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Tim Burgess / I Love The New Sky (2020) 感想

#TimsTwitterListeningParty

Tim Burgessは今、インディーロックファンの間で心のアニキたるポジションを確固たるものにしようとしています。

今Timについて語るうえで、「TimsTwitterListeningParty」を外すことはできません。勿論彼はマッドチェスターの時代から30年のキャリアを誇るイギリスはマンチェスターの大ベテランバンドThe Charlatansのフロントマンですが、Twitter上で連日行われているリスニングパーティの主催者として、コロナ禍による世界のロックダウン生活の中で一躍脚光を浴びた人物でもあります。

件のリスニングパーティとはTwitter上でみんなで一斉に同じ時間に同じアルバムを聴いて感想を呟きあおうというもので、なんとご本人が参加して自分と一緒にアルバムを聴きながら当時のエピソード等を披露してくれるので、それはもう大興奮です。
当初はThe CharalansやTimの関連作品から始まりましたが徐々に輪が広がっていき、これまでにFoals、Fountaines D.C.、Wolf Aliceといった今をときめくバンドからThe Libertines、Oasis(初代リズムギター)、New Order(ドラム夫妻)、The Specialsといったレジェンド、更にはMGMT、The Shins等のUSインディー勢に加えてKING、KT Tunstall等のR&B、ポップスに至るまで幅広い、錚々たるアーティスト達によるリスニングパーティが行われてきました。因みにSNS上でのリスニングパーティ自体はこれ以外にもいろんなアーティストが行っていますが、草の根的に輪が広がっていき失礼ながらシャーラタンズと繋がりがあったとは思えないような人たちが参加するまでになったという意味で、非常に感動的でした(その後動きはないようですが、最近ではかのMick Jaggerがファンのやってよーというツイートにいいねをしてザワついていました)。

今後の予定やアーカイブはオフィシャルサイトに載っています。個人的には今後のものでは6/20のEdgar Wrightの傑作映画「Baby Driver」のサントラが気になります。残念ながら時差の関係で日本からリアルタイムで参加するのはなかなかキツイのですが...。

公式サイトにはロックダウンの中経済的に苦しんでいると思われるイギリスのローカルなレコード店の一覧もあり、興味が湧いたアルバムをすぐに注文できるようになっています。こうした活動が「プレイリストで曲単位で音楽を聴くことに慣れ親しんだストリーミング世代にアルバムを通して聴くことの楽しみを認識させた」と称賛され、こんな世の中だからこそ気づけばUKロック、ひいては音楽ファンの心のアニキ的ポジションになっていた中で発売されたのが5枚目のソロアルバムとなる今作です。

ひねくれポップ

Timのソロ作は音楽性が確立されているThe Charlatansと異なり、フォーキーなソウル/R&B、ご本人と共作したまんまLambchopなカントリー+ソウル、Arthur RussellのコラボレーターでもあったPeter Gordonとコラボ名義のエレクトロ、とその道のプロと組んで特定のジャンルに振り切った愛すべきミュージックラバー、もといミーハー感が隠し切れていないアルバムが多かったのですが(しかもいずれもしっかり名作)、今作ではソングライティングをTimが一人で行っていることがトピックの一つです。

そしてリリースされた今作は、所謂ひねくれポップが全編に渡って展開されています。アートポップとも言うでしょうか、よくひねくれポップという言葉で表されるバンドといえばXTC、10cc、Sparks等ですかね。
 Timが今作の制作中によく聴いていたアーティストの一つに実はそんな人達をよくプロデュースしているTodd Rundgrenを挙げていましたが、確かに中期Todd Rundgrenぽいとも言えるかもしれません。つまり、メロディーはポップなんだけど王道のコンボ・スタイルを外したアレンジやそこでいる?な、でもキモチイイ転調、気づけばその転調を聴くためにリピートしている、みたいな曲が詰まっています。
 こちらもこれまでバンドではあまり披露されていないタイプの曲調で、流石のミュージックラバー・Timの奥深さを見せつけられる思いです。

初っ端から凄いタイトルの1曲目"Empathy For The Devil"こそ直球のギタポですが(このタイトルで全くストーンズっぽくない曲調なのも十分ひねくれてますが)、その後はいかにもなひねくれポップのオンパレードです。これまた凄いタイトルの"The Warhol Me"のアウトロで突然ブチ込まれるドローンやサビの転調とストリングス、分厚いコーラスがSparksみ溢れる"Comme D'Habitude"、"Only Took A Year"などこのテの曲が好きな人にはたまらない曲が続きますが、今作のハイライトは終盤にやってきます。

10曲目、サビの転調がクセになるポップな"I Got This"〜ストレートにメロウな"Undertow"〜総勢20人以上がコーラスに参加したというまさに大団円と言った趣の最終曲"Laurie"。この流れが間違いなく今作のハイライトです。大団円と言ってもラストが壮大なアンセムではなく可愛らしいメロディのポップな曲なのが、かつてイギリス有数のフェスReading & Leedsでヘッドライナーを務めたほどの大物&大ベテランでありながら全くレジェンド感がない(個人的に日本でのThe Charlatansの立ち位置は中古CD屋の特価コーナー常連というイメージです)この人らしくてとてもいいです。

Timは今作が人からポジティブだと言われると言っていますが、この穏やかかつ軽やかに終わっていく、爽やかな余韻がそう感じさせるのだと思います。アルバムは違う世界へ一歩踏み出すことを後押しするような歌詞をもった曲の、「君がどこに向かっていようが問題ないよ、ベイビー/大事なのは君が今でも夢を見てるってことさ」という言葉で終わります。アニキ…!!

オススメ曲

その1: 12. Laurie

この曲はひねくれポップというよりは可愛らしいメロディーをもったサイケポップ的な曲ですが、バイオリンが入ってくるミドルエイトや総勢20人が参加したという終盤にかけてぐんぐん盛り上がるコーラスにアートポップみを感じます。

その2: 10. I Got This

サビでの転調や突然音が重くなるブリッジ部分がクセになる、キーボードと分厚いコーラスが効果的なこれぞ!なひねくれポップです。ポジティブな歌詞も印象的で、ある意味今作を象徴する曲かもしれません。

全ての泥の下にはお宝が埋まってる/喜びも、痛みもあるだろう/未来はフレンドリーさ/登り続けるんだ、いつかは飛べるさ/僕に任せといて/暗闇の中を君と歩く人になりたい/僕に任せといて

その3: 1. Empathy For The Devil

タイトルから誰もが今作はThe Rolling Stonesなロックンロール作なのかと思うところ、The Cureなイントロそのままにゴキゲンなギターポップが始まるアルバム一曲目。曲自体はストレートなギタポですが、諸々含めて既に今作のひねくれを十分に感じます。

点数

7.5

そのニッチな音楽性からもド派手に年間ベスト級の名盤と騒がれるようなタイプのアルバムではないと思いますが、所謂ひねくれポップと言われる先達が本当に根っからひねくれてるんだろうなこの人たち、と分かるのに比べて性根の素直さというか、ただこういう音楽が好きなんです!という爽やかさを感じる良作です。個人的には同じ週に出たThe 1975よりも好きです。あれはあれで傑作ですがあの人たちは毎回良くも悪くも詰め込みすぎです。没個性なバラード入れるのやめればいいのに。

話が逸れましたが先のインタビューで、Timは今作を「もっと明るい明日についてのアルバム」だと言っています。タイトルもそういう意味を表していると。今作の制作時期からして恐らくBrexitを受けてのスタンスかと思われますが、聴き終わった後少しだけ前向きな気分になれる、素敵なアルバムです。

ところで、Timは今作のジャケットにもある通りこの10年近く金髪マッシュルームですが、個人的には以前の黒髪の方が似合っていたと思います。いずれにしても赤みがかった頬のせいもあり、オーバーオールを履いちゃったりした日には少年にしか見えない驚異の50代です。2018年にサマソニで来日した時は可愛い〜なんて声も聞こえた気が。そんなところも今後どうなっていくのか要注目ですね。

(2019年のフェス出演時の動画。オーバーオールをここまで違和感なく履きこなすのはマリオブラザーズかTimだけです)



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