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コトバでスケッチ4 「都会 憧れ」

※一枚絵のイラストスケッチ的な感じで、小説のワンシーン風の文章を書く描画力のトレーニングです。

 物語の構想があるわけではないですが、いずれ今後の作品に組み込むかもしれません。

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「特に問題はありませんでしたので、こちらにサインを」

「はい、お世話になりました」

 不動産仲介会社の若い男性に、サインした書類と一緒に鍵を返す。4年暮らしたこの部屋も今日でお別れだ。

 引っ越し荷物が実家に届くまでの3−4日間ほど分の着替えと、ドライヤーとかパソコンとか、すぐ使いたい私物を詰め込んだキャリーバックを引いてアパートを出た。

 住んでいた時はあれだけごちゃついて見えた部屋は、そこに住んだ思い出と一緒にリセットされて白い天井と壁に囲まれた無垢な空間になっていた。

 絶対、東京に出るんだ。

 本当は大学から東京に進学したかったけど、叶わなかったので就職はとにかく東京の会社を狙って就活した。

 あの頃のわたしは、都会に何を期待していたのだろう。それは憧れというよりも焦燥だった。

 このままじゃダメだ。−何が? わたしの可能性を試すんだ。−それって地元じゃダメ?

 住んでみた今ならそう思う。もし、当時のわたしに何かを伝えられるとして、まぁ、彼女は聞く耳を持たないだろう。

あのとき、わたしは都会がじぶんを自動的に素敵にしてくれるとしか思っていなかったのだから。

 わたしは東京を求めた。でも、東京はそうじゃなかった。

 なんとか入社した小さなデザイン会社の仕事も、4年自分を殺して頑張ってみたけど、限界がきた。

 そもそも、殺すような”自分”を持っていなかったのが原因だったかもしれない。

 でも、それはそれでいい。期待するような未来ではなかったけど、それはやっぱり都会に出てみたから納得して受け入れられるのだ。

 家賃が高い割には古びた建物が多い住宅街をガラガラ荷物を引き、通り抜けていく。

 駅のホームに立つと遠くに中心街のビル群が見える。わたしがこの街に来た時と同じように飄々とそこにある。

「またそのうちおいでよ。今度はお客さんとしてさ」

 ビルはわたしに背を向け、そう言っているように感じた。

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