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ワクチン接種の遅れの世論調査について、既存ウイルスの感染を抑えすぎて変異ウイルスが感染拡大したって本当?(4月5日こびナビClubhouseまとめ)

2021年4月5日
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター: 木下喬弘


オープニング(日替わりモデレーター、イースター)

木下喬弘
おはようございます。
本日もこびナビの医師が解説する世界の最新のニュースをお届けしたいと思います。
すみません、今日ルームを作ったのも10分ぐらい前でちょっとバタバタしております。
準備がちょっと遅くなってしまって申し訳ないです。
とりあえず今日もいつも通りやっていきたいと思います。

さて、先週お伝えしたように今週から別の先生方にもお願いして、日替わりのモデレーターでこびナビの情報提供を行っていきたいと考えています。
今日、月曜日は僕が担当させていただきまして、火曜日は代表の吉村先生、水曜日は安川先生、木曜日は峰先生、金曜日は岡田先生にお願いしたいと考えています。
変更があるかもしれませんがこのような感じで進めていきたいと考えています。

さて、本日はイースターです。
日本の皆様は「そうなの?」と言う感じだったと思います。
ぶっちゃけ、今アメリカに住んでいる私も「そうなの?」という感じなんですが、お子さんのいらっしゃるご家庭は違うかもしれないですね。
僕、実は6歳の時に1年半セントルイス州に住んでいたので、言われてみればその時にイースターの「エッグハント」という、卵の形をしたものを家の中で探すという遊びをやったような、やっていないような……。
本来はイエス・キリストの復活を祝う日で、卵が生命のシンボルなので、卵を食べたり、飾りつけたり、卵を探す遊びをやったりしてお祝いをする、アメリカではそこそこ大きな祝日です。
ボストンもだいぶ暖かくなってきたんですけれども、僕の家の近所のチョコレート屋さんでアイスクリームが売られ始めるのがイースターの次の日からなんですよね。
チョコレート屋さんのめちゃくちゃチョコの分厚いアイスを食べられる日というのが僕にとっての「イースター」です(笑)。
さて、安川先生とかいかがですか?ご家庭でイースターに何かされていますか?

安川康介
あー、そうですね。
今年は行ってないんですけれども、毎年「子どもに卵を拾わせるイベント」というのが全国で開催されていて、それに連れて行って子どもが卵を拾っている姿を見て「可愛いなぁ☺️」と思うのが親にとってのイースターです(笑)。
でも子どもから「なんで卵を拾うの?」といったような質問されると結構大変で……「ジーザス(イエス・キリスト)が亡くなって、生き返って……」という結構複雑な話になるので、その説明が少し面倒な日ではあります。

木下喬弘
面倒って(笑)

安川康介
まず「ジーザスとは誰ですか?」っていう話から説明しないといけないので(笑)

木下喬弘
(笑)まぁそれは結構難しいですよね……はい……


【ニュース1】世論調査 新型コロナウイルスワクチンの遅れに“7割が不満”

さて、本日用意したニュースに移ります。
ここ最近は大きなニュースはあまりありませんでしたが、まず1つ目はこちらのニュースを軽く見ていきましょう。

世論調査 新型コロナウイルスワクチンの遅れに“7割が不満”
https://www.news24.jp/sp/articles/2021/04/04/04850714.html
出典: 日テレNEWS24 2021/4/4


NNNと読売調査が、この週末に行った世論調査で、日本は新型コロナウイルスのワクチン接種が他の先進国に比べて遅れていることについて7割の人が「不満を感じている」と答えました。
また世論調査で「菅内閣を支持する」と答えた人は先月の調査から1ポイント下がって47%「支持しない」は40%でした。
「10月の任期満了に伴う衆議院議員の総選挙をいつ行うべきか?」については、「解散せず今年10月の任期満了で行う」と答えた人が64%で最も多く、次いで「9月の東京パラリンピック後に行う」が20%で、基本的に10月の任期満了まで政権が続くと考えている人が多いという結果でした。
「新型コロナのワクチン接種をめぐって日本が他の先進国に比べて遅れているということに対して不満を感じているか?」と尋ねたところ「大いに感じている」と「多少不満を感じている」を合わせると、合計7割でした。
「大型連休中に旅行や帰省をしようと思うか?」については「思わない」がおよそ9割に上っています。
ただ、政府が大阪などにまん延防止等重点措置を適用したことについて5割を超える人が「感染拡大の防止に効果があると思わない」と答えました。
その他菅総理の政策に関する世論調査の結果が色々と述べられています。

このニュースは、意外ともいえますし、日本らしいともいえると思います。
先日慶應大学が行った調査でも、今のところ日本人でワクチン接種をしようと思っている方は56%でした。
若年者では特に低い傾向があって、高齢者で「接種を決めている」人の割合がかなり高い傾向がある一方で、この読売新聞とNNNが行った調査ではワクチン接種が遅れていることに対して7割の人が不満を感じている、つまり「ワクチンを打ちたいとは思っていないけれども、ワクチンが遅いことに対しては不満」という、なんとも微妙なニュースかなと思っています。
また、9割の人はゴールデンウィークに旅行したいとは思っていない、かつ、「今のまん延防止措置で感染拡大の防止に効果がある」と思わない人が5割いた、ということです。
僕も新型コロナウイルスワクチンに関して情報提供を行っていますので、「ワクチンに対する世間の認知」はやはり気になるのですが、この「6割位の人たちが今のところワクチンは打ちたくないと思っているが、7割位の人は遅いと思っている」という現状に関して、ぜひ登壇者の先生方にご意見をお伺いしたいと思います。
いかがでしょうか。

登壇者一同
…………(長い沈黙)

木下喬弘
シーンとなったら…(笑)
まるで安川先生と2人の部屋みたいになってますが(笑)

安川康介
じゃあちょっと、アペタイザーからいきます(笑)。
今回のアンケート調査では1000人ぐらいを対象としていて、固定電話で回答した人が426人で、回答率が6割位で、携帯だと648人で回答率が44%なので、「不満を感じている人の方が回答しやすい」という、「バイアス」、つまり回答者に偏りがあるかもしれないですね。

木下喬弘
そうですね。
「セレクションバイアス」だと思います。

安川康介
なかなか解釈するのが難しいと思います……
つまり、「不満である人」の方が、こういうアンケートに回答する傾向がありますが、これは学術的な調査ではないので、結果を見るときは少し注意した方が良いと思います。
当初予定されていた厚労省から発表されたスケジュールよりも遅れていることや、ファイザー社と最終的な契約が結べていなかったことなどが理由で、政府に対する不信感や不満が高まっていることが背景にある気もします。
それは、「ワクチンをぜひ受けたい」ということよりも、「もともと言っていたスケジュール通りに進んでいっていない」ことに対する不満を感じていると思います。

木下喬弘
打ちたいかどうかは別にと言う事ですね。

安川康介
そうですね。
ちょっと日本にいる先生にお話を伺ってみたいところですけれどもね(笑)。

木下喬弘
(笑)……まぁ、確かにアメリカから2人でしゃべっててもあまり盛り上がらないので、ぜひ日本の皆さん、肌感覚的に周りの人がどう感じているかを教えていただきたいのですが、いかがでしょうか。

黑川友哉
では、よろしいですか。こびナビ黑川です。
これサンプリングがどのように行われているのか気になって、世論調査のページ見ていますが、この人たちのうち「次の首相には誰がふさわしいと思いますか」で10%が「安倍晋三」と回答しているんですよね(笑)。

木下喬弘
(笑)

黑川友哉
自分の周りで10人に1人「次の首相が安倍晋三がいい」と思っている人がいるかどうかというと……私の感覚では「そんなにいないんじゃないか?」と思っています。
「このサンプリングが本当に日本の世相を反映していると言えるのか?」という点が分からない、というのが一点目です。
次に「遅い」ことに対する不満に関してですが、原因を全て政府に対して感じているのかな?という印象を受ける記事でしたが、
ワクチンの接種が遅れてしまった理由はそれ以外にもあるのではないか?と私は思っています。このような結果を出すのは、議論を生むきっかけになるという点ではいいと思いますが、もう少し深めて、例えばワクチンの接種体制(ロールアウト)が遅れている原因は本当に政府にあるのか?本当はどこに原因があるのか?というところまでしっかり考えていくことが、このような調査を行う上で重要になると思います。
いつもこのような調査を見ると、結果だけバン、と出して「はい、こういう結果でした」で終わってしまうので、いつももったいないなぁと感じながら見ているところです。

木下喬弘
ありがとうございます。

前田陽平先生
アメリカでは日本のワイドショーはたぶんやっていないと思います。
僕も普段は日本のワイドショーをめったに見ませんが、昨日一昨日週末だったのでチラッと見たんです。
新型コロナウイルスワクチンのロジスティクスの遅れについては、割と熱心に報道していますね。
政策や政治の運用上の問題について「これがちょっといけてない」という批判を言いたいのかなあと思いながら、そんな話を報道している暇があるなら、もう少しワクチンについて正しい知識を知ることができるようなコーナーを作ったほうがいいんじゃないかなぁと思いながら見ていました。
僕が見たのは2個ぐらいですが、どちらのワイドショーも、
① 高齢者の接種日程が当初の予定よりも遅れている(もちろん政府側も「とりあえず予定通り進む」「これぐらいの日程で進む」という程度の発表で、そこまでマスコミに対してオープンにしていないのですが)
② 「今のところ本当にまだいけていないよ」といった話が医療関係者側から漏れ聞こえている
という2点を組み合わせたような構成で報道していましたし、新聞でもそういう論調をよく見かけます。
どのようなサンプリングをしているか分かりませんが、やっぱり新聞社が行う調査では、テレビや新聞での報道内容が調査結果に大きな影響を与えるんだな、と思いました。
こういう調査は新聞社が登録してる電話番号にかけるんですかね?
仮に全員が新聞を購読しているのでしたら、やはり新聞やテレビなどから情報とっている人であるという可能性が高いと思います。

木下喬弘
そうですね、その問題は大きいです。
要するに、日本の新型コロナウイルスワクチン行政に対する日本に住んでいる人たち全体の考え方を推測する目的でアンケート調査を実施するなら、アンケート調査の対象としている人たちが、日本に住んでいる人たち全体の平均的な集団のサブグループになっているかを考えないといけない、という点が、安川先生、黑川先生、前田先生からご指摘いただいた点です。
これはその通りだと思います。
やり方としては当然、年齢構成や、情報源としているメディアに関しても、母集団と同じような比率になるように集団を選んで、そこに対してアンケート調査をしないといけません。
今回のNNNと読売新聞のアンケート調査には「どういう人が答えたのか」という詳細情報がないわけです。
このアンケートをもとに日本全体のことに「一般化して」話ができるかに関しては、かなり議論がある点だと思います。
もちろん、議論が必要だというのはその通りなのですが、一方で、議論をもっと突き詰めていくためには、どういう人がアンケートに答えたかを示すデータがないとどうしようもないです。
すなわち、現時点で「このアンケート調査が、実際に日本の一般的な方々の考えていることと同じかどうか?」という点をあまり深く話しても結論が出ないので、この論点についてはさておくといたします。

それでは、「いま日本全体で、新型コロナウイルスワクチンがどのような受け取られ方をしているか?」について伺いたいと思います。

前田先生がワイドショーウォッチをしてくださり、政府が言っていた通りにワクチン接種が進められていないことを批判する風潮があるということでした。
そういう空気感が調査結果にも反映されているんのではないか、というご意見です。
これは何ともいえない話だなと思います。
結局「ワクチンを打ちたいかどうかと言うところはさておき言ったことをちゃんとやってほしい」ということですが、行政側からすると「ヨーロッパでもアストラゼネカ社のワクチンが予定通りに届かない、といった問題が起きており、うまく予定通りにワクチンが打てている国はほとんどないので、日本だけそういうことを言われても到底無理だ」という点もあります。
そういう意見もあって、このようなアンケート調査になっていると思います。

他に「日本の空気感的にこうだよ」と教えていただける先生いらっしゃったら、ぜひお願いいたします。

登壇者一同
……

木下喬弘
前田先生にご指摘いただいたような感じでよろしいですかね。

ちなみに、メディカルノートでのアンケート調査が見つかったので、それについても簡単に触れておきます。

参照:https://medicalnote.jp/nj_articles/210326-003-HG
出典:medicalnote 2021/3/26

メディカルノートで発表されていた慶應義塾大学の医療政策管理学教室が行ったアンケートでは、2015年の国勢調査に基づいて都道府県人口比率や男女比を年齢構成を合わせて割り当てサンプリングをして、30,000人を目標にインターネットで回答を得ることで、日本全体の構成に合わせようとしています。
ただ、そもそも「インターネットで回答を得た」ということなので、インターネットで回答するような人に対象が限られているという点を考えると、他の情報源で接種行動を決めている人が反映されないアンケートになるという限界があることは分かると思います。
データがあると、このようにいろいろ議論ができると言う事ですね。
全体で「ワクチンを接種する」と決めている人たちは56%、「わからない」と答えている人は33%で、「接種しない」と答えている人は11%という結果でした。
接種すると決めている人は20代が41%と一番少なく、70代が72%と最も多く、段階的に少しずつ年齢が上がるたびにワクチンの接種希望が高くなってくるというアンケート結果が出ています。
まとめますと、比較的一般化しやすい(つまり年齢構造などを合わせた)慶應大学のアンケート調査では、ワクチンを接種したいと思っている人たちは若年者で少なくて高齢者で多いという結果が見てとれるということです。
一方で、有名新聞でも「世論調査上ではワクチンの遅れに対する不満も見られる」という、何とも言えない全体的な「ワクチンを打ちたいと思っているからそういう返答になっている」のか、あるいは「打つかどうかはともかく、国がやっている政策がうまくいってないこと、国が言っていた通りになっていないことに対する不満があるからそういう返答になっている」のか、という判断が難しいところになるかと思います。
黑川先生、どうぞ。

黑川友哉
ありがとうございます。
メディカルノートの慶應大学の調査の内容をよく読んでみると「接種するかどうかわからない、決めかねている」と回答している人の最大の理由、ほとんど9割の人は「副反応とかリスクが不安だ」ということを同時に回答されていたんですね。
それって結構メディアからの情報を見てやはり不安に感じてしまう部分があるからだと思います。
このルームを聞いていただいている方の中にも医師の方がたくさんいらっしゃると思いますが、身近な医師や信頼できる方がワクチンに関する正しい情報、例えば今わかっている副反応の状況とかそういったことについてコミニケーションをとっていただけるだけで、この状況ってかなり改善されるんです。
このルームを聞きに来てくださっている医師の方々も、皆さんの力で「ワクチン接種しようかな?どうかな?」と迷う大きな潮流を変えることができるということを、今はその瀬戸際のような状態にあるということを共有認識として持っていただけると非常によろしいかなと思います。

木下喬弘
まずワクチン接種をしたいかどうかという点から話を振っていきます。ご指摘の通り、メディカルノートに掲載された慶應大学の研究結果で「接種するかどうかわからない」と回答した1番大きな理由、79.1%は「副反応や安全性に対する懸念」でした。
これはアメリカのワクチン忌避に関する研究者も必ず口にすることなのですが、やはり医療従事者は医療のインフルエンサーなので、ワクチンについての正確な情報を持っている医療従事者が、副反応や安全性について正確な情報コミュニケーションするということが非常に重要であるというご指摘です。

黑川友哉
9割じゃなくて8割でしたね、すみません。

木下喬弘
比較的「ワクチンがうまく進んでいない」と思っている人が多いというニュースで、このあたりでまとめさせていただきます。


【ニュース2】第3波、死者7400人 高齢者施設の感染、2波までの5倍 新型コロナ

次に選んでいるニュースに移りたいと思います。
実はこのニュースについて話したいのではなく、その裏番組的なツイートを拾おうと思っています。

第3波、死者7400人 高齢者施設の感染、2波までの5倍 新型コロナ
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S14859763.html
出典:朝日新聞 2021/4/5

日本で感染が広がっているというニュースが出てきていまして、特に大阪で感染が拡大しているという状況になっています。
これはこれで事実なので仕方ないのですが、これに対して……とある知事が、少し変わったことを言っていたので、感染症疫学的な観点からどのようなことが言えるのかお話ししたいと考えています。
ある地域で感染が急拡大した理由について、「緊急事態宣言で感染を抑えすぎた、結果、変異ウイルスが既存ウイルスにとって変わる速度が早まり、変異株が急拡大してる説。逆説的でえっ?と思うが真実をついてるかもしれない。緊急事態宣言解除時の陽性者は1日約50人だった」と話されている。
真剣に、そんなことがあり得るのかと言うことをディスカッションしてみたいと思います。
要は、変異ウイルスが少しずつ日本にも増えてきている状況で、「既存のウイルスの感染を抑えすぎたせいで、変異したウイルスが感染拡大している」と主張している人がいる。
これに関して、皆さんのご意見を伺えればと考えています。
いかがでしょうか?

登壇者一同
………………

木下喬弘
こういう時は安川先生が答える、みたいな(笑)

安川康介
(笑)まぁミュートを外さざるを得ないみたいな気がしまして、外しました……

木下喬弘
ありがとうございます。

安川康介
まぁ……えーっと……ちょっとはっきりって……ちょっと訳がわからないんですけれども……はい……(※非常に話し出しにくい雰囲気)
もともと変異ウイルスは(峰先生でしたら「変異体」と呼んでいると思いますけれども)
確かに変異ウイルスには「感染力が高まった」「致死率が高まった」といった側面はあるのではないかと言われています
でも例えば「100倍感染しやすくなった」というようなものすごく劇的なタイプの変異ではありません。
(感染予防対策をして)新型コロナウイルスの感染自体を抑えたら、変異ウイルスも既存のウイルスも両方が抑えられるはずなので、ちょっと……よくわからない論理だなと思います。
確か知事には医師のチームがアドバイザーとしてついているはずなんですけれども、どうしてこういう風なコミュニケーションになるのかなと、とても不思議です。

木下喬弘
このニュースをあとどれだけ真剣に掘り下げるのか、という問題もあるんですけれども……
「既存のウイルスの感染を抑えすぎたら、変異したウイルスの感染が逆に広がってしまう」という、まさに知事ご本人のおっしゃる「逆説的な現象」が起こり得るかということを科学的に検証したいと思います。
まず安川先生がご指摘された通り、変異したウイルスも既存のウイルスも人から人への感染様式は同じなので、仮に人から人へのうつりやすさが変わったとしても、同じ感染対策でどちらも抑えられる、ということが大前提になります。
そうすると既存ウイルスを抑える施策は変異ウイルスを抑える施策にもなるはずなので、緊急事態宣言によって感染対策を厳しくしている間はどちらの感染も下がることは間違いないです。
その後の立ち上がりが、既存のウイルスが少ない状況、例えば1日の既存のウイルスの感染者が10人の状況と、100人の状況で、変異したウイルスの感染拡大のスピードが変わるかどうかが次の問題点になります。
先に結論を言うと、これは変わらないです。
何故かといいますと、既存のウイルスの感染者数が10人であろうが100人であろうが、大阪全体の人口からすると微々たるものだからです。
既存のウイルスの感染者数によって、地域全体の集団免疫閾値に対する割合がほぼ変わらない状況で変異ウイルスが入ってきても、全く同じように増えていくということがまず確定できないですね。
確かに英国型のウイルス(イギリスで見つかった変異)は従来のウイルスに対して免疫逃避はあまりない、つまり前のウイルスにかかっていた人が変異ウイルスにはかかりにくいと考えられます。
今話している地域は全体で800万人くらいの人口ですが、例えば400万人くらい既存のウイルスに感染した人がいれば、変異したウイルスが広がりにくいという現象は起こり得ます。
でも、10人とか100人とか1000人とか1万人ぐらいまでのレベルで既存のウイルスに感染した人の数が変わっても、変異ウイルスにとっては全く何も関係ない話である、という結論になります。
つまり「この逆説的だが真実をついているかもしれない」というこのコメントは、シンプルに「そんなことはない」という話になります。
このあたり、追加のコメントいただける先生いらっしゃったらミュート外していただければと思います。

登壇者一同
……

木下喬弘
まぁその通り、ということでしょうか。
特別に何か意見ないですか。
あ、岡田先生お願いします。

岡田玲緒奈
別の角度の切り口で行きます。
私、知事が観たと思われるニュースを観てみました。
そのニュースで「脇田座長の見立てはこうです」とナレーションしている時は確かに脇田座長が取材を受けているような映像が流れているんですけれども、音声が全くないんです。その後、番組が作成したと思われる謎のCG映像で、既存ウイルスの感染を抑えることで変異ウイルスが拡がる理屈を解説しているんですが、そもそもこの方が実際にはどのような発言をされたのかわからないんですよね。

木下喬弘
そうですね。

岡田玲緒奈
そのような「報道の倫理」じゃないんですけれども、知事が参照したとおっしゃっている報道自体もどうなのだろうかと思う案件でした。

木下喬弘
おっしゃる通りだと思います。
その……固有名詞まで出ていましたけれども……
このニュースは、感染症の専門家の話からニュースが始まって、そのニュースを見た知事がこういう話をした、という二段構えなんです。
最初のニュースで、本当に感染症の専門家が「既存のウイルスの感染が下がると逆説的に変異したウイルスの感染が広がりやすい」と発言したかどうかは、正直よくわからないです。
僕もそのニュースを観ましたが、実際言っていない可能性も考慮すべきなので、このニュースをもとに批判するのはかなりかわいそうなので、あまりここでは触れないでおこうと思っていました。
いずれにせよ、「知事の解釈は大きく間違っている」という点は知っておいていただきたいです。
繰り返しになりますが、既存のウイルスの感染者数が1日あたり10人であろうが100人であろうが1000人であろうが1万人であろうが、ウイルスにとって広がりやすさ、うつりやすさ、環境は変わらないです。
変異ウイルスの感染者が100人だとして、既存のウイルスの感染者が1日あたり1万人であれば変異ウイルスの割合が少なく見えますし、100人であれば多く見えますけれども、根本的に問題は変わらないですよね。
既存のウイルスも変異したウイルスも、同じ感染対策で同じように感染者数を減らすことができるので、感染対策は変異したウイルスが入ってきても同じです。
今やるべきことは、もし感染者数が増えているのであれば、従来からの、手洗い、マスク、そして3密の回避、という感染対策をやる。
それと同時に、できるだけ早くワクチンを普及させて、集団免疫閾値に少しでも近づくように、ワクチン接種者の数を増やす、以外に対策はありません。
この点について、何か補足コメントのある先生いらっしゃいましたらお願いします。

登壇者一同
……(沈黙)

木下喬弘
よろしいですか?
では、今日はこの辺にしようと思います。

この週末は大きなニュースがなくて、先週結構大きなニュースが多かったので。
ファイザー社の新型コロナウイルスワクチン、小児では有効性100%とか、6ヶ月時点での有効性が91.3%とか、南アフリカの変異ウイルスに対しても100%有効性が出た、といったニュースが先週半ばに多く出てきたので、その分週末そんなに大きなニュースがなかったのかなと思います。
今回は日本の現状と、変異したウイルスについての考え方についてお話させていただきました。

いきなり変更なのですが、明日はモデレーターが木下から安川先生に代わって、安川先生にニュースを選んでいただきます。
当然、僕も参加させていただきますので、そこでコメントさせていただきながら、いつもと違う目線で医療ニュース解説ができればと思っています。
本日ご登壇いただいた先生方、どうもありがとうございました。

では日本の皆さん、よい1日をお過ごし下さい。

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