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Jerry Reedの安物ガットギター

1960年代、カントリーのギタリストと言えば、Chet Atkinsを筆頭に数々のスーパープレーヤーがいたのだが、その中でもピカイチに上手いのは今回紹介するJerry Reedだ。
彼がガットギターから繰り出す高速バンジョーリックは、あのエルヴィス・プレスリーも惚れ込んで、一緒にレコーディングまでしている。

エルヴィスは、Jerry Reedの演奏する”Guitar Man"という曲をラジオで聞いた際、「この、すごいギタリストを連れて来い!一緒にこの曲をレコーディングしたい」と言ったとか。Jerry Reedバージョンの”Guitar Man"はカントリー チャートで最高位53位だったが、エルヴィスのバージョンはカントリー チャートでなんとナンバーワンヒットになっている。

Jerry Reedは上記のような、一度聴いたら圧倒されてしまうギタリストだ。
私も、何度かコピーを試みたが、耳コピでは絶対に無理だと悟り、インターネットでTAB譜を見つけトライしてみたが、8小節で断念した。彼のバンジョーリック(バンジョーで演奏するフレーズをギターに置き換えたもの)はとにかく、開放弦とハイフレットの組み合わせが難しくて全く歯が立たなかった。

多くのカントリーミュージックのスーパーギタリストが、エレキギターはテレキャスター、アコースティックギターはMartinかGibsonのスティール弦の楽器を使うのに対して、彼はナイロン弦のガットギターをメインに使っているのも特徴的だ。しかも、そのナイロン弦のギターのボディーを自分で切り落として、ハイポジションを弾きやすく改造して使っている。切り落として、というより、「ぶった切って」という方が正しい表現だろう。

ネックの付け根の部分で直角に切られたボディーからも、彼の愛器はおそらく安物のギターだろうと察しがつくが、実際、彼が長い間メインで使っていたギターは、Baldwin 801CPという安物のギターであった。このギターにはPrismatoneというBoldwinオリジナルのピエゾピックアップが搭載されていて、純正のアンプでエレガットギターとして使える優れものだった。

当時は安物の801CP だが、今となってはPrismatoneの希少価値のせいで値段が高騰しているとか、いないとか。
とてもPrismatoneは壊れやすいピックアップなのだが、あのWillie Nelsonの愛器Trigger(Martin N-20)にも搭載されている。もちろん後付けだ。

そもそもBaldwinはアメリカの最大級のピアノメーカーで、かつてはアメリカ国内(オハイオ州)に工場を持ち、スタインウェイ&サンズと肩を並べていた。Baldwinは第二次大戦中に米軍の慰問用のピアノ、輸送機に載せられるピアノを大量生産し富を築いた。その後、1963年にドイツの老舗ピアノメーカーであるBechsteinを買収し、途中イギリスのバーンズやGibson社に買収されながらもピアノ事業を続けている。
現在は、アメリカ国内の工場は閉鎖され、Baldwinのピアノは中国のPersons Music Groupが生産している。

そのBaldwin社のギター(クラシックギター)である。ギター史にはあまり登場しないモデルである。私も、Jerry Reedが弾いているのしか見たことがない。かつて、Willie Nelsonがあの管楽器メーカーのConn社のクラシックギター(日本製?)を使っていたことがあったようだが、BaldwinもWillie NelsonのConnも見た目からも高そうには見えない。

Jerry Reedが何故、このような安物のギターを使っていたのかは定かではないが、彼はギター一本を背負って彷徨う所謂Hoboのようなスタイルを演出したかったのだろう。そういうプレーヤーにMartinやらFenderやらの高級ギターは似合わない。

彼のBoldwinのサウンドは殆どのアルバムで堪能できるのだが、一枚お勧めを挙げるとしたら、”The Unbelievable Guitar & Voice of Jerry Reed"だ。彼の代表曲”Guitar Man"、”The Claw"が収録されている。もちろん彼のスーパープレーも炸裂している。

Jerry ReedのBaldwinについてはこのぐらいで。また気が向いたら続きを書くかもしれません。

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