見出し画像

蘇叉神話・伝承


1. 蘇叉建国神話


 国として一つに纏め上げられる以前、八百万の神々が各々の領地を支配していたと言う。
 地平統一を求めて災いを互いの地にもたらし合い、人々を駒に領地の奪い合い広げていた。
 数多の戦の末に白き神が地を平定し、戦に破れた魂は冥府にとされた。
 白き神は冥府に堕ちた魂が迷い出ぬようにと、冥府と現世の狭間に門を建立した。
 神代の門は白き神の弟神が守護し、白き神は他の魂と共に天に昇り人々を見守る道を選んだ。
 地上に遺された人々は白き神を、天を司るもの――天司神あまつかさのかみと呼び称え、天司神の弟神を二つの国の前に座すものとして邦前神ほうぜんのかみと呼び称えた。
 堕ちた魂は荒神となり、己を冥府に落とした天司神らに今も怨嗟の声を上げ続けている。
 怨嗟は呪いとなりて波紋は地に広がり力弱い精霊を妖と化し、冥府の神の|僕(しもべ)として妖は冥府と現世を繋ぐ綻びを広げ、荒神と化した魂を救い続けるという。
 

2. 伊叉那海いさなみの依代よりしろ伝承


 天司神に敗れし荒ぶる神は伊叉那海の奥底に沈められ、神代の門により固く封じられた。
 伊叉那海の深い地平。神代の門の前にて人の身において邦前神に願うものがいた。
 そのものは伊叉那海に閉ざされた神の威光に縋り、同胞らへ害を成した。
 故に人の世に留まる事を望まず、伊叉那海こそ居場所と、人は邦前神を前に頭を垂れ伊叉那海に向かい祈りを捧げた。
 しかして閉ざされた伊叉那海の世に人如きが立ち入るは不遜。
 ある神は憤慨し、ある神は慨嘆し、人へ怨嗟の声を投げつけた。
 神々は自ら与えてこそ人が神の力を揮う唯一と知っていた。
 故に祈りに意味も無しと嗤う神の中、人の祈りを赦しとした神がいた。
 深い祈りを持って邦前神は、人の業は神々が背負うものと赦しを与えた。
 しかして人の寄る辺は果てず。
 己が果てる日まで神代の門へ祈りを捧げ続けた。
 邦前神は人の亡骸を天に送るその日、初めて門前を立つ。
 人の世の時間にしてそれは刹那ともいえど、積年の怨嗟を封じる門前にとっては大いなる変化。
 人の祈りを赦しとした荒ぶる神は初めて、抜け殻となった人の為に声を放った。
 しかして怨嗟の坩堝にいた神に祝福の言葉は放てず、静かに寂寥のみを零した。
 零れた寂寥は伊叉那海の最奥に知らず波紋を生み出した。
 

 


この作品は「小説家になろう」で投稿していた同タイトルの改変版となります。
作品を気に入っていただけましたら、是非ともご購入を~
有料記事部分、今回は伊叉那海の嘆きとなっております。

・#小説 ・#散り桜 ・#長文日追い話 ・#時代物幻想創話

目次へ

←前話  次話→


ここから先は

130字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?