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「強みに基づいた効果的なフィードバック」の9つのポイント

こんにちは。紀藤です。本日も強み論文のご紹介です。ちなみに「強み論文100本ノック」と名したプロジェクトも、残すところあと8本・・・!

本業が忙しくなると、論文を読んだり、探したりする時間もなくなり、大変なこともありますが、それでもプロジェクトとして「やる!」と宣言することで、足を動かし続けることができます。

そうした強制力を元に行動した結果、読んでみると新しい視点や知識を獲得することになり、それが自分の知識の土台を強固にしてくれているように思います。最後まで、走りきりたいと思います。

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さて、本日ご紹介の論文ですが、2012年の組織における強み活用についての比較的初期のものです。「強みに基づいたフィードバックのための9つの提言」なるものが書かれており、参考になりました。ということで、早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『効果的なパフォーマンス・フィードバックを提供する:強みに基づくアプローチ』
Aguinis, Herman, Ryan K. Gottfredson, and Harry Joo. (2012). “Delivering Effective Performance Feedback: The Strengths-Based Approach.” Business Horizons 55 (2): 105–11.


30秒でわかる本論文のポイント

  • 強みに基づくパフォーマンス・フィードバックは、従業員のエンゲージメント、モチベーション、職務満足度を高める可能性を秘めている。

  • しかし、管理職はパフォーマンス・フィードバックを行うことに抵抗を感じることも多く、不適切なフィードバックが行われ、悪い結果になることのほうが多い。

  • 本論文では、従来の弱みベースのフィードバック(従業員の弱点に焦点を当てた否定的コメント中心)から、強みベースのフィードバック(従業員の肯定と励ましが中心)という、より建設的なアプローチへの転換について説明する。

  • その上で、強みに基づく効果的なパフォーマンス・フィードバックの実施方法について、研究に基づいた9つの提言を行う。

との内容です。やはり、強みに基づく効果的なパフォーマンス・フィードバックの9つの提言が気になりますね。早速みてまいりましょう。

パフォーマンス・フィードバックとは

パフォーマンス・フィードバックは、「ある基準を元に、従業員の行動と結果に関して、過去の行動に関して情報を伝えること」と述べられています。

そしてパフォーマンス・フィードバックの目標は、従業員 のエンゲージメント、モチベーション、仕事への満足度だけでなく、個人とチームのパフォーマン スを向上させること(Aguinis, 2009)とのこと。

しかしながらKlugeとDeNisi(1996)によると、131の研究において、業績フィードバックは3分の1以上のケースで業績を低下させる結果になったと結論づけているとのこと。うーん、フィードバックは昔から今に至るまで、実に悩ましい問題のようです。。。

管理職は、弱みに過度に焦点を当てすぎる?

そして、本論文の著者はこう述べます。

「管理職は、効果的なフィードバックの方法を知らない。具体的には、管理職は従業員の弱みに過度に焦点を当てた方法でフィードバックを提供することが非常に多い。しかし、そのような「弱点ベースのフィードバック」では、従業員のパフォーマンスが向上しないことが多いことに、通常気づいていない」

とのこと。また「弱点ベースのフィードバック」とは、「管理職は従業員の弱点(職務遂行能力、知識、スキルの不足など)を特定し、従業員が間違っていること、あるいは従業員が達成できなかったことについて否定的なフィードバックを行い、最後に弱点を克服することによって行動や結果を改善するよう求めること」としています。(Steelman&Rutkowski, 2004)。
弱点を従業員に知らせ、パフォーマンスを改善する動機づけになるという考えを持ち、そのようなコミュニケーションを取るのですが、その結果必ずしもよい結果にならないとのこと・・・。

その主な理由は、否定的なフィードバックは、不正確であると受け取られやるく、またそれを受けた人は受け入れにくく、意欲の低下、従業員満足度の低下にもつながる可能性があるからです。(ちなみに、これが悪いというわけではなく、あくまでもこうした可能性を孕んでいる、という話です)

「強みに基づいたフィードバック」の9つの提言

では、その代替案として、具体的に「強みに基づいた効果的なフィードバック」とはどのように行えばよいのか? 本論文では以下の9つを提言しています。

<「強みに基づいた効果的なフィードバック」の9つの提言>

(1)フィードバックを提供する主な手段として、強みに基づくアプローチを採用する

● メンバーの強みを特定する。
● メンバーがどのように強みを活かして望ましい行動をとり、有益な結果を出しているかについて、肯定的なフィードバックを与える。
● メンバーに、自分の強みを継続的またはより集中的に活用することで、行動や結果を維持または改善するよう求める。

(2)否定的なフィードバックは、才能ではなく、メンバーの知識やスキルに密接に関連付ける
● 弱点ベースのフィードバックを知識とスキルに集中させる(才能(身につけるのがより難しい)よりも(より変化しやすい)

(3)メンバーの才能の弱点を管理するために、強みに基づくアプローチを採用する
● メンバーが、自分に欠けている才能を大幅に向上させる可能性は低いことを理解した上で、望ましい才能を少しずつ向上させるのを支援する。
● 才能の弱さを補う松葉杖のようなサポートシステムを作る。
● 自分の最も得意な才能が、自分の才能の弱点をどのように補うことができるかを従業員に理解させる。
● メンバーが、自分に欠けている才能を持つパートナーと働きやすくする。
● 特定の才能に欠けるメンバーのために仕事を再設計する。特定のメンバーに欠けている才能を必要とする責任を他のメンバーに与える

(4)フィードバックを提供する人が、メンバーとメンバーの職務要件を熟知していることを確認する
● メンバーの知識、技能、才能を熟知していることを確認する。
● メンバーの職務要件と仕事の背景を熟知していることを確認する。

(5)フィードバックを与える際に適切な環境を選ぶ
● プライベートな場でフィードバックを行う。

(6)思いやりのある態度でフィードバックを伝える
● 否定的なフィードバック1つに対して、肯定的なフィードバックを少なくとも3つ提供する
● フィードバックのセッションは、メンバーに何がうまくいっているかを尋ねることから始める。
● メンバーがフィードバックのプロセスに参加できるようにする。

(7)具体的で正確なフィードバックを提供する
● 「よくやった!」といった一般的な発言は避ける。
● 具体的な証拠に基づいて、きめ細かく評価し、フィードバックする。

(8)組織全体のさまざまなレベルで、フィードバックを重要な結果に結びつける
● メンバーが示した行動や達成した結果は、報奨や懲戒処分の面で従業員に影響を与えるだけでなく、チームやユニットにも重要な影響を与えることを説明する。

(9)フォローアップを行う
● 育成計画を含めて具体的な指示を出し、一定期間後に進捗状況を確認する。

まとめと個人的感想

改めて、こうした9つの提言として示されると「型」のようなものが手に入ったと感じ、大変有用であると感じました。

一方、こうした論文のタイトルをみると、「強みのフィードバックだけすればよいか?」という話と誤解されるかもしれませんが、そういう話ではありません。上記の提言を見ても、「否定的アプローチは知識やスキルに紐づける」と行うことを否定しているものではありません。また、その後に続く別の論文では、強み活用と欠点修正の複合アプローチが最も成果が高かったという研究も紹介されています。

また、こちらは2012年の論文です。当時はまだまだ「強みの基づくアプローチ(フィードバック)」が注目され始めた時期のように見えます。それから10年以上経っているため、研究の世界では「強みに基づくフィードバックの効果」は確認されてきています。一方現場では「弱みを是正するパラダイム」しか持っていない管理職はまだまだ多いようです。

そんなとき、こうした論文の「そもそもなぜ強みアプローチが大事なのか?」「何をすればよいのか?」というメッセージは、納得感がありますし、新しい選択肢を示すためのきっかけになると感じます。何事も、初めての時はこうしたフレームがあるとチャレンジしやすくなるものですから、実に実用的な論文だと感じました。

そして、またこの後に続く論文で、これらの提言が検証されていくことをみると研究のバトンを感じるな、、、と毎度のことながら思った次第です。


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