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楽器ってどんな時にも頼れる存在じゃななければいかんよな、やっぱり。

学生時代に購入したレコードで、今でも愛聴しているアルバムは何枚かあるけれど、Frank Sinatraの”L.A. is my Lady"もその一枚だ。

このアルバムはクインシー・ジョーンズがプロデューサーをつとめ、フィル・ラモーンがレコーディングエンジニアをやっている。クインシーが指揮をとるビッグバンドをバックにフランクシナトラが歌いまくるという内容も豪華なのだが、もっと凄いのはそのビッグバンドのメンバー、レイ・ブラウン、ボブ・ジェームズ、スティーブ・ガッド等のリズム隊、カウントベイシーオーケストラで活躍していたメンバーを含むホーン隊にマイケル、ランディのブレッカーブラザーズ、ライオネル・ハンプトンのヴィブラフォン、ジョージ・ベンソンのギター、とにかく豪華である。

このアルバムで、シナトラはジャズのスタンダードを中心に歌うのだが、アレンジがダイナミックで約35分のアルバムが一瞬で過ぎ去っていくようなスピード感とエンターテイメント性がある。選曲もシナトラの黄金時代の十八番揃いというのも嬉しい。

B面の一曲目での”Mack the Knife"の最後、歌の中でシナトラがメンバー紹介を行うのだけれど、これだけ豪華なメンバーはクインシーでなければ揃えられないだろう、と言わんばかりである。

レコーディングの様子をYouTubeで見ることができるので、何度かその動画を観た事があるのだけれど、このレコーディングでシナトラはバンドと歌を同時に録音している。普通は歌は別に録音し、それにバックの音源を重ねたりするものなのだけれど、どうもシナトラは若い頃からバンドと歌を一緒に録ることを好んでいたようだ。

それも、豪華メンバーを長時間抑えておくこともできないだろうから、少ないテイク数でアルバムをレコーディングしたようだ。

録音が良いせいか、どの楽器も良い音で録れているのだけれど、ジョージ・ベンソンのギターの音が印象的だ。ビッグバンドの中で埋もれてしまいそうなギターの音であるが、彼のギターの音は埋もれずにはっきりと聞き取る事ができる。

ビッグバンドに埋もれないギターといえば、ウェス・モンゴメリーがジミー・スミスと一緒に吹き込んだアルバム”Dynamic Duo"のウェス・モンゴメリーを思い出したが、このアルバムのジョージ・ベンソンの音は”Dynamic Duo”でのウェスのギターのように、バンドアンサンブルの中でも前に出てくる。

このアルバムでのジョージ・ベンソンの機材のセッティングがどんな組み合わせ何かはわからないのだが、ジョージ・ベンソンもフィル・ラモーンもクインシーも一つ一つの楽器が埋もれてしまわないよう、かつ強固なアンサンブルとして一体感を持ちながらグルーブを生み出せるように色々な工夫をしたのだろうか。

どんな楽器にも言えることではあるけれど、ギターという楽器はどのような環境でどのような役割を担うかはプレーヤーおよびプレーヤーが担う役割によって大きく異なる。例えば、でかい野外フェスで大音量で鳴らすかもしれないし、小さなクラブでの比較的小音量でのセットかもしれない。はたまた、自宅のリビングで弾くのかもしれないし、スタジオワークが中心かもしれない。

それぞれのシチュエーションに合わせた楽器を持てるに越したことはないけれど、弾き慣れた相棒で常にプレーしたいという弾き手の希望もあるだろうから、限られた数台の楽器でどんなシーンもこなすことを求められることの方が多いかもしれない。そういう時に頼りになる楽器こそがプロのプレーヤーが求めるものである。そして、もちろんプロだけではなく、楽器愛好家にとってもいつでも頼りにできる一台を持っているに越したことはない。

「楽器はこうあるべき」という考え方は時として自分だけでなくお客様の視野も狭めてしまう危険性があるのであまり好きではないのだけれども、「どんなシチュエーションでも頼れる一台」というのが楽器の理想であるということはほぼ間違えないだろう。

Vintage、ハンドメイドから量産品まで色々な楽器が世の中には出回っているけれど、楽器を取り扱っている身としては、どんなシーンでも安心して使える楽器を、その上で弾いていて心地の良い楽器を提供できるよう、その上で審美眼が問われていると思い、気を引き締めねばならんなとジョージ・ベンソンのギターサウンドを聴いていて感じた。

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