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【音楽×珈琲 鑑賞録】5月2日~フランツ・ヨーゼフ・ハイドン 『交響曲』第96番「奇跡」

音楽観を鍛える鑑賞録。
5月1日のテーマは、【逸話】

とりあげる作品は、
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン /
『交響曲』第96番「奇跡」

です。

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
Franz Joseph Haydn
1732年3月31日 - 1809年5月31日
古典派を代表するオーストリアの作曲家

交響曲第96番ニ長調 Hob.I:96(The Symphony No. 96 in D major, Hoboken I/96)
1791年に作曲した4楽章の交響曲です。
I: Adagio - Allegro
II: Andante
Ⅲ: Menuetto. Allegretto
Ⅳ: Finale. Vivace
の構成で、後期ハイドンの円熟味ある作品ですね。

1791~1795年にかけて作曲した「ロンドン交響曲」12曲のうちの一つですが、どうしてもこの副題「奇跡(Miracle)」の愛称にクローズアップしてしまいます。
なんでも、1795年のロンドン国王劇場(ハー・マジェスティーズ劇場)で交響曲第102番を演奏する際に現れたハイドンを間近で観ようと聴衆が密集しました。
すると空間ができて、そこに劇場のシャンデリアが落ちたので怪我人が出なかった。それを受けて口々に「これは奇跡だ」とささやき合ったそうです。

演奏していたのは102番なのに、なぜ96番が「奇跡」に?
と思いますが、真相はよくわかりません。
憶測では、「ハイドンがロンドンに来た!」というファースト・インパクトが強かったためかもしれないし、単純にこの楽曲がロンドンの人々の好みに合っていたからかもしれません。
いずれにしても、逸話というのは窺い知れない運命を辿るものだな、と思わされました。

勘違いを正せず、異形のまま沈着していくこともよくあるものです。
情報過多な現代社会でも同様で、最近にもDA.PUMPの"U.S.A"がJoe Yellowのカバー曲だと多くの人が知らないまま日本の流行歌になった経緯を考えれば、情報の整合性如何に関係なく、人々の気持ち、モメンタムで状況が動かされることがあります。
わたしたち個人個人では抗いようのない急流みたいなものがあって、その趨勢に良くも悪くも飲みこまれる。
変化を恐れず、関与することが増えれば、それだけつっかかってしまう部分も多くなります。その度、なんらかの力に浸食されてしまうこともあるでしょう。
そんな窺い知れない運命に取りこまれてしまった際に、私たちが振る舞うべき所作みたいなものをハイドンは教えてくれています。

ハイドンはシャンデリア落下事件について尋ねられたとき、述べた言葉は、
「そんなことは知らない。」
だそうです。
自分の範疇を超えたことにまみえてしまったときは、言及を避け、時の流れに身を委ねてしまうことが「奇跡」につながるかもしれません。

倫理観を失わず、自らの正義が心から正しいと思えたとき、
真っ向から争うのではなく、柳のようにしなやかに。
そんな姿勢で臨むようにしていきたいものです。

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