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「強みの発揮」は個人の問題ではない?! ~強みの適用に影響を与える4つの要素~

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。
さて、本日は「ある環境で、強みは発揮できるかどうかに影響を与える要素」について触れている論文のご紹介です。しばしば投げかけられる「プライベートではある強みは使えるけれど、仕事では使えない」という話がありますが、今回はこの疑問を紐解くヒントを提供してくれています。

ということで早速まいりましょう!

<今日ご紹介の論文>
『特徴的な性格的強みとポジティブな経験を仕事に活かす』
Harzer, Claudia, and Willibald Ruch. (2013).
“The Application of Signature Character Strengths and Positive Experiences at Work.” Journal of Happiness Studies 14 (3): 965–83.


「強みを使えるかどうか」は、状況によって変わる

たしかに、「強みをどの場面で使えるか」は、自分が置かれた環境に依存するものです。なので、ある強みを特定の環境では使えても、別の環境では使えない、ということが起こり得ます。典型的なのは「仕事」か「プライベートか」でしょう。

たとえば、ある部長さんがいたとします。家庭内では二児の父。そして子どもを笑わせるために「ビール瓶を鼻に突っ込むようなユーモア満点(ユーモアなのかわからないですが)なお茶目父ちゃん」だったとしましょう。これは強みでいえば、「ユーモアさ」の強みを活用している状況です。子どもも大喜び。本人も楽しく自然にやっています。

しかし、場面を移して、ある部長の働く職場。50名の部下がいて、真面目にコツコツやることが評価される風土かつ、厳格さを求められる事が多かったとしたら。ビール瓶を鼻に突っ込むなどもってのほかで、「ユーモアのユの字もない真面目な開発部長」になってしまうことも可能性としてはありえます。

要は、「人は社会的な生き物なので、環境からの影響を受ける」ものであり、『強みの発揮』も個人の特性と環境の相互作用で立ち現れるということです。

「性格的強みの適用性評価尺度(ACS-RS)」とは?

では、一体どんな要素から「強みの適用」は影響を受けるのか?ここが気になるところです。

この強みの適用に影響を与える要素について「性格的強みの適用性評価尺度Applicability of Character Strengths Rating Scales :ACS-RS)」の開発を通じて、明らかにしようとしたのでした。

では、どのような影響かというと、性格的な強みの適用には「外的影響」と「内的影響」が関与している、と述べています。

強みの適用に影響をあたえる「外的影響」

外的影響とは、”個人とは独立した環境的側面に関するもの”です。ここでは以下の2つが紹介されています。

(1)規範的要求
規範的要求とは「上司や同僚など、重要な関係を持つ個人、あるいは集団から期待される行動」についてどのような認知を持っているかを意味します。ここでは、正式な職務記述書だけに限らないものとなります。したがって、本項目は「職務記述書/およびチーム内で要求されていること」を評価します。

(2)行動の適切性
行動の適切性とは、「関心行動(≒やろうと考えた行動)が期待される結果につながるか」についてどのような認知を持っているかを意味します。したがって本項目は「関心行動の適切さの程度(仕事のために役立つか)」を評価すます。

強みの適用に影響をあたえる「内的影響」

次に内的影響は、”個人が環境に対しての認識に関するもの”とされており、以下2つとなります。

(3)時間的プレッシャー
この言葉通り「時間的プレッシャー」があると、ある行動を阻害したり促進する可能性があります。(余裕があれば「親切さ」を発揮できるけど、急を要する時にはなかなかそうもいってられないなど)

(4)行動を示す内発的動機
最後に内発的動機も、行動に影響を与えます。「この行動を行うことは”自分にとって重要である”」かどうか。ここには本人の信念や価値観も影響を与えると思われます。

そして、ACSーRSは「ある環境(例:仕事とプライベートそれぞれ)において、この4つの影響によって”強みに関連した行動を示すことができる頻度”を評価をする尺度」として開発されたのでした。

ACSーRSの質問内容について

ここについては、残念ながら本論文では紹介されていませんでした(涙)。
たぶん、どこかに存在している気もしますので、また見つけたらご報告いたします。

一方、このACSーRSの尺度は、内的一貫性と信頼性それぞれについて、研究者らの検証で、一定の水準以上に保たれており、有用性があると評価されているとのことでした。(ますます気になる)

まとめ

論文では、より具体的に1111名(ドイツ語圏内の成人)に対して調査を行い、「仕事で発揮されやすい強み」と「プライベートで発揮されやすい強み」の全体的な傾向や、「普段から発揮されやすい強み」と「時折登場する強み(あまり発揮の機会がない)」の全体傾向の違いなども紹介されており、興味深いものでした。

強みの発揮も含めてですが、「個人の能力の発揮」を、ともすると単純化てて全ての原因を個人に求めてしまう、ことが起こります。たとえば「”キミが”努力して、強み発揮してよ。ガンバってね!」みたいに。しかし、人はそんなに単純ではなく、人は社会的な影響を受けて、行動をしたりしなかったりするものなのであると、理解をする必要がありそうです。

今回の「強み発揮の適用性の尺度」も人が社会的行動を行う上での影響を研究したモデル(Ajizen, 2010)を参考に作られている、などと論文内で述べられていました。こうした人間の複雑さを科学の力を参考にしながら、行動ができる理由・できない理由を少しでも理解し、実践に役立てるようにする。そのために、こうした尺度が問題を切り分け、実践につなげることに役立つのだろう、そんなことを思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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