています。コロナ感染者とインフルエンザ感染者で精神疾患の発生のしやすさが違うかもしれないので、そこを調整する傾向スコア・マッチングという方法をやっていますが、その詳細は一旦吹っ飛ばすとして、何かしらフェアな比較になるようにしているのがこの論文の1つ目のポイントです。

これも完璧かどうかを突き詰めていくと話が長くなるのですが、仮に交換可能性の担保について最大限の努力をしたとします。つまり、交換可能性という条件は満たしているとしましょう。

2つ目は、一貫性(consistency)という条件です。これはこの論文で非常に問題になってきます。

対話形式に突然切り替えてみますが、安川先生いま大丈夫ですか?

安川康介
はい大丈夫です。

木下喬弘
肥満が心疾患に与える効果や影響は、因果関係を証明するのが難しいというのは聞いたことがありますか?

安川康介
えーと…難しいんですか? 他の因子とかと関係しているからとか、そういうことですか?

木下喬弘
なぜ難しいかというと、例えば太っている人がいるとするじゃないですか。身長150cm、体重80kgの人がいるとして、その人が体重50kgになったら心疾患の発生リスクが下がるか研究する際、30kgの減量が心疾患に与える因果関係をどうやって調べるかは非常に難しいんですよ。
何故かというと、「減量」というのは介入がバラバラだからです。減量できたのが糖質制限をしたからなのか、毎日運動したからなのか、脂肪吸引手術を受けたからなのか、介入の条件は1つではないですよね。

これが、「肥満が心疾患に与える因果効果」を推定するのが難しい理由なのです。つまり「状態の効果」って実は難しいんですよ。

安川康介
同じ方法で別の体重を目指すとかそういうことですよね。

木下喬弘
そういうことです。
例えば、黒人であることの効果は難しいんですよ。同じ人を白人から黒人にいきなりチェンジできないですよね。ジェンダーの効果はまだ比較的推定が簡単なのですが、生物学的な性の効果は難しいです。このように、「介入の効果」を調べるのは比較的簡単ですが、「状態の効果」を調べるのは難しいです。
(実はこのセンシティブな問題については、因果推論界隈でも非常に多くの意見があるのですが、ひとまず一筋縄ではいかないということだけご理解いただければと思います。)

これを踏まえると、コロナに感染したことが精神疾患に与える効果は「状態」なので難しいのです。コロナウイルスを人の鼻の穴に注入することによる効果なら「介入」なので比較的わかりやすいです。

言い換えると、
・ウイルスの効果なのか
・ウイルスによって引き起こされた人の免疫反応による効果なのか
・ウイルスに感染したために集中治療室に入院し、集中治療室でうるさいモニター音に2週間ほど曝露されたことによる効果なのか
・コロナに感染したことで「感染対策がなってないダメな奴だ」といった社会的なスティグマ(病気を恥だと考えること)を向けられたことによる効果なのか
を区別できないのが難しいと言っているわけです。僕の言いたい事がなんとなく伝わってきたでしょうか。

コロナに感染したことで精神疾患を発症すると言うこと自体は簡単で、約30%の人が発症しているので「多いじゃないですか」と僕は気軽に答えました。しかし「ウイルスによるのか薬剤によるのか長期間隔離した影響なのか解説してください」と言われると、ウルトラ難しいんですよね、これ。

こういうのを真面目にやっている学問が「因果推論」という疫学の分野で、私はその教育も受けてきましたので、頑張って解説しようとこの論文を読んでいたわけです。

さて、状態の効果の検討は難しいわけですが、ではどう扱うのが良いかというと、ランダム化比較試験を模倣するのが1番いいんですよね。つまり「介入」に置き換えて考えます。ランダム化比較試験を模倣する方向性で考えていくと少しクリアになるのが、因果推論をする上でのポイントです。


【論文の結果解説/医師は論文をこう読む】

もう1つくらい解説したいことがあったのですが、さすがに16分経ったので、論文の結果の解説に行こうと思います。
(3つ目はpositivityという条件になります。詳しくはこちらのサイトを参照してください。)

以上を前提として、コロナ感染後の精神疾患発症に因果関係があるかどうかを調べるには、何の因果関係を見るべきかを考える必要があることをまず念頭に置いてください。この論文では、まず、コロナにかかった人と同時期にインフルエンザにかかった人との間で、精神疾患の発症頻度にどの程度差があったか、ハザード比という指標を用いて比較しています。

このハザード比にも実は問題が多く、もし興味があって調べたい方がいらっしゃったら、まずは「The Hazards of Hazard Ratios」というハーバード大学のミゲル・ヘルナン教授が書いた超有名な論文があるので、それを読んでいただくとハザード比の問題が把握できると思います。その後にこの論文を読むと、ツッコミを入れたくなるところがいろいろ出てきます。

参考:The Hazards of Hazard Ratios
https://www.google.com/url?q=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3653612/&sa=D&source=editors&ust=1621403990512000&usg=AOvVaw3jEVYlpE6nkujS9CdJJJTK


話を戻します。コロナにかかった人とインフルエンザにかかった人との間で、時系列的にどれくらい精神疾患の発症頻度が上がるかを比べると、例えば気分障害や不安神経症はコロナにかかった人の方が1.46倍高く、コロナ vs 他の呼吸器感染だと、コロナの方が1.2倍高いです。他の呼吸器感染に比べ、コロナに罹患した方が精神疾患の発症頻度が高そうだということが、まず結果として示されています。

つまり、コロナにかかった人がコロナにかかっていない人よりも精神疾患の発症が多いだけではなく、他の呼吸器感染と比較しても精神疾患の発症がより多いのです。ということは、ウイルスの問題やコロナの治療の問題など、コロナ特有のものによって精神疾患になっていそうだとイメージできます。これがこの論文からわかることの1つ目です。

ただ、まだこれでもコロナ自体が悪いかどうかは不明な点があります。

例えば集中治療室に入って治療を受けると当然認知機能にも影響が出ますし、精神疾患の発症に影響を与えるので、「コロナが悪い」のか「コロナで治療を受けた環境が悪い」のかはよくわかりません。

そこで次にこの論文で比較されているのが、「入院を要しなかった患者に限る」という解析です。入院しなかった患者さんなので、重症ではありません。重症ではないので、例えば集中治療室での治療が与える影響を除外できます。入院しなかった人におけるコロナ vs インフルエンザで精神疾患の発症リスクを比較すると1.49倍、また他の呼吸器疾患との比較では1.18倍という結果です。

入院しなかった人に限定しても、コロナはインフルエンザより約1.5倍精神疾患の発症が多いわけです。これで「集中治療室などでの治療の影響を除外してもなおコロナウイルスの何かが精神疾患の発症に影響を与えているらしい」というところまで詰めることができました。

もう1つ、異なる軸でも見ています。それはコロナになった人たちの重症度の違いによって精神疾患の発症リスクが違うかということです。

コロナになって入院しなかった人 vs コロナになって入院した人
コロナになって集中治療室に入らなかった人 vs コロナになって集中治療室に入った人

という比較をしていて、入院した人は1.23倍、集中治療室に入った人は1.34倍、脳症の診断名がついた人は1.73倍と、重症度が上がっていくごとに精神疾患の発症が多くなることがわかっています。

集中治療室での管理等の影響の可能性もありますが、入院していない人と入院した人で発症リスクが違うということは、重症度が精神疾患に与えている影響は、やはりそれなりにあるだろうと言えます。

このように、新型コロナウイルス自体が精神疾患の発症に関与しているのではないかという推測を少しずつ積み重ね、推論としての妥当性が上がっているイメージです。

まとめると
・コロナに感染した人で精神疾患を発症する人は結構多い
・それは他の呼吸器感染に比べても、1.3~1.4倍多い
・重症になればなるほど、精神疾患を発症するリスクは高い
・軽症の人同士で比べてもコロナに罹患した人は他の呼吸器感染症の人より精神疾患の発症が多い
・「コロナのせいで精神疾患を発症している」という結論に一応持っていけそうだ

ということです。

ただ、ここでもまだ問題が残っています。
1つ目は、コロナに感染したことによる社会的影響がまだ除外できていないことです。コロナに感染したことで自分が受けたショックというか、社会的に注目されている疾患に感染したことで精神的に異常をきたしたという問題があるので、ウイルス自体の悪さなのか、ウイルス感染によって惹起された人の身体の免疫の異常によるものかを、この研究だけで判断するのは難しいです。

もう1つは、因果推論をするときに重要になってくる「情報バイアス」の問題です。コロナに感染した人は、良くなってからも当然他の人と違うフォローアップをされますよね。例えば、インフルエンザに感染した後は、それほど頻回なフォローアップをされなかったり、同じ回数外来に行ったとしても、特別に「最近寝つきが悪いとかありますか?」など精神神経症状を確認するような質問はあまり聞かれないでしょう。コロナになった人の方が精神疾患の診断を受けやすい構造があると、インフルエンザに比べてコロナの方が精神疾患の発症が多いことが、本当に「コロナウイルスのせい」かわからなくなる問題が出てきます。
これは misclassification(誤分類) 、すなわち診断名が正しくないというか、診断が両群で正確でないことによる発症頻度の差かもしれないという問題が出てきます。この辺はこの研究ではなかなか解決できないのです。

実は私に来た依頼ではこの論文の内容を500字以内でまとめて欲しいと指定されていますが、ここまでお話ししたことを総合してどう返そうかと今悩んでいるわけです。

25分で僕の伝えたい事は大体しゃべることができました。コロナにかかると精神疾患の発症頻度が高いことは間違いないのですが、それが「コロナのせい」なのか、「コロナのせいとはどういう意味なのか」を明らかにするのは難しい問題であるという論文をご紹介いたしました。

ここまでで、ご登壇の先生方から何かコメントをいただけますでしょうか。
意味わかりましたか?

岡田玲緒奈
よくわかりました!
最初から気になっていたのが、「新型コロナウイルス」のせいではないかもしれないけれど、「新型コロナウイルス感染症」のせいではあると思うんですよね。治療や自分が置かれる環境など全て含めて新型コロナウイルス感染症だと僕は考えています。ですから、「新型コロナウイルス感染症のせいではある」と返答するのではダメなのでしょうか?

木下喬弘
そうなんですよね。ネチネチ考えると様々に切り分けられるのです。全然別の視点で考えてみると、リスクコミュニケーションとして「コロナやばいですよ」と伝える重要性と、「ワクチンめっちゃ効きますよ」と伝える重要性とがあるわけです。その観点からいくと、「コロナやばいですよ」と伝えるためにこの論文を出すのであれば、ウイルスのせいなのか、ウイルスに感染して受けた治療のせいなのか、その感染を起こしたことによる社会的要因のせいなのか、そもそも区別する必要があるんかという問題がありまして、
「どっちにしろやばいんやからやばいって言ったらいいやんけ!」
とも考えられるんですよね。

岡田玲緒奈
そう思います。少なくともこの2021年の今、COVID-19 に感染するのはそういうことなんじゃないかと僕は思っちゃうんですけど。

木下喬弘
確かに「予防したほうがいいですよね」という結論に1ミリも変わりはないです。ただ、「コロナのせいなんですか?」と改めて詰められると、あれこれ考える必要に迫られます。あまり大事でない話をしてしまって申し訳ないのですが…安川先生何かありますか?

安川康介
木下先生ありがとうございました。医師同士のジャーナルクラブ(論文を持ち寄って、検討する会、日本語で抄読会[しょうどくかい])並みに批判的に読んでいただきました。

医師でない方が今日の木下先生の話を聞くと「なんでこんなにツッコミを入れてるんだろう?」と感じるかもしれません。単に木下先生がこの論文をケチョンケチョンにしたいように聞こえるかもしれないのでお話ししますが、いいジャーナルの論文が出ても「そうじゃないんじゃないか」と考えながら読み込むことは医師にとって重要です。いま木下先生に非常にわかりやすい形でやっていただいたのですが、1時間くらいかけて皆でこの調子でああだこうだ言うのは医師の中でよくあることだとお伝えしておきます。

ただ、神経症状に関しては、昨年あたりから非常に話題になっていました。昨年の2月~3月頃には、新型コロナウイルスというと肺炎しか起こさないイメージがあったのですが、その後に血栓を起こす、心臓、腎臓、膵臓、神経にも影響を及ぼすことがどんどんリアルタイムでわかって、論文の報告と共に「ああ、これは本当に怖いウイルスだな」というのを僕も実際に経験しました。

例えば、今の木下先生のお話は精神症状に関してでしたが、この論文では他に脳梗塞なども見ていて、脳梗塞のハザード比の上昇も報告されています。僕の勤務する病院でも、30代の若い方が大きな脳梗塞をいくつか起こして亡くなったことがありました。

新型コロナウイルスが精神症状をメカニズム的に起こし得るかですが、例えば感染された方が匂いが嗅げないとか、味がしないとか言うのを皆さんも聞いたことがあると思います。これについては嗅粘膜から神経にウイルスが入っているとも、炎症や血栓によって神経細胞がダメージを受けるとも言われています。メカニズムとして神経障害に関連した精神症状が起こることはある程度わかっているので、精神症状が起きてもおかしくないとは思います。本当に悪いウイルスですね。

今これは6か月の研究ですが、今後さらに長期にどういう影響があるか見るのも大切です。また、後遺症といわれるものがいくつか報告されていましたが、この論文ではインフルエンザに感染した人や他の呼吸器感染症の人との比較も設定されていて、いい論文だと感じました。

木下喬弘
安川先生のご指摘の通り、例えば脳梗塞は診断が偏ることはあまり考えられませんよね。集中治療室のモニターの音がピコピコうるさい環境にいたから脳梗塞を発症したとは考えにくいですし、気のせいとも考えられないし、実際に血管が詰まって脳の MRI ではその部分の血管像が欠損している証拠があり、脳梗塞と診断がつけば、それはきっと脳梗塞なのです。この論文でも脳梗塞の発症頻度の上昇が調べられていますが、それにはあまり反論の余地がないと思います。

すなわち一貫性の問題を考えたときに、きっと新型コロナウイルスのせいだろうと、ウイルスそのものか、ウイルスによって引き起こされた人の体の反応により、病態生理学的にというか、人の体に実際に起こった異常のせいで起こっているのだとは言えそうです。

一方で、なぜ精神疾患に注目したかというと、僕は別に精神疾患の話をしたかったわけではなく、たまたま依頼があったからなのですが、精神疾患というのは非常に難しいんですよね。まず不安神経症という診断自体がどれぐらいの頻度でつけられるか不明です。実際にはもっと罹患している人が多いのに診断がつかないだけではないかとか、あるいは他の社会的な要因でも発症するんじゃないかと考えていくと、単純にウイルスが原因と言うのは難しい面が多々あると伝えたかったわけです。安川先生、大事なポイントをありがとうございました。

これほんと全く興味のない人にとっては長々と何の話をしてるんやという話になるかもしれませんが。黑川先生どうぞ。

黑川友哉
木下先生にすごくわかりやすくご解説いただけましたね。この結果って、こういう研究をやろうとした背景が何かあると思います。それはおそらく臨床現場の先生方が多くコロナの患者を見る中で、やはり何か精神疾患に影響を与えるのではないかという臨床的な疑問があり、さらに関連した論文もあるから大規模に電子カルテの情報を後ろ向きに見直して、約23万人もの患者さんの電子カルテを紐解いてこういう結果が出た時点で、すごく意味があるものです。

しかし、先ほど木下先生が最後に注釈した通り、情報バイアスには気をつける必要があります。電子カルテの記録をもとにこの結果を出しているので、例えばインフルエンザの患者さんではそこまで細かく電子カルテへの記入も無いでしょうし、そもそもインフルエンザでずっと通院することもありません。インフルエンザにかかった人で半年後電子カルテが残っているなら、多分別の疾患で通院している人だと思いますので、この比較はなかなか難しかっただろうなと考えながら聞いていました。

木下喬弘
まさにそういった問題があります。もともと精神疾患のリスク、既往症、持病があってずっと病院に通っている人たちを対象としてフォローアップをしているので、これだけのデータが残っているわけです。対象者がそういう方々なので、30%に精神疾患の診断名がついたからといって、自然発生もあり得るわけです。そうするとコロナのせいかはよくわからないので、そこを比較調査する研究でした。

黑川友哉
論文の中でも「これからさらに前向きに検討していくことも必要だよね」みたいなことって課題として書かれていましたっけ。

木下喬弘
もちろん言い訳がましく書いてありました。

黑川友哉
言い訳がましく書いてましたか(笑)

木下喬弘
僕この論文にそんなに文句があるわけではないんですが、そこの記載だけあんまり納得がいかないのです。納得いかないというか、どんな研究だって「もっと調べましょう」って別に間違っていないので、僕も論文を書くとき書くんですけれども、実はあまり意味ないですよね(笑)

黑川友哉
ここでどこまで言えるのかが大事だっていうことですね。
そうですね〜。

木下喬弘
結局、僕はこれを元にどうやって500字にこの論文の知見を落とし込むのか全く先が見えないわけですが、とりあえず Clubhouse ネタとして消費ができて良かったです。だからどうしたんやみたいな感じの人がたくさんいらっしゃると思うので大変申し訳ないです。まぁそんな感じで、コロナの何が悪いのかわからないけれど、コロナで精神疾患を発症するのは本当っぽいよねという研究のお話でした。


【エンディング/今後の予定】

本日も6分ほど超過しております。本日はこびナビの🔥が解説する世界の最新医療ニュースということで、全然ニュースではありませんでしたが、新型コロナウイルス感染と精神疾患の発症に関する研究の解説をしました。

明日は吉村先生で、水曜日は安川先生回ですね。

安川康介
インドについて話そうかなと思っています。

木下喬弘
おお! いいですね。
2重変異と呼ばれている、実際には13個変異のあるウイルス…。

安川康介
そうなんですよ。インド人の同僚が多いのですが、本当に今ひどいことになっていて、それについて扱おうと思っています。

木下喬弘
ありがとうございます。確かに、インド、ブラジルあたりが今相当ひどそうですね。
というわけで、

4月27日(火) 吉村健佑
4月28日(水) 安川康介
4月29日(木) 祝日でお休み
4月30日(金) 天才DJ えもにい先生こと岡田玲緒奈

予定のお知らせは以上です。どうぞお楽しみに! それでは本日の医療ニュース解説はここまでにいたします。日本の皆さんよい1日をお過ごしください。

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