【双極性障害(躁うつ病)の症状・診断・薬以外の治療について】
双極性障害(躁うつ病)とは?
双極性障害とは、
エネルギーの高まった「躁状態」
低下している「うつ状態」
この2つの気分の間で波がある病気です。
このようにお伝えすると分かりやすく感じますが、実際には専門家でも判断が難しいことが多く、数年かけてようやく診断がつく方もいらっしゃいます。
躁状態では本人が苦しみや問題意識を持つことが少なく、むしろ心地よいと感じたりします。医療機関で相談されるのは、ほとんどがうつ状態になります。
双極性障害は1型と2型に分類されていますが、それは躁症状の程度によります。1型は「躁状態」と「うつ状態」、2型は「軽躁状態」と「うつ状態」で気分の波がみられます。
双極性障害には何らかの脳の機能異常があると考えられていますが、そのメカニズムは定かではありません。原因は遺伝の影響が強いとされていますが、環境やストレスなども大きな影響があると考えられています。
双極性障害では、脳の機能的な異常をお薬によってコントロールしていく必要があります。さらに薬物療法だけではなく、家族を含めて病気を理解し、生活リズムを大切にしながら、上手に付き合っていく必要があります。
若くして発症する場合が多く、その平均年齢は21.2歳と報告されています。一生涯で発症する確率は0.24~1.6%と報告されていて、およそ100人に1人がかかる病気です。
双極性障害(躁うつ病)の症状
双極性障害はその症状により、4つの病相(状態)に分けることができます。
躁病相(状態)
軽躁病相(状態)
うつ病相(状態)
混合病相(状態)
これらの状態を不安定に繰り返すことを、ラピッドサイクラーといいます。ここではそれぞれの状態での症状と、ラピッドサイクラーについてみていきましょう。
躁病相の症状
自覚することなく、高まった気分や活力に基づいて行動します。エネルギーの高まりが周りから見ていても明らかで、仕事や家庭でも大きな支障が認められるような状態です。
躁状態での一番の問題は、このような状態にもかかわらず自分が病気であることに気づきません。このことを病識がないといいますが、病識のなさがさらに問題を大きくしてしまい、以下のようなことをしてしまいます。
不要な物を大量に買ったり、衝動的に高額な買い物をする
危険な投資や事業計画をしてしまう
社長に直訴したり、上司に怒鳴り散らしたりする
昼夜問わず友人や家族に連絡をする
見ず知らずの人と性行為におよんでしまう
躁症状は、周りからみても明らかに異様に感じます。躁症状に認められる基本症状と、それによって生じる周辺症状をみてみましょう。
【基本症状】
気分高揚・爽快気分:気分がスッキリし、ハイテンションに
易怒性・易刺激性:些細な事に敏感になり、怒りっぽくなる
活動性の亢進:1日中活動しても疲れにくい
【周辺症状】
自尊心の肥大:何でもできるような気持ちになる
誇大妄想:自分は特別だという根拠のない思い込み
観念奔逸:次々とアイデアが出てきて、話がまとまらない
注意散漫:外からの刺激に気を取られてしまう
焦燥感:落ち着きのなさや焦りがみられる
多弁:人が話すのをさえぎって話す
行為心迫:何か行動をしなければいられなくなる
社交性の増加:友人や見知らぬ他人と交流をとろうとする
浪費:不要なものに大金を使ってしまう
性欲の亢進:普段にはみられない性的な乱れがある
睡眠欲求の減少:睡眠をとらなくても疲れを感じない
軽躁病相の症状
軽躁状態では気分や活力の高まりは認められますが、躁状態と比べると症状が軽度になります。
本人としても「調子がよいこと=普通」と感じてしまうため、あまり気づかれないことが多いです。
ときには仕事や社交性に良い面が発揮されて、成果をあげたり魅力的な人物と映ったりします。不適切な行動につながることは少ないのですが、良く知っている方からは「人が変わった」ように感じます。
ストレスがかかった時に、気分を高揚させて自分の身を守ろうとすることもあります。例えば徹夜をしているときに、むしろ頭が冴えてくるようなときです。
こういったストレスへの防御機制としての気分高揚を躁的防衛といいますが、軽躁状態とは異なって人格までは変わりません。
このような軽躁状態が続くのは数日ほどで、気分の波があるような他の病気とも見分けがつきにくいです。
ですが軽躁状態のある方では衝動性が強く、躁状態よりも自殺される方が多いともいわれ、苦しみの深い状態になります。
うつ病相の症状
双極性障害で苦しみを感じるのは、うつ状態のときになります。双極性障害のうつ状態は、うつ病の症状と基本的には変わりません。
抑うつ気分:気分の落ち込み
興味や喜びの喪失:自然にでてくる興味や感情がなくなる
易疲労感:疲れやすさを感じる
食欲の異常:食欲低下や過食
睡眠障害:不眠や過眠
意欲・気力低下:何かをしようという気持ちが起こらない
思考力低下:物事を考えて決断ができない
自責感や無価値観:過剰に自分を責め、自己肯定できない
希死念慮:繰り返し死ぬことを考える
基本的には同じような症状ですが、うつ病と双極性障害のうつ状態では違いもあります。この点については、診断のところで後述します。
躁うつ混合病相の症状
双極性障害では、躁状態とうつ状態が入り混じることがあります。この状態を「躁うつ混合状態」とか「混合状態」といったりします。
気分や思考、行動がバラバラで、非常に苦しい状態になります。通常のうつ病であれば、気分は落ち込んでエネルギーが低下して、活動もできなくなります。
混合状態では、気分は落ち込んでいても動けてしまったり、動けなくても不安や焦りだけが強まってしまいます。焦燥感とイライラ感が強く非常に不安定で、衝動性も高まりやすいです。ですから自殺のリスクもあるのです。
このような混合状態は、躁からうつ、うつから躁などに移っていくときに起こることがあります。抗うつ剤を使うことで誘発されてしまうこともあります。
ラピッドサイクラー
ラピッドサイクラー(急速交代型)とは、躁状態とうつ状態のサイクルを急速に繰り返す状態のことをいいます。
双極性障害ではうつ状態が非常に長く、数カ月から数年単位で続くこともあります。ラピッドサイクラーでは1年間で4回以上にわたって、躁状態や軽躁状態とうつ状態を繰り返します。
ラピッドサイクラーでは気分の上がり下がりが大きく、めまぐるしく上下する気分に患者さんに対する負担は非常に大きいです。
ラピッドサイクラーは、
抗うつ剤
によって引き起こされることが多いです。抗うつ剤によって躁とうつの周期が短くなることがあります。また抗うつ剤を急にやめてしまうことも、発症のきっかけになることがあります。
それ以外にラピッドサイクラーになりやすいケースとして、
女性
甲状腺機能低下(60%以上で認められる)
双極性障害2型
などが関係しているといわれています。
双極性障害は合併症が多い
双極性障害は非常に苦しみの深い病気です。気分の波と付き合っていくことが必要になる病気で、その苦しみの中で複数のこころの病を抱えてしまう方も多いです。
合併症としては、様々な不安障害、摂食障害、アルコールなどの依存症、パーソナリティ障害などが多く認められます。合併症については、双極性障害Ⅱ型の方がⅠ型よりも多く認められます。
不安障害は最も多く、およそ75%の方に何らかの不安障害が合併しているといわれています。アルコールや薬物などへの依存も多く、双極性障害Ⅰ型で50%以上、Ⅱ型で37%という報告もあります。
摂食障害は、拒食症よりも過食症になる方が多いです。双極性障害Ⅱ型で特に多く、14%の方に認められるという報告があります。
また気分の波に翻弄される中で物事のとらえ方が極端になり、対人関係も不安定になることがあります。そういった生きづらさが性格として固定されてしまい、境界性パーソナリティ障害などを合併することもあります。
こうした双極性障害の合併症の多さが、治療だけでなく診断も難しくしています。先ほど述べたようにうつ状態が長いということもあり、年単位の経過のなかで双極性障害と診断されることも少なくありません。
双極性障害の遺伝と性格
双極性障害は、遺伝傾向があるといわれています。
そして双極性障害になりやすい性格も知られています。ご紹介していきましょう。
双極性障害を診断するにあたっては、「血のつながりのある親族に気分の波がある方はいますか?」という質問を必ず行います。
親が双極性障害である場合は、子どもは5~10%で双極性障害(およそ10倍のリスク)といわれています。遺伝と環境の影響をみていくときに、双子の研究をおこないます。
双子は同じような環境で養育されていますが、一卵性双生児と二卵性双生児を比較すると、明らかに遺伝の影響が強いことがわかっています。
また双極性障害は、なりやすい性格傾向も知られています。ドイツの精神科医クレッチマーは循環気質と呼びましたが、
社交的で人間味あふれ、他人への気配りも上手
親しみやすく、周囲と同調しようとする
といった性格傾向になります。その一方で1930年代に日本の下田光造は、責任感が強く熱心で、熱しやすく冷めにくい性格である執着気質が関係していると提唱しています。
こういった性格傾向は、どちらも心のバランスを崩しやすいといえます。上手く自分を大事にしながらコミュニケーションをとったり、熱中しすぎないように一呼吸おけるようになることなど、傾向がある方は少し意識をしてみてもよいかもしれまん。
遺伝や性格というと変えられないものと感じてしまうかもしれませんが、決して悪い側面だけではありません。循環気質は社会性につながりますし、プラスに向かえば、社会的にも成功につながります。
それこそ起業家や芸能人などの有名人にも、双極性障害の方は少なくありません。
双極性障害(躁うつ病)の原因
このように双極性障害は遺伝の影響が強いといわれており、性格傾向なども原因となるといわれています。ですがそれ以外にも、様々な環境要因が重なることで双極性障害を発症すると考えられています。
双極性障害につながる環境要因としては、
養育環境
社会生活でのストレス
生活リズムの乱れ
これらがあげられます。
幼少期に親を失った方は気分障害の発症率が高いという報告がされており、親の養育やかかわり方は双極性障害の要因として大きく関係していると思われます。
幼少期のストレスは、ストレスに対する弱さ(脆弱性)につながってしまうことがわかってきており、幼少期に十分な愛情を受けて育つことが重要と言われています。
とくに母親との関係性は非常に重要です。
感情表出が多い(High Expressed Emotion:HEE)家族では、病気が不安定になることも知られています。家族が本人に対して批判的であったり、過保護であったりと感情的な関りが強すぎることは、双極性障害の発症要因ともなります。
もちろん、家族によるストレスだけではありません。学校や友人、職場などの社会生活の中で、様々なストレスがあります。ストレスも決して悪いことばかりでなく、進学や昇進などの良い方向での大きな変化もストレスになりえます。
双極性障害では、生活リズムの乱れも影響として少なくありません。生活リズムが乱れると自律神経のバランスも崩れてしまいます。
このように双極性障害は何らかの脳の機能的異常が背景にあるといわれていますが、遺伝要因に様々な環境要因が重なり発症すると考えられています。
双極性障害の診断は難しい
「調子が良いこと=普通」と認識してしまう
うつ状態の方が圧倒的に長い
うつ状態は見分けがつきにくい
双極性障害は合併症が多い
これらを受けて、双極性スペクトラム障害という考え方が提唱されています。気分の波のある病気をひっくるめて考えていく概念です。双極性障害を疑うべき症状とあわせて、お伝えしていきましょう。
双極性障害を疑う症状
うつ状態では、双極性障害かどうかを見極めるのは非常に難しいです。症状の違いがあったとしても、後から気づかされることも少なくありません。
双極性障害の診断をしていくには、
治療のはじめに疑うこと
治療効果が不十分なときに疑うこと
の2つが大切です。疑って初めて、症状がみえてきます。
双極性障害を疑う症状や特徴とはどのようなものがあるでしょうか。双極性障害(114名)とうつ病(334名)を比較して分析したJET試験をご紹介します。
この研究によれば、
抗うつ剤による躁転
混合状態があること
1年で2回以上の繰り返し
初発年齢が25歳未満
自殺企図歴
これら5つが特に関連が強いとされていて、2つ以上あれば疑いが強くなるとされています。これは臨床的な印象とも合致します。
それ以外にも、
症状が変化しやすい(易変性)
気分反応性を認める(部分性)
過眠や過食がみられる(不全性)
不安や焦燥感が強い
身体の症状が少ない(頭痛や腰痛など)
幻覚や妄想がみられる
双極性障害の家族歴がある
季節性がある(冬季うつ病)
産後うつ病である
こういった特徴が双極性障害と関連が強いといわれています。
非定型うつ病(いわゆる新型うつ病)と症状が重なる部分も多く、間違われることも少なくありません。
双極性スペクトラム障害という考え方
これまでは、
うつ病:単極(うつ)の病気
双極性障害:双極(躁とうつ)の病気
という2つに分けて診断してきました。
しかしながら近年、双極性スペクトラムと考える概念がアキスカルらによって提唱されています。気分障害は、双極性(bipolarity)の強さの違いと考えていきます。
双極性スペクトラムとは、波長が異なることで色が変わって見える虹のように、連続性がある病気と考えるようになってきました。これによって双極性障害の概念は拡大しています。
これには功罪両面あります。良い面としては、
抗うつ剤が不用意につかわれない
再発予防の観点から継続的な治療につながる
こういったことがあげられます。それに対して悪い面としては、
過剰診断につながりかねない
必要な方に抗うつ剤を使いにくい
こういった点が懸念されています。
また、本質的には他の原因があり、気分の波につながっている病気もあります。例えば、
境界性パーソナリティ障害
ADHD
などになります。診察を重ねていくうちに、少しずつ病気の本質が見えてくることがあります。
双極性障害のお薬ではない治療法
お薬だけでなく生活習慣も含めた心理療法が重要になります。
認知行動療法
認知行動療法では、物事の評価や解釈の仕方(=認知)に注目する治療法です。その人の認知が生きづらくしている部分を見つけ出し、少しずつ修正していくのです。
極端になったものの考え方や受け止め方を、現実的で柔軟なものに変えていく療法です。
双極性障害の認知行動療法では、気分の変化によって認知も変わってしまいます。このため、気分の変化による思考や認知、行動パターンの変化そのものに注目して、それを最小限にしていくように意識していきます。
双極性障害では、気分の変化によって認知も変わってしまいます。そのため、気分の変化による認知や行動パターンの変化そのものに注目して、できるだけ変化を最小限にしていくように意識していきます。
まずは日々の出来事から、考え方のクセ(自動思考)を見つけ出していくことから始めていきます
このようにして認知を振り返り、少しずつ自動思考で気分の変化に影響するものを修正していきます。
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