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コトバでスケッチ2 「フツー 常識 基準」

※一枚絵のイラストスケッチ的な感じで、小説のワンシーン風の文章を書く描画力のトレーニングです。

 物語の構想があるわけではないですが、いずれ今後の作品に組み込むかもしれません。


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 春の気配を感じる日が増えたとはいえ、2月の空気は、まだまだ肌寒い。そうは言っても、換気はしないと空気が悪くなるので、というわけで休み時間になると教室の窓は開けられる。

 カーテンが風に煽られてぶわんぶわんとはためくと、同時に教室から「うわっ」とか「寒っーー!!」という悲鳴なのか歓声なのか分からないテンションで、そこかしこから声が上がった。

 ぎゅっと自分で自分を抱きしめる形で、身をすくめていると、前の席の花苗が話しかけてくる。

「そういえばさ、最近フツーとか常識って言葉がやたら嫌われてるよね」

 彼女はいつもそうだ。突拍子もなく、その場の状況とはなんの繋がりも持たない哲学談義みたいなトピックを突然投げ込んでくる。

「そりゃ、なんかそういう枠みたいなのに囚われるのって嫌じゃん」

「まー、それはそうかもだねぇ」

 自分とは違う意見でも、とりあえず頭から否定しないところは、わたしの中で数少ない花苗の尊敬ポイントだ。

 ただ、彼女がこういう言い方をするときは、それとは反対の自分の本音がある。 

「かもだけど?」

 だから、こうやって続きを促してあげる。これは、まぁ、長年の付き合いの中で生まれたマナー……みたいな?

「フツーや常識って言葉にめくじら立てすぎるのも、なんか不自由だなぁって思うの。そもそも縛られるのが嫌な人たちが、フツーや常識を嫌うわけでしょ? フツーや常識っていう表現を許さないで、それを縛るのってなんか矛盾じゃない?」

「フツーや常識を振りかざす人の態度が問題なんじゃない?」

「そうかもねぇ。でもさ、フツーや常識の中で生きるのってある意味、気楽な気もする」

「そお?」

「仮によ。明日から学校に私服で来ていいって言われたら?」

「サイコー」

「私は、毎朝コーディネートを考えるのが、めんどい」

「えぇ、嘘。10代のうら若き乙女が……」

「それ、フツー論にハマってるって 笑」

「あぁ、そうかも」

 相変わらず不思議なことを考える子だなぁ、って思った。妙にマトを突いてる側面もあるから、ドキッとする。

「わたしには、制服っていうフツーが楽なのよ」

 不思議だった。決められた制服を着て、決められた時間に学校に通う、不自由な女子高生であるはずの花苗が、わたしにはその時、とても力が抜けていて自由に見えたのだ。


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