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「失われた時を求めて」と「プルーストを読む生活」を読む 115

失われた時を求めて

12巻、608ページまで。前回の終わりに届いたとんでもない電報は、主人公の勘違いだった。今回読んだ分は、12巻の締めに差し掛かる。主人公は以前サン=ルーに教えてもらった娼婦の名前を見かけ、このままヴェネツィア滞在を延長しようとする。

しかし一緒に来ている母は受け入れず、一人帰ろうとする。取り残された主人公はさびしくなり、強がってはいたものの我慢できず母を求めて駅へ急ぐ。このくだりは情けなすぎる。ここまで読んできた「失われた時を求めて」の主人公らしいみっともなさ。

帰りの汽車の中、母親は主人公を退屈させまいと、ヴェネツィアのホテルで受け取っていた手紙を開封する。そこには主人公の親友サン=ルーと初恋の相手であるジルベルトが結婚するニュースが書かれていた。このことについては、全く伏線なし。主人公も知らされていなくて、悲しい思いをする。情けない。

ついでにジュピアンの姪とカンブルメール家の息子の結婚報告もあった。こちらはニュースとして弱い印象。ジュピアンの姪もカンブルメール夫妻も、物語にあまり登場しなかった。ただ平民あがりの娘と貴族の結婚ということでニュースだったようだ。主人公の母は、母(主人公の祖母)が知ればなんて思うか、ということばかり気にしている。ひたすら祖母の死を悼んでいる。祖母の世代では、平民あがりの娘と貴族の結婚も、ブルジョワの娘と貴族の結婚もあり得なかったため、大ニュースらしい。

この、死んだ人間が知ったらどう思うだろう、というのが最近身近にあった。僕の父が4月に亡くなり、父は安倍晋三の死も知らない。父が安倍晋三をどう思っていたのかも知らないため、あれ程の大ニュースを父がどう感じたか、悲しんだか、憤ったか、無関心だったか、今となっては予想もつかない。ゴダールも亡くなったが、父はゴダールには興味ないと思う。

主人公は友人たちの結婚を知らされなかったことや、遠くへ行ってしまって置いてかれる気になり悲しくなっている。サン=ルーは結婚してから人が変わってしまい、ケチになった。その他、久しぶりにモレルの名前が出てくる。シャルリュス氏と仲違いしたモレルはその後どうなってたんだっけ、忘れた。このあたりは金と、欲と、名誉や見栄にまみれた汚らしい現実の噂話がわんさか、といったところで12巻が終了した。ゴシップをゴシップとして描けばそれはドキュメンタリーなのか、それを模して俯瞰してまとめたら文学なのか、わからん。

とにかく12巻が終わって話はけっこう進んだように思う。アルベルチーヌはいなくなり、サン=ルーとジルベルトが結婚し、スワンもベルゴットも亡くなった。主人公の旧友ブロックはときどき名前が出てくるだけで、物語に大きく関わってはこない。主人公は名実ともに作家となった。13巻から「失われた時を求めて」はどう展開していくのだろう。

プルーストを読む生活

616ページまで。著者がタイムラインを見て世の中を嘆いている。2019年9月29日の日記だけど、なんかあったっけ。めぼしいことはなかった。

「失われた時を求めて」の記述は全然出てこない。このへんは割といろいろあったあたりだと思うんだけどな。

著者は、電子書籍は情報に触れているだけで、本を読んでいる気がしないそうだ。僕は一時期電子書籍ばかりだった。最近はほとんど電子書籍に触れていないけれど、ネット記事で文を読んだりはしているから、電子媒体で活字を読むことについて特になんとも思っていない。

電子書籍から遠ざかった理由は、電子化されていない本を読む機会が増えたのと、読み終えた本を売ってしまうため紙の本を買うことが増えたから。電子版は売れない。そういう物質的な理由で、電子版だと読んだ気がしないとかそういうことは思ったことがない。10月に出る新しいKindleは鮮明になるみたいで、読み込みの速さやページめくり、タッチ感度も改善されていればいいなと思う。買う予定はない。

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