見出し画像

カフェの音楽空間論 vol.3 -"音の正体" BGMの正体を探る編-

前回に引き続き、
布施雄一郎 著 / 音の正体 The identify of sound
の論考を受けながら、カフェの音楽空間のあり方について考えていきたいと思います。

この本でのBGM(Back Ground Music)の定義は、

"鑑賞を目的とはしない、しかしながら人の心に何かしらの働きかけをする音楽のことをBGMと呼ぶ。意識的に耳を傾けて「聴く」音楽とは違い、無意識に自然と(あるいは勝手に)耳に入って「聞く」音楽だと言うこともできるだろう。

布施雄一郎 著 / 音の正体 The identify of sound SHINKO MUSIC ENTERTAINMENT (P.42)

として、BGMが使われる理由、効果を
マスキング効果
イメージ誘導効果
感情誘導効果
の3種類に分けて論じられています。
これらをふまえ、テンポや音楽性によっても聞く人の行動に影響を与えることが綴られています。詳しい内容は本書を手にとって読んでいただければと思いますが、この論考をうけて考えさせられるのは、
空間の領域展開をする者にとってBGMの設定は、その時間における人の心を預かる重要なもので、しっかり考えておく必要がある
ということです。
聴者が自発的に聴くものではなく、やや強制的に聞かれるものだからこそ、在るべき音であるよう務めていかないと失礼ともいえます。
その「在るべき音」というのを今後模索したいと思いますが、まずは私自身の経験において、その音は在ったのか振り返ってみたいと思います。

BGMは記憶に残るべきか

とある都内の居酒屋で飲食をした際のこと、そのお店のBGMで90年代J-POPが流れていて、たまたま馴染みがあるうえに思い出深い楽曲がランダムに再生されていました。
お酒の効果も相まって非常に沁みるものがあり、いまでもその場の記憶が残っています。とはいっても、なにを食べたかなにを飲んだか定かではなく、まぁたいていの飲食は記憶に残らないものではありますが、BGMの選曲がとにかく良かったなぁという記憶しかありません。
ここでの居酒屋BGMは、雑音を打ち消すマスキング効果のためではなく、個人的に喜怒哀楽を呼びおこす感情誘導効果に寄与していたわけですが、BGMの役割としては出過ぎている気がする。けれど「また思い出に浸りたい」と再来店動機づけになり、快い空間づくりには適っていたのではないかとも思うわけです。

TOP画像のお店、"問tou"は、長野県東御市のカフェですが、こちらは日用品や衣類、お店とVALUEBOOKSが選書した本も販売されている複合カフェです。
こちらで流れているBGMは、3種類くらいしかないだろういつも同じ楽曲を用いていて、DTMを利用した4つ打ちが特徴的なアンビエント・ミュージックです。アンビエント・ミュージックやミニマル的な要素のオスティナート(繰り返し)が効いているわけですが、無機質的な音像に4つ打ちのビート感が相まって、作業用的とも気分が高揚するとも捉えられる不思議空間が展開されていました。

流れているBGMの認知度、ジャンルの明快さ、フィーチャーされるアーティストや楽器が明確など、分類度合いが高まれば高まるほど感情は誘導されていき、領域展開する者の意図やセンスが表出することがわかります。ひいては、その空間で表現したいものに及ぼす影響を大きくも小さくもできるのがBGMであり、アートのキャンバスとして面白い題材です。
あらゆる場所、空間に用いられているBGMに耳を傾け、その意図やセンスに注目するのも面白いのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?