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見ている世界は繋がっていた

ある日のこと。

父と母に久しぶりに会い、外でランチをした後、
そのまま一緒に公園を歩いた。

その公園は広くて木がたくさんあって、多くの人に人気の場所だ。小さい頃に母や祖父母と来たこともあって、なかなか思い出のある公園だった。

そんな昔の記憶をたぐりよせようと、きょろきょろ周りを見回していたら、不意に、父の、母に向けた言葉が耳に入ってきた。

「…何言ってんだ。結婚する前、つき合っているときによく来たじゃないか。お互いの家のちょうどあいだにあったから」

言われてみると、その公園は父の実家と母の実家のちょうど中間地点にあった。

その一瞬、二人から親密な、まるで若い恋人同士のような空気が醸し出されて、戸惑った。そんな空気を両親から感じたことは、正直なかったのだ。

父と母は学生の頃からつき合っていて、結婚した。
父が見初めて、猛アタックしたらしい。

『二人にも幸せな時期があったんだな…』

ゆっくり家族で木々の中を歩く、穏やかな時間。

なんだか、公園にまだ若い父と母が嬉しそうな顔で会っている風景が見えた気がした。

そうしたら、ふと急に、世界が優しく感じられた。

子どもの頃、家でよく母がうずくまって辛そうにしていた。その深い怒りと悲しみに胸が苦しくなって、そんな状況を生み出してしまうこの世界を、幼かった私は、冷たく感じてしまった。

でも、父も母も、この世界の中で安心に包まれて、幸せに過ごしていたときがあったんだ。

そう、肌で感じられたこと。

それは、私をとてもとても幸せな気持ちにした。


そうして、気づいた。

大切な人と、見ている世界って、

繋がっているんだなって。

大切な人が、しあわせな世界を見ていたら、

自分も、しあわせな世界が見えてくる。


みんな、そうなんだと思う。

この世界に広がっている

悲しみも憎しみも喜びも戦慄も穏やかさをも

みんなみんな、空気に溶けている。


あなたの大切な世界は、

誰かと繋がっている。


あなたのしあわせに、

誰かの胸も温かくなる。

あなたの悲しみに、

誰かの胸が、しんとする。


あなたの怒りに

誰かの胸が、うずく。


あなたの胸の痛みが癒されれば、

きっとほかの誰かの胸もやすらぐ。


けれども、痛みをなぜ抱えたままでいるのか

その理由さえも

ほんとうは、愛からかもしれない。


傷と痛みにひそむ

かなしみを紐解いて

そっと空に放っていきたい。


この世界にあふれている温かさが

もっと繋がっていくように。


あなたは、必ず、

大切な人。


あなたの指先が

その涙が

その視線が

世界との結びつきを

絶えずつくり、


過去へも未来へも

遠い海の向こうへも

あなたの祈りは届いている。


今日の穏やかな日の光が

そっと窓から差し込んでくるくらい

何気なく

それでも、確かに。


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