「エンゲージメントとは何か」を紐解いてみる(4) ~ワーカホリズム VS エンゲージメント、その違いとは?~
こんにちは。紀藤です。今日も注目のキーワードの「ワークエンゲージメント」について、より深く紐解いてみたいと思います。
※前回のお話はこちら
今回は、エンゲージメントと類似した概念でもある「ワーカホリック」について、そして「ワーク・エンゲージメントとワーカホリックの違い」について、以下書籍より、学びと気付きを共有させていただきたいと思います。それでは早速参りましょう!
ワーカホリズムとは何か
働きまくっている人のことを「あの人、ワーカホリックだよね~」という表現をすることがあります。
このワーカホリックの元となる「ワーカホリズム」という言葉は、1971年、宗教心理学の教授でもあり、作家でもあるWayne E. Oates牧師によって提唱されました。曰く、「無理に働きすぎている仕事への態度は、アルコール依存(アルコホリズム)の状態によく似ているな」とのことで、ユーモラスに『ワーカホリズム』という言葉を作ったそうです。
この定義についても、次節で詳しく解説しますが、彼はワーカホリックの定義を「仕事への欲求があまりに過度となり、健康、幸福、人間関係に著しい障害を来している人」としました。
しかし、実はワーカホリックに関する研究はまだ十分で内容で、概念定義が不明瞭であったりして、研究者間の意見は、基本的に一致していないようす。では、どのような定義が提唱されているのでしょうか。
様々な研究者の語るワーカホリズム
たとえば、ワーカホリズムについて、以下のように説明する研究者がいます。実に、さまざまです。
なるほど、幸福ー機能不全、良いー悪いなど、ワーカホリックの中にも種類があることを各研究者は示しているようです。
最も幅広く使用される「ワーカホリズムの3要素」
さて、その中で、最も現在幅広く使用されているワーカホリズムの分類が、
・「仕事への関与」(仕事に強くコミットし、仕事に多大な時間を捧げる)
・「仕事への内的衝動性」(衝動に駆られて、懸命に働かねばならないと感じる
・「仕事への楽しみ」(仕事を好ましく達成感のあるものと感じる)
の3次元の組み合わせによる3タイプのワーカホリックが示されています。
ちなみに、(3)の仕事熱狂者を「幸せなハードワーカー」とし、ポジティブな態度や社会的知性を持っているからである、と述べています。
なるほど、いずれにしても「仕事にのめり込む」という意味では、これらを見ても「ワーク・エンゲージメント」に類似した概念であるというのも頷ける気がします。
ワーカホリズムとエンゲージメントの違い
それでは、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントはどのように違うのでしょうか。これを見ていくために、まず改めてですが、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントについて整理したいと思います。
ワーカホリズムの定義
さて、先述の通り、ワーカホリズムには明確に合意された定義があるわけではないのですが、それでもほとんどの定義で触れられる「2つの特徴」があります。また、その2つの特徴に関連する「ワーカホリックな人の5つの注目すべき特徴」というのも整理されていました。以下のような内容です。
ワーク・エンゲージメントの定義
ワーク・エンゲージメント(仕事にエンゲージしている)というのは、”ポジティブで、達成感を伴う仕事上の心理状態を意味する”としています。これは以下の3次元で表すことができます。
ワーカホリズム vs エンゲージメント:実証的なエビデンス
さて、ワーカホリズムとエンゲージメント、このように並べてみても、やはり似ている側面が多いように思われます。
エンゲージメントの「活力(エネルギッシュに働く)」と、ワーカホリズムの「一生懸命に働く」、どのように違うかと言われても何ともその差を言葉に表しづらそう。あるいは、エンゲージメントの「没頭(仕事に完全に集中する)」とワーカホリズムの「仕事が終わった後も仕事の事を考えている」も、なんとなく似通った雰囲気を感じます。
この違いについて、実証研究においてその違いを確かめた研究がありました。以下2つ紹介いたします。
その1:ワーカホリズムとエンゲージメントの関連
まず1つ目の研究、Schaufeli(2006b)において、ワーカホリズムを2つの尺度{強迫性傾向尺度(Robinson, 2002)、強迫的な働き方(Spence&Robbins, 1992)}と、エンゲージメントを1つの尺度(ユトレヒトワークエンゲージメント尺度)で調べました。
そして、上記のワーカホリズムとエンゲージメントの設問について確認的因子分析を行ったところ、3因子モデルとなりました。3因子とは「強迫的な働き方」「働きすぎ」「ワーク・エンゲージメント」です。
そしてそれぞれの相関を見たところ、「強迫的な働き方」と「働きすぎ」は .75と強い有意な相関が見られましたが、「ワーク・エンゲージメント」と「強迫的な働き方」は有意な相関は見られず、「働きすぎ」には弱い有意な相関が見られたにとどまりました。
このことから「ワークエンゲージメントとワーカホリズムは実証的に異なる概念である」ことが示されました。
その2:ワーカホリズムとワーク・エンゲージメントと各指標間の関連
また、ワーカホリズムとワーク・エンゲージメント、それぞれに対して、労働時間、仕事の要求度、健康などとの関連を整理しました。
その結果、ワーカホリズムもワーク・エンゲージメントも仕事に長い時間を費やしていることは等しく見られました。
しかし、ワーカホリズムは、仕事の要求度と強い正の相関があり、ワーク・エンゲージメントは仕事の要求度との相関はありませんでした(一方、同僚からの社会的な支援などの仕事の資源との間には相関がありました)。これはワーカホリズムが「強迫的な働き方」(仕事のコントロール度の低さ、上司からの支援の低さなど)があり、一方エンゲージメントは同僚からの支援などの仕事の資源が多い傾向があるを示しています。
また、ワーカホリズムは健康上の不調が多く、仕事満足度も低い傾向がありました。ですがワーク・エンゲージメントは健康状態はよく、仕事満足度も高い傾向が見られました。
よって似ているような概念がありますが、「何によって仕事に一生懸命になっているか」が強迫的・衝動的なものかどうか、「仕事に対して上司や同僚の支援などがあるか」という仕事資源の違いなどが、両者を分かつ要因の一つと考えられるようです。
まとめと個人的感想
この章で印象に残った言葉が「今後の研究を始めようとするときには、まず、その言葉の起源に立ち返りなさい」(Porter, 1996)というものです。
ワーク・エンゲージメントも、ワーカホリックも、「強み論文」を調べる中で数多く登場してくるキーワードでした。しかし、その源流をどれほど知っていたかというと、あまり理解はしていなかった、ということを、本書を通じて感じています。
「強み」についても探求する上で、その元となっている概念も、丁寧に読み解いていきたい、そんなことを思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!