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カントリーのGuitar Slingerたち(Talecaster編 Danny Gatton)

まず、初めに申し上げておくと、今回紹介させていただくDanny Gattonは一般的にはカントリーミュージックのギタリストには分類されない。彼はどちらかというと、ジャズ寄りのロックギタリストである。

しかしながら、私はあえて彼をカントリー ギタリストとして紹介したい。彼のギター奏法はジャズの影響を多分に受けてはいるが、ダブルストップのフレーズや、ギャロッピング奏法等、カントリー ギターの要素が満載なのだ。でも、おそらくDanny Gatton本人はカントリーギタリストと言われると嫌がるかもな。

彼は、いろいろなギターを使っていた。ピンストライプ模様の入ったGibson LesPaul Custom、Gibson ES-295、Gibson Byrdlandなんかを弾いている映像が残っている。おそらくはかなりの数のヴィンテージ(50年代の)ギターをコレクションしていたはずだ。彼は、ヴィンテージカー(ホットロッド!)のコレクターでもあったから、50年代やら60年代のものが好きだったのだろう。そんな彼のコレクションの中でも、間違えなくメインで使っていたギターはテレキャスターだろう。

彼の愛用のテレキャスターは1953年製と言われている。いわゆるブラックガードである。今の相場ははっきりとはわからないけれど、10年前ですでに400〜500万円ぐらいになっていたので、状態の良いものは1000万円ぐらいになっていてもおかしくはない。ヴィンテージギターの市場は価格が高騰しすぎてしまって、もうワケがわからない。だいたい、1000万円もするギターをライブハウスやスタジオに持っていける度胸はないので、私にとってはもはや実用楽器ではないから興味がない。

しかし、まあ1953年のテレキャスターが名器だということは間違いない。テレキャスターという楽器そのものがエレキギターの完成形なのだ。それの、初期モノなのだから悪いワケがない。一度1952年製のテレキャスターを持たせてもらったことがあるが(もちろん買ったわけではない)カラッとして抜けが良い音がした。その割に太さもあり、素晴らしい楽器だった。きっとボディー材もピックアップもいいのだろう。そして、全体のバランスがいいのだろう。

エレキギターの完成形とも言える、ボディー、ネック、ピックアップの絶妙なバランスの1953年製テレキャスターなのだけれど、Danny Gattonはこともあろうに、何度かピックアップを交換している。ビルローレンスのブレード型ピックアップにしてみたり、ジョーバーデンのツインブレードのピックアップにしてみたりと色々といじっている。

彼の活躍した、1980〜90年代には50年代のテレキャスターの値段がここまで高騰するとは思われてはいなかったのかもしれないけれど、それにしても、勿体無い!!と思ってしまう。

けれども、落ち着いてよく考えたら、そういう名器は本来こういう名手が使ってこそ本領を発揮するわけだから、素人が趣味でコレクションしてクローゼットにしまっておくよりもずっと勿体無くないのかもしれない。まあ、趣味でコレクションすること自体はその気持ちもわかるので否定するつもりはないのだけれど。

Danny Gattonのスタジオアルバムは公式にはそれほど多くなくて、私の手元にあるのは"88 ELMIRA ST."、”Redneck Jazz”、”Cruisin' Deuces”、”Relentless with Joey DeFrancesco(ジョーイデフランセスコとの共演盤‼︎)”ぐらいで、あとはライブ盤なのだが、彼の場合ライブでも演奏のクオリティーが高く、アルバムとしてじっくりと聴ける。同じくテレキャスターの名手Tom Principatoとの共演盤、その名も”Blazing Telecasters"では、二人のテレキャスターによるソロの掛け合いをじっくりと聴くことができる。

Danny Gatton、残念なことに自殺してしまうのだけれど、一度でいいから生で聴いてみたかった。彼のようにロカビリー、カントリー、ジャズに影響された独自のプレイスタイルでギターを弾きまくるギタリストって、多そうでそれほど居ないのではないか。ジョニー・ハイランドとか、ジェリー・ドナヒューとかSteve Warinerとか、Scotty Andersonとか、いなくはないのだけれど、 Danny Gattonとはちょっとちがって、Danny Gattonはその中でもショーマンシップに溢れていてテクニックを惜しげも無くひけらかしながらも、ワイルドでやんちゃなところがあるので嫌味にならないところがかっこいい。

もし、まだDanny Gattonを聴いたことがなくて、聴いてみたいという方には、アルバム”Cruisin' Deuces”を聴いてみることをお勧めする。ライブアルバムも含めてどのアルバムもカッコいいのだけれど、一番アルバムとしてまとまっていると思う。ホットロッド風に改造したゴールドのテレキャスターから洪水のように溢れ出すフレーズももちろんだが、音楽そのものがカッコいいので、ギタリストだけでなく、すべてのロック好きが聴いて楽しめる。バックを固めているメンバーも上手いので(あのナイルロジャースのバンドとかでSaxを吹いているBill Hollomanとかがプロデュースし参加している)、アレンジも凝っていて聴いていて楽しい。

ちょと番外編のようになってしまいましたが、Danny Gattonについてはここまで、次はまたカントリーミュージック寄りのプレーヤーを紹介したいと思います。

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