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なぜ日本のワクチン開発は遅れているのか、COVID-19の嗅覚・味覚障害について(9月22日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年9月15日時点での情報を基にされています。※

2021年9月22日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:峰宗太郎、曾宮正晴


峰宗太郎
さて皆さん、おはようございます。
なんだか集まりが悪いですね。嫌われてるんでしょうか?(笑) これは緊急事態です。
話すことを決めていないわけではありませんが、今日は皆さんの意見を聞こうと思っていたのです。こうなると、曽宮先生との話し合いになっちゃいます。

曽宮正晴
対談になっちゃいますね(笑)

峰宗太郎
対談でマニアックな話をしてもいいですが、今日はそういうつもりじゃなかったんです(笑) 最近曽宮先生の中で、何か注目のニュースはありましたか?

曽宮正晴
そうですね……やはり、ファイザーの新型コロナワクチンが子どもでも有効らしいというニュースが気になりましたね。

峰宗太郎
大きいですね。大きいニュースなので、それは別途しっかり扱った方がいいかなと思い、今日はそれの用意をしていないんですよ。

お子さんでも打てるというか、あれは量が1/3でしたっけ? ということは、10μg(マイクログラム)ですよね。
※編集注:マイクログラム=1gの100万分の1。ファイザー社の新型コロナワクチンの成人量1回分中に、主成分は 30μg 含まれている

曽宮正晴
そうです。

峰宗太郎
結構少ない量かなと思うんですけど、ちゃんと反応するのは素晴らしいですね。

曽宮正晴
素晴らしいですね。しかも5歳以下はもっと少なくて、3μg で今(臨床研究を)やってるらしいですよ。

峰宗太郎
ああ、そうそう! 僕も聞きました。3μg といったら実験室レベルですよね。

人にこんな量で効くというのは、これはイムノジェニシティ(immnogenicity:免疫原性) として、なかなか優秀なワクチンなんですね。

曽宮正晴
やはりこの前話した LNP(lipid nanoparticle:脂質ナノ粒子)のアジュバント効果など、いろいろな要素があり、かなり少ない量でも効くのではないでしょうか。

峰宗太郎
アジュバント効果がしっかりかかっているんですね。アジュバントって、とても工夫が必要なところです。

ノババックス社の新型コロナワクチンが、どういう承認段階にあるのか私もよく知りませんが、日本で来年使えるようになるんじゃないかという話が出ていますね。あれは、マトリックス-M1 という新しいアジュバントを使っています。マトリックス-M1 はすごくいいアジュバントなんですよ。うちでも実験で使いますが、マウスがしっかり免疫される印象がありますね。

曽宮正晴
あれは確かサポニンとかを使ってるんですよね。植物由来だったと思います。

峰宗太郎
そうですね、植物由来ですね。やはり Toll-like receptor(トル様受容体)に効くようです。
いろんなテクノロジーが発達する中で、しっかりしてくるというのは大変すごい、いいことですよね。

というか、本当にメンバー来ませんね。今日どうしちゃったんだろう。
もしかして今日はお休みモードなのかな?

曽宮正晴
今週は休みが不規則なので、皆さん少し忙しいのかもしれないですね。

峰宗太郎
そうですね。今日は声掛けをしておいて、来なければ仕方がないですねえ。うーん、「曽宮先生と何しゃべろうかな」っていう感じになっちゃいますね。曽宮先生は基礎の研究をされているということで、僕も基礎寄りなので、基礎の話をしてもいいのですが、たくさんの方が聞いていらっしゃるところで基礎の話をするのは、結構大変なんですよ。

曽宮正晴
そうなんですよね(笑) どのレベルまで掘り下げるのかというのは難しいです。

峰宗太郎
難しいですね。もちろんちょっとフックがあったり、用意をしておけば話せますし、また、そのとき話題になっているものが、基礎研究やワクチンの性質そのものに関わることだと話しやすいのですが。最近の話題は、むしろもっと疫学的なことや、いつからできるのかという、制度や社会実装の問題が多いですよね。

曽宮正晴
そうですね。もうワクチンの有効性や安全性についてはかなり出尽くした感があり、安全性に関わる情報も、今後はよほど稀なものしか出てこないだろうなと思いますね。


創薬の種を育てる/芽が出ない日本の仕組み

峰宗太郎
やあ、今日はちょっと曽宮先生と、前半は、日本のワクチン業界についてお話をしましょうかね?(笑) ワクチン研究業界というのが正しいでしょうか。

新型コロナワクチンを開発できた国は、アメリカ以外にもいくつかあります。イギリス、中国、ロシアもそうです。キューバも頑張っていますが、日本のワクチンは、なぜかまだ間に合っていない状況ですよね。曽宮先生はそのあたり、概観としてどのように見られていますか?

曽宮正晴
まず(日本は)初動が遅かったんじゃないでしょうか。最初に声を上げたのは確かアンジェス社ですが、そのアンジェス社もズルズルとまだ実用化に至っていません。たぶん研究開発の底力みたいなものが、海外と比べて若干見劣りするかなと思うのが正直なところですね。

峰宗太郎
その底力の部分について少しお話をいたします。
アメリカだと、アカデミアから出た、スタートアップをしたベンチャーなんかがガンガン製薬を開発します。いいシードからある程度の成果が出てくると、大手製薬企業に買収されたり援助を受けたりして、飛躍的に大きくなっていきます。これを成功コースとして見るのですが、日本ではアカデミアから飛び出すのもなかなかありませんし、アカデミア自体に芽があまり無い感じがします。その辺はどうですかね?
※ シード=シーズ。シード化合物。創薬の際に「種」となる、出発点となる化合物。

曽宮正晴
いま日本で使われている3種類のワクチンについてですが、
・ファイザー/ビオンテック社→ビオンテック社がスタートアップベンチャー。
・モデルナ社→創業10年くらいの製薬ベンチャー。
・アストラゼネカ社→今回のワクチンのシーズは、オックスフォード大学ジェンナー研究所という、ワクチンを開発する部署から出てきた。

いずれも大学やスタートアップから出てきたもので、決して大手の製薬企業から出てきたものではないのがポイントです。日本では、アンジェス社はベンチャーですが、大手製薬企業が取り組んでいるにも関わらずまだ実用化まで進んでいないのが、とても対照的だなと思います。

峰宗太郎
やはりアカデミアの中で、種=シーズが出てくること、これがすごく重要なことですね。
基礎のあり方というか、存在意義だと僕は思うところがあるのですが、やはりそこの差が大きいですよね。その素地は、研究体制だとか、お金の量だとか、文化だとか、いろいろあると思います。今後、日本がワクチン開発が可能な国として残っていくためには、どの辺にテコ入れが必要だと、曽宮先生はお考えですか?

曽宮正晴
ここっていうポイントというか、たぶん仕組みがうまく回ってないんじゃないかなと感じます。よく言われるのは、日本でバイオベンチャーがうまくいってないのは、おそらくエコシステムの問題でしょう。
※ エコシステム=元々は「生態系」を意味する。転じて、複数の企業や施設での大きな結びつきを表す。

つまり、大学やベンチャーがうまくお金を集めて、シーズを育てて実用化するシステムが、欧米等と比べて非常に弱いのです。いいシーズがあるのに、それが世の中にうまく出て行かないという仕組みの問題があります。これはお金を出せばいいという問題では、全くないと思うんですよね。じっくりと底力を上げるような仕組みを何か作っていかないといけないのでしょう。

峰宗太郎
そう思います。おっしゃる通りですね。

ということで、これはやはり政治の問題でもあるんですよね。すごく大きな枠組みで、きっと行政だけでもどうしようもないですし、アカデミアに頑張れと言ったところで頑張れる問題ではないし、エコシステムにしても文化にしても、ただお金をポッと付ければ出来てくるわけではありません。日本も、大きな視野と危機意識を持って欲しいところです。

ワクチンにしても、基礎研究にしても、実は国防的な意味合いがすごく強いことが、今回のコロナ禍で分かった部分もあります。研究というものについて、一部の人の趣味道楽であるとか、そんなことを考える人はいないと思いますが、本当に役に立つものなのです。

ただそれは、選択と集中だとか、予算を削ってカツカツでできるものでもなければ、「研究者は大学に閉じこもっておれ」「成果なんてのは趣味みたいなもんだろう」とそんなことを思っていてはいけないわけですよね。研究の成果を社会実装まで持っていける、大きな目で見たエコシステム、それから仕組み作り、これは必要だなと、私も常々思っています。

前田先生に来ていただきました。
前田先生、お元気ですか?

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
おはようございます。すいません、ちょっと遅れて入っちゃって。

峰宗太郎
来ていただけただけで、全然優等生です。もう見てください、この惨状を。

前田陽平先生
あら! スピーカーが少ないですね! ハッハッハッハッ(笑)

峰宗太郎
曽宮先生と対談をするしかない状況に追い込まれていまして。

前田陽平先生
すみません、途中から聴き始めたのですが「今後ワクチンを日本で開発していくためには」とか、そういう話をされていたんですか?

峰宗太郎
そうなんですよ。外国製ワクチンはすぐできたのに、日本ではなかなか…日本由来というか「日本発!」というのがなかなかペースアップしなかったんですよね。

前田陽平先生
難しいですよね。純粋に今回のコロナに対応するという意味なら、国産にこだわる必要はあっても、日本開発のものにこだわる必要はそこまで無いのかもしれません。
しかし、日本で開発されたものが活用されていない点は、非常に残念ですよね。

あと、峰先生も先ほど「選択と集中」というキーワードを出されていましたが、選択と集中が残念な方に作用しているように思えます。文科省から大学へおりてくる研究の補助金がどんどん減ってきていて、競争的資金を獲得していかなきゃいけない流れになっちゃっています。いかにも2~3年で結果が出そうな研究ばかりをする方向にシフトしがちです。どうなるかわからないような研究がやりにくい方向へ傾いていますよね。

峰宗太郎
いやあ、おっしゃる通りですね。研究費をどう分配するかについては、日本は非常に課題が多いです。

曽宮正晴
1つ補足したいのですが、東大の石井先生のエピソードがすごく象徴的だと思います。

▼<新型コロナ>国産ワクチン、3年前に治験直前で頓挫 東大・石井教授「日本は長年、研究軽視」のツケ今に
https://www.tokyo-np.co.jp/article/95790
東京新聞 2021/04/05

▼なぜ日本はワクチン開発に出遅れたのか? 連載・東大のワクチン開発の現状を追う①mRNAワクチン開発と研究環境
https://www.todaishimbun.org/covid_19_vaccine_20210414/
東大新聞オンライン 2021/04/13

▼新型コロナの mRNAワクチン 知られざる30年の開発史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC21APO0R20C21A9000000/
日本経済新聞(日経サイエンス) 2021/9/24

峰宗太郎
はいはい! 石井健先生ですね。

曽宮正晴
石井健先生は日本でも有数のワクチンの研究者ですが、彼のグループが MERS のメッセンジャーRNAワクチンを作っていたんですね。もちろん研究段階ですけど。プロジェクトをやっていたのですが、結局、資金が集まらなくて研究が頓挫しちゃったんですよね。

峰宗太郎
そうでしたね。そう伺っています。

曽宮正晴
モデルナも、MERS(の研究)をやってたんですよ。メッセンジャーRNAワクチンをちゃんと用意していて、それを新しい感染症が出てきたときに使おうという準備を、NIAID(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所)主導でやっていたと思います。いま役に立たなくてもそういう体制を作っておかないと、次に何か起こったとき、すぐには対応できません。

アメリカはそれに対応できたわけですから、やはり今の時点で役に立たないと思われるものにも、政府やいろんなところがしっかりと投資をして、研究開発の礎(いしずえ)を作っておくべきです。そうでないと、次の新興感染症が出てきたときに、また同じことを繰り返してしまうのではないでしょうか。

石井先生のエピソードは本当に残念だし、日本にもそういうシーズがあったことは、気に留めておく必要があります。

峰宗太郎
ありがとうございます。本当におっしゃる通りですね。特に感染症対策に限らず、他の病気や、いろんなことについて、抜け目なく用意をしておくことは非常に重要です。そういうことを考えると、ちょっと抜けがあるというか、残念なことになったというか、先が読めていなかったというか…どこまで読めたか、という問題もありますが。

時に前田先生は科研費の申請は終わりましたか?
※ 科研費=科学研究費補助金/学術研究助成基金助成金

前田陽平先生
僕は今まだ(継続の研究を)持っている人なので、今年は書かないですね。

峰宗太郎
いいですね。

前田陽平先生
僕は3年のやつを持っていて、来年あたりから書くところなんで、はい。この科研費の書類書くのも、むちゃくちゃ大変ですもんね。本当はこういうことに力を注ぐよりも、どーんと常にあるお金で力いっぱい研究できるような環境で、若手の先生はやって欲しいなあと強く思います。

峰宗太郎
競争的な資金を取ってくるというのは大変なことですからね。

前田陽平先生
12か月のうちの1か月ほどで、かなりのエフォートを割いて科研費の書類を書かなきゃいけないのがつらいです。

峰宗太郎
そうですね。しかし、アメリカも競争的資金を獲得するのに、皆さん、すごく作文や準備に時間をかけて頑張っているので、そこはどこも同じ部分ではありますよね。

ただ、いわゆる研究資金を戦略的に分配できているのかは、日本の国全体としては、かなり疑問が残ります。ここ10年間くらいは多くの方が恨みつらみをお持ちだと思いますが、いわゆる iPS で山中伸弥先生がノーベル賞を取られてから、再生医療に非常に肩入れした資金分配になっているわけですよね。資金だけではなく、ポストもそうです。そういうことがあって、他の分野が弱っちゃったところも結構あります。

特に感染症分野は、お金がなかなか取れないのです。取れないだけでなく、もともと厚労科研という、厚生労働省が持っている科学研究費(現在は AMED=国立研究開発法人日本医療研究開発機構)でやっていたのですが、その分配の公平性や、分配の基準については、なかなか難しいところがあるわけです。そういうことを考えると、改革すべき時期に来ていることは、現場にいても強く感じますよね。

曽宮先生は、科研費については、いま持っておられたり、申請されたりしましたか?

曽宮正晴
今年でね、終わっちゃうんですよ。だから2つ書かないといけないのですが、まあ進まないですね。

峰宗太郎
進まないですか。

曽宮正晴
……進まないですね。締切直前にならないと頑張れないというのが出ちゃいますね。

峰宗太郎
じゃあ先生、明日が締め切りだと思って頑張るっていうのはいかがでしょうか(笑)

曽宮正晴
そうなんですよー。連休に持ち越したくないっていうのがあるんですけど、なかなかねー、進まないですねー。

峰宗太郎
そうですよね。大変ですよね。実は僕は大学院生でもうこっちに来ちゃったので、科研費を取ったことが無いんです。皆さんを見ていると大変そうですよね。

曽宮正晴
大変ですね。もうなんか「お金! お金!」みたいな。「研究やらせてくれ!」っていう気持ちになっちゃいますね。

峰宗太郎
ということで、なぜか今日は研究費の話をしていますが、この仕組みを説明し始めると大変なんですよね。多分リスナーの皆さんも仕組みを知りたいだろうと思うのですが、結構細かい仕組みになっていまして、あまり簡単に説明できないんですよ。時間がかかっちゃうので、研究費の話はまた今度じっくりしましょう。

それから、日本のワクチンの基礎研究がどうなっているかも掘り下げたいので、別のときに準備をして、曽宮先生も交えてまたお話をいたします。

しかしですね、今日は本当にメンバーが来ないので、私が今日やろうと思っていたことは何も話せないという状況にいま追い込まれているわけですけども、皆さんから何かこれを話して欲しいものはありますか? 前田先生何かありますか?

前田陽平先生
今回の第5波が減少に転じた理由を、峰先生はどう考えていらっしゃるのか知りたいです。

峰宗太郎
うわあ! 難しい話がきましたね。これ、いろんな人から訊かれるんですよ。

実は今朝「おはよう日本」という NHK の番組に僕がちらっと出ていたらしいです。「出ていたらしい」というのは、収録だったのでね。いろんな質問をされた中に、その質問もあったんですよ。
「今回の第5波がピークアウトしたんじゃないかと思われますが、その理由は何でしょうか?」
って訊かれたんですね。僕はですね、即答したんですよ。
「わかりません」
って(笑) 幸いなことに、番組内では使われなかったようですが。

これはですね、いろんなことをおっしゃる方がいます。例えばモデリングがご専門の西浦先生もツイートや記事に書かれていました。1つは「ワクチンの効果が出てきたんじゃないか」という意見について、「(効果は)あるけれども、主体ではない。ピークアウトのカーブを作るほどのものかというと、そうではないだろう」ということをおっしゃっていましたよね。西浦先生も、デルタが広がって、感染状況が悪化したことが情報として拡散され、人々が大きく警戒をするようになって行動が変わったんじゃないかとおっしゃっているわけです。私もそれは結構あるのかなと思います。

ただ、データで見ていると、駅などで観測している人流自体には、それほど変化がありません。ガクッと減ったということはないわけですよ。

では、緊急事態宣言がうまく効いたのかというと、もう皆さんご承知の通りです。緊急事態宣言を何回も出していると、だんだんオオカミ少年になるし、飽きちゃいますし、実際「こんなの役に立つのか」という話もあります。したがって、緊急事態宣言によって、この数週間に行動がそれほど大きく変わったことも、なかなか考え難いです。

もう1つはやはり、お盆休みとオリパラがあったことで、皆さん少し緩んでいたというか、動きやすかったかなという意見もよく聞きました。しかし、それだけでも説明できないんですよね。

結局、複合要因で全体として接触が減りつつあり、かつ情報効果が効いてきて、それぞれがビビッているというか、少し真剣に考えてくださっている方が多いのかなという印象を受けています。

それ以外に何か説明できますかね? れおにい、何かあります?

岡田玲緒奈
そうですね……実は小児の普通の感冒とかもめちゃくちゃ減ってるんですよ。

峰宗太郎
ほう!

岡田玲緒奈
なので、やはり感染対策を皆が一段上げたんじゃないかと推測しています。夏休みが終わって学校が始まってもその辺が増えてきていないので学校が休みだったということだけでは説明がつかなくて、なんとなくそんな理由を考えています。

峰宗太郎
そうなんですよね。今これ、結構謎なんですよね。コロナに季節性があるとは、私はあまり信じていません。多少は気温等が関係するかもしれませんが、そんなことでピークアウトするとは私も思っていません。僕は別に疫学者でもなんでもないので、眺めている感覚なのですが。

こういう謎って必ず残っていて、謎があるときって、ツイッターで疫学をやっている人たちの会話でも、みんな「謎」「謎」言ってて面白い現象だなと思います。こういうのは、遠藤先生に意見を聞きたいところですよね。

前田陽平先生
難しいですよね。増えている間も、今回の第5波ばかりはピークアウトする明確な理由が無いから、
「ちょっとこれやばいな、本当にいつピークアウトするんだろう。なんとなくピークアウトするもんなのかな」
と思ったら、本当になんとなくピークアウトして、結局よく分からないっていう。後方視的に考えてもわからないのは、少なくとも現段階で明らかな答えは、やはり誰も持っていないということでいいんでしょうか?

峰宗太郎
……と思ってます。私もいろんな人に聞いてみていますが、明確に答えをくれた方はいないですね。トンデモの人たちは言ってますけど。なんか変なことを。

前田陽平先生
ああ、そうですね(笑)

峰宗太郎
明解に説明しちゃう人たちは、なんか面白いというか、不思議ですよね。

曽宮正晴
面白いですね。専門家が皆、「わからない!」って声をそろえて言っている一方で、声の大きい方々が「これじゃないか!」「あれだ!」と主張しています。僕は専門家の意見を信じていますが、誰よりも研究してる専門家が「わからない」と言っていることが、なかなか信じてもらえないというか、広まらないのは不思議な現象ですね。

峰宗太郎
本当に曽宮先生のおっしゃる通りですね。専門家がわからないって言ってるときは、なぜか「わかる!」と断言して、専門家が「こうだ!」と言ってるときは「違う理由だ!」とおっしゃいますよね。不思議なもんですねえ(笑)

前田陽平先生
相手がどれくらいのことで話しているかを理解するためには、やはり自分にもある程度知識も必要になるから、難しいところありますよね。

峰宗太郎
そうなんですよねー。

さて、今日は本当にグダグダになってまいりましたが、明後日の金曜日、れおにいは Twitterスペースをやるんですか?

岡田玲緒奈
明後日は重要案件があってお休みです。なので、今週のこびナビTwitterスペースは今日で終わりです。

峰宗太郎
今日は実は珍しく話したいと思ったことをいろいろ用意してたんですけど、皆が来てくれないからお話しできなかったっていう悲惨な状況になってるわけですよ。ちょっとれおにい、皆を叱っといてください。

岡田玲緒奈
明日やりましょう(笑)

峰宗太郎
明日!?


COVID-19 嗅覚・味覚障害

前田陽平先生
僕、そういえば、こびナビの Twitterスペースで、できたら嗅覚・味覚障害の話をして欲しいと言われていました。10月頃なら時間を作れるかなと思っていましたが、いま5分ほどなら、僕の知っていることをお話しできるかなと思います。

峰宗太郎
お! では今日は、前田先生の特別回ということで、嗅覚・味覚障害についてサマライズをお願いいたします。

前田陽平先生
9時には落ちちゃいます、すみません。

パンデミックの初期から、嗅覚・味覚障害というのは、かなり重要な COVID-19 の、つまり新型コロナ感染のサインであると知られていました。世界的なところもお話ができたらいいかなと思ったのですが、この間ちょうどツイートしたばかりの日本の研究の結果があるので、それだけ簡単にご紹介いたします。

全体的な傾向として、欧米とアジアなら、欧米の方が嗅覚障害が少し多いことがわかっています。日本については研究結果が無かったのですが、2、3か月ほど前、金沢医科大学の三輪高喜先生という嗅覚障害を専門とする先生らのグループが、日本耳鼻咽喉科学会等と合同で、コロナの嗅覚・味覚障害についての研究を発表されたのです。現段階では1か月だけの追跡結果が発表されたところで、この後3か月、6か月なども発表していくそうです。その結果を簡単にご紹介いたします。

無症状から中等症の患者さんで
・嗅覚障害-約6割
・味覚障害-約4割

があるそうです。

ただ大事な点として、嗅覚障害だけの方は多いですが、味覚障害だけの方はほとんどいないんですよ。例えば鼻をつまんでマグロを食べたら、味もわからないという話がよくあると思います。嗅覚がわからなくなったら、味覚もわかりにくくなります。これを「風味障害」と言います。この「風味障害」の知識と「嗅覚障害だけの方は多いですが、味覚障害だけの方はほとんどいない」ということを合わせると、味覚障害の大半は、実際には嗅覚障害によるものではないかとも考えられます。これを裏付けることとして、「味覚がわからない」と言っている人の中でも、実際には味覚検査で味がわかる人が多いという検査結果もあります。これは嘘を言っているということではなくて、風味障害による味覚障害だと考えられるということですね。

また、一般的にどのような方に多いか、という話として、重症の COVID-19 の方については、そもそも「においわかる?」とか話してる場合じゃないこともありますが、嗅覚・味覚障害については、比較的軽症の方に多いのではないかと言われています。コロナ自体は男性で重症化しやすいのですが、嗅覚・味覚障害はどちらかというと女性に多いと言われています。むしろ比較的若い方に多いという特徴があります。

では、「それ治るの?」という話がとても大事になりますが、たった1か月で見ても、嗅覚障害の約60%、味覚障害の84%は改善しています。ひと月だけで治る人がかなりいることがわかります。

嗅覚障害と言っても、少し嗅覚が弱くなるとか、様々な程度がありますが、嗅覚障害を訴える方のうち6割程度は「全くにおいが分からない」と言っていました。つまり、「においが全然わからない」というのがむしろ典型的だということは、海外の研究結果からもわかっています。変なにおいを感じる症状を異嗅症といいますが、特に途中の過程で、異嗅症の方も多いことがわかっています。この1か月の調査でも、約2割の方に異嗅症があったことが分かっていますね。味についても、約4割で、変な味に感じる方がいらっしゃいます。

この1か月だけの調査の結果をまとめて申し上げますと、
・においがわからない方も、味がわからない方も治る方は多い。
・特に味がわからない方では治る方が非常に多い。
・においがわからない方も、まあ治る方のほうが多い。
・においがわからないことの程度問題では、全くわからない方がむしろ典型的。
・特に回復過程で、正しいにおいではなく、変なにおいを感じてしまう方も多い。

ということです。

治療法に何があるのかですが、確立された治療法は、残念ながら無いんですよね。そもそも、風邪の後ににおいが分からなくなる方は従来からいますので、それに準じた治療が行われます。実際には、ステロイドの点鼻や漢方薬が扱われていることが多いです。

あと、特に欧米でさかんに言われていることとして、「においのトレーニング」というものがあります。簡単にいえば、いろんなもののにおいをかいで神経や脳を刺激する治療が、風邪の後の嗅覚障害にもかなり試されています。コロナについてもこの治療がいいかもしれないという意見が、欧米の論文などで見られます。

COVID-19 の嗅覚・味覚障害は、治る方が多いのですが、1か月、2か月を過ぎても治りが悪い方は、ぜひ耳鼻科へ相談してもらえたらいいかなと思います。

以上、5分バージョンくらいのまとめでした。

峰宗太郎
ありがとうございます。大変分かりやすかったです。まず最初にいくつか質問させていただきたいのですが、最初に、無症状の方が含まれるとおっしゃいましたが、これも症状の1つですよね?

前田陽平先生
ああ! そうですね、ごめんなさい。COVID-19 の症状が嗅覚障害のみであるという意味ですね。

峰宗太郎
そうすると、多くの場合は軽症から始まるということでよろしいですかね?

前田陽平先生
そうですね、軽症の状態から始まるということです。

峰宗太郎
お伺いしたいことの2つ目は、新型コロナウイルスが嗅覚・味覚障害を起こすメカニズムは、今どのくらいわかっているのでしょうか。

前田陽平先生
味覚障害の方は、僕の認識ではやはりにおいがわからないことが主ではないかと考えています。あとは味蕾に ACE2受容体が発現しているという話があったりしますが、結局詳しくはわかっていないと思います。もし最近の知見にキャッチアップできていないようならすみません。
※ ACE2受容体=アンジオテンシン変換酵素Ⅱ受容体。新型コロナウイルスが結合する受容体として知られる。

においの方も、比較的難しい話です。
においが分からなくなることには、3つの要素があります。
① 気導性嗅覚障害嗅上皮(=においを感じる部分)に、空気が行かないせいで、においの成分が届かない。
② 嗅神経性嗅覚障害嗅神経(=においを感じる神経)に異常があって伝わらない。
③ 中枢性嗅覚障害の問題でにおいがわからない。
以上、3つのことが考えられます。

峰宗太郎
①は閉塞性とか気導性のものですね。

前田陽平先生
はい、気導性嗅覚障害と言います。

では COVID-19 ではどれかというと、結局「全部あり得る」と言われています。時期的なものでは、初期にはやはり気導性が多いのではないかと言われていますが、3つのメカニズムのどれがメインなのかということすら、よくわかっていません。

東京大学の耳鼻科など日本のグループからも動物実験などでこのメカニズムの解明が徐々に進んでいますが、今のところメカニズムの全貌はわかっていないというのが、現状で申し上げられることですね。

峰宗太郎
ウイルス自体が実際ににおいを感じる部分で増えて何かを壊しているのか、それとも何か他のメカニズムがあるのかという、細かいところもよくわかっていないですよね。

それからもう1つ、よく私が訊かれるというか、トンデモな人が頑張って広めているんですけど、この嗅覚・味覚障害を「亜鉛のサプリメントを飲むと治る」と言う人がいます。ここらへんはどうなんでしょうかね。

前田陽平先生
あー! なるほど。大前提として、少なくとも COVID-19 の嗅覚・味覚障害に対して、亜鉛の内服で改善するという十分なエビデンスはありません。

その上で申し上げると、例えば味覚障害の原因の中には亜鉛の不足がかなり隠れているというのは、一般論として非常によく言われていることなんですね。味覚障害の患者さんが来たら最初にやることの1つとして、血清亜鉛は必ず測ります。亜鉛不足がバックグラウンドにある人ならば、効果がある可能性ももちろんあると思います。

しかし先ほど申し上げたように、味覚障害の原因は、どちらかというと風味障害、やはり、においがわからないことによるものがメインだと考えられています。そうすると、亜鉛の効果は非常に限定的だと考えるのが普通です。

ちなみに、においの障害、一般的な感冒後の嗅覚障害についても、亜鉛の効果があるかもしれないという研究が結構ありますが、残念ながらそれも強いエビデンスではありません。少なくともコロナの嗅覚障害に対して亜鉛がすごく効果があるとか、亜鉛を飲めば治るというのは、やや乱暴な論ではないかと思います。

峰宗太郎
非常に公平な感じで言及いただいてありがたいです。全否定ではありませんが、強いエビデンスがあるわけでもないというところが重要ですよね。

前田陽平先生
例えばコロナの嗅覚・味覚障害に対して亜鉛を使った臨床試験をやる人がもしいたとします。それは突拍子もないことではなくて「そういうことを考える人もいるよね」と僕らが思う程度だと理解していただければいいですね。

ただ、今の段階で「亜鉛が効くよ」と断言しているのであれば、それが十分な知識に基づいているかと言われると、そうではないかなと思います。

峰宗太郎
ありがとうございます。ここはチャンスですので、他に何か皆さんから前田先生に聞いておきたいことはございますか?

前田陽平先生
私もそろそろ、お仕事の時間なのですみません。一度どこかでちゃんと時間をとってお話をさせてもらいます。

峰宗太郎
ええ、ぜひぜひまとめて、何度でも同じことを、繰り返していねいにお伝えいただけるとありがたく思います。

ということで、今日は私が担当なのですが、急遽前田先生にヘルプをお願いしてご説明をいただきまして、大変ありがたく思っております。こびナビのメンバーも最近忙しくしている人が多く、なかなか参加が難しいようです。私が用意していたテーマがあるのですが、それは次回以降に回したいと思います。

こびナビTwitterスペース、明日は秋分の日でお休み、そして金曜日もお休みなので、次回は日本で言う月曜日ですね。岡田先生、私の認識は正しいでしょうか?

岡田玲緒奈
合ってまーす。

峰宗太郎
岡田先生のインスタライブはいつあるんですか?

岡田玲緒奈
今日でーす。

峰宗太郎
今日はあるらしいです。皆さん、夜のインスタライブをお楽しみに。私の方で突然 Twitterスペースを開催するかもしれませんが、それは捕捉していただければと思います。

他に谷口先生と久米先生、曽宮先生も入っていただいてますが、これを言っておきたいということはございますでしょうか?

谷口俊文
特に無いのですが、今日はすごく勉強になりましたね。ありがとうございます。


エンディング:こびナビ公式ウェブサイトリニューアル計画

峰宗太郎
そうですね、ありがたかったです。私も勉強になりました。

さて、では日本の皆さん、第5波、だんだん波が終わってピークアウトしたと安心している方も多いと思います。それでも、第2・3・4波と比べると、まだまだ新規感染者数も多く出ていますし、病院は大変な状況になっていると聞いています。皆さん油断することなく、基本予防策を続けていただくことが大事です。こびナビのスペースを聞いていただいているような方は、感染予防策をしっかりしていただいていると思いますが、今後も続けていただけるようお願い申し上げます。新型コロナワクチンを打てるチャンスがあれば、ご検討いただくのが重要です。

ワクチンについて、最近いろんな話題が出てきています。こびナビ内でも今まとめていて、公式ウェブサイトを再構築というか、リニューアル、刷新する計画が進んでいます。そのうちドーン!と、皆さんがビックリするような形で、もっと読みやすい、もっと有用なサイトになると思います。その際には、ワクチンの基礎があったり、ワクチンのいろんなトピックについて、Q&A 以外でも見られるようにしようと話しています。

特に最近のトピックとしては
・ブースターショット(3回目のワクチン)を打つのか
・ワクチンの効果はどのくらい下がってくるのか
・変異ウイルスに対してどの程度ワクチンが効くのか
・お子さんに対してのワクチンの、リスクとベネフィットの比較、考慮
・相変わらずくすぶっている副反応の怖さ
・第5波の実際
というところですね。

他にも、ワクチン接種後にどういう有害事象があるかの見方、考え方、その実際、最新データ、そして国際比較など、新しいトピックにはそういったことも含めてまとめていきたいと考えています。最新の情報をずっと追い続ける必要があるとは思いませんが、ある程度追ってみたい方は是非ご覧ください。

今後こびナビでも、ツイートや Twitterスペース、公式ウェブサイト等で、継続して情報を発信して行きます。

大事なことはですね、情報の取り方にしても、行動にしても、基本に戻っていただくことがとっても大切です。「基本に戻ろう」ですね。エッセンシャル(本質的な、必須の)な知識さえあれば、余計なことを知りすぎる必要はないわけです。

火事に対して我々は、火災報知器が鳴ったときにどう行動すればいいかと、消火器の使い方が少しわかっていればもうけもん、くらいのものですよね。何も消防自動車の動かし方や、どう戦略的に火を消していけばいいのかなんて、知らなくても、そこはプロがやってくれます。

もちろん知りたい人は知っていてもいいのですが、ワクチンや新型コロナウイルスについても同じことが言えるわけですね。皆さん基本的な感染モードだとか、感染予防の仕方、ワクチンについての知識があれば、基本的動作は出来るはずです。

余計な情報に振り回され過ぎて、疲れちゃう人が多いんですよ。僕も最近疲れちゃって、論文を1日に20本くらい読むと、なんかもう「今日はこれ以上見たくないな」って気分になるのが最近続いちゃってですね。コロナの論文も1日20本くらいまでにしておこうと、セーブをしています。情報を追い過ぎて鬱になってしまうとか、メンタルを病んでしまっては、本末転倒です。

ぜひぜひ皆さん、適度な情報収集と適切な行動をして、この第5波を乗り切り、すぐに第6波が起こらないようにいたしましょう。これは、皆さんの力にかかっています。

ここで政府とかが何かやったってダメなんですよ。政府とか国とかを頼っていても意味はありません。一人ひとりがどういう行動をするかが一番効いてきますからね。ワクチンについては、政府にちゃんとやってもらうことが重要だと思っています。

ということで、後ろ口上が毎回「基本に戻ろう」で長くなるわけですが、今日はこれで終わりにいたします。

皆さんも、季節の変わり目ですし、また台風も来たりいたします。総合的にご安全に、かつ楽しい毎日を過ごしていただきたいと思います。では、日本の皆さん、よい一日をお過ごしください。場合によっては、明日こっそり私ひとりでスペースやるかもよ。
では皆さん、バイバイでございまーす。
失礼します。

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