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【音楽×珈琲 鑑賞録】5月5日~ジャン・シベリウス 交響詩「タピオラ」

音楽観を鍛える鑑賞録。
5月5日のテーマは、【謎】

とりあげる作品は、
ジャン・シベリウス /
交響詩「タピオラ」

です。

ジャン・シベリウス
Jean Sibelius
1865年12月8日 - 1957年9月20日
後期ロマン派から近代、フィンランドの作曲家、ヴァイオリニスト。

2月24日『フィンランディア』で記事にして以来のシベリウス。
今回は1925年に完成した交響詩「タピオラ」(Tapiola)作品112です。
「タピオラ」とは、フィンランドを代表する叙事詩『カレワラ』に登場する森の神タピオの領土を意味するそうですが、意味合い的にはフィンランドの森の雰囲気を表現しているとのこと。
シベリウスはこの「タピオラ」を想起させるよう、出版譜には以下の散文が載っています。

Wide-spread they stand, the Northland's dusky forests,
Ancient, mysterious, brooding savage dreams;
Within them dwells the Forest's mighty God,
And wood-sprites in the gloom weave magic secrets.
「広大な大地に彼らは立っている、ノースランドの薄暗い森、
古代の、神秘的、陰気で野蛮な夢のなか。
ここに強大な森の神が住んでいる、
そして、闇の中で木の妖精は秘密の魔法を繰り出す。」

ファンタジーの始まりのような冒頭の散文から、描かれた交響曲。
演奏時間18~20分の間で織りなされますが、初動は静かで悠久な森を表現するかのようなメロディが展開され、嫋々とした雰囲気に変わり、予兆を想起させるような盛り上がりを聴かせます。
フレーズはシンプルながら、緊張の糸を張り、畏怖心を携え、厳かな雰囲気でエンディングを緩やかに迎えます。

人の手が届いていない森の雰囲気を携えた、自然への敬意に溢れた楽曲で、シベリウスの交響詩のなかでも最高傑作と謳われています。

シベリウスは、この交響詩を最後に大規模な作品を公表しませんでした。
交響曲第8番を手がけていたものの、自身が納得できる作品に届かなかったために、作曲しては破棄したり燃やしたりしていたそうです。
アーティストとしての葛藤はあったでしょうが、晩年の写真を見ると、穏やかで幸せそうな雰囲気のあるものが多く、91歳の生涯をまっとうしただろう印象を見受け、感慨深いものがありました。

勝手な解釈ではありますが、アーティストというのは、死ぬまでアーティストであり、作品を創り出せないことは本意ではないと思うのです。
シベリウスも本当は最後まで大規模な交響曲を手がけ、披露したかっただろうし、心から望んで「ヤルヴェンパーの沈黙」と呼ばれる隠居状態になりたかったわけではないでしょう。
上りつめた世界観の視座から見える景色はわたしには分かりませんが、モメンタムを逸してしまったところから「タピオラ」を超えるような作品が手がけられないと考えてしまったことは想像に難くありません。
そんなアーティストとしての性分を抱きつつ、それでもフィンランドの自然と家族の愛に包まれ、幸せに暮らすという道を選んだことも素晴らしい。

いずれにしても、学び受けるポイントはたくさんあります。

期待を請け負う担い手として作品を手がけることで超越できることがある。
気負いが強いが故に、プレッシャーが重くのしかかることはある。
そして、もし上手くいかなくても、幸せに生きる道は無数にある。

不遇な生涯を送ってしまうクラシック音楽家が多いなか、シベリウスの生涯も紆余曲折ありますが、その生き方に見習うことが多い音楽家だと思いました。

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