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ロックが更年期を救った?

 十二、三年前のこと、寒い冬のことだった。ご飯を作りたくないし、下げた食器を洗う気がしない、何にもやる気が起きないと思っていた時期があった。仕事には行って働けるし、食事作りも子供たちがいるから何とかやってはいたが、いつもの調子が出ない日が続いていた。
 婦人科を受診したが、特に異常はなく、気持ちがリラックスする薬をもらう。ちょっとよくなった感じはしたが、一番リラックスでき、いい気分でいられたのは、その頃はやり始めたMDウォークマンでイヤホンを使って音楽を聴いているときだった。間違いなしの更年期症状、ちょっと早すぎる気はしたけれど、自分の力ではどうにもできないことを実感した。いろいろ女性の先輩方の話や、新聞雑誌で聞いていた通りで、いつまで続くかもわからない。部屋を暗くして、横になって音楽に聞き入る、同僚が貸してくれたイギリスのロックバンド「クイーン」のCDがお気に入りとなった。そのうちの一曲「キラークイーン」は、高校時代にその頃流行りのラジカセから流れていたのを聴いたことがあり、いい曲だなと思っていた。それがこんなに年月が経ってから、もう一度聴くことになるとは驚きだ。
続いて「ボヘミアンラプソディ」これも彼らの国イギリスでも大ヒットした曲だ。毎日毎日聴いて、ファンになっていった。ボーカリストのフレディマーキュリーは既に亡くなっていたのだが、彼が作ったいい曲は、今でもコマーシャルやテレビ番組で流れているし、今年も彼らの二、三十年前のライブコンサートの映画が上映されもした。
 すでに二十枚ほどのCDが発売されていたので、数年かかって購入したりレンタルしたりで結局すべての曲を聴いた。さらに国内で発売されている彼らのライブビデオテープはすべて購入、繰り返し見たものだった。もともとはクラッシックなど静かな曲が好きだったが、この時期で音楽の好みは一変、次々にロックを聴くことになる。気持ちが沈んでいるときに、音楽はより深く心に届く気がする。ロックは確かに私の心に元気を与えてくれた。ひとつのCDを通勤や家事をするときにイヤホンでひと月ほど聴き続けると、インプットされ、ウォークマンがなくても勝手に頭の中で再生できるようになる。そんな生活を続けて十年、好きなロックバンドも増えていった。ちょうど息子たちが思春期でいろんなアーティストの曲を聴いていたこともあって、その影響もあったかもしれない。主にはイギリスやアメリカのロックバンドの曲。最初は勧められた曲、あとにはCDショップで視聴して自分の好みの曲が入っているCDを選べるまでになった。ちょうど大画面の液晶テレビも普及し、ライブ映像を見る機会も、発売されるライブDVDを見る機会も増えていった。家事をしたくないとき、お茶碗を洗うときには、あのCD、掃除をするときには、このCDと、イヤホンをつけると自然に体が動くようになっていった。
 一昨年まではただ聴くばかりだったが、昨年ついに決心して、エレキギターの教室に通い始めた。次男が教わっていた先生だ。やりたい気持ちは十分にあったが、初めての楽器だし少し不安もあった。先生にまず三か月習ってみます、何とか練習を続けられそうなら続けてみますと相談してスタートした。先生は少々基礎は無視して、曲を弾くことから教えて下さった。毎日自宅で三十分ほど練習する。とにかく言われたとおりに繰り返す。思いがけず、簡単な練習曲が一曲一曲弾けるようになり嬉しくなる。
三か月が過ぎこれなら練習を続けていけそうと思えた。次いでエレキギター独特のかっこいいフレーズに挑戦。短いフレーズを繰り返す。ギター抜きのカラオケCDができていて、自宅に居ながらにしてまるでバックバンドを従えて演奏している気分になる。音楽機器がここまで進化していて、私の練習にとっては幸いだった。まずはアンプ、続いてエレキギターらしい音をださせるエフェクター、これらをつないで、ヘッドホンをつけると、バックバンドと一緒に夜中でも好きな音量で練習できる。今月で始めてちょうど一年になる。来月は初めての発表会ライブを迎える。今まではピアノ、バイオリンの発表会、市民オーケストラの演奏会には出たことがあるがエレキギターは初めて。
 ほかの楽器は楽譜を見ながら演奏できるので暗譜しなくても、譜面を見さえすれば大丈夫だったが、エレキギターは右手で弾く弦を探し、左手で押さえるフレットを確認するので、楽譜を見る暇がない。ギターでは同じ音を何ヶ所かで出すことができるので、見やすいように、弦とフレットを指定したタブ譜というのがある。がこれも見にくい。結局は暗譜することになる。今までかかわった楽器の中で一番練習したのではないだろうか。いよいよ来週バンドリハーサルで、ドラム・ベース・ボーカルの方々と一緒に演奏する。多少の不安はあるもののわくわくしている。
 このようにすっかりロックに夢中になっている間に、更年期症状は消滅して、元気な私が取り戻せていった。ロックに感謝!
Feb.2012



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