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【音楽×珈琲 鑑賞録】9月3日~エクトル・ベルリオーズ オペラ『トロイアの人々』

音楽観を鍛える鑑賞録。
エンディングまであと【120日】
9月3日のテーマは、【主題】

とりあげる作品は、
エクトル・ベルリオーズ /
オペラ『トロイアの人々』

です。

ルイ・エクトル・ベルリオーズ
Louis Hector Berlioz
1803年12月11日 - 1869年3月8日
フランスのロマン派音楽の作曲家

今回とりあげるベルリオーズのグランドオペラ『トロイアの人々』(Les Troyens)H.133/133aは、1856年に自身で台本を手がけ、1858年に全曲完成させた気鋭の大作です。

古代ローマの詩人ウェルギリウス(前70年–前19年)の叙事詩『アエネーイス』(Aeneis)が原作で、有名な「トロイの木馬」が出てくる、ラテン文学の最高傑作。
ベルリオーズは全曲演奏で約4時間にもなるボリュームで手がけました。
大規模すぎて、生前に全曲演奏されることはなく、死後21年を経た1890年にドイツ語で演奏されたのが本域での初です。フランス語版での全曲演奏は1969年。その後も記念年や柿落としの際に演奏されていますが、映像を見ればわかりますが、舞台装置や演出からみて、上演するだけでもとてつもない労力を要するオペラであることは確かです。

そんな現代でも上演するには骨の折れるオペラですが、ここまで人気な理由はどこにあるのか。
これはもう『オペラ史』を著したD.J グラウトが、これでもかというくらいベタ褒めで解説してくれていました。

「美しさにおいても、真の生命力においても、19世紀のほかのどんなスコアも並ぶものがないほどの傑作である」

と、評伝の一端を掻い摘むくらいでもこの作品の西洋音楽の中での重要さが窺い知れます。

『トロイアの人々』を手がけた時分のベルリオーズは、1854年にオラトリオ『キリストの幼時』(H.130,Op.25)を5年がかりで完成させ、1855年のパリ万博の際に『テ・デウム』で指揮をふるっていました。
そういった活動を経て、フランス学士院会員になり、ようやく生活が安定し始めた頃です。満を辞して、自分がやりたいことに着手できたというのではないでしょうか。

あまりの気合いに長大になりすぎて、当時の時世では受け入れ難いものが出来上がってしまったかも知れませんが、おそらく、ベルリオーズはやりたいことを本気でやって最後まで貫徹できたことは、圧倒的な達成感と喜びを感じ入っていたのではないかと思います。

翻して、わたしたちはやりたいことを見出すことはできているでしょうか。
ベルリオーズのように、痛みを伴いながらも、果たしたい事柄に邁進できているでしょうか。
生きているときには報われなくとも、誰もが認める渾身の力作ならば、いつか日の目をみることがあると信じ切ってやり切る。
そういった熱量のある作品というのは、まるで太陽のように輝きを失う気配すらありません。

改めて、ベルリオーズの偉大さを窺い知るとともに、せっかく人間に生まれたのだから、心意気のある遺物を遺したいという野心がたぎる作品との出会いとなりました。

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