Tobias Jesso Jr./Goon (2015) 感想

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浸りたい日に

ゆっくり音楽に浸りたい、そんな時があります。早く帰れた平日、寝る前の時間。何も予定がなく一人で過ごす休日の昼下がり。軽くお酒を飲みながら少し昔の感傷に思いを馳せてみたり…。私がそんな時に聴いていたいアルバムの一つが、このTobias Jesso Jr.による現在までのところ唯一のアルバムです。

まず1曲目「Can't Stop Thinking About You」を聴いて驚きます。ジ、ジョージハリソンやんけ…。Geroge Harrison、言わずとしれたThe Beatlesのギタリストである彼のバンド解散後、ソロ中期のあまり評価は高くないながらも泣きのバラードが連発する傑作「Extra Texture」(1975)。その収録曲にサビのメロディーがそっくりなのです。というかよく考えれば曲名も一緒。初めカバーかと思いましたがれっきとした彼のオリジナルです。確信的インスパイア系の曲だと思われますがデビューアルバムの1曲目にジョージの中でも地味な曲を持ってくるセンスにまず脱帽して2曲目以降への期待が高る見事なオープナーです。

今作に対しては1970年代のシンガーソングライターのようなという形容をよく目にしますが、これは凄いアルバムです。何しろ全編ピアノ、またはアコギをベースにしたバラード。そこに乗せられて歌われる別れた恋人、在りし日々、うまくいかない現在の生活への想い...。こういう作品は得てしてかなり聴きこまないと曲の区別がつかないものですが、全曲1回聴いたらそれと分かるようなフック(8曲目「Crocodile Tears」の「♪ブゥ~ウゥ~」等)があるところがこの人のソングライティングのセンスの良さであり、ストリーミングに対応した、2010年代的なアルバムであるところだと思います。ともあれじっくりと感傷に浸る以外の聴き方が思いつかない作品ですが、きっとそれが正解なのだと思います。

裏方として活躍中

このアルバムは何でも彼がもともとファンだったアメリカのインディーバンド、GirlsのJr. White(Ba.)にデモテープを送ったところトントン拍子に話が進み作成されたとか。Girlsのこの人を知るまであまり意識したことがなかった人にコンタクトを取るところにこの人の非凡なセンスが表れています。

アルバムは今作しか今のところ出ていませんが、ソングライターとして現在まで活躍しています。Wikipediaによると現在まで共作してきたのはAdele、Niall Horan(元1D)、Sia、Haim、Meghan Trainor...と錚々たる面子であるところからも業界内での確固たる信頼を得ているのでしょう。いつかはまた個人名義でアルバムを出してほしいです。

おススメ曲

その1:How Could You Babe

アルバム冒頭の「Can't Stop Thinking About You」で高まりまくった期待感をバッチリ昇華してくれます。今作で唯一声を張り上げて歌われるこの曲では、別れ、新しい恋人ができた元カノへの想いが綴られています。女々しくて…な感じですが誰もが味わったことのある感情でしょう。サビで男声コーラスが入る等、アレンジ的にはアルバムで一番派手な曲です。逆に言うとこれ以上キャッチーな曲はアルバムにないのでこれを地味な曲だな、と思った人には多分このアルバムが刺さることはありません。

なんでそうなったかは覚えてないけど/さよならを言う以上に辛いことはない/愛がそういう結末を迎えそうになったら/君はこう言うんだろ/「愛は常に正しいわけじゃない」
君は僕のもとから去り、新しい彼氏を見つけたんだね/そしてそいつに貴方こそが私の探し求めていた人よ、とか言ってるんだね/何でそんなことができるの?

その2:Can't Stop Thinking About You

アルバムのオープナーです。この曲でものっけからタイトルどおり、別れた恋人への想いが歌われています。ついでにGeorge Harrisonの同名曲もはっておきます。

その3:Just A Dream

アルバム10曲目に収録された、終盤のハイライト曲です。一転してこちらの曲では自分の子どもに向けて歌われる優しい曲です。

世界のことを説明なんてできないよ/人がすることの説明も/憎しみと呼ばれるものがあり、愛と呼ばれるものもある/僕が君のお母さんと君に向けるもの/僕の愛しい子、彼女が僕を見て、微笑んでくれた

点数

6.8

好きなアルバムではありますが、聴くタイミングがかなり限定されます。少なくとも満員の通勤電車の中や街の喧騒の中で聴きたくなるアルバムではありません。そういう時に聴きたくなるのはNine Inch Nailsの激しい曲。しかし夜寝る前に少しセンチメンタルな気分の時は優しく寄り添い、肩に手を置いて最良の友となってくれる、そんなアルバムです。

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