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100年後のために最善を尽くしたい | 百森 田畑直 × COTEN

株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。

今回は株式会社百森代表の田畑直さんです。

田畑 直(たばた・すなお)
1986年東京都小金井市生まれ。株式会社百森代表取締役。大学を中退、ITベンチャーへ就職。アプリやウェブサイトの分析、新規事業立ち上げなどの業務に携わる。2017年、友人と岡山県西粟倉村へ引越し森林管理会社を設立。村からの委託を受け、600人から預かった2600ヘクタールの山林を管理。

ITベンチャーから100年単位で考える林業の世界へ

COTENインタビュアー(以下、ーー)まずは、株式会社百森さんのビジネスモデルについて教えてください。

田畑さん:簡単に説明すると、村から依頼されて山の管理をしている会社です。「百年の森林事業」という山を管理していく巨大な事業があるんですが、その実務を担うのが株式会社百森なんです。

ーー100年の森の事業は、村が自主的に行っているんですか?

田畑さん:国の補助金なども使っていますが、基本的には村独自の事業ですね。

ーー田畑さんは、どういうきっかけで百森の代表に?

田畑さん:「百年の森林事業」は村の事業なので、もともと村の職員の人たちがやっていたんです。でも、村の職員は数年単位で異動しちゃうんですよね。山の管理は50年や100年単位で考えるのが基本なので、それではタイムラインが合わない。そこで、役場の外に専門組織を作って100年の森事業を担当できるようにしなきゃいけないと議論になって。
それなら、林業経験者じゃなくて組織を新しく立ち上げられる人が必要だろうということで、2016年ごろに募集をしたんです。
それに応募したのが僕ともう1人で、その2人で共同代表になったという流れです。

ーーそれまではどういうお仕事をされてたんですか?

田畑さん:それまではITベンチャーにいました。

ーーITベンチャーの世界って、2週間や3カ月でサイクルを回しながら開発したりとスピードが速いですよね。50年や100年のスパンで見ていく林業とは、ギャップがあったんじゃないですか?

田畑さん:ITベンチャーって基本的に新しいことに挑戦していく世界なので、そういう意味では全く違う分野といえます。50年60年と時間が経たないと、自分がやったことの成果も分からないという点も通常のビジネスとは違います。でもそんなところが面白いなと思ってやることを決めたんです。

ーー企業だと毎年振り返ったりするじゃないですか。林業だとどういう軸で評価していくのか、売上とかでもなさそうだし、すごく興味があります。

田畑さん:現時点の林業について言うと、昔の人が作ってくれた在庫を現代の僕らがどうやって使っていくのかどうやって管理していくのか、が大事なフェーズです。
日本の林業は、1960年ごろに日本中で木を植えまくったところからなんです。使えるものになっていたり途中で管理をやめてしまって厳しい状況になっていたり、さまざまで。60年前のものを今の僕たちがどうしていくのかを考えるのが、普段の業務で一番大きいところです。

ーー使えるか使えないかを選定したり、どうやって使うかみたいなことを考えていくんですか?

田畑さん:山にある木を使うためには、切って山から降ろしてこないといけないんですけど、降ろすためには道を作る必要がある。道を作るには数十人からまとめて山をお預かりして整備しないといけないんです。
百森がある岡山県西粟倉村だと、100mぐらい歩くとその山の所有者さんが4〜5人ぐらいいるんですね。つまり、一つの現場で大体20〜30人くらいの人に「山を預けてください」って話をしていかないといけないんですよ。そもそも預けてもらえるかどうかみたいなところからスタートですしね。

ーー道を作るところから!

COTEN RADIOを通じて林業の未来を探る

田畑さん:杉やヒノキは、大きくなると上の方がどんどん広がっていくので日の光が入らなくなるんです。まびいても若い木って育たないんです。なので、新しく育てようと思うとまずは今育っている木を切らないといけない。
大体2,600ヘクタールぐらいを管理してるんですけど、年間3ヘクタールぐらいは、切って植えてという作業を進めています。年間6,000〜8,000本ぐらいの木を植えて育てていますね。

ーー毎年少しずつ、持続可能になるようにしていくことが求められるのかなと思いました。

田畑さん:そうですね、ただ西粟倉の林業についてはさっきも話したように1960年ごろに始まった状態なので、今は1回目のサイクルの途中なんです。
日本の森林って、すごく偏ってるんですよ。60年とか70年ぐらいの古い木があって、それよりも若い木はほぼ存在しない。サイクルとかそういう状況ではないんですよね。

ーー1960年ごろにたくさん植えたとしても、70年80年とか順繰り順繰りやっていくとコンスタントに木材が取れるのかなって思うんですけど、そういうものでもないんですか。

田畑さん:もちろんそんなふうに少しずつ取れるようにした方がいいよねって話は出てはいるんですけど、でもこれから60年後に杉やヒノキが売れるのか、みたいな課題もあるんですよ。分からないですよね、その時になってみないと。
なので順繰りにするとしても、次も杉やヒノキでいいのかどうかも重要な議論になるわけです。

ーー杉やヒノキに代わる別の木材も育てるかという議論。

田畑さん:50年後にどういう状況の山を作るのがいいのかを決めないと、次のスタートが切れないんです。

ーーそれは難しいですね。スパンが長すぎて全然予測できない。

田畑さん:そうなんですよ。なので、経済的な需給の予測は無理なんじゃないかなって個人的には思っています。

ーー山に携わる人の意思っていうか、どうありたいのかの先にある未来が大事になってくるんでしょうか。

田畑さん:60年後のことになると、僕らがっていうよりも僕らの下の更に下の世代ぐらいの話になってくるんですよね。そこに対してどんなものを残せたらいいのかな、っていう。

ーー田畑さんの中で、どんなものを残していきたいってイメージがありますか?

田畑さん:それが全然分からないんですよね。
これから60年後のためにどうしたらいいのかって本当に難しくて。いろいろなものがあった方が面白いのかな、武器が増えていいのかな、とは思うけれど、それが本当にいいのかどうかもやはり分からない。実はどう考えたらいいのかっていうのが知りたくて、法人COTEN CREWに入らせてもらったんです。

ーーそこに法人COTEN CREWが繋がるんですね!

田畑さん:そうですね。人間にはどんな傾向があるのかを歴史やメタ認知みたいなところで考えることで、次はどんな山を育てていくのがいいのかを考えるヒントになるかなと期待しています。

今ある情報の中で最善の選択を

ーー田畑さんが今の活動をしている中で大切にしている価値観ってどんなことでしょうか。

田畑さん:良かれと思っていても悪くなることってたくさんあると思うんですよね。林業って、孫の代にしっかりと財産を残そうと思った人たちが杉やヒノキをたくさん植えてくれたんですよ。当時は杉やヒノキは高級だったから。
それが現在ではあまりうまく受け入れられてない、花粉症になるから切ろうって話も出てくる。
そう考えると、今は良いと思っていても未来での価値観は変わりうるんだって常に意識しておかないといけないと思っています。

ーー常識は変化していくものだから、今の価値観で判断しないみたいなことを意識されてらっしゃるってことですか。

田畑さん:意識するというよりも想像できないんだっていう前提を持っておかないといけない、という感じですね。

ーーめちゃくちゃ難しいですね。

田畑さん:だったらどうすればいいのって話になっちゃいますもんね。
そういうところでCOTEN RADIOが参考になるというか、昔からみんな頑張ってたんだよねって話だったり、それがいかに移り変わったかみたいな話だったり、あるじゃないですか。すごく参考になりますし大事だなと思います。

ーーそうやって未来のことを考えたら、「何がいいのかわからないから何もできない」状態になってしまいそうです。田畑さんは、何を指針として活動されてるんですか?

田畑さん:結局、その時点での最善を尽くすことしかできないんです。今ある情報の中で最善の選択をしようと試みるしかない。
何かを選択するとき、それが将来的に普遍的な正解じゃないかもしれないんですよ。けれど「今はこれが正解だ」と言えるかどうかが大事なんじゃないかな。
もしかしたら未来ではひどい結果になってしまうかもしれない。でも、それすらも飲み込む覚悟を持たなければ、何も選択できないですよね。

ーー自分が未来にどういう因子になるかわからないですもんね。

田畑さん:そうですね。ただ「この時代で考えられる最善を尽くしました」って言えるようにはしたいですね。

(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:森まゆみ


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