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歴史は、人、組織、ビジネスを変革する拠りどころになる | 吉田充志 × 深井龍之介

法人COTEN CREWになってくださった企業の方々と深井龍之介との対談連載。今回は、日本の広告界を代表する博報堂の吉田充志さん。対談からは、COTENが制作を進める歴史データベースの具体的な使い方が見えてきました。

吉田充志
2003年、博報堂入社。
営業局、マーケティング局、人事局、グループ会社経営企画室、博報堂社長秘書役を経て、2020年に独立系ベンチャーキャピタルである
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)へ出向。
2022年、博報堂へ復帰し、新規事業開発を担う。

ビジネスケーススタディとしての歴史

吉田充志(以下吉田):僕はもともと歴史が好きだったんです。小学生の時にはゲーム『信長の野望』にハマりましたし、歴史の成績もよかった。
ただ、それは漠然と歴史上の出来事をエンターテイメントとして追っていただけで、特に深掘りしたわけではないんです。

深井龍之介(以下深井):今は見方が変わったんですか?

吉田:ええ、社会人になってから変わったんです。
僕は社長秘書をやっていた時期があるんですが、よりよい組織のあり方を探るために社長と本を読んで話す機会があったんですね。
それで、『失敗の本質』や『孫子の兵法』などをテーマにしていたのですが、その頃からは、歴史をビジネスのケーススタディとして見ることも増えました。

深井:ケーススタディですか?

吉田:歴史って、結局は「人間の歴史」じゃないですか。誰かが、悩んだり決断をしたりした、その膨大な集積が歴史ですよね。
そういう歴史を学ぶと、自分に当てはまるケースが見つかることに気付いたんです。
それがケーススタディという意味です。

深井:たしかに。

吉田:さらにCOTEN RADIOに出会ってからは、歴史がケーススタディを超えて、僕の拠りどころになりました。
いろいろな歴史上の人物の思考回路を教えてくれるから、困ったときにどういうふうに物事を考えればいいのか、より深いケーススタディになったんです。
今の常識を超えた考え方を示してくれるんですね。
弱い自分が頼れるものを探したら、僕の場合、それが歴史だったんです。

深井:ありがとうございます。これは僕がよく言うことですが、現代は拠りどころがない時代ですよね。
誰もがスマホを持って、常時、情報を発信したり受け取ったりできる時代ですから、その「海」で遭難しがちです。
だから、羅針盤というか、考えるためのフレームワークが必要です。
そして、歴史はそのフレームワークになりえるんですね。

吉田:ええ。そして歴史は個人にとっての拠りどころになりえるだけではなく、組織や、新規ビジネスを考えるときも同じだと思うんです。
今回、法人COTEN CREWに参加させていただいたのも、僕個人というよりも、僕が所属する博報堂という会社に大きな意味があると思ったからです。
博報堂は広告会社ですが、広告業界は非常に大きなパラダイムシフトの中にあります。
テレビCMや新聞広告などのマス広告に加えてネット広告が登場して選択肢が増え、新規参入者も増えている。
そんな状況で、博報堂という会社がどう動くべきかを考えるときに、法人COTEN CREWになってCOTENとつながれるのは非常に意味が大きいんじゃないかと思ったんです。

深井:ありがとうございます。とても嬉しいのですが、一つ伺いたいのが、稟議をどうやって通したのかな? ということです。
博報堂さんみたいな大きな会社で……。

吉田:僕がいる「ミライの事業室」という部署が、広告以外の新しい領域の可能性にチャレンジする部署だという前提もあるのですが、上司に話したら「面白そうじゃん」という反応で、進めることに即OKをもらえたんです。
社内承認をとっていく過程でも、「新しい可能性」の観点で話を進めました。

深井:そうなんですか。広告業界の雰囲気もあるのかな?

教育に関わる領域からスタートした博報堂のDNA

吉田:いや、業界というより、博報堂の体質だと思いますよ。
うちの会社は1895年に創業されたんですが、もともとは教育事業に関わる領域からスタートしたんです。

深井:教育?

吉田:ええ、博報堂はは教育雑誌に広告を入れる事業から始まったんです。
当時はまだ義務教育も普及しきってない時代ですが、博報堂の創始者である瀬木博尚(1852~1939年)は、雑誌を世の中に広く普及させることで、社会の知的レベルの底上げをしようと考えていました。
そのために教育雑誌に広告を入れて、部数を増やそうとしていたんですね。
博報堂の社名は、「博(ひろ)」く「報」いるという瀬木の信念に由来しているとも言われていて、つまり、世の中に貢献しようというDNAはもともと博報堂にあるんです。
だから、現時点ではリターンが明確ではなくても、意味がある領域に可能性を感じる風土があると思っているんです。

深井:へえー! 知りませんでした。

吉田:僕も入社するまで知りませんでした(笑)。だから僕は今も、何か良いものを広げるために、「たまたま」広告という手段を使っている……くらいの認識です。
別に広告という手段にこだわらなくても、COTENさんと関わることでよい影響があればそれでいいんです。社内でも、もっとCOTEN RADIOが聞かれるといいなと思っていますよ。

深井:なぜですか?

吉田:これは博報堂の戸田会長から教わったことなのですが、広告の仕事って、「意味」を作ることだと思うんです。たとえば水を売りたいなら、その水はみなさんにとってどういう意味があるのかを打ち出さないといけない。広告の本質は意味作りなんです。
そうしたら、深井さんもポスト資本主義の回で「これからは意味で人が動く」ということをおっしゃっていたので驚いたんです。

深井:たしかに!

吉田:で、僕の所属する部署では新規事業に取り組む人間が多いんですが、新しい「意味」を見出す力が非常に大事なんです。
そのためには、歴史が動いたときに存在した人が、新しく登場した人やものにどういう意味を見出したかを知ることが大切ではないかなと。
そのためにCOTEN RADIOは力になってくれるはずです。

深井:ありがとうございます。たしかにそうかもしれません。
ちなみに、今の博報堂に似た存在を歴史上から探すと何になりますか?

吉田:周囲に怒られるかもしれませんが、列強に侵されつつある清朝にはならないように、と危機感を持っています。 

深井:それ、けっこうヤバいじゃないですか(笑)

吉田:もともと広告業界はプレイヤーもあまり多くなくて安定していたんですが、近年はネット広告やコンサル会社も参入してきて、異種格闘技状態になってるんですね。
さらに、デジタル化の波もあって、「あうんの呼吸」で進めていた仕事のやり方も激変しています。

深井:清朝にならないために、博報堂はどうやって対処しましょうか……。

吉田:歴史では、かつての清朝のように新しい勢力に蹂躙されてしまった例が多いかもしれません。しかし幸いにして僕らは歴史の知識が使えますから、少なくとも、対策が必要であるということはわかる。
対策の具体的な内容は、要するに新しい環境に対応したものを作り出せるかどうかだと思いますが、そのためには歴史データベースがものすごく役立つはずです。
そして、単にデータベースを利用するだけではなく、深井さんやCOTENの皆さんと議論をしながら、よりよい打開策を見つけたいですね。データベース+対話です。

歴史の知識をビジネスに応用する新事業

深井:おお、実は、大企業向けにその試みを始めているんです。その企業が置かれている状況に近い歴史上のケースを、まだデータベースがないので人力で探し出して、その知識を基に議論をするサービスです。

吉田:そうなんですか! 反応はどうですか?

深井:歴史の知識は、現代ビジネスの文脈でもちゃんと機能することがわかりました。企業が敗北を避けるためのポイントが見えてくるんですね。
先ほどの清朝の例なら、なぜ清朝がアヘン戦争や日清戦争で列強にボコボコに負けたかを分析すると、清朝内部での分裂が敗北に大きく影響を及ぼしていたことがわかります。つまり、組織が内部分裂しちゃうと負けるんですよ。
もっとも、当時の人々の感情に寄り添うと、内部分裂する理由もよく分かるので話は簡単じゃないんですが……少なくとも注意すべきポイントはわかります。

吉田:なるほど、すごいですね。事件の渦中にいる人は必死に生き延びようとしているだけだと思いますが、それが結果的に分裂につながる……。

深井:ええ、渦中にいる当事者は自分を客観視できないんですが、他人の失敗ならばそれを糧にして、自分を客観視する材料にできます。それが歴史のいいところです。
歴史は、事件の当事者は愚かになるものである、ということも教えてくれます。人間ってそういうものなんですよ。そして、同じ状況に置かれると面白いくらい同じミスを犯す。僕があちこちで言うように、歴史は再現性が極めて高いんです。だからデータベースに意味がある。

吉田:本当にそうだよなあ……。

深井:ただ、同時に、失敗例だけじゃなく成功例も見ないといけないと思ってます。
だからデータベースでは、ある状況に置かれた個人なり組織なりが辿る運命を、数パターン提示したいんです。たぶん4パターンくらいですけど、その中には成功も失敗もある。
そのパターンの中には、「そりゃそうだよね」というパターンもありますが、誰も思いつかないようなすごく意外なパターンもあるはず。だから、歴史データベースを使うことでそういうルートも選べるようになると思うんです。
あと、もっと細かく、どのポイントを外すと失敗し、どのポイントを抑えれば成功するかもわかるようにしたい。

吉田:めちゃくちゃいいですね。

深井:僕もそう思います(笑)。リリース当初は経営に役立てる人が多そうですが、もっといろいろな使い方もできるようになると思いますよ。

吉田:データベースに基づき、「たられば」を可視化できる……。歴史が本当に拠りどころになりそうです。楽しみにしていますし、COTENと博報堂でも、何か一緒に取り組めるといいなと思っています!


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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