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給食調理者へのサルモネラの便検査にどこまで医学的な根拠があるのか?

学校給食衛生管理基準によると、学校給食を調理する労働者を対象に検便(赤痢菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌血清型O157など)を毎月2回以上実施することが義務となっている。

さて、今回はサルモネラに限定して、検査の医学的根拠に関して調べた。

結論から言うと検査によるアウトブレイク予防効果があるとする論文は見つからなかった。

〇サルモネラのアウトブレイクを予防するか?


英国で発生したサルモネラ症のアウトブレイク566件のうち、特定の感染した食品取扱者にたどり着いたのはわずか2%だったと報告している。[1]
さらに、無症状の食品取扱者からの感染が記録されているのはまれである.
アウトブレイクの1つはヨルダンのアンマンで発生したもので、厨房の従業員がサルモネラ菌の感染を日常的に監視していたにもかかわらず発生している。[2]
手洗いの重要性は、看護師の間で発生したサルモネラ症の食中毒が、適切な手洗い手順を遵守していたために患者への感染はなかったと考えられている。[3]

やっぱり手指衛生を徹底することに越したことはないようである。

[1] Mandal B ,Typhoid fever and other Salmonellae, Curr Opin Infect Dis. 1988; 1:84.
[2] Khuri-Bulos NA, Abu Khalaf M, Shehabi A, Shami K. Foodhandler-associated Salmonella outbreak in a university hospital despite routine surveillance cultures of kitchen employees. Infect Control Hosp Epidemiol 1994; 15:311.
[3] Tauxe RV, Hassan LF, Findeisen KO, et al. Salmonellosis in nurses: lack of transmission to patients. J Infect Dis 1988; 157:370.

〇陽性者を医療機関に紹介すると抗菌薬を処方されることになるが・・・

解熱剤はニューキノロン薬と併用禁忌のものがある上、脱水を悪化させる可能性 があるので、できるだけ使用を避ける。
抗菌薬は軽症例では使用しないのが原則であるが、重症例で使用が必要な場合には、使用を検討する。

引用:国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ra/ekc/392-encyclopedia/409-salmonella.html

つまり・・・無症候性であれば本来、経過観察となるはずなので医療機関受診を従業員に強制することで、抗菌薬使用という不適切な治療を誘導しているのかもしれない。

〇サルモネラの陽性者が出た場合にはどうするべきか・・・


サルモネラの胃腸炎後の排泄期間の中央値は5週間ということは、これだけの期間を職場から離脱させるのは果たして合理的なのか?

UpToDateにも有効性がないことが記述されている。
個人が無症状時のアウトブレイクの主要な発生源であるという証拠はなく、また、このような個人における無症状の感染のスクリーニングが感染を減らすのに有効であるという証拠もない。サルモネラ菌の感染拡大を防ぐためには、手指の衛生管理と一般的な感染管理が最も重要な側面であることに変わりはない。

フォローアップの便検査も不要ということであれば、患者さんに進めるのは適切な手指消毒の更なる徹底とするべきであると考えられる。

サルモネラが陽性であるという理由で就業禁止にすることや調理業務から配置転換することはあまり合理的な判断とは考えられなさそうである。

ゼロリスクを追い求めるあまり、就業禁止や配置転換がもたらす社会的な機会損失に目が向かなくなることは少なくとも避けるべきであると考えられるだろう。

産業保健職には、その職場の環境に応じて適切な意思決定を求められることがある。便検査でのサルモネラ陽性を例にあげたが、法律で書かれていることにどの程度医学的根拠があるかということは改めて検証していく必要がある。

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