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新型コロナウイルス感染症のPCR検査について考えました。(4月30日こびナビClubhouseまとめ)

こびナビ広報

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2021年4月30日(金)
こびにぃが解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:「こびにぃ」こと岡田玲緒奈

【オープニング】

岡田玲緒奈
おはようございます
月曜日感がありますが、金曜日です。
今日1日頑張ったら休みですか、皆さん?

木下喬弘
休みでーす!

岡田玲緒奈
木下先生あまり関係ないですよね。
昨日祝日(4/29 昭和の日)の国に住んでるわけじゃないんだから(笑)

木下喬弘
関係ないでーす!

岡田玲緒奈
あははっ。

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
日本時間で生活している疑惑が相当あるから、昨日祝日なんじゃないの?

木下喬弘
エブリデーが祝日です。

岡田玲緒奈
意味がわかりませんけど(笑)
またアンチに無職とか言われますよ(笑)

木下喬弘
働いてない疑惑ありますよね、ほんとに。

岡田玲緒奈
先生は日本にいる無職という説もあるみたいですね。
僕そういうの結構チェックしてるんです。木下医師免許ない説とか。

木下喬弘
いろんな疑惑がありますからね、木下先生は。
で、どうだったんですが、えもにい先生の昨日の祝日は、100点満点でいうと。

岡田玲緒奈
昨日は、とある無駄な3時間を過ごしました。
ニューヨーク・タイムズを読んでいたんですけど。

木下喬弘
あはは、しっかりと今日のネタを。

前田陽平先生
知的ですなあ、無駄な時間の過ごし方が。
ちょっと違う感が。

岡田玲緒奈
(爆笑)

木下喬弘
前田先生は3時間無駄な時間があったら何をするんですか?

前田陽平先生
僕は映画を見たいですね。
普通の答えでごめんなさい。

先日内田舞先生とメッセージをやりとりしていたんですけど。
自分の話し方は知的な雰囲気を与えているつもりだったのに「先生の関西弁が癒しです」と書かれていて、面白い癒し的ポジションだという衝撃の事実を知ってしまったので、これからは癒しキャラで行こうと思います。

岡田玲緒奈
完全同意ですね、内田先生に。
黑ちゃんは、同じ耳鼻科医としてどう思いますか?

黑川友哉
僕は、ひまみみ先生はすごく知的だなといつも思っていますよ。

前田陽平先生
むちゃくちゃ無理やり言わされてる感がありますが(笑)
ありがとうございます(笑)

岡田玲緒奈
かなり適当でしたね、今のトーンは。

黑川友哉
あはは、いやいやいやいや。
ひまみみ先生のようにチャチャを入れてくださる方がいるからこの Clubhouse が成り立っていると思うので、引き続き宜しくお願いします。

前田陽平先生
わかりました!
チャチャ入れ癒し係として引き続き頑張ります。
ありがとうございます。

木下喬弘
いやぁ完全に黑ちゃんの優しさで成り立っているでしょう、この Clubhouse は。

黑川友哉
いやいや、そんなことない、そんなことない(笑)

前田陽平先生
間違いないですよね。

岡田玲緒奈
ではそろそろ始めましょうか。


【ニュース】新型コロナウイルス感染症の大規模スクリーニング検査

Mass screening for asymptomatic SARS-CoV-2 infection
https://www.bmj.com/content/373/bmj.n1058
出典: The BMJ 2021/04/28

岡田玲緒奈
昨日TL(Twitterのタイムライン)に流れてきた話題です。
ここに登壇されている先生方の一部は「検査抑制派」などというよくわからないレッテルを貼られていますが、PCR検査がらみのツイートをしたことのない私もどうやらその仲間に入れていただいているようです。

今回、大規模なスクリーニング検査についての記事が出ていましたのでご紹介します。
イギリス政府は2020年9月に「オペレーションムーンショット」を打ち出し、イングランドでは全ての成人が週2回検査を行っていますが、それがスコットランドにも拡大されるとのことです。

参考:
イギリス政府によるCOVID-19関連情報
https://www.gov.uk/coronavirus
出典: イギリス政府公式サイト

イギリスでの、症状がない場合の定期的迅速COVID-19検査
https://www.nhs.uk/conditions/coronavirus-covid-19/testing/regular-rapid-coronavirus-tests-if-you-do-not-have-symptoms/
出典: NHS(National Health Service、イギリス国営国民保険サービス)

この検査はどうやら PCR検査ではなく、LAMP法の改良版のようですが、あまりよくわかりません。皆さん、検査をこんなに行っていることをご存知でしたか?

編集注:LAMP法について
LAMP法やTMA法等は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子の検出ま
での工程が短縮され一定温度で実施可能な遺伝子検出法である。リアルタイムRT-PCRと比較して感度(疾患にかかっている人のうち、検査で陽性と判定される割合)は落ちるものの実用範囲で、反応時間が35~50分程度と短いという利点がある。
出典:厚生労働省 COVID-19病原体検査の指針ver.3.1
https://www.mhlw.go.jp/content/000747986.pdf


木下喬弘
いろんな国で行ってますよね。イギリスでは学校などで PCR検査を要求されるという話を最近聞きました。

岡田玲緒奈
この記事にも学校の話が少し出ていますね。

このような感染症に対する検査を大規模スクリーニング的に行うのは歴史上初めてのことなので、費用対効果などはよくわかっていません。かつその効果を評価するための計画が特にないとこの記事では指摘しています。

イギリスでは、これまでに行われた他の疾患に関する健康な人へのスクリーニング検査の試みは失敗し続けています。たとえば子宮頸がん検診について、現在の体制(検査と評価、経過観察の仕方、治療などがセットになっている)では死亡率軽減に寄与していますが、80年代頃までは効果を出せていませんでした。ハイリスク群を見極めて検査することや、検査後の対応がきちんと整備されていなかったことが要因として考えられます。

他いくつかの疾患におけるスクリーニング検査についても触れられており、検査のクオリティーが担保されない状況で沢山検査しても意味がないという事例が示されています。

新型コロナウイルスについても、検査自体のクオリティーを維持することが重要であり、かつ検査結果が判明した後の対応が決まっていなければ、無症状感染者からの伝播を防ぐ方法はないのではないか、と予測されています。

リバプールでは2020年12月に感染者数が急増しましたが、当時人口の4分の1がこの検査を受けていたにも関わらず、スクリーニングを行っていなかった都市と状況に変わりはなかったとのことです。

その他、大学や学童、高齢者施設などでもスクリーニング検査が行われていますが、有効性は示されていません。

イギリス政府によると、新型コロナウイルス感染症は3分の1の症例が無症状だということをスクリーニング検査の根拠にしているようですが、これがどこから出てきた数字なのかよくわかりません。無症状の定義などもされていません。
この記事では、結局のところ感染を広げるのは症状がある人だと言っています。症状が軽かったり、非特異的であっても症状のある人に対する検査体制をしっかり構築することのほうが重要であるとしています。

ここは皆さんにご意見をいただきたいのですが、基本的には有症状者が感染を伝播させるという理解でよいのか、あるいは、無症状でも感染伝播させるがその人はずっと無症状なわけではなくどこかで症状を出すから後で濃厚接触者調査を行えばよいということか、最新の話はどのようになっているでしょうか。

安川康介
これは報告によって違い、割合も異なります。
たとえば PLOS ONE というジャーナルには、ずっと無症状でいる方が感染者全体の2割程度ではないかという報告があります。検査した時には無症状ですが後に症状が出る人(presymptomatic)もそれなりの割合いるとされています。

参考:
PLOS ONEに掲載された論文
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1003346

無症状者からの感染者数も報告により全く異なっており、多いものでは5割、少ないものだともう少し少なかったりと幅があります。

この記事では多くの感染が有症状者から起こっているという報告を引用していますが、この点は報告によりばらつきがあります。

どのようにスクリーニングするか、どのように無症状者を捕捉するのかは難しい問題です。つまり感染者全体の中でどのくらいの方が無症状で、無症状の方からどのくらいの方が感染しているのか、というはっきりとした数値を出すのはすごく難しいことなんですね。

岡田玲緒奈
そのあたりの難しさはありますよね。研究によって数値が変わってくるのは当然といえば当然のことです。

木下喬弘
私も安川先生と同じです。今年JAMA Network Openに出た論文では、全体の59%が「症状のない人」からの感染で、24%は最後まで無症状の人から他の人にうつっていて、35%はうつした時は無症状だけど後に発症する人だとのことです。

ただ、これは本当に難しいんですよね。
誰から誰に感染したかを完全には追えず、人から人に感染したとしてもいつ感染したかはわからないわけです。たとえば僕がこびにぃ先生(岡田先生)に感染させたとしても、いつ感染させたのかわかりませんし、僕が症状のある時だったのか、無症状の時だったのかもわかりません。

すごく特殊な閉じた環境で毎日 PCR検査を行い、誰と誰が接触したかを全て追える状況ではじめて、何%無症状の方から感染しているかがわかるわけです。たとえばダイヤモンド・プリンセス号に近い環境ですね。そういった状況で検査し研究しないとわからないことですので、正確な数値を出すのは不可能だと思います。

岡田玲緒奈
少し話がそれますが。検査がらみでよく「偽陽性を証明せよ」と言われますが、偽陰性に比べて偽陽性は証明が難しいんですよね。ウイルス分離を全例で行うわけにはいきませんし、現状 PCR検査で診断するとなるとどうすれば偽陽性がわかるのか、という問題があると思います。このような理解でよいでしょうか。

図表

図:検査における陽性、陰性の用語について
  感度:(真陽性)÷(病気+の合計)
  特異度:(真陰性)÷(病気-の合計)
  陽性適中度:(真陽性)÷(検査陽性者の合計)
  陰性適中度:(真陰性)÷(検査陰性者の合計)


木下喬弘
そもそも新型コロナウイルスの PCR検査に限らず、ゴールドスタンダードな検査の偽陽性というのは非常に難しく、ある種の哲学的な問題なんです。つまり「PCR 検査で陽性だったけれど、確実に COVID-19 ではなかったと言えるのか?」ということなんです。

もちろん言える可能性はあります。たとえば PCR検査をして新型コロナウイルス陽性という結果が返ってきたけれども、臨床医が経過を観察すると明らかにそうではなかったと言い切れる場合には、偽陽性だと考えられるわけです。

ですが、新型コロナウイルス感染症は他の人に感染させるかもしれないわけで、陽性者を見逃すことのリスクが大きい以上、「コロナではなかった」と言い切るのは難しいわけです。臨床的にはっきり違うといえる判断基準をつくらないことには、そもそも偽陽性がどの程度あるかは特定のしようがないんですよね。

真の特異度がわからない以上、特異度99%という仮定をもとにどの程度の偽陽性が出るかという話をするのも合理的ですし、それを99.99%だと仮定し偽陽性の割合を議論して、これくらいの事前確率ならこの程度の陽性適中率ですね、というのも合理的です。

しかし原理的に偽陽性を0%とするのは明らかにおかしいことです。そもそも検査というものは精度が100%になることはありえませんので、その仮定を確実に正しいものとして他人に強要し、その前提で議論を進めるというのが問題なんだと思います。

他にも、「1万人の集団に検査したら1人も陽性が出なかった、だから偽陽性はないんだ」という人もいるのですが、それは陽性者が出なかったサンプルを恣意的に集めてきているだけで、他集団の検査で陽性だった人が偽陽性かもしれない可能性を無視しているわけです。

前田陽平先生
木下先生の意見は論理的で異論はないのですが。
実践的に偽陽性だと判断できる場合もあると思うんです。一般的な検査機関(医療機関)で新型コロナウイルスの PCR検査をどのように行っているかはわからないのですが、たとえば20人ずつ行っていましょう。通常、その20人のうち2~3人が陽性になるような流行状況であるにもかかわらず、ある時突然20人分の検体すべてが陽性でしたとなれば、それは何らかの誤った手順によりコンタミネーション(汚染)が生じたための偽陽性だと判断できると思います。

日本で実際にそういうケースがあったという確たる記述を見たことはないのですが、海外の記事を目にしたことがあります。

岡田玲緒奈
そのレベルでの偽陽性ももちろん存在するでしょうし、臨床の検査ではそうしたことも加味して評価しなければならないという、重要な指摘だと思います。

峰宗太郎
少し補足、追加なんですが。
偽陽性が出る原因のうち大きなものは(クロス)コンタミネーションといい、本来の検体ではない他のウイルスの RNA や DNA の断片や、ウイルスそのものが入ってしまうなど、他の検体と混ざってしまうことで起こります。

しかし偽陽性の要因はそれ以外にもあります。
「非特異的増幅反応」という現象が起こることがあるんです(非常にすぐれたプライマー・プローブセットであれば起こることは少ないんですが)。

そもそもヒトの検体を採取すると、大量に検査目的と関係のない夾雑物(不純物)の DNA が混ざり込むわけです。そうすると理想的な増幅ではなく、非特異的な PCR断片が増えることもありえるんですね。これは研究室レベルでも起こることで、偽陽性や非特異的増幅がない100%の PCR検査(分析)というのは理想的な実験室でも実はないんですよ。そこを100%だと言い張るのは明らかに間違いです。

安川康介
木下先生のお話に繋がるのですが。
新型コロナウイルスの場合、臨床症状からこの人は偽陽性だと確定させるのは難しいと思います。これだけ無症状の方がいて症状も多彩ですので、コンタミネーションが起きたり検体を取り違えたことが明らかになった場合以外は、臨床現場では偽陽性だとわかることはまずありません。

岡田玲緒奈
そうですよね。安川先生が触れてくださった点が新型コロナウイルス感染症の特に難しいところかなと思います。
というわけで記事に戻ります。

ここでは「イングランドでは2021年3月31日から検査陽性者の濃厚接触者に対する PCR検査が制度化された」と書いてあります。これはいまさらという感じですが本当なんでしょうか?

日本は最初期から、世界に類をみないほど濃厚接触者調査をしっかり行っていたと言われていますし、濃厚接触者の PCR検査は常識で日常的に僕ですら行っていますが、他国ではそのようなものなのでしょうか。

安川康介
アメリカでは感染爆発していますので、自主的に行うことはあってもやらなければならないということはありません。感染拡大しすぎて(やろうとしても)ほぼ追えない状態ですね。

岡田玲緒奈
なるほど、そういう事情ですね。言われてみればその通りです。

記事に戻りまして。
イギリスで無症状者が自宅で週2回検査をすることになれば、この結果が大量に中央(イギリス政府)に届くことになります。つまり、大規模スクリーニングを行っていなかった当時の検査数、症例数、陽性率といったデータと関連づけられなくなり、様々な予測が立てられなくなるという弊害もあるのではないかと書かれています。

イギリスではワクチン接種が進んでいることもあり、感染者数が減少すると偽陽性も問題になりそうです。また気軽に検査できることにより、何らかの症状のある人でも受診せずに自宅で検査をし、これが陰性だったら陰性証明にしてしまうという偽陰性の問題もあります。

ここで問題提起として、イギリスは検査数を増やすということに注力してきたが、迅速にできる検査の開発に力を注ぐあまり検査を含む全体の体制構築を怠ってきたのではないかと書いてあります。

言い古された言い方になりますが「目的と手段が入れ替わる」、つまり検査、検査という姿勢自体が目的を見失ってるなあと思うことが多いです。

記事の最後に「問題は検査するかどうかではなく、もっとも効果的に対策するにはどうしたらよいか」だと書かれています。本当にその通りで、日本の医師も医学部でこのことをしっかり学んでいるはずなんですが、医療者の間でもそのような考えではない方がいらっしゃるように見受けられます。

そして、WHO(World Health Organization、世界保健機関)、CDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)、EU ともに「検査前確率の高い人に検査せよと言っている」ことを強調して、記事をまとめています。

ということで、何かありますか。

木下喬弘
本当に、検査は検査なんですよ。
これまでの医学の歴史上、検査で何かのアウトカム(結果、成果)を改善した例はそうそうないんですよね。当然ながら検査そのものは治療ではないので、検査をして陽性になった人も陰性になった人も同じ介入をするのならアウトカムはよくならず、検査の害が残るだけです。

検査後にどのような介入をするかがものすごく重要であり、アウトカムに寄与する介入があり、その介入を変えるような検査であれば有用である可能性はあるわけです。たとえば子宮頸がんのスクリーニング検査、乳がん検診などもそれに該当します。

新型コロナウイルスの PCR検査にしても、隔離という強い介入を実際に効果的に行えるのであれば、あるいは検査前確率が比較的高く、検査の陽性と陰性で検査後確率が大きく変わるような集団に対して実効性のある介入ができるのであれば、それは有効なわけです。

とにかく、検査後の介入まで含めて冷静に議論する必要があると思います。すなわち、どのくらいの事前確率を見込んだ上で、事後確率はこれくらいになるから、このような介入の差を、こういうふうに実効性をもって行うことで、このくらいのアウトカムの改善を見込める......という議論をしなければなりません。

少なくとも検査をやるかやらないかの二択で話をしても意味がないわけですよ。

前田陽平先生
検査しまくるという策は、ある程度人権を無視した濃厚接触者調査や隔離がセットならば有効な側面もあるかもしれませんが、それなしであくまで本人の自由意志で動かす前提なら意味がないんですよね。しかしこれを多くの人に理解してもらうのは難しいんだなということが、この1年ちょっとの間、木下先生の炎上を見ていてわかりました。

安川康介
何のために検査をするのか、その後どういう行動変容を促すのかということは重要です。
新型コロナウイルスの場合、偽陰性の確率が2~3割とそれなりに高いので、陰性が出たから大丈夫だと思って普通に行動してしまうとさらに感染が広がりかねないわけです。結局のところ、皆が感染予防しなければならない、するのが最も効率的だと思います。

しかしスクリーニング検査もうまく運用すれば効果的かもしれないというデータは一応あります
調べたところでは、ルクセンブルグでマス・スクリーニングプログラムを行い、モデル解析を行ったところ感染が抑えられたんではないか、という論文も一応出ているようです。

このように検査に関することは結構難しいところだと思います。

峰宗太郎
僕は違う観点からお話します。

もちろん検査結果に沿った介入も大事なんですが、やっぱりそもそも検査というものは完璧なものではなく、精度の問題があるんですよね。

(特にウイルス)感染症の検査としては確かに PCR検査が適しているんですが、PCR という基礎研究技術を使うがゆえに、医療を専門としていない基礎生物を研究している人たちの誤った解釈が拡散されることも問題だと思っています。

そして費用対効果やキャパシティーの問題も常に考えなくてはならないです。
木下先生が在籍されていたアメリカの大学に所属されている有名な方が、「アメリカの全国民の半分に対して毎週2回検査すれば流行を抑えられる」というモデリングの論文を出していますが、果たしてそのような大量検査が今の技術と資源量で実現できるか、という話です。

それに近い大規模検査がドイツのテューリンゲンという街で行われましたが、結果どうなったかというと、週2回検査しても感染が拡大したんですよね。

岡田玲緒奈
ほぉ、それはどうしてなんでしょうか。

峰宗太郎
検査を受けた人が油断して行動を緩和したからではないかという説があります。

検査をすればその瞬間の陽性・陰性がわかりますが、その人が感染するか否かというステータスは変わりません。一方で新型コロナウイルスワクチンを2回打って2週間経てば、ほぼ感染しない人、発症しない人、重症化しない人になります。検査をいくら受けたところでそうはならないので、ワクチンを打つまでは予防を続けるしかないわけです。

となると、感染者を発見して徹底隔離をするという濃厚接触者調査の考え方が重要になってきますし、検査の精度や費用対効果を考えるなら結局は事前確率が高い人に検査を行うほうが効率的であるという話に帰結するわけです。

このように、すごくシンプルな話なんです。

検査を無制限に拡大し大量に行えば流行が収まるという論文を見せてくる人もいますが、検査の量を変数としてどのくらい流行を抑えられるかという効果量を見ると、いくつかの国での大量検査の結果では、莫大な費用に比べて効果は本当にごく微々たるものなんです。たとえば1回の検査で感染者を1人発見するための検査数、これを10倍にすると全体の流行を数%抑えられる可能性があるよ、という程度の話です。

つまり治療薬と同じような話なんです。この薬は効くよ、といっても劇的に死亡者が減少するような薬はなく、何%かは変わるかもねという話であり、ここの評価もしなければならないわけです。

この点で、今回の BMJ のこの記事は非常によいと思います。検査となるととにかく大量に行えばよいだとか、検査をすれば安心だという検査信仰のようなものがありますが、このパンデミック終了後に、科学リテラシーを上げるという意味でもしっかり啓発していかなければならないと強く思っています。これは私がこの1年間ずっと感じていることです。

岡田玲緒奈
大事なところに触れていただきました。
日本人がこれだけ検査好きになった要因には医療者の責任もあると思っています。受診された方に不安だから検査してくれと言われて、説得するのも面倒ですし、医療費もそこまでかからない(自己負担額としては)ので検査してきたという歴史があるんですよね。インフルエンザの迅速検査はやはり感度70%程度だと言われていて、流行状況や症状からインフルエンザだろうということであれば、検査結果がたとえ陰性であっても、やはりインフルエンザだという診断をしてきたわけです。アウトカムが変わらない検査の例ですね。

なお、それならまだましで、陰性だから大丈夫だよといってしまう人(つまり感度・偽陰性の問題を認識していない)も医師の中にも存在しており、ある意味では日本全体の医療の問題が反映されているなあと思っています。

ということで、もう1つ記事を用意していましたが、大変盛り上がりましたので今日はこの辺にしたいと思います。

みなさん、言いたいことは言い終わりましたか?
(ざわざわ、発言したい人が何名か)
まだありますか。

安川康介
結局木下先生は検査抑制派ということでよろしいでしょうか(笑)

木下喬弘
最後にその話をしようかと思っていました。
私は、「検査をすることによって検査後にどのような介入をするかのワークフローを明確にし」「検査対象をしっかり設定し」「有効かつ費用対効果にも優れた」検査をしましょうと言っています。検査そのものを否定しているわけでは全くなく、PCR検査がない状況で新型コロナウイルスを抑え込めるという話もしていません。そこの議論を明確にして前提条件を話し合わないと、話が進まないんですよね。

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
当たり前のことしか言ってないんですが。

黑川友哉
さっきから同じことしか言ってないんですよね、ほんとに。

岡田玲緒奈
というか1年間同じことしか言ってないんですよね?

木下喬弘
いやもうほんとそうなんですよ。

黑川友哉
もう bot でいいんじゃないですか(笑)

峰宗太郎
検査抑制派というレッテルを貼られてるのは僕もです。
BuzzFeed に記事を書いたあたりから、おまえのせいで日本でコロナウイルスがこんな惨状になっているんだという批判を毎日のように浴びているんですが......。

おそらく私そんなに権力ないんですよね👶
(僕のせいで)PCR検査が伸びないと言われるほど僕に権力があったら、いまごろ僕はがっきー(新垣結衣)と毎日デートしてると思うんですよ。しかしそんな権力はないわけですよ(笑)まあそちらの愚痴はよいとして。

検査としてはもう1つ、変異ウイルスに関する検査の話題があります。
変異ウイルス流行の状況を把握するという監視とスクリーニング、適切なパーセンテージでシークエンス(手順、順序)を行い、どのような変異ウイルスが入っているかを把握することは非常に重要です。

しかし検査後の結果によって何が変わるのか、介入が変わるのか、などの戦略のない検査では、いくらやっても意味がないわけです。ただ知りたいから、というのでは趣味になってしまうんです。

それなのに全例で変異ウイルスかどうかを検査するといっている人たちや、それをやると言い出した知事までいるようですし、それに便乗して PCRの大量検査を訴える方々が、変異ウイルスも全数検査だというようなことを言い出しています。

しかし、治療が変わらなければ、対策が変わらなければ意味がないんです。
研究者以外にとっては、変異ウイルスだろうがなんだろうが、予防策を徹底し人との接触を断つこと、そしてワクチンを打つこと、これしかないわけです。

どうしても知りたいと主張する研究者がいるのであれば、何のために全数把握や極端な大量検査をするのかということをしっかりと示し、目的を明らかにしていただきたいと思います。

検査をするにしても戦略や目的を明確にすることが重要ですし、それがどのように正当化されるのかといったことまでしっかりと考えるべきです。研究の基本は必要性、許容性、正当性であることを忘れてはなりません。

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
大変盛り上がりまして、👶ではなく強面のおじさんがみえた気がしますが(笑)。

いずれ、もう少し基礎の話もしたいと思っています。
変異ウイルス、PCR検査、シーケンシングの話や、ニューヨーク・タイムズに掲載された mRNAワクチンの製法の記事について(わかりやすくするために省略されていることの)詳細な説明もしてみたいなと思っています。

もし需要がありましたら、僕あてにご意見をいただければと思います。

(編集注: この基礎的かつ超マニアックな話題は、5月7日夜のこびナビTwitterスペース配信にて取り扱われました。)

本日のタイトルにいま気づきましたが、僕も「こびにぃ」と、こびナビの影の支配者!?のようになってきましたね(笑)

というわけで、世界の最新医療ニュース、本日はここまでにしたいと思います。
来週からはどうしましょうか。

木下喬弘
月:木下喬弘、火:吉村健佑、水:安川康介、木:峰宗太郎、金:岡田玲緒奈
でいければと思っているんですが。

岡田玲緒奈
僕は大丈夫です。

峰宗太郎
僕も大丈夫です。
木曜日に先に岡田先生がやりたそうな話題をやっちゃえばいいんですよね👶

岡田玲緒奈
あっははは(笑)
潰してきますね~(笑)

安川康介
その前日に僕がやってしまえばいいですかね🥦

岡田玲緒奈
(爆笑)
やめなさい(笑)

木下喬弘
月曜日から僕が基礎の話をするということで。

岡田玲緒奈
あなたプラスミドとか言ってる会話には参加したくないって言うてたやん(笑)

それでは皆さんありがとうございました。
よい祝日をお迎えください。


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