Snow Patrol / Wildness (2018) 感想

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王道だけじゃない

Snow Patrolの代表曲と言えば、"Run"、そして"Chasing Cars"と言った名バラードや"Chocolate"、"You're All I Have"と言ったシンプルかつアンセミックなロックソングです。特に"Chasing Cars"は21世紀に入ってからイギリスのラジオで1番流れた曲だそうです。

しかし本人たちはかのBelle and Sebastianと同じJeepstarレーベルからデビューしていたり、かつてメンバーと同郷のインディー畑の面々20名超からなるコレクティブ、The Reindeer Sectionを結成したりとなかなかのインディー志向であることが窺えます。

世間が求めるのは次の名バラード、本人たちはインディーロック大好き。そんなバンドはどうなるでしょう。みんな大衆性と音楽性の拡大を両立させた偉大なバンドの偉大なアルバム、U2の「Achtung Baby」(1991)を目指すのです。Coldplayがその代表です。

Snow Patrolもそんなバンドの一つです。"Chasing Cars"にけん引されて大ヒットした「Eyes Open」(2006)以降、組曲を作ってみたり、トライバルなビートを導入してみたり、ディスコティックな曲を作ってみてたり…様々なタイプの曲への挑戦と十八番の曲調が共存したアルバムを作ってきました。そして前者の曲は後者に比べると、冴えない(王道にならないようにあえて地味にした?)メロディを何とかU2と同じJacknife Leeのプロデュースで凝っている風に見せているような曲ばかりで、結果としてアルバムの評価を下げていたように思います。残念ながらこのバンドには凝ったアレンジの曲は向いていません。シンプルに美しいメロディを奏でていてほしい。

6曲目までは

彼らがバンドとしてバラードだけじゃないところをアピールしたいことは、ここ数作の1番初めに公開された曲のチョイスからも見てとることができます。Spoonみたいなエレキの入れ方を見せたアップテンポな"Take Back The City"、ダンサンブルな"Called Out To The Dark"…。その度に私は思うのです。素直に十八番タイプをシングルにしておけばいいのに、と。いずれもいい曲ではありますが、だからと言って彼らが急にヒップな存在になる程の曲ではありません。因みに、最近新しい音楽性を開拓して急速にヒップな存在になったバンドにはParamoreがいます。

今作でもそれは健在でした。最初に公開された"Don't Give In"は複雑なリズムを持ったミドルテンポの曲で、いい曲ではあるもののそれほど刺さるものはありませんでしたが、いざアルバムを聴くと今作は、大ヒットした「Eyes Open」後の3作で一番の快作でした。

それは何故か。前半に連発されるアンセミックなロックソング、そしてバラードのクオリティがここ数作で最も高いからです。ここ数作でやはり全盛期はもう過ぎたのか…な感がありましたが持ち前の美しいメロディセンスが冴えまくり。後半にミドルテンポの、プロデューサー頼り系の曲が続き息切れするのが残念です。ずっと前半のテンションのまま突き進んでほしかった。これらの曲は相変わらず、そこまで記憶に残るものではありません。

冒頭の"Life On Earth"からストリングスを効果的に使ったアンセミックなバラードで始まると、1stシングル曲を経た後の"Heal Me"、"Empesp"と2曲のロックソングにノックアウトされます。しかも前者はミドルテンポの流れるような優しい、美しいメロディの曲、後者は合唱系のアンセミックな曲とタイプが異なる曲が続きますが、ここの勢いが素晴らしいです。

その後の"A Dark Switch"はプロデューサー頼り系の曲(カットアップされたギター、ファルセット…もっとシンプルなアレンジで聴きたかった気がします)ですが、その次に今作のハイライトがやってきます。よくインタビュー等でアルバムを作る時にアコギで弾き語りしてもいい曲だと思えるまで曲を練り上げた、的なことを語る人がいますが、ピアノ弾き語りによるバラード"What If This Is ALL The Love You Ever Get?"はいい曲は削ぎ落とせば削ぎ落とすほど際立つことを改めて教えてくれます。それだけにこれ以降の息切れが残念です。心意気は感じますが、どうも記憶に残る曲がありません。

オススメ曲

その1: 3. Heal Me

1stシングルはこの曲にするべきだったと思っています。ピアノ弾き語りは少し地味な可能性もあるので。なんて素敵なラブソングだろうと思っていたら、Geniusによると今作製作中にGary Lightbody(Vo./Gt.)が出会った鍼師さんがインスピレーションになっているそうです。

君の名前をくちにすると/まるで昔からよく知ってる歌のように感じる/僕の耳元で囁き、そしてオーケストラのように鳴り響く/君は今までの誰とも違うように/僕の名前を呼ぶ/それはまるで、持ったこともない家庭という場所へ呼ばれているような気分になるんだ

その2:6. What If This Is All The Love You Ever Get?

ピアノ弾き語りによる美しいバラードです。アルバム発売前にこの曲が公開されたとき、SNSでのファンのコメントがこれだよこれ!待ってました!一色に溢れたことを覚えています。やはりオリジナルが最高ですが、バンドアレンジ風のRemixも素敵です。うぉううぉ~う。

これが君が手にする全ての恋だったとしたら?/いろんなことを全然違うようにやっただろうね/これが自分の知る全ての恋だったとしたら?/すごく言いにくい言葉だって言うよ「行かないで」
地獄のように辛いんだとしたら/そういうものなんだろう/こっちにおいでよ/僕も残骸の中にいる/どんなものか、よく知っているよ/だからこっちにおいで

その3:1. Life On Earth

アルバム冒頭を飾る曲です。ストリングスが導入された壮大なアレンジのバラードですが、恐らくは失恋などのごく個人的な悩みに打ちひしがれている主人公が宇宙的な視点から自分を励ますような内容で、スケールが大きいんだか小さいんだかわからない曲です。


点数

7.1

近作ではシンプルなロックソング、バラードのクオリティが頭一つ抜けており、アレンジ頑張ってみました系の曲の比率がもう少し低ければもっといいアルバムであったと思います。

ところでSnow Patrolは新作が「もうほとんどできている」と言ってから平気で数年出ないタイプのバンドです。今作の時も、前作と2部作でもう出来てるからすぐに出すよ!(実際、前作の最終曲はその2作目のプレリュードという扱いのインスト曲でした)と言ってから発売までに8年かかりました。例の2作目は没になり、その間Garyはスランプに陥っていたそうです。今回も、昨年の来日時に今年新作出すからまたすぐ戻ってくるよと言っていましたが、次はいつになるのでしょうか。









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