「細雪」を読む 9
中公文庫版「細雪(全)」の読書日記を書いています。
458ページ、中巻二十三まで。東京の旅館に滞在している幸子宛に、手紙が届く。差出人は、妙子の恋人である奥畑から。内容としては、どうも板倉と妙子が怪しいので監視してほしいとのことだった。特に今東京へ行っている間、芦屋には妙子しかおらず野放しになっており、注意が必要というようなことまで書かれている。
板倉は奥畑の元で丁稚奉公していた身だから、言うならば中流か下流の人間で、上流階級である妙子との恋愛なんか幸子には考えられなかった。しかし妙子は板倉に命を救われている。もともと先進的な人間でもあるから、身分の違いなど気にしないかもしれない。幸子にとっては寝耳に水の話だったが、奥畑よりそういう風に指摘されると、全くあり得ないとも言い切れなくなってきた。幸子はすぐにでも関西へ帰ろうとする。このあたりの幸子の心労というか、東京であっちこっち多忙な様子は、読んでいて大変だ。
この部分は、当時の階級社会を伺える場面でもあった。今でも家柄で相手を選ぶことは、なくもない。友達から、「身分が違う」と親に反対されて結婚に至らなかった話を聞いたことがある。だいたいそういう人は、いわゆる箱入りのような形で、幼い頃からいい家柄の人ばかりが行く幼稚園、学校と分けられて育つ。僕ら一般大衆は、なかなか接点がない。それでもさすがに昔ほどはっきりと分かれているわけではなく、没落したり混ざったりして大衆化していることも多いとは思う。
関西へ帰ると言っても一通りの用事を済ませ、買い物をしまくり、姉の鶴子や妹の雪子に手紙のことは打ち明けないまま、大阪行きの夜行列車に乗った。東京の滞在は11日間だった。
芦屋に戻り、早速妙子の様子を伺うが、いつもと変わらない。何日か過ぎて、幸子は心配しすぎていたような気になる。もう直接妙子に話を聞いてみることにした。妙子はだいたい予想がついていたみたいで、ただ奥畑が嫉妬をこじらせただけ、という結論で終わる。今のところ本心はわからない。この件については、奥畑からも板倉からもまだ直接は語られていない。
隣人シュトルツ家に残っていた夫人と、幼い子どもたちも、ドイツへ帰国する。悦子の友達だったローゼマリーは前日に泊まりに来たり、また旅立った後もシュトルツ夫人から手紙が届く。手紙の最後には、以下のような文章があった。
悲しい。現実はそのヒトラーこそが戦線を拡大することになるが、「戦争は起こらない(でほしい)」という希望的観測が出てしまうのはよくわかる。
現状に当てはめてみるとどうだろうか。今ヨーロッパでは、ロシアのウクライナ侵攻が一年に渡り続いている。戦線は他に飛び火していないものの、発端となったNATOには北欧のスウェーデンとフィンランドが新たに加盟しようとしている。イランは内政が荒れており、北朝鮮は相変わらずミサイルを飛ばしている。中国は香港に続いて台湾への圧力を強め、最近はアメリカに向けて飛ばした気球を撃ち落とされた。
去年タモリが徹子の部屋に出演し、「来年は新しい戦前になるんじゃないか」と言った。それはもちろん、日本を含めてということだろう。第二次世界大戦、太平洋戦争の戦前を描いている細雪と、今この日記を書いている我々の時代に、何か通じるものはあるだろうか。今年が本当に、新しい戦前にならないことを祈るばかり。
妙子はフランス留学を本家に告げるも反対され、ますます本家から気持ちが遠のく。しかし同行する予定だった洋裁の先生がフランス行きを取りやめにし、渡航の話そのものが流れることとなった。
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