大切なのは「ライフスタイル」ではなく「ライフスタンス」、つまりは生き方である。 | 中川 政七 × 深井 龍之介
法人COTEN CREWへ参加してくださった企業の方々へのインタビュー。第二弾の対談相手は、奈良を拠点に享保元年から300年続く老舗、中川政七商店の中川政七さんです。
法人COTEN CREW制度へつながるアイディアをくださった中川さん。COTEN CREWになることは「ライフスタンスの表明」であり、「見返りなし」が重要だと仰るその理由についてお伺いしました。
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法人COTEN CREWになった経緯
下西(広報): 本日はよろしくお願いいたします。まずは法人 COTEN CREW になってくださった経緯や中川さんの思いをお伺いしてもよろしいでしょうか。
深井 龍之介(以下、深井): お願いします。
中川 政七さん(以下、中川): 僕がなぜ COTEN CREW が「良い」と思ったかというと、二つ理由があります。
一つは、中川政七商店では利益の最大化だけを目的にしていないので、事業上直接は関係なさそうな COTEN に対してお金をだしても良い、と思っています。なぜなら直接利益に結び付かなかったとしても、間接的にビジョン達成につながっていると思うからです。
そもそも、うちの事業で利益だけを追求しようと思えばもっとできると思います。松岡正剛さん(※編集工学者、編集工学研究所所長などを務める)には「上品な商売」なんて言われたりするんですけど。例えばコンサル事業をやめればいいし、仕入れ先にも無理を言って短期的な利益の最大化を目指せば営業利益は20%近くまでいくと思います。
でも経営者の矜持として持っているのは「ただ利益を出すのではなくビジョン達成と両立してこそ」ということ。自社がただ利益を出すのは割と簡単で、それだけでは面白くない。ちゃんと周りにも社会にもいいことをしながら利益を出すのが難しい。そこに対するチャレンジだと思ってるんです。
深井: 周囲と社会に還元しながら利益を出し続ける。本当にそこが大事ですよね。
ライフスタンスの表明
中川: もう一つは「ライフスタンス」です。ブランドや物売りビジネスって昔はプロダクトが全てだったんですね。大手がプロダクトの宣伝をして、それで売れてた時代。それが今はライフスタイル・世界観の時代。ライフスタイルがちゃんと伝わると売れるんです。
でも僕はライフスタイルという言葉が、流行り始めた頃から好きになれなくて。ずっと言ってたんです、大切なのは「ライフスタイル」じゃなくて「ライフスタンス」、要は生き方なんだと。生き方の表出としてのスタイルであり、プロダクトがある。そっちの方が大切だから、表面にお化粧をすることはうちはやりません、と言い続けてきました。
なので正直そこに関しては中川政七商店は乗り遅れたところがあるし、商売的にうまくやれていない部分もあると思います。だけど迎合しなくても利益は出せるんだという矜持があるから、ライフスタイルショップとは絶対に言いたくなかった。今、時代が徐々に変わってきていて、ライフスタンスが問われる時代になりつつあるなと思っています。
白人警官が黒人を殺害した事件のときに、Netflix や NIKE が「私たちは人種差別に反対します」という声明を出しましたよね。あれをForbesはマーケティングだと言っていましたけど、まさにアメリカではそういうことが商品購入の判断に影響する時代になってきている。日本も遅ればせながらそうなると思います。こういう意思表示がライフスタンスの現れだと僕は思っていて、会社のビジョンや価値観がものを買う判断軸に入ってきつつあると思いますね。
だから僕らが COTEN を応援することは、ライフスタンスの表現、生き様なんです。でも生き様は写真や動画で伝えられないから、伝わりづらい。”COTEN CREW”は、その伝わりにくいライフスタンスをいい形で伝えられる活動だと僕は思っています。
深井: ありがたすぎますね。「ライフスタンスの表明」ってとても良いですね。この表現は他の企業にもとても伝わりやすいと思います。良すぎて、COTEN RADIO で僕が自分で考えた表現の如く使ってしまいそう(笑)。中川さんの言葉です、としっかり書いておかないと。
同じ価値観で繋がる仲間たち
下西: これをお聞きするのは無粋かもしれませんが、中川政七商店が COTEN CREW になることで、どんなライフスタンスを表現できると思われますか?
中川:
説明が難しいですね。僕らは「学び」すごく大切だと思っているのは、ありますね。あとはなんだろう、難しいな。説明しようと思えばできるけど、あまり芯を食っていない気がする…。
COTEN RADIOを聴いている人とは友達になれそうな感じがします。仲の良い人達はみんな聴いてぐっときてるんですよね。ライフスタンスって価値観なので、価値観が似ているというか、たぶん中川政七商店の顧客と価値観が近いと思います。
深井: そう言う意味では、COTEN CREW になってくれた人たちを集めてみるっていうのは、一回やってみたいですね。そう言う人達だけで集まるって、みんな楽しいんじゃないかな。僕もみてみたい。
中川: 好きなものが近い、嫌いなものが近いとか、「価値観が近い」ってそういうものじゃないですか。COTEN にBETすることで近しい人が集まるんだろうなと思います。
表現が難しいですけど、ゆるく繋がって何の強制もない状態が良いと思ってるんですね。先日PARADE(パレード)という会社を作ったんですが、この「パレード」って言葉が気に入っているんです。誰かがある価値観を掲げて歩いていて、そのパレードには参加するのも抜けるのも自由。このオープンなゆるさが、まさにパレードなんです。そこにいる人たちはライフスタンスが共通していることが大切。だから、パレードに参画している会社がみんな COTEN にBETしたり、逆に法人 COTEN CREW がパレードに参画するかもしれない。そういうことになると良いですよね。
深井: めっちゃいいですね。やっぱり世の中はそっちに行くんだろうな。中川さんもそうですし、たくさんの人たちがこういうことを考え始めてる。アメリカより先に日本でポスト資本主義が進んでいくかもしれない。アメリカ人には資本主義がハマってるから。アメリカは、電子マネーになかなか移行しない現金で生きてる人たちみたいになると思います。日本は資本主義が最初からうまくいってないから、意外とポスト資本主義に一番最初に行くかも。
中川: 確かに。空気を読むとか、あやふやとか、資本主義とか契約書に向いてない感じがいけるかも。
深井: 日本人は誰にもリードされてないけど倫理観で行動するんですよね。災害が起こったときも、リーダーからの演説がなくても手伝うじゃないですか。あれは、アメリカと全然挙動が違います。アメリカだったら大統領がめっちゃいいこと言って…とかなる。日本の方がポスト資本主義は早いかもしれない。
見返り“ゼロ”が重要である理由
深井: そもそも法人 COTEN CREW を「直接的な見返りなし」にするアイディアは、中川さんから頂きましたよね。
中川: 見返りを求めた瞬間に「ダサッ」という話なんですよ。ライフスタンスの表現だって言ってるのに「お金出してるんだからこれしてくれよ」なんて、すごくダサい。
でも人間は弱いんですよね。最初はそう思ってお金を出したんだけど、だんだんと「出したんだから、こんなことしてよ」と言い出しかねない。だからはその余地が残さない方がよいと思って、ゼロがいいと思ったんですよね。
僕も深井さんとこうやって仲良くなっていくと、なんかしてほしくなってしまうじゃないですか(笑)。それは友達としてはいいけど「お金を出しているから」というのは違うよね、と。線を引くためにもゼロがいいなと。
深井: なるほど。文脈は大事ですね。
中川: 中川政七商店のお客様ではそんなことないですが、ビジネスにおいて対等であるべき関係でも、最初に上下の関係性ができてしまうと、ずっとそうなのだという体験を何度もしてきました。 だから絶対にどんな角度であれ、一度でも上下を作ってはダメだと思いました。絶対に対等でやらないと、何か言ってくる人がいる。この経験を踏まえて、やるなら見返りゼロがいいと思いましたね。
深井: 自然と上下関係ができてしまいますよね。強い意志がないとこういうのは防げない。
中川: 営業してお金が集まらないと、やっぱり見返りつけようって話になるかもしれないけど、それをつけたら絶対に要らぬ負担がかかる。僕らがちゃんと営業しますよ。僕らが COTEN を応援してるよ、と言うことで広まると思うんで。たぶん200社くらいあっという間ですよ。
深井: ありがたい…本当にありがたいです。そうなったらデータベース開発に集中できると思います。200社集まると、一つの経済圏ができますよね。同じ仕組みで他の人たちも、お金がつかないけど絶対にやった方がいいことをやれるようになるだろうな。
資本を受け入れることへの考え方
中川: 一つ聞きたかったのは、COTEN は資本を受け入れているじゃないですか。みなさんほぼエンジェルなんだろうなと思いつつ。そこに葛藤はないんですか?
深井: ありました。ただ結局VCの人たちに対しても COTEN CREW と同じことを僕は求めていますね。リードインベスターは独立系なのでそんなに問題になってないですが、LP(Limited Partner / 有限責任組合委員)がいるところは、LPに説明するときに「こう儲かります」と言わないといけない。だけど僕たちはそのつもりでは受けない。彼らの口からはそれは絶対言えないんだけど。リードは僕たちに上場義務も設けていないし、すぐ儲けてくれとも言ってない。10年くらいで新しい産業作っていこうねというつもりで入っていただいています。
エンジェルの人たちにも、お金が儲かるから投資するのはやめてくださいというか、そういうのじゃないですよ、と伝えています。僕は出資でも出資じゃなくても同じリソースだと思っているんですけど、出資の場合は、ステークホルダーとして入ることでこの事業が加速する人たちだと考えています。
中川: なるほど。お金じゃない資源で。
深井: そうです。その人たちが出資者として名を連ねること自体が、僕たちの事業を加速させるとか、経験を提供できる人たちであるとか。法律上、彼らに議決権がわたり、発言権も出てくるので。 だから、自分たちへの金銭的見返り目的の人たちじゃなくて、COTEN の事業を手伝いたいと思ってくれていて、かつ株主になった方がよい、という人たちは株主になってもらう、という考え方をしていますね。
中川: なるほど。人的資源的な話で言うと、確かに株主というのはひとつあるなあと思う一方で、お金の出し方として、株主として出すのと ”COTEN CREW” として出すのと、整合性としてはどうなんですかね?一切資本組み入れしないというのは考えなかったですか?
深井: それもありなんですけど、どうしてもお金を集めようとしたときに、大型で出資してくれる方が早いんですよね。例えば今後、Google とかが技術共有するから資本入れさせてくれ、となってきたら、入れた方が早いと思ってます。そういう道を残しているって感じです。Google Earth の技術をそのままデータベースに使っていいよって言われたら、じゃあぜひってなるので。Google に何%か持ってもらって、使わせて欲しいですね。本気で手伝って欲しい。Google の人が聞いていたら、ぜひお願いします。
歴史がライフスタンスの背中を押す
中川: 今の COTEN は何かを売る商売をしていないから、あんまりお客さん見えないじゃないですか。それが最高だと思う。自分達と利害関係がないというところも、ライフスタンスの表明にもなりやすい。
深井: お客さんを作らないことにしたんです。マネタイズをどうするかは全く考えていないので、今後データベースが完成したら、ユーザーがお客さんみたいになるかもしれないですけど。 ただ、「お客様のために」って一般的なビジネスの倫理じゃないですか。僕もそれが浸透してるし、クライアントのために本気で頑張るという感覚があるんですけど、COTEN でそれやるとバグるなって。お客さんのために頑張ってると本質を見失う感覚があって。
中川: 僕らも、ものづくりはマーケティングじゃないと思ってます。プロダクトアウト寄りだし、そうあるべきだと思ってずっとやってきてますけど、一社だと全く説明も表現もできなくて、個人のちょっとした価値観だと思われちゃう。 でもそう言う人がいっぱいいて、COTEN が歴史の文脈でも語ってくれたら、それだけですごい嬉しい。経営者って褒められたり認められたりする場面って限りなく少ないじゃないですか。これは果たして合ってるのか?と常に自問していて。そこを「歴史の流れの一つ」と言ってもらえると嬉しいなって。
深井: だからみんな経営者の人たちって歴史勉強してるんでしょうね。改めて中川さんたちが法人COTEN CREWに加わってくださったことが、本当に心強いなと感じています。ありがとうございます。
ポスト資本主義、本当に日本から広がるかも。アメリカは正直やりづらそう。超お金持ちがリーダーシップをとるアメリカに対して、我々は普通に中間層の人たちというか。草莽崛起みたいになると思います。
中川: いえいえ、こちらこそ。これからが楽しみですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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