見出し画像

新型コロナワクチンの効果は持続しているのか(9月1日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年9月1日時点での情報を基にされています。※

2021年9月1日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:安川康介


【9月1日は何の日?+ HPV ワクチンについて】

安川康介
みなさん、おはようございます。
アメリカのワシントンD.C.で内科医として働いている安川康介です。
本日こびナビの Twitterスペースのモデレーターを務めさせていただきます。
今日は9月1日になりました。ふと、過去のこの日にどういうことが起きたのかっていうのを調べていたら、大事な事件がいくつもありました。
まず1923年、関東大震災。98年前の今日に起きました。
推定マグニチュード7.9~8.2ぐらいの大地震で、10万人以上の方が亡くなりました。
地震が起きたのが午前11時58分とお昼だったので、火災が起きてたくさんの人が亡くなってしまったんですよね。
10万人以上いた死亡者のほとんどが、火災による死亡だったと言われています。
他に9月1日に何があったかというと、1935年、なんと第一回の芥川賞と直木賞が発表されました。
他には、これはもっと重要なんですけれども、1939年9月1日にドイツがポーランドに侵攻しました。
これによってイギリスとフランスがその2日後の9月3日に宣戦布告して、第2次世界大戦が勃発したということで、ものすごく重要なことが9月1日にいくつも起きていました。

ということで、木下先生、何か話題ありますか?

木下喬弘
「というということで」がわかんないんですけど(汗)

安川康介
(笑)
ちょっと今雑談してたんですけども、どうですか?
HPV のことありましたよね。

木下喬弘
HPV のことを1つ言わせていただくとですね、今年も9月がやってまいりまして。
いいですか?皆さん。これ何回でも言いますけれども、高校1年生の女の子は9月中に HPVワクチンを打ち始めないと、基本的には6か月の接種スケジュールで全部無料で打ち終わりませんので、皆さんの周りに高校1年生の女の子がいたら、ぜひ9月中にワクチンの接種を始めるように教えてあげてください。

安川康介
ありがとうございました。

木下喬弘
すみません、ちょっと起きてから数十秒しか経ってないんで、相当舌が回ってないですね(苦笑)

安川康介
重要なことです。ありがとうございました。前田先生、おはようございます。

前田陽平先生(以下、敬称略)
おはようございます!

安川康介
どうですか?

前田陽平
いやあ、HPVワクチン皆さん是非打ってくださいということで、はい。
それがやはり僕も、昨日から今日にかけて一番考えていたことです。
あとは今ちょっと、思いつかないですね。
昨日普通に仕事ばっかりしてたんで、なんかあんまりおもしろいこと思いつかないですね。

安川康介
(笑)
大丈夫です、大丈夫です。
関西の人に振ると何か面白いことが返ってくるんじゃないかっていう…

前田陽平
あっ!これまたね、関西人差別ですね!典型的な。

安川康介
(笑)

前田陽平
ちょっと今日はね、個人的なことですけど、健康診断で朝から朝飯を食ってないので、頭が回らないですね。

安川康介
関西勢には、まだ曽宮先生が残ってるんで、何か面白いことを言っていただけると思いますね。

前田陽平
そうですね、曽宮先生に期待して。

安川康介
(笑)

前田陽平
そういえば、今日なんかえらい早く始めてましたよね。

安川康介
そうなんです。びっくりすることに、8時20分に立ちあげていただきました。

前田陽平
てっきり雑談を早める予定かと思ったら、やっぱり8時半からいつものペースの雑談はやはりあるんだな、っていう。

安川康介
そうですね。8時半までは峰先生のおしりの話がありました。

前田陽平
それ、座布団のくだりしか聞いてなかったんでちょっと残念です。


【新型コロナワクチンの効果の持続について】

安川康介
ということで、曽宮先生には話題を振らずに始めたいと思います。
今日何を話そうかなと思ったんですけども、最近、新型コロナワクチンのデルタに対する効果とか、その効果の持続についての情報が洪水のように、まるで峰先生のマシュマロみたいにたくさん出てきていて、医療従事者の中でもメディアでも、混乱みたいなものが生じている状況があるかもしれません。

峰宗太郎
マシュマロ混乱してるってこと、みんな?

安川康介
(笑)
じゃなくて、マシュマロの数がすごいっていうことです。
ちなみに、日本の皆さんが寝静まってから僕の Twitter のタイムラインはほとんど峰先生のマシュマロだけになります。
日本の方が起きると、マシュマロの数が減って普通のタイムラインになるというような感じになります。

で、なんでこの話をしたいかというと、どんどん新しいワクチンの効果の持続とかに対する情報が出てきているんですけれども、1つ1つの情報にあまりこう感情を動かされないで、ドンと構えておくことが精神衛生を保つ上でも重要だと思うからです。
例えば最近では、ワクチンを受けた200人の抗体の量を調べた結果、中和抗体がなんと3か月で1/4になってしまったというニュースが話題になったり、イスラエルの報告で、ワクチンを1月に受けた方では効果が39%に激減してしまったというニュースがあったりして、Twitter とか他の SNS で「ワクチンは半年しか効かないから意味がない」とか、面白いコメントとしては「これは3か月とか6か月ごとに打ち続けなければいけない、サブスクリプションワクチンだ」といった言葉もありました。

基本的なことをお話すると、インフルエンザワクチンは僕たちが受けるワクチンの中でも珍しく1年に1回受けるワクチンです。
それはなぜかというと、インフルエンザは毎年流行するストレイン(株)が違っていて、しかも変異の速度が速いということがあります。
一方で新型コロナウイルスの変異の速度は、他の RNAウイルスと比べて遅いことがわかっています。
だいたい1か月に2か所ぐらいのスピードですね。
新型コロナウイルスというのは、RNAウイルスの中でもとても遺伝情報が多いウイルスで、珍しいことに、遺伝情報のコピーを作ったときに間違えたら直す「プルーフリーディング(校正)」機能を持つタンパク質の情報を持っています。
なので、インフルエンザが1年に1回必要だから、コロナも半年に1回とか1年に1回必要になるということは、今の時点では言えません。

次にワクチンの効果についてお話ししたいんですけれども、わかっている人も多いと思うのですが、そもそもワクチンが効くっていうときの「効く」が何を意味するのかをしっかり理解している必要があると思います。
この朝の Twitterスペースでも何回も話してきたんですけれども、ワクチンの効果としては、まず無症状の感染も含めた感染予防効果というものがあります。
次に、何らかの症状が出る感染を防ぐ発症予防効果があります。
さらには入院ですとか、酸素が必要になるような重症感染を防ぐ重症感染予防効果です。
もう1つ付け加えるならば、ワクチンを受けた人が感染したときに、他の人に移してしまうこと、つまり伝播を予防する効果があると思います。

デルタにほとんど置き換わってしまうより前の研究では、ワクチンはまず無症状の感染も含めた感染予防効果もあるということが報告されていました。
無症状の感染を含めた感染を調べるのは難しいんですけれども、アメリカではワクチンを受けた人を毎週無症状でも PCR検査をしていく臨床試験が行われています。
それによると、無症状の感染も含めた感染予防効果というのが9割ぐらいあるということが報告されました。
発症予防効果に関しては、ファイザー社のものだと最初95%、モデルナ社のものも94.1%と非常に高い効果があることが去年12月に報告されました。
その後6か月経った3月の時点でも、これはプレプリント(査読前の論文)の報告になりますが、発症予防効果は91%、半年後もかなり高く持続していることが報告されています。
同じ研究で、酸素が必要になるぐらいの重症感染予防効果も半年後で97%近くあることが報告されました。
伝播の予防に関しても、ワクチンを接種したことがある感染者の方が、同居人に感染させるリスクが減ることもわかっていました。
具体的には、1回でもワクチンを受けていると、感染したときに同居している人にうつすリスクが40%から50%低くなるという結果が、Public Health England(イングランド公衆衛生庁)が調べて The New England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されました。
さらに、ワクチンを受けた人がブレイクスルー感染をした場合、ワクチンを受けていない人よりもウイルスの量が40%くらい少なく、発熱のリスクも半分以下、症状の期間も6日間くらい短かったという報告が7月22日の NEJM に既に報告されています。
ということで、最近までは、ワクチンは無症状の感染を含めた感染予防効果もあるし、発症予防効果も高いし、重症感染予防効果もある、さらに伝播のリスクも下げることが分かっていました。
ワクチン接種後に感染した場合でも症状が短く、軽くなるということが言われていたんですね。

ただもう少し時間がたって、特にデルタが増えた最近1~2か月の間の報告では、ワクチンの効果、主に発症予防効果がどうやら落ちてきているのではないかというものが複数あります。
いくつかの研究報告についてザッとお話ししたいんですけれども、重要な点は、確かに無症状や何かしらの症状が出る感染については、効果が徐々に低下してきているかもしれないけれども、入院が必要な感染や重症感染に対する予防効果というのは結構高く保たれているよっていうことですね。

まずデルタに対する効果についてですが、これは8月12日に NEJM に掲載された Public Health England の論文が参考になります。
イギリスではたくさんの人の医療情報を集めて解析できているのと、sequencing と言ってどんな変異ウイルスがあるかっていうのを、5月の時点では検体の60%ぐらいゲノム解析しているということで、このような研究ができています。
5月時点でのデータでは、ファイザー社のワクチン2回目以降だと、アルファ(B.1.1.7)に対しては発症予防が効果が93.7%であったのに対し、デルタに対してはファイザー社のものだと88%と少し低かったという結果があります。
ちなみにアストラゼネカ社のワクチン2回接種後は、アルファに対しては74.5%、デルタに対しては67%でした。

ただ、つい最近では発症予防効果自体が下がってきているのではないかっていう報告があります。
先に注意点を言っておくと、最近の多くの研究では、デルタとそれ以外の変異ウイルスの感染の有効性を見ているわけではなくて、デルタが増えてきた時期が、多くの人にとってワクチンを受けてからしばらく経った時期でもあるわけで、効果の持続とデルタの効果をきっちり分けて評価するのが難しい状況になってきていると思います。
例えばメイヨー・クリニックが発表したプレプリントの報告では、1月から7月までの期間で見たワクチンの感染予防効果について、何らかの理由で PCR検査を受けて陽性になった人、これを予防する効果はファイザー社のものだと2回目以降は76%、モデルナ社は86%。
ただし、デルタが5割以上に増えてきた7月の有効性を見ると、モデルナ社のワクチンを2回受けた人だと、感染予防効果は76%、ファイザー社の場合は42%と低くなっているという報告があります。
他にもカタールの報告では、デルタに対する感染予防効果はファイザー社の場合、53.5%だという報告があります。
カタールではワクチン2回接種してから4か月くらい経っている人がほとんどということで、無症状の感染を含めた感染予防効果が下がってきているのではないかと言われています。
ただしこの論文では、重症感染の予防効果は89.7%と高かったんですね。

他にも色々あって、CDC(アメリカ疾病予防センター)が発行している MMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report:疾病週報)という雑誌には、ワクチンを2回接種した後の入院予防効果は2~12週で86%、13~24週で84%と高く保たれていることが分かっています。
これ以外にもすごくたくさん出てきていますが、研究の方法も違うし、感染した人の数が少なかったりして、はっきりした数字については、信頼区間というものが広くなっています。このため数字にはばらつきがあって、デルタが増えてきた時期の PCR 陽性になる感染予防効果というのは39~84%くらい、入院を予防する効果は75~95%くらいと幅があります。

昨日、CDC のACIP(Advisory Committee on Immunization Practices:予防接種の実施に関する諮問委員会)のミーティングがありました。
そこによくまとまっているスライドが掲載されているので、あとでリンクをツイートしておきますので、もしよかったら見てください。確か峰先生もすでにツイートしていました。

▼ACIP Presentation Slides: August 30, 2021 Meeting
https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/slides-2021-08-30.html
出典:CDC

ここまでで何かコメントある方いらっしゃいますか?

峰宗太郎
安川先生、本当に丁寧な解説ありがとうございます。
安川先生が数字をたくさんつぶやいたおかげで、私のマシュマロには「数字が多すぎて難しいです。ついていけません」というのがリアルタイムで10個ぐらい来ております(笑)

安川康介
(笑)
なるほど、あの、それぞれの数字っていうのは本当に覚える必要はないです。
実際に皆さんにお伝えしたいのは、今よく「効果がなくなってきた」とか「抗体が減った」とかいろいろ騒がれていて、確かに感染予防効果、つまり無症状や、何かしらの症状が出る感染に対する効果というのは落ちてきています。
ただ重要なのは、入院をする感染ですね、重症感染には依然として効果がきっちり保たれているということです。
僕からしたら、まだこれだけ経っても効果は保たれているよっていう方が重要な点だと思いながら、色々な報告が出ているのを見てきています。

峰宗太郎
私からも補足していいですか?一点だけ。
最初に安川先生がワクチンの効果は3個 + 1個ぐらいあるよって教えてくれたじゃないですか。
つまり、①感染を予防する効果、②発症を予防する効果、③重症感染を予防する効果、それに加えて ④ブレイクスルー感染してしまっても人に移しにくくなる効果 です。
これらは予防効果ですよね、effectiveness とか efficacy があるってことを教えていただいたんですけど、大事なのは「抗体価」っていうものが別にあるわけですよ。
そこをちょっと説明した方がいいかなと思ったんで、補足させていただきます。

こびナビnoteテンプレ

表:effectivenessとefficacyについて(文字起こし班作成)


峰宗太郎
ワクチンを打つと体の免疫のシステムが反応して、抗体というものが体の中に出来てきます。
その中の「中和抗体」が大事なんですが、主にこの中和抗体の量を「抗体価」と言っています。
ワクチンを打つと、この抗体価がグーンと上がるわけですね。
これが1回である程度上がって、2回目を打つさらにグーンと上がるんですけれども、だんだんこれが落ちてきます。
大事なことは、この抗体価と先ほどの感染や発症の予防効果は、ある程度相関しているのは事実です。
つまり、抗体価が高い方が予防効果が高いということが一般的には言えるんですけれども、たとえばこの抗体価が1/3になったら予防効果も1/3になるということではないんです。
それを強調しておきたいと思います。
最近のニュースでよく「1/4になった」と出てくるのは、予防効果が1/4になったのではなく、抗体価の方であることが多いです。
「◯%」という数値で出てきているのがだいたい予防効果で、1/10とか、場合によって1/100とか騒がれているのは抗体価です。
そして抗体価なのか予防効果なのか、予防効果ならばどの効果なのかをしっかり見てほしいなっていうのが大事なポイントかなと思いましたので、補足させてください。以上です。

安川康介
ありがとうございます。曽宮先生、何か追加はありますか?

曽宮正晴
いや、もうほぼ網羅されていると思うのであえて付け加えるとするなら、報道とか Twitter を見てると、ワクチンの効果下がってるよとか、抗体価下がってるよっていうのがめちゃくちゃ拡散されています。これでみんな不安になりやすいと思うんですけど、1個1個の情報に一喜一憂するのではなくて、落ち着いて専門家の解説とかいろいろ情報を見てほしいなぁと思います。
むしろワクチンの重要性はデルタの出現でますます高まっていると思うので、粛々とワクチンを打って対策してほしいなぁと思います。

安川康介
重要なことです。


【ワクチンを打った人がデルタに感染した際の伝播性について】

安川康介
あと残りの7分くらい使ってお話ししたかったのは、SNS とかを見ていると、ワクチンを受けた人でもデルタに感染したら、周りに感染させるリスクがワクチンを受けていない人と一緒なんじゃないか?伝播を予防する効果が全くない、といったことを言っている人がいるので、そこは違うよっていうお話をしたいと思います。
僕が今関心があるのは、デルタに感染した人がワクチンを接種していた場合、他の人にうつしてしまう可能性が下がるのかっていうことです。
以前、木下先生の回で紹介したアメリカのマサチューセッツ州プロビンスタウンの報告で、ブレイクスルー感染の報告がありました。
127人のワクチン接種者と84人のワクチン未接種者のウイルスの量を調べたら、Ct値の中央値がワクチン接種者と未接種者でほぼ同じだったっていう結果がありました。
この Ct値について簡単に、峰先生か岡田先生、説明していただいてよろしいですか?

峰宗太郎
はーい、みんな大好き Ct値ですね。
岡田先生よりタッチの差で早かったので、簡単に説明します。
PCR の検査でよくコロナウイルスを見つけていると思いますけれども、今行われているのは「定量的PCR法」というものが原理になっている方法です。
この「定量的」っていうのはどういうことかというと、結構省いて簡単に説明しますけど、もともと入っていたウイルスの量を測ることができる PCR を使ってるんですね。
PCR法っていうのは、もともと入っていたウイルスを直接見て、例えばここに10個ウイルスが入っているとか、100個ウイルスが入ってるっていうことは、なかなか言えないんです。
その10個とか100個をちゃんと検出することって難しいので、これを倍々ゲームで増やして見ていくんです。
PCR法は、そのウイルスに入っている RNA なり DNA なりを特定の反応のサイクルを繰り返して増やすんですけれども、例えば10個入っていたのを増やすのに、そのサイクルが20回かかったとするじゃないですか。
20回反応させるとようやく目に見えてくるようになると、そういうふうにイメージを持ってください。
ところがこれ、もともと100個入っていれば、もともと10個の状態よりも10倍多いわけですよね。
だから20回サイクルを回すよりも早めに増えてくると思っていただけると嬉しいです。
つまり、もともと入っているウイルスの量が多い方が、サイクルを少し回しただけで検出することができるようになります。
この閾値よりも高い値になったら「検出」と言うよというときに、何サイクルで検出したことになるかという値が Ct値です。
逆に言えば、Ct値が低いということは少ないサイクルで見えるようになる、つまりもともとたくさんウイルスが入っていたということになります。

結論だけ覚えていただければいいです。
Ct値は、何回か反応させたかという数値なんですけれども、少なければ少ないほどもともと入っていたウイルスの量が多い。そういう関係になってます。
こんな感じでいいでしょうか?

安川康介
すごくわかりやすかったと思います。
先ほどのプロビンスタウンで、ワクチンを受けていた人と受けていない人で、感染した時にこの Ct値が同じぐらいだったということで、この結果を取ってきて「ワクチンを接種しても、デルタに関しては他の人に感染させるリスクがワクチン接種してない人と全く変わらない」と言い出す人が SNS にいます。
しかしこれだけですぐ結論付けることもできなくて、他にいくつかプレプリントの研究報告が出てきているので、それを少しお話したいと思います。
ざっと見ると、やはりワクチンを接種している人の方が、していない人よりも感染したときに周りの人へ移す可能性は低いことを示唆する報告がいくつかあります。

例えばあるシンガポールの研究では、ワクチンを接種して感染した71人と、ワクチン未接種でデルタに感染した130人を比べたところ、ワクチン接種者で無症状の人の割合が28.2%、未接種者だと9.2%と、ワクチン接種している人の方が無症状の割合がすごく多かったと報告されています。
最初に診断されたときの Ct値は同等だったんですけれども、ウイルスの量の下がり、つまり減り方がワクチンを接種した人の方が早かったという結果があります。
これと同じような報告が NBA の関係者を調べた研究でも報告されています。
デルタに感染してもワクチンを受けた人だと PCR が陰性になるのが平均で2日ぐらい早いという結果があります。

もう1つ、ワクチンを受けた人でデルタに感染した場合に、感染性を保ったウイルスがどれぐらいいるのかを調べたオランダの研究報告がプレプリントであります。
これは、医療従事者の中でブレイクスルー感染を起こした人の検体を取ってきて、実際に細胞にウイルスを感染させようとして、細胞を見て感染した変化が起きるかどうか調べたものです。
この研究では、感染性のあるウイルスは68.6%の人でしか検出されなかったということです。
比較しているのが、デルタに感染したワクチン未接種者ではなくて、以前のデルタではないウイルスに感染したワクチン未接種者なんですけれども、そのときのウイルス培養陽性率というのが84.9%だったっていうことなんですね。
なので、ワクチンを受けた人の方が、もしかしたら検出されるウイルス量は同じかもしれないけれども、実際に感染性を持ったウイルスの量は低いかもしれないという結果があります。

ちょっとここら辺難しいんですけども、PCR で出てくる量だけではなくて、実際にどれぐらいその中に感染できるウイルスがいるのかというのを調べた研究があります。
まとめると、今の研究結果を見るとワクチンを受けた人がデルタに感染した場合、ワクチンを受けてない人に比べてほかの人にうつすリスク低い可能性があるという仮説の方が立てやすいのかなと思います。
このことに関して何か追加したい方いらっしゃいますか?

木下喬弘
あの、素人が口を出してもいいですか?

安川康介
どうぞどうぞ。素人じゃないですよ!

木下喬弘
いえ、素人なんですけど…あの、Ct値ってウイルスのゲノムを増幅しているわけですね。

安川康介
そうですそうです。

木下喬弘
ということは「ウイルスの量が同じでも」っていうのは実はちょっと微妙で、「ウイルスの遺伝子の量が同じでも」っていうことで、だからウイルス粒子をそいつらが形成してるかどうかとかいうことは別問題ですよね。
ワクチンがどの機構に効いているのかによっては、遺伝子の量が同じでも、感染性のあるウイルスになってるものは少ないかもしれないっていう話もあるという、そういう話でいいですか?

安川康介
そういうことでいいと思います。
PCR で、断片であってもプライマーみたいなのがくっつけば反応すると思いますので、感染性を持ったウイルスっていうのが、もしかしたらワクチンを受けた人で少ないというような結果です。

峰宗太郎
これ、クリティカルなことを今 Taka先生は質問されて、すごくいい質問です。めちゃめちゃいい質問なんですよ。
実は、我々ウイルス学者はウイルスの強さを「力価」って言うんです。
「力価」というのは、細胞とかに振りかけたときにどのくらい感染するかっていうウイルスの強さというか、この1滴にはどのくらいウイルスが有効に入っているかということなんですけど、この力価も2つあって「核酸力価」と「感染力価」と必ず分けて考えます。
で、Taka先生が質問してくれたのは「核酸力価」で、これはゲノムの量を計っているだけなんです。
これは PCR でしっかりと計れるんですね。
もともと何個のゲノムが、RNA が何本入っていたかというのがわかります。
一方で、さっき安川先生が培養したっていう話をしてたじゃないですか。
あれは「感染力価」と言って、実際に細胞にウイルスが含まれている液体を振りかけてみたときに、どのぐらい感染性があるかとか、何個の細胞に感染させるかというものだとざっと
考えてください。
そうすると、これ厳密には一致してないんですよ。
抗体価の話とプロテクションの話と一緒で、「核酸力価」が10倍になったら「感染力価」が10倍になるっていう単純な話じゃなくて、さっき Taka先生が言った感染しない粒子とか、ウイルスの断片とか、ちぎれて出てきたゲノムだけとかを計っている可能性は大いにあります。
特にワクチンが効いていたり、病気の時期によっては体の免疫状態によって核酸の方だけたくさん検出されて、実際は感染しないということもあるので、どっちの力価を今計っているのかっていうのを厳密にしなくてはいけないんですね。
なので、Ct値の議論っていうのは実はプロキシでしかないんです。
プロキシっていうのはつまり代替指標の1つでしかなくて、これを以て Ct値が1000倍になったら感染しやすさが単純に1000倍になるっていうことではないし、感染力価が1000倍になったってことでもないし、ただ検出できる核酸、つまりゲノムの本数は1000倍になってんじゃないの?っていう話です。
なので、Taka先生の質問はすごくクリティカルだなと思って、ちょっとマニアックですけど補足させていただきます。

安川康介
ありがとうございます。
1番大事なのは、実際に感染した人からどれぐらい同居者の人や接触した人にうつるかっていうことなんですね。
なので、そうした結果も Public Health England からちょっと時間が経てば出てくるんじゃないかなと思います。

なんでイギリスとかイスラエルはこういう研究結果をバンバン出しているかというと、国民のたくさんの医療情報にアクセスがあるのと、先ほど言ったように sequencing をやっていたりして、本当にこの2つ国はすごいなと思うんですけども、いい論文がたくさん出てきているような状況があります。


【情報への向き合い方】

安川康介
ちょっとここは冷静になって、何かこう新しい情報ができたらすぐ飛びつくのではなくて、少し時間が経てばいろいろわかってくることがあると思います。
これは情報発信者にも言えることで、僕はアメリカの Dr. Topolとかいろいろな方をフォローしていて、プレプリントが出た瞬間にいろんな人に拡散させたりするんですけども、それが果たして医療コミュニケーションとして正しいかどうかというのは、最近ちょっと分からなくなってきています。

結局基本的なことは変わらないと思います。
基本的な感染予防対策をするっていうことですね。
あとはワクチンを受けられる順番が来たら、できるだけ早く受ける。これぐらいです。
それ以外は情報を集めすぎないで、好きなことをするのがいいのかなと思います。
もし今、医者ではない僕の分身がいたとしたら、最低限の知識さえ押さえておいたらコロナウイルスの情報から離れて好きなことした方がいいんじゃない、って伝えると思います。
例えば好きな小説家の本読んだりとか、まだ観ていない興味のある映画を見たりとかですね。
あと、僕はいつかしてみたいんですが能面を打ったりとか、ハイキングに出かけたりとか、何でもいいんですけど好きなことして、前向きに今の生活を続けることが大事なんじゃないかなと思います。

木下喬弘
これ、リスナーを減らす作戦ですか?今のは。

安川康介
えっ!違いますよ。
木下先生、何か追加でありますか?

木下喬弘
追加はないんですが、峰先生に「いい質問ですね」ってめっちゃ褒められたんですけど、僕は質問したんじゃなくて解説したつもりだったのが、もはや素人すぎて解説が質問とみなされたということは若干ショックでした(笑)

峰宗太郎
ごめんなさいです~!!

安川康介
(笑)
黑川先生、どうぞ。

黑川友哉
今朝ですね、娘がお世話になってる幼稚園でまた1人コロナ陽性の子が出て、そのクラスが学級閉鎖みたいになっちゃったということで、どうしよう、今日も幼稚園行っていいのかな、どうかなっていうことを妻がすごく心配していました。
やっぱりこういう風に身近に感染者が出てくると、皆さんの周りでもそういう方結構多いんじゃないかと思うんですが、結構動揺するんですよね。
自分事のように突然捉えられるようになって、動揺してしまうかもしれないですが、先ほど安川先生がおっしゃっている通り、それから峰先生がいつもおっしゃっている通り重要なことは変わらないと思います。
大切な感染予防策とか、自分にできることをしっかり続けるとか、ワクチン接種を打てるときにちゃんと打つとか、そういったことを意識していただければ、自分の身の回りに感染した方が出たり、センセーショナルなニュース報道があったりしても、そういったことに惑わされずにいられるかなと思います。
感情が揺り動かされるとかなり精神的にも疲れると思うので、そういうことを忘れないでいられるといいんじゃないでしょうか。

安川康介
ありがとうございます。
今日は皆さん、40分以上ご視聴ありがとうございました。
それでは日本の皆さん、良い1日をお過ごしください。
ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?